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炎に包まれる街~怒りに震える剣で何を守る?~

今回、結構血みどろの展開なので注意。

 浅美は寝苦しくて置きだす。

 今日は沢山歩いたのだから、仮眠くらい取らないと明日に響く。

 そうは思っていても、置いて来た友人のことが気になってどうにも眠れなかった。

 仕方なく、浅美は二階の窓から飛び降り――機械の翼を背中に生み出して軽く飛翔する。

 群青の夜空。星が良く見える。

 此処から神殿まで軽く飛ぶだけでどうにかなるだろうか、と浅美が思ってた。

 その時。



 はーい、此処からティンの方に戻りまーす。



 ティンが神殿の外まで駆け抜けると、そこは火の海だった。

 街全体が炎に包まれ、あちこちから悲鳴が聞こえて来る。

「どういう事だこれは……何故聖都が!?」

 パルシェが街中の惨状を見て驚愕の声を上げながら、神殿入り口前の広場を走り抜けて街中に向かっていく。

 そんな時、神殿の階段を下りた所に一人の甲冑に身を包んだ男が走って来るのが見え、パルシェは階段を滑り降りるようにして男の元に降り立つ。

「おい、貴様! これはどういうことだ!? 何が起きている!?」

「え、あ、あんた確か聖騎士の」

「事情を話せ! 時間が無い!」

「モ、モンスターだ! いきなり、爆発と共にモンスターが聖都中に出没している!

 俺はこれから居住区や宿の方に向かってくる!

 くそっ、此処には怪我人や戦闘能力の無い冒険者だっているんだぞ!」

 そう言うと男は突撃槍ランスを片手に走り去る。

「モン、スター……だとっ……!?」

 パルシェはその言葉に固まり、動きを止めて呟いた。

 はっとしてパルシェは首を振ると、確かに見た事の無い野獣が聖都中を駆け巡っている。

「くっ、おいそこの新人!」

「え、あ、あたし!?」

 後ろについて来たティンにパルシェは怒鳴るように呼ぶ。

「私は街中の化け物どもを排除する、貴様は神殿を守れ!」

 言った側からパルシェは街の中へと走り去っていく。

「えあ、ちょっ! ブーストさんっていない!?」

 ティンはもう一人の聖騎士がいるであろう方向に首を向けるも、自分以外には人は誰も居なかった。

「……うわあい」

 ティンは少し泣きそうになった。



 浅美は火の手が上がるのを見ると直ぐさま状況を把握する為に現場に向かおうとした瞬間、浅美を取り囲むように仮面の男たちが出現する。

「退いて」

 浅美は苛立った様に言い放つ。

 返答する様に男たちは一斉に浅美に襲いかかる――。



 直後、混沌の一閃が輪の形となって空間に弾けた。

 時間にして約零.一秒。誰かが「よく持った」と呟き、誰かが「ああ、やっぱり」と呟いた。

 まあ、なんだ。何、きにすることはない。(川)



 瑞穂は何か外がやかましいと思い、外に出た。

 すると宿の外に陣取っていた男達が一斉に襲い掛かり、瑞穂は素早くしゃがみ込んでメイスを振るって一気にぶっ飛ばす。

「で。何か用?」

 瑞穂が虚ろな目で言うと仮面の男達は立ち上がり、氷の槍が突き刺さり、釘付けとなる。

「……諦めるって選択肢は?」

 誰かが言った。「それは死と同義だ」と。悲しいね。

 瑞穂はメイスに氷塊を取り付ける。



 ティンは神殿の階段下で立ち往生していると、笑い声が響く。

 嘲笑うかのような、愉しむ様な、快楽を貪り溺れる笑い声。

「いっやあ楽しいなあクククッ!

 生き物がよお~お? 悲鳴上げてさぁ、助けを求めてよ~お?

 無残に消えて行くなんていうのはさあ、本ッ当に楽しいなぁッハハハハハ、ハハハハハハハハ!

