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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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野狼の剣聖

 世界が振動する。

 活性化する八幡の大蛇の化身と、神を焼く尽くす黄昏の激突に世界が徐々に軋み始め、ついには悲鳴を上げ始める。

 それが引き起こすのは次元の壁を崩すほどの衝撃――ではない。そもそも、八幡の大蛇は神などではない。神格を得たとしてもあれはただの妖怪といわれる化物だ。神域に達しているし神としての能力や強さを持ってはいる。だが、かつて黄昏と偽神がぶつかった際に次元の壁が割れたのは黄昏の攻撃意志に神の座に抵抗する意思があったからだ。

 故に、今回は違う。こんな、神格のなり損ないとの激突程度で崩れるほど世界は脆くなど無い。あの時は、世界を塗りつぶすほどの次元に到達してたから起きた現象だ。さて、今回起きた現象はと言えば。



 端的に言って、爆発だ。



 体中から痛みが訴える。暗い世界から硬い何かが体中を被っている事だけを認識して意識が覚めた。

 ティンは立ち上がり、周囲の状況を確かめる。場所は洞窟の中、どうやらあの激突によって地面が砕けたらしい。その効果をみた彼女の素直な感想はといえば。

(流石、神剣。怖い)

 くらいだった。切り結んで地面が崩壊など、当人としては笑うしかない。周囲を見れば、どうやらここに居るのは自分だけのようであるらしい。よく見れば視界の隅に人間の体っぽい何かが見えなくもないが。

 ティンはどうでもいいと判断し、神剣がどこにあるのかを確認する。手元にない所を見るとどうやら意識が途切れた影響によって送還されたと納得する。が、問題は触媒にした剣が見当たらないということだった。

 だが、何故か近くにあると確信する。便利だが、なら帰還する機能が欲しいという感じであった。と、そこへ。

「あたしは……生きる」

 何処から、確かな声が漏れる。何だと思って見渡すと瓦礫の中から女剣士らしき物体が見えた。

(もしかして、生き埋めになった?)

 思い、ティンは手が必要なのかと思ってそちらへと視線を向けると不意に風が吹く。その風は都合よく女剣士の体をおおっていた瓦礫を吹き飛ばして彼女の体を自由にする。そして女剣士はゆらりと立ち上がり、緑の太刀を納刀して背負っている長刀へと手を伸ばす。

「あたしは、生きる……」

 直後、手にとって抜く放つと同時に刀を大きく振るう。

 ティンはその行動にある予想を立て、その予想に応じて屈みこんで姿勢を下げる。それと同時に何かがティンの頭を通り過ぎる。一体何が――と思った所で周囲が一気に切り飛んでいくのを見て直感する。

(い、居合い抜き……ッ! 森を一気に伐採したあの一撃か!)

「生きる……生きる……あたしはぁ……ッ!」

 言葉に釣られて顔を見上げるそこにはティンを睨む女剣士の姿がある。その瞳を見てティンが思ったことはただ一つ。

「おお、かみ……? 蛇女じゃない……」

 狼。今の彼女は蛇に巻かれた蛇を手繰る蛇女などではなく。

「こいつ、狼だったのか……!」

 言うと同時、女剣士は咆哮と同時にティンへと切りかかる。その動きは正に獣、血肉に植えた獣の如く、ティンへと襲い掛かる。そんな攻撃に対して彼女は思わず引き下がる。

 理由は単純、恐怖を感じたから。今の相手は理性を無くした獣如く、純粋な殺意を向けてくる。あの仮面達よりももっと純粋で圧倒的で鋭い殺意。その殺意の迫力に物怖じしてしまった。

(まっずい、こいつのペースに飲まれてるッ!?)

