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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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応える声とは

 目の前に現れた砦とその前で倒れている少年に格摩はただただ驚くばかりだった。だが、驚いたのは目の前の少年に見覚えがあったからだ。それは。

「お、おい、しっかりしろ! 坊主、お前確か数貴と一緒に居ただろう!?」

 そう、彼は格摩の友人である数貴と一緒に居た少年だ。

 格摩の声に呼びかけられた少年は呻き声を上げながら歯を食い(・ ・ ・ ・)しばって(・ ・ ・ ・)格摩の手を払い立ち(・ ・)上がった(・ ・ ・ ・)

「お、おい、お前大丈夫か?」

「煩い……」

 ふらふらと、倒れそうになろうとそれでも変な体勢になりながらも倒れずに地面を踏みしめて、それでも歩き続けた。

「お、おい、大丈夫かお前!? 倒れそうだぞ!?」

「煩い……僕に構うな……」

 そう言って歩き続け、憎悪の瞳を砦へと向けて。

「絶対ぶちのめす……あんのォ、クソセンコオオオオオオオオオオオオオオッッ!」

 そう叫んで倒れそうになって、杖で体を支えて尚も立ち続ける。

「クソ、センコーって……おい、それ数貴のことか!? おい、坊主!?」

「煩い……僕を、坊主って呼ぶな、邪魔すんなぶち殺すぞ」

 後ろを睨みながら放つ言葉に乗っかる殺意に格摩は思わず構えた。見た目は手負いの体なのに発せられる殺気が研ぎ澄まされていて、まるで熟練の戦士を髣髴させた。そんな格摩の背後から。

「おーい、格摩! 一体何が……ってそいつは誰だ? って、何だこの砦は!?」

 追いついて来た武旋がこの状況に驚く。

「お、俺にも状況がさっぱりで……おい、ええっと、お前、名前、何て言うんだ?」

「……ああ?」

 格摩に問いに帰って来るのは憎悪のみ。その対応にいい加減呆れ気味に。

「……悪いな。えーっと、俺は格摩、そこに居るのは武旋って奴だ」

 格摩の返しに少年は面食らったようで、驚き、落ち着いた様子で振り返ると。

「……僕は水純。あんたは、先生の友人?」

「お、おう。そうだぜ、えっと、何で此処に?」

 少年こと水純は軽く溜息をつくと憂鬱そうな視線を格摩へと向け。

「……長くなります、それでも良いですか?」

「お、おう。いいから話せ」

「先生は以前より暇つぶしの為に何か水面下で動いている不穏な動きは何か無いかと探っていました。そうしたらかつての魔王の残党が動いていると言う情報を掴み、早い内に叩いておこうと僕と一緒に、此処がそうだと掴んだので此処に来ました。そして先生は、僕に課題だと言って敵がわんさか居るところに放置して隠密行動に入りましたマジで死ねあのクソセンコー」