 お?」

 唖然とした表情でティンは神殿の屋根に立つ男を見据える。

 仮面を付けた、灰色の髪の、黒マントの、男。

 今までティンを執拗に追って来たのは?

 仮面を付けた、灰色の髪の、黒マントの、男。

 ティンは直ぐに把握する。この騒ぎの原因は。

(こいつらかっ……!)

「お、お、おお!? 目標発見!? 付いてるぜぇ!」

 男はティンを見下ろして仮面を抑えて笑い上げる。

「ヒャーッハハハハハハッ! アーハ、ハーハハハハハハッ!

 ついてるついてるついてるッ! 今日はついてるぜぇッ! こんなに簡単に餌に食い付いて出て来てくれるなんてよぉ!?」

「え、さ?」

 ティンは思わず聞き返す。

「そうよぉ、餌よぉ! 手前を引っ張り出す為に餌をたっぷり撒いたじゃねえか!?」

「……ま、待て。じゃあ、何か? この惨状って」

「おうよぉ、お前を引っ張り出す為の招待状よぉ!

 ノコノコと現れやがって! これは俺が活躍するべき瞬間だぜぇ!」

 ティンは唖然とした表情から、少しずつ。だが確かに変っていく。

 怒りへと。目の前の存在に、烈火が如くの怒りをその身に宿す。

「さあ、行け魔獣ども! 手前らを忘れた、不抜けた人間どもに思い出させてやれ!

 恐怖を! 弱肉強食の真理をぉ! 殺せ! 殺せ! 己の糧として、全てを食い付けせぇ!

 イーヒヒヒャハハハハハハハハハッ! 魔獣もしらねえ覚えてさえもいねえ人間があ、無様に死んでいくのは見てて楽しいぜぇ!

 ほら、手前も良く見なぁッ!? 手前の為に死んでいく人間どもをよぉ?」

 ティンは震える手で剣の柄を握り締める。

(――あたし、神様って存在を見た事ないし信じたことも無い。

 でも、もしそんな奴が居て、運命って奴を動かしてるって言うのなら――あたしは、そいつに感謝したい。

 これが、あたしに初陣。本当の、初めての、実戦。

 それが、こんなにも憎たらしい奴だなんて……! こんなにも、手を抜きたくない奴だなんてっ……!)

 さあ。

(始めよう)

 これが、彼女の初の戦い。聖騎士として。剣士として。

 ティンは地面を靴で鳴らし、剣を鞘から引き抜く。

「one tow three」

 体を一回転させ、腰を落として剣を下段に構え、斬るべき敵を睨んで。

「Get ready……!」

 一瞬溜めて――此処までが、ちょっと長いプロローグだったけれど。

 さあ――行こう。

 戦場へと。

 此処からは。

 


 ティンだけの戦場ダンスフィールドだ――!



