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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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奥から第二ステージ

 少年は絶望と敗北に満ちた顔で引きさがる。両手の銃には弾丸がなく、ただの鉄塊だ。確かに凶器ではあるが目の前の男には意味がないであろう。

 この少年は完全に詰んでいる。誰が見ても分かる。だと言うのに、格摩は途中で足を一瞬止めて、一瞬、拳が止まった。その直後。

 少年は銃を投げ捨て、そのまま腰の後ろに手を回して。



 銃声が、響いた。



「惜っしい」

「手前……ッ!」

 格摩は飛び退いて距離を取った。見る少年の手には小さな拳銃があって。

「本当に惜しい。もう少しで心臓ぶち抜けたのに」

 あの瞬間、奇妙な違和感を感じた格摩は一瞬体を止めて、もう一度拳を振り被ったが、そこに少年が銃を撃ち込んだのだ。正直、この停止の一瞬が無ければ反応が遅れていた事だろう。もしも拳を振り下ろしていたら、振り抜いた力に引っ張られて回避も何も無かった筈だ。

 だが停止する事で少年の銃撃を見て防御に持っていける程度には留める事が出来た。本当に、危うい刹那で。

 撃ち出された銃弾は格摩の腕に食い込み、そこで止まっている。だがそれ故に焼ける痛みが彼の腕に食い込んでいる筈。

「こんなかっこうしてると、意外と気付かないんだよなぁ……」

 続いて少年はにやつきながらフードの中に手を突っ込んだ。そしてそこから取り出すは。

「こんな所に、こんな物があるなんて、なあ!」

 小型の拳銃が。格摩が最初に懸念した通り、リロードの隙は初めから無かったのだとも言える。つまり、あのマントの裏には。

「どうして、俺がこんな動きにくいマントを羽織ってるのか、羽織ながら戦ってるのか、誰も考えないし、気付きもしない奴が多い。ま、おれも簡単に気付かれちゃ困るからあれこれ努力はするがな」

 撃鉄を起こす。中に詰まった銃弾の発射準備が整い、何時でも詰め込まれた鉛玉を叩き込める状況とも言える。それを格摩へと向け、格摩もまたその動きに隙は無いかと見定め。

 同時刻。

 地上では、神々の黄昏と邪神の化身が激しく食らいあい、激突を重ねあっていた。その激突は世界に傷をつけるも、砕くには届かず、だが世界を揺るがし、物理的な衝撃を伴って大地を抉っていくほどの力が発生する。

 この現象が地上で巻き起こった。では、一つ問いかけるとしよう。こんな状況で、果たして下の廃棄された鉱山内にいる者達は無事と言えるのか?

 当然のように、格摩と少年の居る地点にも地震が発生して。

「な、なんだ!?」

「お、おいおいマジかよっ!?」

 二人はこの異常事態に決闘どころではなくなり天井を見上げる。すると、そこには彼方此方に亀裂が駆け抜けていき、更にはひび割れて崩れていって。

「う、嘘だろ!?」

 少年は完全に引きつった表情で上を見上げる。そこにある絶望に、目を潤ませていき、そんな少年に厳しい現実を教授すると言わんばかりに天井が崩れた。

「う、うわあああああああ!?」

 思わずフードを被って身を屈めた。だが、辺りが崩れる音はすれど自分の上に瓦礫が落ちてくる様子は一切なく、一体何が起きたのかと確認するようにフードを取って周りを見てみれば。

