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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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拳と銃

 地面が開き、少年と共にその下の階層へと格摩は転げ落ちていった。少年は知っていたようで軽く跳躍してフックショットでゆっくりと降りて両手に銃を構える。

「じゃあ始めようか……お兄さん!」

 格摩が素早く立ち上がって拳を構え、少年の両手に握った銃を見る。その形は六弾装の回転式銃。

 回転式銃、それはリボルバーとも呼ばれる銃だ。それを砕いて言えばあまり弾が入らない銃だ。逆に言えば、弾が直ぐに無くなると言う意味である。弾丸は撃てば無くなる代物である以上無くなったら補充が必要となる。だがそんな隙があれば間違いなく格摩の拳が突き刺さる。それはつまり。

「ってことは右手に六発、左手に六発……合わせて十二発の弾丸が、手前の命綱って訳か」

「ま、そーゆーことかな。一つ予告しておこうか、俺はこの手の銃弾であんたを打ち抜く。決意は胸に、魂は弾丸に。殺意は――」

 そう言って少年は自分の銃を見せ付けるように構える。

「引き金に……ッ!」

 静かに銃を構えた先、確かな殺意を感じ取った格摩は。

(だが、銃術士がそんな欠点を見落とすとは思えねえ……どっかに追加の銃がある可能性がある)

 互いに互いを睨みあって、同時に動き出す。

 まず先手を取ったのは少年、合わせて十二発しかない筈の銃弾をあっさりと一発撃ち込む。

(残り十一)

 格摩は冷徹な頭で残りの銃弾を叩き込む。

 撃たれた銃弾をあっさりとかわして少年との距離をつめ、そこから銃による殴打の反撃が来る。

「こいつっ!」

「銃撃つだけが銃術じゃないってね!」

 しかし、近接による格闘戦なら格摩に分がある。銃の攻撃を受け止めて蹴りつける為に足を上げた所で眉間に銃口を向けられ、発砲。即座に首を下げて銃弾が額を掠っていく。

(残り、十ッ!)

 冷や汗を流しつつも格摩は残りの銃弾を頭に刻む。

 格摩が弾を避けた直後に少年の回し蹴りが飛ぶ。格摩からすれば単純で遅く、鋭さも感じられないような蹴りの一撃。なめるなと思って防ぐが。

「んなっ!?」

 その瞬間、とんでもない重量が格摩の腕にのしかかる。目の前のひょろい少年とは思えないほどの強烈な蹴りの一撃、それによって格摩の防御が強引にねじ込まれ、格摩はあえて力に乗って屈み込んで足払いの回し蹴りを送り込んで、少年は回し蹴りから屈み込んだ格摩に向けて引き金を引いた。

(残り九ッ!)

 残りの銃弾を計算し、打ち込まれた銃弾を拳で殴り飛ばす。

「おいおい、こいつ化けもんか」

「っるっせえよ!」

 素の声を上げながら驚く少年に毒を吐きながら少年は足払いを受け、そのまま強引に蹴り返して互いに距離を開けて仕切りなおしとなる。そして二人は距離を詰めあうと格闘舞踏を披露していく。拳を打ち出せば銃が、蹴りを繰出せば蹴りが飛び交う。

(くそっ、何だこいつの力は!?)

 格摩は殴り合い蹴りあい、少年の構えた銃を殴りつけて互いに睨み合いとなる。

(馬鹿力にもほどがある! 鳳凰と同じくらい、いや下手するとそれ以上だ!)

 そこで格摩は一つ思い出す事実があった。この少年はこんなひょろい体でありながらもショットガンや片手サブマシンガン、果てにはこんなにもごつい回転式拳銃を片手で操り、発砲してる。

 一体何口径だろうか? 格摩自身は銃に詳しくは無い為何とも言えないが細腕の人間が持てば腕が吹っ飛んでしまいそうな爆音を持って銃弾を撃ち込んでいる。見た目もでかいし、普通に鈍器としても凶器級のでかさだ。これをあのか細い、子供のような腕で振るっている。しかも拳を交し合っているからよく分かるが、十分にこれだけのごつい銃を振り回せるほどの腕力をきっちりと持っている。

「手前は、一体なんだ!?」

「オトナの、捨てられた夢のあとさ!」

「はぁっ!?」

 格摩の叫びに返ってきた言葉より意味が不明であった。少年は楽しそうに話を続ける。

「第四次世界大戦、その後に起きた事を知ってるかい?」

「確か……あの大戦で核とか言う兵器が使用され、その後の処遇を決める為に戦勝国が10年くらいグダグダと会議を続け、その間に上の命令があやふやなのをいいことに敗戦国や同盟を組んでいた国々が小競り合いを続けていた、だっけか?」

