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新しい旅路に

「気が付いたら……神殿の真上で、下が真っ黒ってどゆこと!?」

 ティンの右手に携えていた神剣は光となり、空気中に消え失せるが、その中から純白の騎士剣が現れる。

 そうして目が覚めたティンはこの状況をみて現実逃避をした。

 流石に目の前の状況にはテンパるしかない。

「あそだ、仮面の男は何処だ!?」

 ティンは思い出した様に周囲を見渡したが、仮面の男らしき存在は何処のもない。

 ただ、流石にティンは気づかなかった。足元に見慣れた黒いボロマントに包まられた黒い物体に。

 ふと足を動かすと何かに当たる。なのでそちらに目を送って見れば黒紫の杭の様な物体がそこにあった。それを見てようやく思い出す。これを自分の体に突き刺したことを。魔獣の王とか言う化け物と戦ってたことも。

「そ、そうだあの怪物は何処に!? って此処って神殿の上じゃんか~!」

 騒いでいると思わず屋根から落ちそうになり、慌てて下がる……が、その前に気付いた。

 真下の真っ黒な広場に。よく見れば、墨汁の様なものの水たまりである。いや、そうじゃない。一見ただの瓦礫を沈めた様な黒い池に見えるソレ。よく見ればそこに突き出てる様な物体・・は、肉片・・ではないか?

 そう思うと、確かにそう見えて来る。

 此処までならティンの単なるイメージから来る妄想に近い。だが忘れてはいないか? ティンは意識を手放す前に、黒い血を身体に流す生き物と戦っていたのではないか、と。

 となれば、だ。

 神殿入り口前の広場、そして広場前の階段。そのどちらもが真っ黒な水たまりで染め上がっている。そしてそれら全てが、血だ。

 ティンはそこまで考えて思わず口を抑えた。グロいなんてものじゃあない。色が違う分、まだマシではあるものの全て赤だったら? 赤黒く染まった神殿前。何て狂気の現場。

 ティンは思わず尻もち付いた。

「あ、そだ」

 その時当たった杭をささっとスカートのポケットに押し込む。どうやらこの騎士服は特別制らしく、異次元ポケット仕様で違和感なく杭はポケットの中に埋もれた。

 ふぅと一息ついたティンは仰向けに倒れ込み、夜空を見上げる。するとどうだろう? 疲れで火照った体に夜風が当たり、心地良い気分になる。

 ちょっと一休みしようと、ティンは静かに瞼を下ろした。



 ティンはゆっくりと揺すられ、睡眠から覚醒して行く。だが、身体は安眠を要求しているが為、ティンは深い眠りに落ちる。



 ――夢を、見た。

 ティンは雪の布団の中で、雪山で寝ている。寒くて、寒くて、仕方が無い。だが、それでもティンは起きなかった。身体が、睡眠を欲しているからだ。

 寒い、眠い、寒い、眠い、寒い、寒い、眠い、眠い、寒い、眠い、眠い、眠い……。

 ティンは寒くても睡眠を選ぶ。ほら、だんだん寒さが心地よい感じに眠気を促進してくれたり。

 ずっとこの涼しい(と言うか寒い)感覚に溺れて眠っていたい……。

「――はっ、殺気っ!?」

 ティンは即座に身を捻って身体一つ分移動するとティンが元いた場所に氷の剣が突き刺さる。

 視線を上げてみれば、瑞穂が立っている。瞳は無色。いや、漆黒の瞳だけど。目に表情は無く、人によっては無機質な美しさと機械的な冷徹ささえ感じさせるほどの無表情だった。

 本来ならこの行動を合わせて考えると怒りや殺意を感じても良いのだが、怒りも敵意も存在しない。何の比喩も無い――そもそも比喩さえ存在しない――程に、本当に無表情だった。

