新たな同行者
「そう言えばあんたら、ずっと食べてばっかだけどいいの?」
ずっと昼休みと言って食事を続けている彼女達に関哉が言った。確かに、彼女達が休み始めて時間的には30分程度だが、1時間たっぷり休むきなのか。
「ワシはもう上がるぞ。何時までも副店長が食って飲んでんじゃ示しつかねえしよ」
「あん? あたしゃまだ食ってるけど?」
「んじゃフェルラは減給、と」
「ちょっと店長鬼っすか!?」
「手前この間も客と何時間も飲み食いしてたしなあ。余計な感情は削っとくかな、と。お前の妹分意外と使えてないしお前は指導しないし」
と、美人店長は言うとフェルラはビールを飲み干して皿の料理を一気に平らげて立ち上がって調理場に戻っていった。
「せわしねえな……んじゃ武旋、ゆっくりしていけよ」
「おう、ゲイルのとっつぁん。上手いめしあんがとな!」
続くようにゲイルまでも立ち上がってからの食器を手にとって調理場へと戻っていく。
一行は食事を終えて外へ出る。
「んじゃま、行くとすっか」
「って待ってください兄さん、本気でついてくる気っすか?」
「お? どうした格摩、俺と一緒に漢道を行かねえのか」
「いや、俺は遠慮しときますよ」
と、言う感じで格摩と一緒に武旋が一緒に外に出ていた。そこでティンは何かの音を拾ったのか周囲を見渡す。
「どうした、お前」
「いや、なんか音が……なんだろう――割れる音いや燃える音? 焚き火? ちょっと見てくる」
そう言ってティンは踵を返して森の中に入っていく。
「……ティンさんって、時々奇妙なくらい耳がいいときありますよね」
「そういやそうだな、ほんとどんだけ耳いいんだってくらい小さい音拾って妹探してくるよな、あいつ」
関哉と皐はそんな事を言いながらティンの背を見送った。
ティンは森の中へと草を分けながら進んでいくと狼煙に似たものを見かける。そこを目指して突き進んでいく。するとフェルラが焚き火に何かを放り込んでいく様子が目に写る。
「ええと、あの、何をしてるんですか?」
「あ゛あ゛? って何ださっきの客か。何って、ゴミの焼却だよ見りゃわかんだろ」
そう言ってフェルラは足元の物を軽く蹴りつける。そこには新聞紙や手紙や雑誌の束が置いてある。ティンはそこにある束の一つを見つめ。
「へえ……ん、何これ。アリスティア・ブランノワールへ?」
「あーそれ? 何か昔からよくくんだよな。誰に宛ててんのかわかんねえけど」
「ふーん。アリスティア、か……店長の本名か何かな?」
「そいつはちげーだろ。あのひときれーな黒髪だし、そんな洋風の名前じゃないだろ」
「でもあの人目がライトグレーだったけど」
手早いティンの回答にフェルラは目を白黒させながら。
「ぇ……いや確かに言われてみりゃ目が白っつか灰っつか、なんで知ってんだよ」
「いや、見えただけだけど」
言われたフェルラは頭のかきながらばつの悪そうな顔で適当に紙束を焚き火に放り込む。
「ま、いーけどよ。どうせ此処は来る者拒まず去る者追わずの酒場だ。従業員全員その経歴をひっくりかえしゃ誰も彼もが犯罪紛いのもんばっかだしな。あの人だって経歴引っくり返しゃとんでもねーのが出てくんだろうが……っと焼けた」
「へぇ……って何をしてるんですか?」
「ん? 賞味期限切れ間近の食材焼いてんだけど、ほら焼きキノコ。うめえぞ」
とフェルラは焚き火から串を一本取り出してティンに一本差し出した。その先にはこんがりと焼けたキノコが。
「へえ、焼きキノコ」
「おいフェルラ、何時までやってんだ」
「んだよおっさん。まだ店長が騒ぐ時間じゃねえぞ」
「お前なぁ……お前サボりぐせあっからそろそろ店長からの釘さしくるぞ」
「へいへーい」
フェルラは空返事しつつ何本か焚き火にくべて合ったくしを取り出すと一本頬張りキノコを噛み千切る。
「おら、食うか?」
「え、いいの?」
「いーよいーよ。どうせ廃棄する食料だし、食えるやつが食っとけ食っとけ」
「馬鹿やろう、ある程度金だして此処に気づいた客にしか食わせねえよ」
とそこで店長がフェルラを呼ぶ声が響き、フェルラは体を硬直させるとすぐさまに手元の紙束を焚き火に突っ込むと。
「やっべあたし行って来るからそこの客さんさっさと行ってくれ!」
「ったく、あいつは……おい、ティン。これ持ってけ、俺お手製のしょうゆでつけた特製焼キノコだ。全員分やるから次もよろしくな」
そう言われてティンは五人分の焼キノコを貰い、そのまま帰り道に付くと一向に焼きキノコを見せて。
「店の裏手で何か焚き火炊いてて、見つけたご褒美にってくれた」
「おおっ、ゲイルのとっつぁん特製料理か! でかしたぜティン、あのとっつぁん妙に料理上手だから何作ってもうめえんだよな!」
そう言って武旋はティンから串を四本捥ぎ取り、他の三人に配ると焼きキノコを頬張る。
「ほ、ほふぉ~っ! うんめえっ!」
「本当、この特製しょうゆに漬けて焼いたのか香ばしい香りが、食欲をそそりますね。中々に料理上手な御仁ですね」
「ほんと、うめえ。あの孤児院でも美味いもんは結構食ったが、こう言うもんは食ったことねえな」
武旋は一気に頬張り、皐は一口ずつ齧り、関哉も同じく齧って感想を言う中、格摩だけが黙々と食べていく。
「どうした、美味くねえのか?」
「いや、うまいっすよ」
そう言って何も無くなった串を草むらへと向けて投げ付けた。
「不味かったのか?」
「いえ、ちょっと考え事を。まあ、大丈夫です」
「――そっか。んじゃまそろそろ行くか」
武旋の合図で彼を先頭に一行は歩き出していく。そこで武旋はティン向けて。
「おお、そだ。お前、亮とぶち当たったんだろ? 感想は如何だった?」
「凄く、ふざけた、世界だった」
苦々しく、いらいらしく、思い出したくないと言わんばかりに。
「つまり、フルボッコってか」
「ほう、どんな相手ですか?」
「ん? 導魔亮って知ってるか? ほら、剣帝って言われてる」
武旋の言葉に、その場の全員が――少なくとも、三人が、絶句する。
「剣」
「帝」
「だ、とおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!? おいマジか手前!? そ、そりゃ、ほぼ最強の剣士じゃねえか!?」
「あ、ああああ、あの、ティンさん、その様な苦い顔、と言うことは、苦戦して、負けたの、ですよね? え、と言うことは拮抗出来たのですか!?」
「……切り結ぶまでは、いけたよ。そこからは、無理だって」
そこで、ティンの意識がぷっつりと消えた。
では、また次回。