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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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剣士として

 両者は共に消耗しきった状態で互いに見合っていた。

 ティンの方はどっちかと言えば精神的な消耗が激しいようで、女剣士は物理的な消耗が酷い。一見、切り刻まれていた女剣士の方が不利に見えるが今さっき自意識を取り戻したティンの方が精神的な消耗が酷い。

 そんな中、女剣士は構えを解いて刀の切っ先を突きつけ。

「あんた、名は何て言うんだ?」

「は、はあ?」

 唐突な質問にティンは驚いた。気にする様子も無く女剣士は。

「わたしの名前はリフェノ。リフェノ・アイゼンブレイ」

 彼女の口から出る言葉はさっきまでの荒んだドスの聞いた声ではなく、少女みたいに澄んだ声で名乗り上げた。一人称もあたしではなくわたしへと変わっていて。

「元々は草原に住む遊牧民だ。お前は?」

「え、え、ど、どういうこと?」

「父さんが言ってた、剣士は自分の名前に誇りをかけて互いに伝え合うものだって。わたしはお前を認めた、だからお前の名前を聞きたい。強い剣士の名前を、聞きたいんだ」

 言われた言葉にティンもまた戦いの構えを解いて、深呼吸をした。

「ティン」

 自分の名を告げ、一瞬考えてからティンは更に。

「山凪、ティン。山凪こじ、剣術道場の人間だ!」

「へえ、騎士のかっこうしてるくせに剣術道場に通ってんだ、すッげえな」

 言って女剣士は長刀を投げ上げ、背負ってた鞘を手に掴む。すると落ちて来た長刀が見事に鞘の中に納まり、鞘と刀が一体化してそれを腰に持っていく。そう、この構えは。

「互いにズタボロだ、ゴタゴタ抜かすこたねえ、次でけり付けようじゃねえか」

「……いいよ」

 自然と、ティンは銀の騎士剣を構え直して答えていた。向こうが剣士として最高の技、秘めたる奥義を繰出そうと言うのだ、応えずして何が剣士だと言う。

 風が吹く。風が渦を巻く。風が吹き荒れて女剣士の構える長刀へと集中していくのが分かる。やがて集中した風は鞘口から中に納まる刃へと纏い、小規模の嵐を形成するにまで至る。

「いくぞ、こちとら之をこいつを繰出すのは正直初めてでな、上手くいけるかどうかわかねえんだけど」

 女剣士――リフェノは笑っていった。今見せるのは自分の限界を超えた未知の領域であると。その深奥を見せてやると告げた。ならばティンがすることは、唯一つしかありえない。

「ああ、来いよ。何が来たって、たたっきる」

 そう言っていつもの、両手で柄を握って上段に持っていく構えを見せる。向こうが全力を賭して挑んで来るというのなら、することは唯一つ。全力を持って相対するのみ。

「吼えたな……んじゃお望みどおり、いってやるよッ!」

 数多の風を束ねて一つとし、それを握り締めて今彼女は踏みしめて前へ行く。風を突き抜けて、この暴風を、音速の壁さえ超えて、それでも前へ。迷いは無い、恐怖も投げ捨てる、疑念などはなからない、だから前へ、何よりも前へ、刹那をも越えてそれでも前へ。それは正しく神の風。それを握った刀に詰めこんで今。

「いっくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 一陣の風となり、ただ前へと突き進んでいく。ティンもまたその風を体で感じ取った。その迫力にまたティンの身に強烈な既知感が襲い掛かる。あらゆる感覚が消えうせていく感覚と共に、もう一つ消えていくものを感じた。

 それは体感時間。ティンの体から一気に時間の感覚が消えていく。体全身から感じる触覚が、一気に訴えて流れる時間の感覚が急激に遅くなる。だが、それによって言える事はただ一つ。

(見える――)

 刹那を超えて駆け抜けるその一閃が、スローモーションで見えてくる。

 今彼女が放つのは風属性魔法最上級最上段に位置する紛れもなくSSSランク級に属する最高ランク魔法、神の風と比喩されし魔法、その名を『神風』と言う。だが、これはそこまでの領域には達してはいない。しかし小規模なら形だけは再現は出来る、だからこそ彼女は今神の風を長刀に宿して解き放つ。

 しかし、彼女は何時もこの技を草薙で行っていた。何故なら重さを度外視すればあの太刀のほうが抜きやすくあつかいがゆえだ。しかし、今はこの抜き難いが自身との肉体的に最も相性のいいこの長刀で行う、之は先程も言ったとおりこれでこの奥義を放つのははじめて、そう初めてなのだ。