「けっ、このくらいで泣き叫ぶんじゃあねえよガキ」

 無傷の格摩が、降って来る瓦礫を殴り砕き、或いは蹴り飛ばしていた。

「な、なんで」

「あ? 何手前、俺が助けたとか思ってんだ? 俺は単純に上から降ってきた岩を殴ってるだけだっつの。その近くに偶然手前が居ただけだ」

 そう言って頭上に落ちてきた瓦礫を身体を捻って殴り飛ばして。

「勘違いすんじゃねえぞ、くそがき。これが終わったら再戦だ、それまで、怪我とかすんじゃねえぞ」

 言って、格摩は裏拳の要領で降って来る瓦礫を殴り飛ばすと直後、別の降ってきた瓦礫が爆散して。

「何甘い事言ってんだ?」

 滲んだ涙をふき、少年は銃を構えて立ち上がる。

「後で再戦? んなめんどい事しねーで今、ここでやっちまおうぜ。俺もあれじゃあ不完全燃焼だ」

「へっ、言うじゃねえか。さっきまで地震で泣き喚いていたのは誰だったか?」

「知らねえな、そんな昔の事」

 地震も崩壊も収まって来たころ合い、二人は最初のように敵同士として睨みあい、決着をつけると言わんばかりに踏み込んで。

「そこまでだ、手前ら!」

 大剣で邪魔な瓦礫を砕き割りながら武旋が現れた。二人は行動を中止して彼に視線を向け。

「無事か、格摩」

「あ、ああ。それより兄さんどうかしました?」

「いや、おめーが無事ならって……お、おい、このガキは誰だ?」

 そんな中、武旋は言いながら瓦礫を上って二人の側により、向き合っていた少年を見て驚き。

「ああ、こいつは連中が雇っていた傭兵だが……兄さん、知り合いですか?」

「いや、しらねえが……いや待て。その風貌、お前さん……もしかして」

 武旋は彼を見て徐々に顔が青褪めていく。まるで振るい亡霊にでも会ったと言わんばかりの態度を見せ、やがて両膝を付いて。

「……すまねえ」

「……いや、謝られても。一体何のことだか」

「お前、少年傭兵だろ?」

「……そういや、第一の狩の時に邪魔した傭兵がいるって聞いたな。ああ、それってあんたの事か」

 少年はそう言って銃を下ろして踵を返し、周囲を見渡す。だが今の会話が理解出来ない格摩は。

「お、おい、少年傭兵とか第一の狩とか、一体なんだよ」

「……そうだな、一応知っといた方がいい。あの冷め切った戦争の、負の遺産をな」

「負の、遺産?」

 言った武旋は少年の方へと目をむけ。

「昔、とある傭兵会社がこんな事を考えた。生まれた時、その時点から殺人や戦いを仕込み、それを正しいと認識するように仕込めば、どうなるかって」

「は?」

「倫理や抵抗、そんなものを初めから消した殺人マシーン。奴らは、それを理想として考え、実行した」

 武旋の言葉に、突拍子過ぎて呆気に取られていた格摩だったが、徐々にその表情は険しくなって行く。さっきまでの言葉達、そして何より少年と戦ったときに言っていた、オトナの夢の跡。これらを混ぜ合わせて出てくる答えは。

「……おい、待ってください兄さん。そりゃつまり、奴らは子供を浚ったりなんかしてその子供に殺人は正しいとか、人殺しは良い事だとか、そんなふざけた事を教えてたって、事ですか?」

「ああ、そうだ。そしてそいつらを傭兵として運用し、荒稼ぎを行っていた」

「……に、兄さん。そいつは、何処まで、真実なんですか? い、幾らなんでも現実味が無いぜ。だ、だって、子供に戦争とか、確かにそう言うことやってる地域は今もあるけどよ」

「……格摩、あのガキ、銃を軽々と扱える体に見えるか?」

 言われ、格摩はばっと少年の方を見る。年は幾つなのだろうか? 少なくとも格摩に近い事だけは予想できる。だが、その少年の体躯はあまりにも小柄すぎる。そんな体で難なく数々の銃を扱っていたのだ。

 少年は溜息を吐くと二人の男たちに振り返り。

「俺には、筋力強化の術式が仕込まれている。相当強力な奴でね、12の時に医者にかかって調整してもらわなきゃへたすりゃ死んでたって言うくらいだ。あと、おっさんよく知ってるね。あれを知ってる奴は少ないと思ってたけど」