「お、おはよう」

「ん、おはよう」

 瑞穂は短く言うとベッドに突き立てられた氷剣は砕けて塵となる。ベッドの端ではリゾットを持った浅美が構えていた。

「……ってあれ、何であたし此処に居るんだ?」



 食事の後、宿屋から出ながら浅美から此処に運び込まれた経緯を聞いた。

 浅美の説明をまとめると。

 1、瑞穂が神殿の屋根で寝ているティンを発見&回収。

 2、そのまま宿屋に戻ってティンをベッドにシュートイン。

 3、瑞穂は自分のベッドにイン。

 浅美の天然交じりのハチャメチャな説明を聞いた結果からティンはそこまで理解する。だんだん彼女の事を分かって来た様だ。染まったとも言う。

「……えっと……アリガトウゴザイマス、スイマセン」

「まず落ち着いて。後、怒ってはいないから」

 瑞穂は震えながら片言で礼と謝罪をするティンに冷やかに言った。

「そういや、今どこに向かってるの?」

「剣は手に入れたみたいだし、新都ってとこに行こうかと」

「あれ、ブリンガーって街は駄目?」

「あっちだと山岳地帯を歩く事になるからね。ティンさんはそっちが良い?」

「山岳地帯って……山の中を歩くの?」

「具体的に言えば、岩山と洞窟内を上ることになる。そこを越えた先に何があるのかは不明。未探索区域になってるからマッピング用の道具とマッピングが出来る人を連れて来ないといけないと思う。一応、その近くに未探索区域調査隊の野営地があるそうだからそこでマッピング用の道具とマッピングできる人を探せばいいと思うけどね。

 まあ一応私もやろうと思えば出来ないことはないんだけど。でも怪物とかが住んでいる場合を想定するとこのメンバーで私も守りながらマッピングの製作はちょっと厳しいかな? 傭兵も雇えば良いかもだけどそんな余裕は無いし。そもそも私たちは未探索区域を冒険する為に組んだパーティって訳でもないからきついと思うよ」

「……マッピングって、何?」

 ティンの質問に続いて浅美が「はーいせんせーわっかりーませーん」的な反応を示す。

 瑞穂は呆れの意を示す様に溜息を付くが、彼女はとうの昔に慣れっこなので、

「……歩いて地図を作る事だよ」

 と答えた。それを聞いたティンはポンッと手を叩くと、

「なるほど、瑞穂にやらせちゃいけないことか」

「ティンさんティンさん、それはつまり私に喧嘩売ってるって事で良いかな? 一先ずぶん殴っていい? 後蹴っ飛ばしていい? ハンマーでぶちのめして良いかな良いよね?」

 要らんことを言ったので瑞穂がボキボキと指を鳴らし始める。

「ティンさんティンさん、瑞穂さんは方向音痴だけど地図作りなら任せて平気だよ」

「……まあ、そう言う事でブリンガーには通らない。無理して行く場所でも無いし。予備の剣が欲しいって言うならまあ、遠回りになるけど……」

 と言って瑞穂はティンを責める様ににらむ。何ともまあ理不尽な対応ではあるが死活問題でもあるのだ。

「あー……いいや。別の街で買えばいいと思うし。あ」

 ティンはふと思い出したように言った。

「神殿に行かなきゃ」



 ティンは神殿の中に入り周囲を見渡す。そこは人だかりが出来ている。

 (何故に?)と思っているとどうやら死者の黙祷やら生き延びたことの感謝だったりとか人それぞれだ。と言うかなんで真逆のことしてるんだこいつら。

「……いな、い?」

 ティンは呟いて、神殿内を歩き回る。

 一見、内部は三つの巨大な石造だけかと思いきや、意外と奥は普通にダンジョンだった。とは言っても化け物もなければ複雑な仕掛けもない。まず、像の裏に回れば広場だ。奥には扉が一つ。その扉を潜った先はなんと小部屋だ。小部屋の両壁には盾紋章エスカッシャンがかかっており、奥にはまた扉。ティンは扉を開けて次の小部屋に入ると同じデザインの小部屋がお出迎え。まるでループでもしてかのように思うほど同じデザイン。

 そんな詐欺ループ小部屋の次は、階段だ。先が真っ暗で何処まで続いているのか不明。兎に角長い階段である。幸いにもあまり急ではない。ティンはとことこと階段を下りていく。

 どれほど階段を下りたのであろうか? 十分? 三十分? 一時間? そんな感じにどれ位降りたのかも分からなくなって来た頃。やがて階段は無くなって変わりに広い廊下がティンを出迎える。その先。暗闇に紛れて見難いが、間違いなくその先に大きな扉がある。盾紋章エスカッシャンに交差した剣の絵が描かれた扉。ティンは気が引けたが、せめて旅立つ前に志を同じくする者に挨拶をして行きたくて。