 放てばどうなるのか、放つことが出来るのか、それさえ分からない。だが一つ、リフェノはたった一つ理解していることがある。

 やる。ただこの一言に尽きる。

 そして放たれる、奥義をも越えた究極の秘奥儀。今放たれる究極の風と共に放たれる居合い、その名は。

「神、風、閃ッッ!!」

 鞘から引き抜き、更に踏み込んで前へと突き進んでいく。徐々に引き抜かれていく刃にティンもまた反応して踏み込んで行く。風を突き抜け、上段に構えた状態から更に前へ前へと腰を落として突き進む。

 止まって見えるかのようなこの世界に置いて兎に角速さが足りない。止まって見えるにも関わらずリフェノの動きは更に動いてくる。距離をじりじりと詰めながら鞘から長刀を引き抜いていく。

 剣をただ振るだけでは到底間に合わない。そう感じたティンは突き出す勢いで剣を振るっていく。構えを省略し、無手の状態から切りかかる勢いで、振るいもせずにただ切り込む。迎え撃つ形でティンも刹那の世界へといどむように、風を突き抜けてその先へ。

 そして、ティンは見る。ついに抜き放たれたその居合いの技を。暴風が渦巻き、刀身に纏わりついてやがてそれは風の鋭利な刃と変貌していく。だがティンはそれに恐れる事も無く前へと踏み込んで――。

 せき止められた時間が一気に開放され、長引いていたはずの刹那は一気に現実へと切り替わり、剣士二人は互いに交差していた。

 無、無の静寂とでも言おうか。リフェノは居合いの形で振りぬき、ティンも全力で振りぬいた形で止まっている。

 やがて、リフェノが先に崩れ落ちそうになる。勝者はティン、そう思えるが。

 リフェノは、歯を食いしばって踏みとどまり、ティンは痛みを訴えるようにナニカを吐き出した。勝利したのはリフェノ……とも思えたがそこで彼女もぐらりとふらつき、結果として両者同時に地面へと倒れこんだ。

「……おい、これ勝ったのどっちだよ」

「知るか、あたしだろ」

「冗談抜かせ、お前のほうが先に倒れただろうが」

 地面に倒れ付し、肩で息をしながら二人は言い合った。しかしこの勝負、無粋を承知で言わせて貰うのであれば勝者は。

 ――ドロー、引き分けですね。

 なし。この一戦に置いては勝者は居らず、互いに死力を尽くしあったと言う事でいいではないかと言う結論を付けたい。だが。

「っざ、けんな」

 口にしてリフェノは腕に力を込めて立ち上がる。

「此処まで来て、ドローです引き分けだ、どっちも頑張ったじゃあ笑えねえよ」

「どう、かん」

 聞いていたティンも剣を杖にして立ち上がる。

「決着がつかないって? じゃあ、付けようじゃあないか」

「同感だ、ティン。次で終らせようや」

 長刀を構え、リフェノは立ち上がる。同じようにティンも立ち上がった。互いに満身創痍、全うな勝負が出来るとは思えない。だが二人は生憎と剣士なのだ。剣士である以上、そして勝負である以上投げるわけには行かない。

 二人はお互いに距離を詰めあうと最後の力を振り絞って互いに互いの剣を振り下ろしあい。

「そこまでだ、手前ら」

 その間に、男が割って入って来る。けっして互いに手を抜いた覚えは一切無いが、二人の剣があっさりと素手で受け止めて見せた。特にティンの刃に至ってはビール缶を握りながらのようだ。

 急なことでティンは驚いたが、リフェノはもっともっと驚いているようだ。何故ならその顔を見ての彼のことをこう呼んだのだのだ。

「何、してんだおじさん」

「うるせえよクソガキ。あほみてえな手紙をおいて変なとこに行っちまってた奴を連れ戻しに着たんだよ」

 言ってリフェノのおじさんとやらは片手に握ってた刃、リフェノの刃を手放してリフェノを軽く蹴りつけて距離をあける。

「ったく、何が傭兵やって来るだクソガキ。てめーになんかあったらどうするんだっつんだ」

「知るかよ、んなもん」

 リフェノはそんな事を言い返す。そしてリフェノのおじさんはティンの方へと視線を向けて。

「で、手前は誰だ?」

「あ、あたしは」

 そう言って一瞬詰まるがそれでも彼女は。

「あたしはティン、山凪、ティンだ!」

 そういった。が、言って帰ってきたのは予想外の反応で。男の目は丸く見開かれていて、思わずティンの剣の刃ごと握っていた手からビール缶を取り落とした。

「山凪、だと……!?」

では、また。

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