 銃で殴りあい、蹴りあい、体をぶつけ合いながら二人は語り合う。

「そーそー、それで戦争が終わったってのに、いや戦争してた方が良かったって程の大乱戦の小競り合いが起きた」

「それが原因で戦争孤児が大量に増え、十歳以下の冒険者が増え始めた」

「で、さ。その戦争孤児って、どうなったと思う?」

「どうって……」

 格摩は思わず動きを止めて防御の体制をとって考えにふける。

「教会が引き取った、と聞いている。教会や沢山の国がそう言った戦争孤児や戦争難民を」

「アッハハハハハハハハハハッ!」

 格摩の台詞の途中で少年が笑い上げた。まるで、本当にそう思っているのか、とあざ笑うようで。

「あんた、何も知らないんだ」

「何をだ」

「戦争孤児や難民を国が引き取った? 馬鹿を言うなよ、あんなちっぽけな数で国や教会が頑張ったって言うのかい?」

「……如何言う事だ?」

「多くの孤児や難民は難癖付けられて国につれてかれて奴隷やレジスタンスの構成員に、そして多くの子供が欲しい施設につれてかれたんだ」

 少年の目を見る。格摩が覗き込むその目に光が浮かんでいた。どす黒い、光。殺意と決意が宿った、瞳。その瞳を見たことがある。もっと、殺意と憎悪に彩られた瞳の物を。

「施設って、何だ」

「例えば……ノルメイア。あそこは奴隷や難民や孤児を引き取って武器工場の工場員や屋敷の使用人、裏で経営している裏市場に送り込んで息のかかった犯罪者に仕立て上げるんだ。奴らの裏市場で経営しているのは盗掘者や横流しなどをしている犯罪者だからな、犯罪者の養子にして違法行為を染み込ませて次世代の犯罪者にする」

 その言葉に、格摩は口を開けて絶句する。何だそれは、と。行き場を失った奴らを引き取って、犯罪者に仕立て上げる? そうやって犯罪行為を次世代へと受け継がせる? 理解すればするほど込み上げて来る感情は真っ黒く。

「別に怒る必要は無い、俺の知ってる限りノルメイアは限りなく黒に近い灰色だ。寧ろ奴らは行き場の無いやつに居場所を与えて独り立ちできる場を提供しているんだぜ?」

「犯罪者の育成所でか!? そうやって犯罪者を増やす連中の、何が良いんだ!?」

「実際に見て来いよ。あそこは、本当の価値を分かっている奴しかいない。寧ろ、あそこを知っていると多くの店が詐欺師に見えてくる。それに、俺の知っているところは――」

 そうきって、少年はより一層黒い意思を瞳に宿す。

「下衆の集団だ」

「何、だと」

「なあ、あんた。老いたり障害や怪我で体の自由が利かない、とか筋肉が付かないと言う連中にどんな術式をかけてるか知ってるか?」

「え、あ、ああ。持ってる魔力を筋肉とか体の悪い所に流しこんで補強し、体を動かす。元々は気孔の身体強化が元で……」

 と、言っていて格摩は思いつく。此処で身体強化の補強術の話と目の前の少年。もしもこの二つに関連性があるなら少年にはその補強術がかかっているということになるが、不可解な点がある。

「だ、だがそいつは確かに筋肉の補強は出来るが、体を壊すからと上限が付いている筈だ! 強い力は体の崩壊を招く、だから力の弱い奴にしか使えな」

「でも本来その術式は子供に銃を持たせて戦わせる為に作られた術式だった」

 格摩の言葉を少年が噛み砕くように言い切った。

「何で、子供に」

「なあお兄さん、生き物のすり込みってどれくらい凄いと思う」

「は? え、えーっと……どう、だろう」

 言われて格摩は考え込む。何故唐突に生き物の刷り込みになるのか、と。確かに自身は昔から体術を叩き込まれている。実家が代々続く格闘家の家だ、昔から鍛えこまれている以上刷り込みの凄さと言うのは確かに分からない事はない。

「確かに、子供の吸収力ってのは、凄いけどよ……」

「そう、凄い……人殺しは正しいって教えたら、疑問を持たずに殺人のエキスパートになるほどになぁッ!」

 少年の叫びと共に銃声で切り裂き、戦闘を再開する。

(残り、八かッ!?)