 一息に言い終えた水純は何処か満足気で、そしてやっぱりと言わんばかりに。

「あのクソセンコーいつか殺す。で、僕は何とか殲滅したのですがふとした弾みで外に出てしまって……後はご存知の通りです」

「……えーと。お前さん、凄い苦労したんだな」

「はい。次会ったらあの人を八つ裂きにしておきます」

「いや、うん、そいつは無理だと思うぞ?」

「分かっていますので言わなくてもいいです」

 言って、水純はまた溜息を吐いた。それを見て格摩は深く彼に同情し、そして武旋は辺りを見渡しながら。

「確かに、周りには気絶した連中が結構居るようだな。之全部、お前がやったのか?」

「はぁ、まあ。取り合えず全員溺死レベルまで水を飲ませてあります」

「……魔法って、怖いな」

「ご安心を。全員飲ませた水で体内を致死量のレベルでぐちゃぐちゃにしています。暫くはいき地獄で動けはしないと思いますよ」

 水純はそんな残酷な所業をあっけらかんと言い放つ。確かに耳を澄ませば彼らから声に成らない呻き声が聞こえるようだ。それを見て格摩は渋い顔で。

「おいオマエ、この手際の良さと残虐性にどこぞの誰かを思い出すんだが……お前、数貴とどんな関係だ?」

「……教師と生徒です」

「……は?」

 格摩はその言葉に思わず空返事を返した。続いて武旋が。

「教師と生徒ってこたぁ、お前さん、あいつから何か教わってんのか?」

「はい、先生から魔法の勉強と……人生を学んでいます」

 水純は、射抜くような純粋な視線、格摩は思わず、涙が零れた。何だか、そう不意に現実に戻されたと言うか、あえて言うのなら。

「何か、胸にすとんと落ちた」

「は? 何だっておいどうした格摩!?」

「なあ、水純」

 格摩はそう言って真っ直ぐに水純を見下ろして。

「お前、あいつから俺らについて何か聞いてるか?」

「先生が、ですか? ふむ」

 そうきってから顎に手を当てて、思い出したように。

「ああ。先輩だと仰っていましたね。あなた方は僕の先輩だと」

「……そうか」

 間を置いて、格摩は感慨深そうに呟いた。そして涙を腕でぐしっと拭いて。

「ったくあの馬鹿、そんな事してたのかよ……全く、先輩と来たか」

 誰に言うでもなく、格摩は呟いて水純を見る。見た目からはどこぞの誰かのような滲み出る胡散臭さは全く無いものの、だけど溢れ出る負けん気だけは全くそっくりで。それを思い出して思わず格摩は微笑んで。

「あの、何か」

「いや、何でもねえよ。それより、数貴はあそこなのか?」

「……まあ、はい。で、どうするんですか? 来るのですか、来ないんですか、邪魔するならぶちのめす」

「……ああ、うん。その口の悪さと無意味な強気は確かにあいつ譲りだ」

 呆れながらも其の表情には微笑みがあり、格摩は満足そうに水純を見降ろし続ける。その様子を見ながらも武旋は一旦せき払いして。

「兎にも角にも、こっから先に行くにしても他の仲間達のことも確認しなきゃいけないぞ。と言うか、山賊どもは何処行った?」

「言われてみりゃそうだな。水純、お前知ってるか?」

「知りません知ってても言いません」

「……お前なあ」

 格摩はため息交じりに水純の言葉に頭をかいた。だが注訳する様に水純はちらりと森の方へと視線を向けると。

「でも、そう言えば後方から増援が来たので不思議に思いながらも全員始末しました。その中に御目当ての人物がいるかもしれませんが」

「いや、いい。そこまでして探そうとは俺も思ってねえ」

「調べるだけなら自由ですのでどうぞ」

「何でそこで催促!? その変な指示の出し方とかお前本当に数貴そっくりだなあおい!?」

 水純の露骨なまでの言動に格摩は思わず突っ込みを入れ、しょうがないので森の中に入り込んで探しに行く。そこには山賊の部下らしき人物達と砦の兵士と思わしき人物が、こう、呻きながら声にならない声をあげて泣いていた。口からはこぼれない水がたまっていおり、逆さにしても微動だにせず、おまけに色は完全に毒物のそれである。

 飲むことも吐くことも出来ず、死んで楽になることも気を失って解放される事さえ無い拷問に格魔は思わず蒼い表情になる。

「お、おい、これ……ああ、いや、こんなかに山賊どもはいないってお前なに先に行こうとしてんだこら!? 本当に行動も全部あいつ譲りじゃねえか!」

「やかましいなあ……」

 これ以上見ていたら吐きそうになった格摩は後ろに振りかえるがそこには水純がてくてくと立ち去ろうとして武旋に捕まっている所であった。苛立たしそうにその手を退けて歩くのを止めて。