 扉を開ける。

 と、いきなり光が漏れた。バッと弾けた様な光がティンを包み、思わず目を覆う。そしてゆっくりと目を開けて部屋の中を見ると、そこは異世界の様だった。純白の部屋。輝く、神聖なる光に満ちた部屋。部屋全体は円状で非常に広い。入り口から入ると、少し真っ直ぐな通路がありその先には円状の広場があり、円柱が円形に立ち並んでいる。

 ティンは部屋の奥へと歩み進む。やがて、円柱は高い椅子だと言う事が判明した。

「……数は、十」

 十。

 それは、この世界の魔法属性と同じ。

「ほう、此処まで来るとは見上げたものだぜ」

 ティンは直ぐに声がした方に顔を向ける。方向は上。入り口の真正面から向かい側の椅子。そこに、誰かが居た。

「あんたは?」

 ティンは気が付くと円柱の椅子に座っている。

「転移術式だ。一々驚くなよ、輝光の聖騎士さんよ」

 今度は真横からだ。左に向けば椅子に座り込んでいる白マントに白いフードを羽織った何かが居た。

「俺は、虚無の聖騎士。名前はミネル」

 ティンはあまりにいきなりの事にそもそも驚く暇さえない。

「俺が掲げた忠誠は見返り無き正義。お前が掲げたものはなんだ?」

「えっと、あたしが掲げた忠誠?」

 ティンはいきなり振られた質問に戸惑う。

「お前も聖騎士になったのならあるだろ? 聖騎士になるに値する誓いって奴が」

「えっと……あたしの大切な人を、守りたいって言う」

「へえ、そりゃ良いな」

 ミネルはそれを素直に肯定した。

「……いいん、ですか?」

「ああ、良いさ。俺の様な何をすりゃ良いのかわかんねえ忠義よりよっぽど、良い。だが覚えておけ。分かり易く、動き易い忠義ほど辛い物は無い。その果てにあるのは、何なんだろうな」

 ミネルは遠くを見る様な口調で語る。全てが白い外装で覆われて居る為、実際はどうなのかまでは分からない。

「で、何で此処に?」

「あ、その、ブーストさんやパルシェさんに挨拶でも」

「あ、あいつらいたの。こっちに顔出せよなぁ……まあいっか。後嬢ちゃん」

「あ、あたしは」

「名前はいらない。俺は人の名前を聞く主義じゃあないんだ。それと、一応此処は騎士達の聖域になっている。俺が一応聖騎士ならフリーに入れるようにしといたが、人によっちゃ誰かの案内無しには入れないようになってるから気を付けろよ。

 最後に、焔進の聖騎士と水の聖騎士なら聖都の入り口付近に居ると思うぜ。用はそれだけか?」

「あ、はい」

 その時、初めてミネルはティンに顔を向けた。中身が黒くて、表情が見えない。

「――良い目だ。恐れも、未来も知らない。無垢な少女みたいだ。純粋で真っ直ぐな目。主体性を失った俺には羨まし過ぎる」

「え」

「忘れるなよ」

 ミネルはティンに手を向ける。

「純粋に願った心を。光はいつでもお前の中にある。そして――」

 手から術式が生み出され、ティンが光だし、

「光の灯し方を」



 気づくと、ティンは聖都の入り口付近に居た。先程までの潤った光ではなく、太陽から放たれる乾いた光がティンを照らす。

「え、と」

 何が何なのか分からず、ティンは当ても無く歩き出すと、

「どうしたの?」

「っわわ!?」

 上から浅美が顔を覗いて来たから、ティンは思わず尻餅をついた。

「……終わったら浅美さんを呼んでと伝えたのに」

 横から瑞穂の声が聞こえる。ティンは立ち上がりながら付いた砂埃を払う。

「用事終わった?」

「あ、うん。で、ハスタ・スピアに行くんだよね? じゃあ行こうか」

「……何でティンさんが仕切るの?」

「お前らに仕切らせるって方が難しい」

 瑞穂は一先ず殴る準備を始めたので、ティンはスルーして浅美から地図を貰い歩き出す。

 目指すは新都ハスタ・スピア。ちなみに此処から歩いて半日の距離だったりする。

今回は更新を早めにしたぜ。V。

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