「GO!」

 ティンは足元が爆発現象を起こしたように、矢となって弾け跳んだ。

 ティンの足は踊る様なステップを踏むかのような足捌きで階段を跳び越えていく。

 しかし狼の様な魔獣達が獲物ティンをくらわんと一斉に襲い掛かる。

 ティンは即座に階段を踏み付けターン。

 釣られる様に金髪とマントが靡いて行き、バックステップで目前の敵を見据えたまま後ろに下がり、身を捻って。

 斬撃一閃。

 後ろに放った白い斬線はティンの背後から襲い掛かった魔獣の顔半分を貫き、漆黒の血と共に顔半分を飛び散らす。

 ハーフターンして前を向けば、魔獣達が一斉にティンに襲い掛かるも。

 ティンは心底冷めた視線で魔獣達それらを見据えて片足立ちでターンし、撫でる様に。

 斬撃一閃、白い閃光が走る――。

 白い斬線が通った後、風船が弾ける様に漆黒の血を撒き散らして魔獣達は吹き飛ぶ。

 続いて猪の様な魔獣がティンの背後に迫ってくるが、ティンは無言のままハーフターンすると剣を投げ付けて更にスキップの様な動きで投げた剣を追いかける。

 剣は白い軌跡を描いて吸い込まれる様に魔獣の額に突き刺さり、ティンはその剣の柄を握り締めてそれを軸に魔獣の背に立ち、剣を真横に薙ぎ払って魔獣の体から取り出す。

 その後、魔獣の背中からバック転し、その後ろにいた魔獣の背に半月を描く様に剣を振るう。

 描かれた白い月は見事過ぎるほどに華麗に、そして魔獣の背を切り裂き、ワンテンポ置いて漆黒の血を辺りに撒き散らす。

 ティンは階段に着地して前を見据える。

 眼前には、墨汁でも撒き散らしたのではと思うような光景が広がっている。

 狼みたいな魔獣が、続いて来た猪っぽい魔獣までも、見事に切り裂かれて只の肉片となって神殿前の階段を汚し尽くしている。

「……おい」

 神殿の上からその様子を見ていた仮面の男は一人呟く。

「どう言うことだこいつはよ。あのガキが此処までやるたぁ聞いてねえぞ?

