格闘家の意地
「あっはは、お兄さん強気だねぇ」
少年は格摩の言葉に無邪気に笑ってみせる。ただ格摩は真剣な目で敵を見て、そこから。
「おい傭兵さんよ、あんたが此処でやらかしちまうと俺らにまで影響が無いと言い切れないんじゃねえのか?」
と、後ろに控える山賊団のボス格が語りかけてきて、少年は振り向く事無く。
「あんた、俺の腕を信用してない、と。いやあ傷つくねえ」
「そう言う訳じゃねえんだ、あんたにはどっちかってーっと今侵入者の方の援護射撃をやってくれねえか?」
「へいへい、依頼主が言うんじゃーしゃーないね」
少年は言って銃で肩を叩きながら一つの穴の中に入っていく。
「おい、待てよ手前」
「そりゃお前だ」
格摩は油断無く少年の後を目で追い、そのまま追いかける構えを取ったところで格摩の周囲には山賊の一団が囲む。その中のうち、一際大きな男が格摩の前に立ちふさがり。
「お前、この状況でどうにかできるとでも?」
大男は斧を肩で担ぎ上げながら格摩を見下ろすと頬に何かが埋め込まれた。見れば黒い何かで、よくみれば靴で。
格摩の回し蹴りが大男の頬に食い込み、そのまま壁へと送り込んだ。
「どけよ、雑魚共」
「野郎ッ!」
もう一度格摩が言うともう一人の男が棘だらけのグローブをつけて殴りかかり、格摩の拳が腹に入り浮いた所で。
「ウオオオオオオオオオオオオオオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァッ!!」
拳の乱打から最後の大振りの拳を捻りこんで大男が天井に埋め込まれた。
「お、おい……」
「あ、兄貴達を、一瞬、で……」
「次は」
言って、落ちてきた大男に目もくれず雑魚の群れへと踵を返す。
「どいつだ」
悪鬼羅刹がごとく、格摩は前だけを見て呟く。その目には前の雑魚達など見えていない。先に行った銃使い、ひいては残して来た仲間達以外その瞳にはうつしてなどいない。
「ちっ、だらしのねえ連中だ……おい、傭兵のあんちゃんを呼べよ」
「へ、へい親分!」
山賊団の親分が言うと、手下の一人が管に何か言いつけると上のほうから。
「ええー、あんたら全員が一気にやれば幾らあのお兄さんでも勝てねーと踏んだんだけど」
そう言ってフックショットを使いながら先程穴に入って行った少年が降りてきて格摩に振り向いた。
「一体何が……って、おいおいこいつらを先に行かせたのかよ。何やってんだよあんたら……」
そう言って数歩前に出る。そこへ。
「待て、あんたのボストンバッグは置いていってもらおう」
「あん? 何で? 俺、一応あんたを裏切る気なんて無いけど」
「あんたがそれ持って暴れたら大変だろうが。手持ちのもんだけでやれ。傭兵なら、それぐらいやって見せろ」
「へいへい、りょーかいりょーかい」
そう言って両肩に下げていたボストンバッグを後ろに投げて地面から何かを探し出す。そして何かを引っ張ると地面が開いた。
「な!?」
そのまま少年と一緒に格摩は地面の下に落ちていく。落ちた先、そこは薄暗い広場のようで。
「さあ、はじめようか。バレットフィーバーって奴をさぁ!」
山賊団が一気に攻め込んだ瞬間に。
「関哉に皐は背中を合わせて戦うんだ! 俺のことは気にするんじゃねえ!」
そう言った武旋が大剣で襲い来る山賊団をなぎ払い、関哉は斧を投げて牽制しながら戦い始めて。
「いえしかし」
「皐、あのおっさんの言うとおりにしようぜ! あの数を相手にする以上、お前だって多少はきついだろうが!」
「っ、そんな訳は」
言うが、数の差と言う絶対の差は簡単には覆らない。実際には武旋は先程の少年の戦いの影響でいくらか消耗している状態だ。この状況下で囲まれたと言うのは詰みの状態にも近い。
「おい皐、先走るなよ!」
「誰に言っているんですか!」
そう言ってお互いの背中を預けあう形で近寄る山賊団を蹴散らしていく。だが山賊達もにやつきながらゆっくりと、一人ずつ襲ってくる。
「こいつら、持久戦を仕掛けて俺らを消耗させる気か……!」
「げっげっげ、久しぶりの女だしなぁ~傷つかねえようによ」
「チッ、下種が」
山賊たちはゆっくりと、確実に関哉達に迫っていく。
「おいおっさん、何か手はねえのかよ!?」
「……あることは、ある」
「じゃあそれをさっさと使っちまおうぜ!? 何を戸惑って居るんだよ!?」
言われた武旋は周囲を見て。
「……お前らを巻き込みたくない」
「はあ!?」
「我々が邪魔だと? ならばお気になさらず!」
そう言って皐は山賊の一人のを切り倒す。言われて武旋は。
「……そうか。そうだな、お前らを信頼しねえとは、な。いいぜ、やってやるよ!」
そう言って大剣に力を込める構えを取り。
「術式開放ッ! 魔力チャージッ!!」
大剣に巨大で濃密な魔力が集中し、巨大な刀身となって。
「ぶっ飛びやがれえええええええええええええええええええええええええッッ!!」
それを、思いっきり振り上げ、敵を丸ごとなぎ払って行く。その様はなんと言おうか。天を登り、食らって行く豪剣。それは天へと伸び切って。
天井を打ち破り、文字通り天へと駆け上った。