 女剣士の剣戟もそうだが何より恐ろしいのはその狙い。的確にかつ大胆にティンを切り裂こうと長刀を振るってくる。ティンも銀の騎士剣で対抗するが獣が如く猛攻には精神的に敵わない。

 だが、何より恐ろしいのは女剣士の強烈な意思。生きると言う強烈な意思。純粋に、ただ純粋に生き残りたいと言う純粋で強固な意志。

 生きることに餓えて、渇えて、乾いて、まだだ、まだ食べていない、己はその肉を、生と言う名の血肉を貪りつくしていないと吼えているのだ。

 その意思は何者にも犯されない神聖な物として此処に君臨している。誰にも汚せない、何処までも求め続ける求道の祈り。この渇望だけで外界を排斥し、己だけの世界を構築しうるほどの――神域に到達するほどのレベルで今狼の剣士は純粋に生を願い続ける。

 故に邪魔だ、横から奪うな、それはわたしの物だと女剣士は歌い上げるように獣の叫びを上げる。だがティンもただ切られる訳には行かないと騎士剣で切り返す。

 ただただ、生を求め続ける渇望。それは真摯に生へと立ち向かう、たった一人の人間としてそこに居る。

「でもな……だからって負けてやれるか!」

「ヴオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 その咆哮に応じてティンも獣へと剣を振るっていく。



「こんなもんか」

 武旋はそう言って大剣を地面に突き刺して片膝を付く。そう言って上を見上げると天を貫き、太陽の光が洞窟内を照らしている。周囲の山賊達はその衝撃で殆どが気絶しており、一部が気絶せずに倒れて苦しみを訴えている。

「おい、大丈夫かお前ら!?」

 そういて武旋は後ろへと振り向いた。

 皐は武旋が大技を放った直後、誰かに後ろから押し倒された。そこからの記憶は正直あやふやだった。見上げようにも地響きがして何かが上から降ってくるのを見て目を瞑っていた。

 そして目を開けるとどうやら誰かが自分に覆い被さっているようであり、誰なのかと思って見上げると。

「よおう……」

 関哉が皐を押し倒す形で盾となっていた。

「無事か、皐」

「は、はい……って、貴方は何をしているんですか」

 言われた関哉はふらふらと立ち上がる。見れば全身砂塗れで瓦礫も空で受け止めていたようで。

「お前ら……無事か!?」

「え、ええ……」

「おう。一応、へーき。にしても、凄いなあの技」

「お、おう。術式でチャージして多分を一気に解き放ったからな、暫くは使えねえが」

 関哉の言葉に武旋は解説を行いながら周囲を見渡す。敵の増援も無く、恐らく動くなら今なのだろう。

「で、お前らはこれから如何する?」

「如何するって、どういうこった」

 武旋の言葉に関哉が答える。

「俺はこれから格摩のところに行く。あいつは弟のダチなんだ、出来れば俺が側についてやりたい」

「そっか、分かった。じゃあ先に行ってろよ。俺は、後で行く」

「お、おう。じゃ、じゃあ俺は先に行くぜ……」

 関哉の言葉に武旋は心配しながらも先に駆け出していく。それを黙って皐は見送っていると誰かが倒れる音がした。見てみれば、関哉が倒れていて、その背中には幾つもの瓦礫が体に突き刺さって。

「な、こ、これはどういう事ですか!?」

 思わず皐は関哉の下に駆け寄ると様子を見る。どうやら背中に刺さった瓦礫は魔力の侵食度が薄いのか、僅かに皮膚がすれて血が滲んでいた。出血自体は大した事ないが、背中がこんな状態になるほどの物なら相応の痛みがあるはずで。

「あー……おれ、カッコわりぃー……」

「そんな事を言っている状態ですか!? 何で、こんな」

「そりゃー……好きな女守った勲章だよ……かっけーだろ」

 そう言ってにっと笑って、皐は顔を付して唇をかんだ。

「どうして……私なんて」

「なんて、何て言うなよ……可愛い子守れて、傷がつくなんて、男冥利に尽きるだろうが。ま、それで耐え切れずに醜態見せるなんて、俺カッコわりぃー……」

 自嘲して、関哉は立ち上がる。

「一人に、してくれ。そうすりゃ、こんな石ころくらい魔力で同化して逆に食って体力戻せっから。お前、俺のこと嫌いだから、いいだろ?」

 言われて、今度は皐が俯いて、関哉の肩を担ぐ。

「……貴方に、借りなんて作りたくはありませんから」

 皐はそう言って関哉と一緒に武旋の後を追っていく。

「どうして貴方は……」

「なんか、言った?」

 返事は無く、皐は黙って歩いて行った。

 ではまたー。

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