 取るに足らねえ雑魚だ? どう見ても一騎当千の剣士じゃねえか!?」

 仮面の男はティンを見下ろし、叫び上げる。

 ティンは階段を上がり切ると男を睨む。

 次はお前だ、と言わんばかりに。

「チッ、ただの雑魚を仕留めるだけの簡単な仕事じゃねえのかよ。

 しゃーねぇ。来いよ、出番だぜ!?」



 浅美は燃え盛る炎の街中に立つ。

 周囲では消火活動を行う者、怪我人を運んだり治療したりしている者等が所狭しと動いている。

「ティンさんは……!?」

 浅美は周囲を見渡し、金髪で緩いウェーブがかかった少女を探す。

 ティンは神殿前に居るのだが、浅美はそんな事は知らない。

 神殿前で別れてずっとそこに居るとも限らないし、火の手が上がると言う事はそこに居るのかもと思ったからだ。

 炎の中から唐突に助けを求める声が流れて来る。

 微かではあるが、風の魔法使いである浅美にとって大音量も小音量も大差無い。

「今行くから待って!」

 直ぐに風と冷気で炎を払い、前に行こうとした瞬間。

「無事だ」

 払った炎の中から、ブーストが現れた。

 体中が燃え上がっている。髪は元々燃えてるようだったが、今度はマントも鎧も燃え上がっている。

 ただ、腕。右腕の中。そこだけは燃えてなかった。

 子供だ。小さい子供が、ブーストの大きな――そして力強い腕に抱かれて蹲っている。

「歩けるか?」

 子供は「お母さんは……?」と弱々しく問う。

「何処に居る?」

 子供は首を振る。

「そうか」

 ブーストは子供を置いて炎の中に向かう。

「そこでじっとしているんだ。母君は私が救い出そう」

「だ、大丈夫」

「大丈夫だ」

 浅美の問いに、ブーストは直ぐに返す。

「安心したまえ。我が信念は……救いを求める手を掴むこと。必ず救って見せよう」

 ブーストはそのまま炎の中を突き進む。

 誰かが伸ばし救いを求める手を掴む為に。



 燃え盛る街の中に狼の様な獣たちが走り回っている。

 狼っぽいそいつらは集団で連携し、次々に歯向かうものを己が糧としていく。

 Lサイズの大盾を構えていた戦士の一人が狼みたいな奴に背後から噛み付かれる。

「ぐぁっ! こいつらっ!?」

 狼的なのは分厚い重装鎧を噛砕き、中の肉体を浮き彫りにしていく。

「だ、誰か!?」

 助けを求めるも、誰も来ない。

 食われたか、分断されたか。どちらにせよ、このままならこの男の命日は今日となる。

 ガントレットを噛砕かれ、いよいよ終わったかと覚悟した瞬間。

「スプラッシュボール!」

 男の周りを、水球が通り過ぎた。

 ついでに狼くさいのも弾かれて流された。

「あ、あんたは」

「死にたくないならさっさと戦線から退け」

 パルシェは言いながら男の前に姿を現す。その手には水色の盾を槍がある。

 残った狼(仮)は仲間を周囲に展開して二名を囲むらしい。

「逃げるの難しい……か」

 パルシェはつぶやき、手にした槍を一回転させ、

「ふっ!」

 身を捻って槍を大振りし、前の狼(?)を薙ぎ払う。

「貴様は背を低くして防御しろ!」

 パルシェはそのまま後ろの方に槍を大振りで後ろの狼(多分)を一気に薙ぎ払う。

「……体毛が、固い。確かに、これはただの狼ではないな。

 まるで金属でも切り裂いてるかのようだ」

 パルシェは墨汁を撒き散らしたかのような光景を見てそんなコメントを付ける。

「……漆黒の血、か」



 男は何かを後ろに投げる様に腕を上げる。

 ティンの背後。目の見えぬ方向から鈍重な音が立つ。ティンはゆっくりと背後に目線を送ると斧を持った牛頭の人間みたいなのが鼻息荒くして立っていた。

 鼻息荒い割に殺意しか感じ取る事が出来ない。

(……こんな奴、どっかで聞いた様な)

 牛人間と言う所か? 筋肉隆々の太い腕を見れば人間っぽいがそれ以外はどう見ても牛の様に見える。

 そんな風に考えていると本当に牛の様な咆哮を上げながら斧を振り上げて、下ろす。

 ティンは素早く踊る様に回転しながら牛人間の右脇の下に移ると、脇下で虹を描く様に一太刀振るってティンは脇下から踊る様なステップで抜け出すとスカートの両端を摘み上げて一礼。

 まっ白な虹は牛人間の腕を通り、付けられた筋から漆黒の血が外に吹き出される。

 牛人間も左手で傷口を抑え、痛みを訴える様に声を上げて右に持った斧を落とす。

 牛人間その二も咆哮を上げてティンに向けて下から斧を振り上げる。が、ティンは顔を上げると同時に跳躍して牛人間その二の右腕の上から半月を描く様に剣を振るう。

 白い斬閃が通った所からワンテンポ遅れてまた漆黒の血が噴き出し、牛人間の右腕がぶらんと肩から下がる。

 二匹の牛人間は右腕の筋肉を切り裂かれた事で左の腕だけで斧を持とうとするが、上手く持ち上がらない。

 ティンはその光景を見てついでと言わんばかりに牛人間両方の左腕も斬り付けた。

「……ミノタウロスもかよ」

 あ、ミノタウロスその一とその二だそうです。

 ティンは両腕を血に下ろし、首だけを上げるミノタウロウスを見つめ、その喉笛を切り裂いて仮面の男のいる方へと歩いて行く。

「あの小娘、ピンポイントで腕の筋肉のすじだけを切り裂いただぁ?

