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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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知らされた真実

 んじゃまた。

 ティンは行き成り目の前に現れた男を見る。髭面に長い茶髪を無造作に放置し、サングラスをかけた男。着ているのはアロハっぽいポロシャツにジーンズと言ういでたちの、この戦場には似つかわしくないこの格好。だがしかし、ティンとリフェノの一刀を難なく片手で掴み取った。

 幾ら彼女達が疲労し、消耗していたとは言えども彼女達が反応する前に掴みどったあげく、ティンの剣を掴んだ手にはビール缶、それも中身入りのキンキンに冷えたビール缶を掴みながら、である。

 もう一つ言うのならば、剣が動かない。ビール缶越しに掴まれているのに剣を引くことも振ることも出来ない。

「で、手前は誰だ?」

「あ、あたしは」

 それほどの実力者、ティンは油断せずにだが問われて直ぐに返す名前が無く、そこで思いついた名前は。

「あたしはティン、山凪、ティンだ!」

 そういった。が、言って帰ってきたのは予想外の反応で。男の目は丸く見開かれていて、思わずティンの剣の刃ごと握っていた手からビール缶を取り落とした。

「山凪、だと……!?」

「そ、そうだ! あたしは、山凪宗治郎から剣を学んだ」

 言って、ティンは言葉が続かなかった。理由は、男の目が、悔しさと悲しみに満ちていて、ティンを威圧していて。

「――それ以上、言うんじゃねえ」

 重く、言葉を吐いた。その言葉に、ティンは思わず黙り込んだ。だが、黙り続けるわけにも行かず。

「な、なんで、あたしは、山凪宗治郎の弟子で、その人から剣を教わった」

「なら、余計にそれ以上言うな。そして、その名を誇るな」

「ど、どうしただよ!? あんたに、その名前の何が」

「俺は……知ってるからだ。その名を、誇った、父の名だとか言って誇っていた馬鹿を」

 男は言葉を詰まらせながらも、それでも意を決した様子でその言葉を告げた。その

「もう、20年の前に、その名前を口にして、その名前を誇りにして、死んだ奴を知っている。そいつの、死に際にも、立ち会った」

 今度こそ、ティンは絶句した。何故なら、それは、つい最近知った存在だから。

「え、な、なん、で……」

「俺と、同じ戦場にいたからだ。多分……俺が、殺した」

 その言葉に、その事実に、ティンは、剣を取り落として、ただ項垂れた。その言葉にティンは、ただ、涙を流して。

「なん、で」

 思わず、つぶやいた。例え答えがわかっていたとしても、ティンは聞かざるをえなかった。その言葉を。

「殺しちゃったん、だよ……」

「戦争だったんだ……仕方ねえだろ」

 だが返って来たのは予想に反した優しい声で、まるでいさめるようにティンに語る。

「確か、あれはとある戦場だった……兎に角、ひっでえ戦場でな。乱戦でよ、元々どっちも敵だったけどよ……それでも、よ。もう関係なく、非殺傷用の剣なんて捨てて殺人用の剣で戦ってた。で、気が付いたらさ。俺以外、全員死んでた」

 口から漏れるは鋼鉄のように錆付いた重い言葉。どれもこれもが血まみれで、鋭すぎる言葉達。

「全滅だ、全滅。俺を残して部隊は壊滅。見渡す限りの死体の山と血の海だ。そしたらよ、足元に、いたんだよ」

「いた、って」

「山凪が、だ。血まみれで、とっくに息絶えていたよ。それ見て、ああそういやこんな奴斬ったっけなあ、と思ったよ……俺は直ぐにそこから離れたが」

 男はいって、落ちていたビール缶を拾い上げて口にして舌を打った。

「まずい」

「おじさん……あんた、戦争の事なんて、ろくに喋んなかったじゃねえか。なんで」

「ばぁろぉう、興味本位のガキに語るような事なんざ何もねえよ。戦争ってのはな……そいつには、語ってやる必要があった、そんだけだ」

 男はそう言って握っていた長刀を器用に振り回してリフェノを肩に担ぐと。

「あ、おいこら何しやがる!?」

「んなとこにもう用はねえ、かえんぞ」

 言って未だに項垂れて微動だにしないティンを見下ろし。

「そういうこった。俺はあの夫婦に直接会ったこともねえし、現役時代のこともしらねえ。だが、よく週刊誌のインタビューに参加してたから俺でもある程度は知ってるよ。だから言っとく。あの夫婦……いや、爺さんはそんな風に誇られて嬉しいだなんて微塵も思わない。息子の死を知ったあの爺さんは最後に週刊誌のインタビューに応えてな、最後になんつったと思う」