 話にのめり込み過ぎたせいか、反応が一瞬遅れて肩口に銃弾が食い込む。

「あーあ、心臓狙ったんだが、な!」

 少年は一気に格摩との距離を詰め、殴りかかるが格摩もそれに応じて格摩も拳を交えて応戦する。

「へえ、撃たれたのに動けるんだ」

「ごちゃごちゃと……!」

 意味が分からない、理解が出来ない。何が言いたいのか、訴えが見えない。

 いや違う、見えないのではなく理解する事を拒絶している。何故なら、分かってはいけないと直感するからだ。そこには、少年の言う“オトナの夢跡”と言うパンドラの箱が眠っているのだと分かる。

「うるせえんだよッ!」

 叫んで、格摩は拳による連打を繰出す。そうだ、今此処で気にするべきは彼の過去などではなく、置いて来た仲間達。こんなところでぼやぼやして等いられない。

「オトナの夢跡だがなんだがしらねえが」

 繰出される拳の連打に対応する二丁の拳銃、更に蹴りの交し合いに混ざって格摩の体に向かって発砲。

(後、七発ッ!)

 弾は格摩の体を掠り、更にもう片手の銃で引き金を引く。

(六発ッ! 残るは半分かッ!)

 格摩に向かって打ち出された銃弾を避けて回し蹴りを繰出す瞬間に背中に焼きつくような鋭い痛みが走る。格摩はその衝撃で体がぶれ、倒れかけた瞬間。

「跳弾って知ってるかい?」

 その一言と同時に格摩の額へと銃口を向けて撃ち込む。

(後、五発ッ!)

 銃口から飛び出た弾丸に対して格摩は歯を食いしばって頭突きをする。

 その瞬間、地の魔力で頭の皮膚を補強して固くし、そのまま頭を下げて弾丸の起動を下へと逸らし、そのまま地面へと叩きつける。

「おっと、あぶね」

 叩きつけられた銃弾は跳ねて少年の頭へと飛ぶがあっさりとかわされる。

 だが格摩にとってはそれで十分、体勢を整えて拳を振り被るが少年は余裕の笑みで一歩下がって二歩下がって距離を取ると銃弾を撃ち込む。

(四発ッ!)

 格摩が拳を振り抜いた直後に撃ち込まれた銃弾をもう片方の拳で殴り飛ばして格摩は少年と距離を詰める。

「こいつは、ちょっとまずいか?」

 少年は呟くと迫る格摩から更に距離を取り、そこから更に格摩とは違う方向へ向けて銃を打ち込む。

(三発ッ!)

 格摩はあからさまな発砲に一瞬気を取られ、その隙に一気に距離を詰めて来た少年が放つ蹴りをもろに受け、更にはもう一発の弾丸を撃ち込む。

(後、二発ッ!)

 激烈極まる蹴りを受け仰け反る格摩に前後から弾丸が飛翔する。背後から頭を、前から心臓を、更には少年が最後の弾を撃ちこもうと銃を構え。

(やら、れるかよっ!)

 歯を食いしばり、踏み耐えた格摩は裏拳で後頭部狙いの弾を弾き飛ばすし、背中から弾丸が突き抜けて心臓を貫く。

 格摩は心臓を撃たれた苦しみを歯を食い縛って耐え抜き、振り返って少年と目を合わせた瞬間、発砲。

(後、一……発ッ!)

 顔面向かって飛び込む銃弾。格摩は目を瞑る事無く、真正面から受け止めた。

「終わった、な」

 銃を下ろし、一息つく少年。

「なに」

 だが、その言葉に返事がある。見ると、格摩は銃弾をくわえ込んでいて。

「かってに、決めてやがるッ!」

 そのまま銃弾を飲み込むと駆け出す。少年はひくついた表情を見せて格摩に最後の弾を撃ち込むがあっさりと弾かれる。

(今ので十二発目ッ! これで、俺の――!)

 格摩は勝利を確信し、強く握った拳を少年に叩き込む。だが。



 この時、妙な違和感が格摩の体を走る。



 そう、これは何と言えばいいのだろうか。格摩は考え、そして辿り着いた。

 これは、まるで今まで忘れていた何かを思い出そうとしているときだ、と。

 うっかり、今何かを忘れていた。最初は考えていた可能性だが、あまりにも相手が人の精神をかき回すから忘れていたような、そんな感覚。

 そう、それは正に小説を読んでいたかのような感覚。格摩は格闘家だが読書だってたしなむ男だ、故に推理小説などのミステリーを読んでミスリードや叙述トリックによく引っかかる。

 そう、叙述トリック。一人称が僕だからって、相手が男とは限らないとか、そう言ったもの。今、格摩は何処かで見落とした可能性に危機感を抱き、そして少年は手にしていた銃を投げ捨てて。

 じゃ、また。感想あればどうぞ。

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