 おもしれえなぁおもしれえよぉ。

 とっておきを呼んでやっから覚悟しとけよぉ!?」

 仮面の男は両腕を前に突き出す。そこに黄金の文字で術式が描かれていき、完全なものとなった瞬間に更に黄金の輝きを生み出す。

「来いよ魔獣の王! 遠慮はいらねえ、そこの小娘をぶっ潰せ!」

 叫ぶと男は眼下の神殿入り口前に何かをあちこちに投げつける。

 投げられた物体は、杭だ。杭は円を描く様に神殿前の入り口の端々に投げつけられた。

 突き刺さった杭は光の柱を放ち、魔力の壁を生み出す。

「な、何これ!?」

「そいつはな、突き刺さった所の魔力流を乱す効果がある。

 この辺は神殿を中心に魔力が地面の中を通っていてな、こいつを撃ちこんでやりゃあ大地に眠った魔力が暴走して一種の壁を作り上げる。

 一応言っとくが杭を壊そうなんてしても無駄だぜ? 結界は既に出来た。もう杭に意味はねえぜ?」

 仮面の男が言うと地面に黄金の術式が描き出される。

 と言うか、何故に一々説明して行くのだろうか。

 ティンは驚いて四方八方に目を向けていると輝く黄金の光から、何かが出て来る。

 毛むくじゃらで。

 四本足で立っていて。

 ティンの全長の半分はありそうな牙を持っていて。

 はっきり言って、馬鹿でかい。何で結界内に収まっているのか不明な程だ。

 だが、実際問題目の前の怪物は少し余裕を空けて結界内に収まっている。

 ティンは引きつった表情でソレを見ていた。

 魔獣王はティンを見つけると方向を上げ右前足を上げ、

「って、三本足で立てるん!?」

 下ろす。

 ティンは踊るような足運びで左足の方へ避ける――でも風圧がそれを許さない。

「ッて、へっ!?」

 振り下ろされた右前足から生み出された風圧が、ティンの回避運動を丸ごと飲み込んで壁に叩きつける。

 だが、これはただの壁ではない。

 地面に流れた魔力が暴走し、噴出している一種の塊だ。

 故に――。

「ぐぁあっぁぁああぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!?」

 強烈な魔力波動がティンの体を蝕み、弾く。

 ティンは息を整えながら前を見る。

「ダンシングステップが……間に合わない!? くそっ……!」

 ティンは苦虫を噛み潰した様な表情で言い放つ。

 ダンシングステップ――ティンが今まで使ってきた、踊る様な足捌きによる移動技である。

 あらゆる舞踊を参考に作り上げた技で、荒地にも対応している優れものだ。

 それが今、通用しない相手が出て来たのだ。

 ティンは光単一の魔法剣士である。回避特化型の剣士に、此処まで酷いハンデは存在しないと言われている。

 なぜか?

 理由は簡単だ――魔法による回避補正が一切ないからである。

 風なら風圧を利用した回避力の上昇などや、炎なら熱源反応で敵の攻撃を予測して回避力上昇などの術が幾らでもあるのだ。

 だが、光は攻撃と防御に特化した属性だ。

 目くらましで相手の命中率を下げる等は出来ても自身の回避力アップは厳しい。

 何が言いたいか? 限界だ。

 魔法による回避補正が出来ない今、ティンの回避技術が通用しないのなら――此処がティンの限界と言うことである。

「まだ、まだっ!」

 ティンは左足の爪先で地を鳴らす。小刻みに動き、リズムを取る。

 再び弾ける様に魔獣王に向けて駆けて行く。

 魔獣王も身を低くし、ティン目掛けて突進する。

 ティンは跳躍し、魔獣王の上を次々と飛び越えて肩に向けて剣を振るう。

 白い斬線は迷う事無く魔獣王の肩に向かい――金属音を響かせて弾かれた。

 ティンはその現象を見て目を見開く。

 彼女の想像では既に魔獣王の肩は綺麗に切り裂かれていたのであろう。

 だが、実際は全くそんな事はなく。

 あまりにも無常な。そしてあっさりとした真実が、音と共に染み渡る。

 ティンは正気に戻ると直ぐに魔獣王の肉体を壁として体勢を立て直す。

 踊る様な足捌きで、時には両手を駆ける肉体に引っ付けて、何とかティンは魔獣王の突進をやりすごす。

「アッハハハハハハハハハハハハハハッ!

 ご自慢のクリティカルスラッシュはそもそも効きませんってか!?

 こいつぁ良いや、さっさとやっちまえ魔獣王! 魔獣の王にまで君臨したその強さを見せ付けてやれぇぇっ!」

「くっそ!」

 ティンはこちらにゆっくりと振り返る魔獣王を見て悪態をつく。

(折角手に入れたのに……やっと、戦える様になったのに……っ!

 これじゃあ、意味が無い!