「一々やかましいです。僕に構わないでください」

「いや、お前魔導師だろうが」

 武旋がそう言った瞬間、水純は殺気を爆発させた。殺気を滲ませるでも向けるでもなく、文字通り爆発させて周囲に問答無用に殺気を当てる。

 一気に溢れ出して当てられた殺意に二人は思わず身構える。格摩は戦闘態勢に入り、武旋も思わず背負った大剣の柄を握る。

「こ、こいつ……!」

 たった一人の所業で此処に修羅場が展開される。一気に爆発させた殺気よりも、熟練の戦士である自分達を一気に警戒態勢にさせる彼の殺意に何より驚いた。何故かと言えば。

「何て殺意だ……こいつ、一体なんなんだ!? 俺でもこんな濃厚な、背筋が凍るほどの殺意、味わった事がねえ……!」」

「ああ、確かに。之だけの殺意、熟練の戦士でも早々は無いが……」

 武旋は一度切って、真剣な表情で。そう、まるで哀れむような目で。

「ただのガキが喚いているような殺気だ。確かに凄いが、それだけだ。実の入ってない脅しにすぎねえ。張りぼてばっか凄くても実際に出来なきゃ意味が寝えぞ」

「――煩い。殺すぞ、お前」

 言った言葉に武旋はにっと笑って剣から手を離して。

「へえ、殺す、か。おもしれえなあ小僧。出来んの」

 武旋の言葉はそれ以上続かず、直ぐに顔色を変えて鼻と口を押さえた。

「煩いと、言った。濃酸飲ませるぞ」

「こいつッ、空気中の水分に魔力を混ぜやがって……ッ! この精密な魔力制御、この殺気はマジもんかッ!」

 そう呟いて武旋は下がり、水純は鼻を鳴らして先に進み始めた……が、本調子ではなうらしく何処かふらふらだ。それを見て格摩は。

「……なあ兄さん。あいつはあのまま放っておいて俺達は俺達で後ろの連中と合流しませんか?」

「確かにな。あの強情さは一寸やそっとじゃびくともしねえ。逆にいや、ほっといてもあいつは先に行くしな。あの調子じゃ砦に入るまで時間がかかるだろう。しょうがねえ、俺らは一旦洞窟に戻るぞ」

 格摩は武旋の言葉に頷き返し、その踵を返して洞窟の中へと戻っていった。そこで見たのは、瓦礫と格闘している先程の少年だ。

「おーい、何してんだお前」

「あん? 俺の荷物がねえんだよ。何処に行ったんだ? 持ってかれてねえよな……」

 言いながら瓦礫の撤去を続ける少年。だが疲れたようで瓦礫に座り込んだ。

「おい、お前はこれから如何すんだ?」

「依頼金をせしめる」

 武旋の言葉に、少年は即答する。

「依頼金だと?」

「前金は貰ったが、依頼料は全額貰ってない。之じゃ割に合わんから借金の取り立てならぬ依頼金の取立てだよ。くっそ、手持ちの弾もろくにねえのに荷物もっていきやがって……そういやさ、お兄さん」

 そこで少年は思い出したように格摩に視線を向け。

「お兄さん、地の魔法使えたよな。俺の荷物探してくれない?」

「はあ? 何で俺がそんなことしなきゃいけねえんだよ」

「やってくれたら、それを前金としてお兄さんに雇われるよ。だいじょーぶ、その跡の依頼金も連中から奪って貰うから」

 格摩はわけ分からんと表情に浮かべ、武旋は考え始める。実際、悪い話ではない。武旋も先程の戦いで少年の腕前を知っているし、そもそも少年の素性を考えれば彼はプロのベテラン傭兵と言うことだ。

 契約は決して裏切らないし、そう教わっていてそう体にしみこませている。戦力として数えられるならそれに越した事はないが。

 だが、逆に言えば金でころりと寝返る危険性を持っているということ。何せ今もこうして寝返りの宣言を簡単に行っているのだ、もう一度行わない保証など何処にもない。

 武旋は之は慎重に言質を取ってからゆっくりと考えるべきか、と頭を捻っていると。

「瓦礫の中の荷物ってーっと……お、あった」

 格摩が地面に手を当てて何かを探り、瓦礫を殴って吹き飛ばして二つのボストンバッグを取り出し。

「こいつか?」

「おーそれそれ! あんがとサンキュサンキュ!」

 と、あっさりと格摩が見つけて、武旋は豆鉄砲でも食らったような顔をして。少年はまだ幼さを伺わせる表情でそれを受け取り。

「よっし、契約は成立っと。よろしくな、お兄さん。依頼金せしめるまではあんたらと協力する」

「へっ、依頼金貰ったらもっかいバトルってか?」

「直ぐに逃げちまう屁っ放り腰の契約主なんかと付き合えるかよ。取るもん取ったら直ぐにおさらばだぜ」

 そう言って二人は握手の代わりに拳をぶつけ合った。それを見て武旋は溜息を吐いて苦笑し。

「忘れてた。こいつら後先考えない馬鹿共だったな」

んじゃまた。

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