「当時、戦場で傭兵やってた奴や戦場で小さい子供が戦ってるのを見て疑問に抱いた奴が調べたんだ。確かに子供が戦争やるのが珍しくない世の中だったが、だからってそいつらは人間性が無さ過ぎた……いや違う、倫理観が全く無かった。人殺しに抵抗が待ったくない、寧ろ人殺しが常識で、まるで遊ぶような感覚で殺人を、戦争をしていたからな……」

 武旋の表情は後悔によってくらい。少年は呆れた様子で。

「そりゃ、そう教わったからな。どうやって人を効率よく殺すのか、どうやって効果的に大量に人を殺せるか、そう言うのを考えるように教えられたからなあ。知ってるかい? 俺が始めて殺したのは、死刑囚なんだぜ?」

「し、死刑囚って」

「銃殺刑。俺らが言われたのはそんくらい、それで上手に殺されたら褒められてゴチソウを食べさせてくれた。一日に何人も撃ち殺せばそれだけでもう英雄あつかいさ。そうやって俺らにヒトゴロシは良い事だって仕込まれたんだよ。そしたら次は銃の扱いやらターゲットだけを的確に撃ち殺す訓練とかばっかでな……気付けば、殺人が当然で、どうやって手早く人を殺せるのか、どうやって効率よく戦争するかってな」

「ふざけんな……」

 静かに呟いたのは格摩だった。肩を震わせ、体のうちに渦巻く黒い感情に身を任せつつ。

「ふざけんなよ、手前。何だそりゃ、何何だそりゃ!?そ、そいつら、子供使ってそんなこと……そいつら、子供を何だと思ってやがるッ!?」

「金の卵を産む鶏じゃね? 俺らは本当に教育するように育ったが、第二期や第三期の奴らは見ていて心が少し痛んだがな。もっともっと感情が希薄で、人殺しを楽しむんじゃなくてただの作業と認識していたな。殺せと言われたら、まるで勉強でもするような感じで人殺しをしてたっけ」

「くそっ、そいつら、今何処にいるッ!? 俺が、直接ぶちのめして」

「もう、無いよ」

「……は?」

 武旋の言葉に格摩は毒気が抜かれた。何故なのかと思えば。

「言ったろ、オトナの夢跡だって。そいつらの教育が完璧すぎた結果、そいつらのスポンサーの重要施設を完膚なきまでに叩き潰したら、そこで色んな方面から怒りを買っちまって計画はおじゃん、で、俺らは解散……だけど、どうなったんだろうな……」

 そう言って少年は頭をかいて周囲の探索に戻った。

「で、あんた等黄昏んのはいいけど、この状況を如何思うよ?」

「あ、ああ、そういやそうだが……って、此処何処だ?」

 言われてやっと格摩も周囲を見渡し始める。見てみれば、周囲は瓦礫だらけで上が筒抜けとなっていた。と、そこで。

「あ? 上が、吹き抜けに、なってる? ってこたぁ、上の連中が」

 そう言って格摩は重力波を操って上に上るが、そこは誰も居らず、置くには抜穴があって。

「お、おい、何か、奥に穴があるぞ!?」

 そう言って格摩は穴に向かって指を突き向け、叫んで後ろに振り返る。そこには登ってきた武旋が居て。

「なんだ、何が見える!?」

 言われた格摩はばっと振り返って穴の先を見てみる。かなり奥に続いているようで先が見えない。格摩は振り返って武旋の方を見る。武旋は黙って頷き、顎でしゃくった。

 その動きを見てメッセージを受け取った格摩は走り出して穴の中に直進する。くらい洞窟の中を格摩は駆け抜けて行き、数分経ったかと思う頃、急に光が見えて出口を通るとその先は……。

「な、なんだこりゃあ……!」

 そこには古びた砦と一人の少年が倒れていた。

 ではまた。感想などがあればどうぞ。

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