 剣が通じないなんて、どうすれば良い? もっと、ちゃんとした剣さえあれば。

 もっと、もっと、強力な、化け物の様な剣さえあれば――)

 ティンはそこまで考えて、ぴんときた。

 更に答え合わせをするように、仮面の男は高らかに喋りだす。

「どうせ死ぬんだ、最後にみじめな神剣でも呼んだら如何だ?

 あのなっさけねえ仮召喚の神剣をだよ!?

 それともいっその事、此処で魔力を暴走させて本召喚でもすっかぁ!?

 あ、無理か。なんせお前自分の魔力制御できねえもんな!? 魔力を暴走させる条件もしらねえようなお馬鹿さんだもんなアッヒャハハハハハハハハハハハハッ!」

 勝利を確信した様に仮面の男は高く笑い上げる。

 ティンは目を見開いて止まっていた。

(そうだ神剣! 神剣……ラグナロック! でも、どうやって呼ぶ!?

 魔力の暴走ってどうすりゃいいんだよ!?)

 ティンは汗を一つ垂らして前を見る。

(くそっ、くそっ! 魔力さえ、魔力さえっ! あたしの魔力さえ、まともに使えたらっ!

 どうすりゃ良い!? どうすれば……っ!)

 ふっと、ティンはとあることを思い出した。



 この結界を形作った、杭。もう抜いったり砕いた所でどうしようもないが……突き刺せば、魔力が暴走する。



 ティンは思わず背後を見る。

 まるで、整えられたかのように杭が突き刺さっている。

 ティンは恐る恐る、その杭に手を伸ばす。

「さあ、やっちまえ!」

 ちょうど向こうからは死角になるようで、ティンのやってる事が見えないようだ。

 時間が無い。

 魔獣王は咆哮を上げて、こちらに狙いを定めている。

 迷う暇なんてない。

 ティンは杭を引き抜き、自分の首目掛けて突き刺した。



 ティンの意識は既に現実になく、どこか真っ暗な場所に移っていた。

 真っ暗な場所に、種子の様な物が浮いていた。ティンは思わず邪魔だと思い、種子を握る。そして、力を込めて――種子を握り、潰した。

 ガラスが砕け散る様な音が響き、光を放つ。光は漏れて、濁流の様に噴出していく。

 やがて、小さな入り口は決壊してもっと多くの光が噴出していく。

 最後にティンは、眩しいけれど柔らかで優しい光に飲まれて、安らかな眠りについた。



 瑞穂はてくてくと歩いていた。

 途中から魔獣とか仮面の男が襲って来たが、全部。

「漆黒の氷姫! 覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「うるさい」

 メイスと拳で叩き潰す。瑞穂は黙って神殿に向かって歩いて行く。

(神殿で別れてから数時間。だとしたらまだ神殿に居る可能性はあるね)

 浅美よりも聡明な判断で神殿に向かって歩いて行く。やがて、神殿から物凄い光が立ち上るのが見えた。



 光が、噴出す。ティンの体から噴水の様に光を噴出す。膨大な光がティンの身体から噴き出して行く。

 ティンは震える手を白い刀身に置き、撫でる。撫でた先から刀身が砕け散って行った。剣が砕けていくも心配ご無用。剣は砕けようとも中から新たな剣が生み出されていく。黄金色の、光り輝く神の十字架ロザリオ。神々の黄昏。

 そう。その名を、人はこう呼んだ。

「この光……十字神剣・ラグナロックだと!? 馬鹿なッ!? どうやって!? どうやって魔力を暴走状態に追い込んだ!? ……まさかあの小娘、あの杭を自分に刺したのか!? そんな事をすれば人体にどんな影響があるのか知らずにか!? 単なる馬鹿か、或いは単なる度胸か!?」

 ティンはゆっくりと立ち上がる。黄金に光る大剣を右手に握りしめ、いざ。

 神の剣を、彼のものに見せつけようではないか――!