「……ぁ」

 返事は嗚咽のような、搾り出したような、そんな声で。男は捨てるように。

「誰も、誇ってくれなんて頼んでねえよ。馬鹿やろうが……だよ」

 そう言って男はリフェノを担いで立ち去っていく。その肩でリフェノは空しい抵抗しながら叫んだ。

「おーい、ティンっつったか!? この勝負、預けたかんなー!? 勘違いすんなよー!? 今度あったら絶対あたしが勝つかんな、きいてんのかこらああああああああああ!?」

 その言葉を背中で聞きながら、ティンはふらふらと立ち上がった。何故なら、彼女にはまだやることが山のように積まれている。

「仲間のとこに……行かなきゃ……皆、きっと待ってる……」

 そうだ、恐らくではあるが仲間が彼女を待っているはずだ。だからティンはふらふらと陥没した地中に広がる洞窟に入り込んでいく。

 奥へ奥へとあても無く進んでいくが、今の彼女の頭に仲間のことなど微塵も無かった。あるのは、漸く知った、知ってしまった、知らなかった家族の結末。頭の中が、ぐちゃぐちゃで、よく分からない。

 何で、自分は何も知らないんだろう。どうしてじーさまもばーさまも黙ってたんだろう。どうして、どうして、どうして。

 そんな風に、疑問ばかりが頭をぐるぐる巡り続ける。

 やがて、ティンの周りによく見た集団が這い出るように現れた。いつもの、仮面を付けた機械集団。だが、今のティンにはその存在が非常に有難くて。ただただ、純粋な悪意と殺意をぶつけてくる彼らの存在が、何処か、今のティンには嬉しくて。

「このタイミングを待っていたぞ……仲間から離れ、一人になるこのタイミングをな」

「……ああ、いいよ。相手してやるよ。丁度……何でも良いから、ぶった切りたかった所だ!!」

 そう言って、ティンは近くにいた機械人形の首を刎ねた。人首の形をした鋼鉄の塊が宙を舞う、それを見せしめと言わんばかりに宙のそれを一刀の下に切り裂いて駆け出した。

(何で、戦争なんかに行ったんだろう)

 考え続けた。死んでしまったという、居たかも知れない家族の事を。

(そんなことして、誰が喜ぶと思ったんだろう)

 誰も特なんてしない。褒めてもくれない。そんな事は、彼も分かりきってただろうに。あの両親の元で育っておいて、そんなことも知らなかったのだろうか。特に、母親であるばーさまは泣いただろう。子供がそんな事をしてるなんて。

(――いや、違う。絶対、分かってた。あの人達に育てられたなら、絶対に分かるはずだ)

 でも、ティンは。今なら、分かる。どうしたそんなことしたのか。何故ならば。

(だって、誇らしいよね。嬉しいよね。大事な人を皆が褒め称えているんだから。思うよね、自分もって。その名前に、負けたくないって)

 自分も、強く思った。あのじーさまが、剣聖と呼び称えられているだなんて、知ってはじめに思ったことは、驚きで段々染み込んで来ると無性に嬉しかった。だって、だって、あのひょうきんで、何時も笑っている、あのじーさまがだ。

 本にまで載るような伝説の偉人で、最強とも言われる凄腕の剣士。

 本当なら、涙を流して喜ぶことなんだ。皆が褒め称える最強の剣聖。誇らしくって、凄く嬉しくって。でも、だけど。

 その名前が原因で、子供が死んだ。

 一番悲しいのは誰だろう。一番泣いたのは誰だろう。答えなんて、考えるのが馬鹿馬鹿しくなるほど明白で。一番悲しいのはどっちかって考えただけでもう、頭が割れそうで。

 喚きたくもなって、何もかも無に返したくなる。だから。

「ああああああああああああああああああああっっ!?」

 剣を、ただただ無性に振り回した。キレイに、ただただキレイに。何時も以上にキレイに、腕によりをかけて。

 首を刎ねた。

 首を、斬り飛ばす。

 首筋に刃を当てて、抵抗無く、滑らせるように引いて、物を切断していく。それを瞬間的に、即座に、無数の首を刎ね飛ばす。

 ゆっくりと、まるで舞踏会でシックなBGMでも背後に社交ダンスを踊っているように、華麗にくるくると、ステップを踏んで、表情は鋼鉄よりも冷たく次々と機械人形の首だけを刎ねていく。

 刎ねられた首はキレイに洞窟内の端に揃えられていく。それはまるで展覧会のように、悪趣味な人間が凝っておいた様にも見える狂気の現場。誰も之を見て斬って飛ばしただけとは思えない、そんな光景が出来上がっていく。

 斬って跳ねた油が彼女の体に降り注がれるも彼女は一切気にせず彼女は鋼鉄の令嬢が如くステップを行い、次々に戦慄の舞踏を踏んでいく。

 気付けば、ティンは扉を開いて地下牢みたいな場所に立っていた。相変わらず仮面たちが襲ってくるが、此処は何処なのだろうとティンは適当に考えながら殺戮の剣戟を続けた。

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