 ティンは無言のままラグナロックを片手に駆け出す。そして、踏み込んで魔獣王の前に対峙し――神剣を一振り。

 黄金の煌きを持った斬線は迷う事無く魔獣王の右前足に飛び込み、あっさりと両断し、漆黒の血を辺りに撒き散らす。

「……何ッ!?」

 返す刃で魔獣王の顔面に斬撃を入れ込み、真っ黒な血が吹き出る。更に踏み込み、左前足も切り裂いていく。

 まだ止まらない。

 ティンは魔獣王の顔面に蹴り付け、更に背に跳び上がり、更に斬りつける。黄金の剣閃が走る度に漆黒の血飛沫が舞い散る。魔獣王は痛みを訴える様な声を上げ、下がっていく。

「な、何!? おい、さがるな、下がるんじゃねえッ! 何故下がる!? 王と呼ばれるものが、何故!?」

 それは逆だ。寧ろ、王と呼ばれるに至ったからこそ、分かるのだ。

 死が。多くの死線を乗り越えた生き物だからこそ、死のボーダーラインが分かる。

 だから、下がるのだ。生き残る為に。それ故に、悲しい。逃げ場がない事にではない、相手に。

 神の剣を携えた人間が、相手ゆえに悲しい。

 魔獣達の中でも、王に君臨したモノでさえ蟻を踏み潰す様に蹴散らしていく。

 ティンの斬撃に容赦も情けもない。ただ機械的に、効率よく敵を切り裂いていく。

「これで、終わらせる」

 剣を握り直し、尚斬り付ける。無数の斬撃。その剣戟に、魔獣王の巨体さえも浮かされていく。

 ティンの脳に一つに神技が刻み込まれていた。ラグナロックの所有者にのみ、使用を許された剣技。

 そう、その名は。

「“ラグナロク”――!」

 十字を描く様に魔獣王を刻み込み、そして浮び上がる十字の光はやがて光弾となりて敵を貫く――。



 思わず目が眩む様な眩しい光の中、仮面の男は一歩ずつ下がっていく。

「す、すげえ……これが、神剣……!」

 神殿の屋根の、もっと奥へと上って行こうとする男の目前に一人の女が舞い降りる。

 光の十字神剣を握り締めた少女、ティン。

 思わず、仮面の男は一歩下がる。

「へへ、へ……このゲームも終わりかよぉ……」

 声は震えていたが、言葉はやたらと普通だった。

「おい、気づいているのかよ、化け物」

 ティンは無表情のまま、ラグナロックを片手に握り締めて男に歩み寄る。

「手前、良い顔してるぜぇ……? 虫けらを見る様な表情かおだ」

 やがて、男の背後の足場は空となる。その後ろにあるのは、神殿前と燃え盛る街並み。

「さあ、俺を殺したいんだろう? 化け物よぉ……?」

 ティンは無表情に、殺意と敵意を剥き出しにして男を見つめる。

 今の彼女は荒れ狂う魔力の流れに酔った剣士。

 本能にのみ従い、行動する。

「だがな、よぅく覚えておけよ?」

 ティンはラグナロックを両手で握り締め。

「これが、こいつが、蹂躙される側って奴だああああーッハハハハハハハ」

 黄金の輝きをもって、目障りな笑い声をかき消した。



 ティンの目の前には、何かの残骸と、生を謳歌していた何かの跡と――焔に包まれる街だけ。

 ふっと、思うことがある。

 此処まで来て感想も評価もなし。

 ならばいっその事、評価も出来ないし感想も送れない様な作品にすれば良いんじゃないかと。

 つまりはあれです、感想貰ったら負けだねゲーム的な。

 感想おくんなよ!? 感想を送れるものなら送ってみるが良い!

 感想さえ送れない様な――読者何それ美味しいの? な作品に仕上げて見せる!

 こんな事書いておけば、きっと最終話まで誤字脱字報告以外の感想なんて来ないだろう。

 尤も、この作品は一話の時点でおさらばし易い仕様ですが。

 此処まで読める読める剛の者が果たして居るのですかねぇ……。

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