酒場にて
ティンは、目の前で起こる事象に混乱していた。何故なら。
「おら、飲めねえのか」
「いや、あのあたし未成年」
酒場の店員がティンに酒を飲めと迫っていた。何故こうなったのかと言えば、時間を少し巻き戻す必要が生じる。
一行が街を出て暫くして、ある場所で足を止めた。その主な理由とは単純に言って。
「何だ? 忘れぬあの日亭? 此処、酒場か何かか?」
木造の酒場がそこにあった。耳を澄ませば中の建物から喧騒が聞こえ、どうやら今も盛況中らしい。
「どうする?」
「まあ、もう直ぐお昼だしいいのでは?」
皐はそう言って建物のドアに手をかけて開け、中に入っていく。一行は入ってみると中には様々な冒険者達が酒を飲んで料理を食べて楽しく歓談をしていた。
そんな一行の前に薄い紫のかみの少女が駆け寄って。
「いらっしゃいませ! 四名様ですね、少々お待ち下さい!」
「あいや、ちょっと待った。俺ら殆ど未成年だぞ、大丈夫か?」
「んーまあ良いじゃねえか。ちょっとくらい」
「おおいおめー何やってんだ早くしろよつっかえってんだよ!」
と、一行が言い合っていると奥からそんな声が飛んでくる。一行は自分達に言われてると思うが。
「リフェルてめー言っただろーが客はいって来たら有無言わさずに座らせりゃいーんだよ! 冷やかしとかうちにゃかんけーねーんだよさっさと席に連れていけ!」
「ご、ごめんおねえフェルラさーん!」
後ろから威勢のいい声で怒鳴られたリフェルは慌ててティン一行を近くの相田テーブルへ引っ張り込んで座らせる。
「ご注文が決まったら呼んで下さいね」
「んじゃビール一つ」
「あと、君の笑顔も」
関哉がニっと笑ってそんな事を言うとティンが鞘付きの剣で殴り皐が頭部に向けて手刀を落とした。
リフェルは苦い笑いを浮かべて注文をメモに書き込み立ち去った。関哉は殴られた箇所をさすって顔を上げる。
「っつ~お前ら、何でこんなにタイミングいいんだよ……」
「お前さんも懲りないねー」
「うるへー、これは一つの礼儀だ」
と、そんなこと言ってるとエメラルドの長い髪の女性がビールの中ジョッキを五つも持ってテーブルにやって来た。
「わりーわりーうちの店の流儀でな、客と一緒に飯食うんだ。悪いな、まーこれもサービスだよ、美人と一緒に飲めんだからいーだろ?」
女性店員――フェルラはそう言ってにこやかにジョッキを置いた。格摩はおっと嬉しそうな反応を見せ、関哉はつまらなそうな顔で目線を逸らした。続いて褐色肌の中年男性も隣に座った。
「あれ、何で五つも?」
「あん? 五人もいんだから五ついるだろ?」
「いや、こいつ等全員未成年」
「はあ!? まいーや、全部あたし飲むし」
そう言っていっぱいぐいっとジョッキの半分を飲み込んでいった。
「いや一本俺の。俺成人してるし」
「んだよ、さっさと言えよ、んじゃカンパーイ」
「おう、カンパーイ!」
「乾杯」
そう言って三人がジョッキをぶつけ合ってから一気に飲み込んでいく。
「ぷっはぁ~おーいリフェルー飯ー! お前らも適当に頼めたのめ!」
「はーい。フェルラさんは適当に早く出来るものでいいよね? お客様は何にしますか?」
「君の愛の篭った手料理」
皐が関哉の腹に拳を埋め込み、ティンが鞘付きの剣で頭を殴りつけた。
「あ、ワシは大吟醸を頼む」
「あ、はい。おつまみも付けますねー」
リフェルは笑顔で答えると褐色の男はティンに視線を向けて怪訝な顔をする。
「俺らはえっと……此処のお勧めって何だ?」
「全部です! では全メニューと言うことで」
「っていらねえよ!?」
「よし、文句言われる前に言って来い!」
「何あおってんだあんた!? お前ら早くたの」
「あ、じゃあこのお姉さんと同じでお願いします」
「って早ぁっ!?」
格摩以外の全員が直ぐにそう言ってのけた。リフェルはほいほいと書き込むと駆け足で厨房へと駆け込む。
「ふむ、そこの金髪のお主……どこかであったかの?」
「ん? おっさん、誰?」
「いやの、主と以前何処かで見たような気が……」
「おいおっさんロリコン趣味かよ、店長電話持ってきてー!」
「あー? くそ爺がついに性犯罪に走ったかー?」
フェルラに言われ、長い黒髪の白い着物を羽織った女性が酒瓶を片手に厨房の奥から出てくる。
「あの店長、ワシ副店長」
「知らん、後リフェルお前パンツ見せびらかすとかサービスいいなお前、お前の後ろの居んの冒険者の女を性的な意味で食いまくった外道だぞ」
「え、え、えええええええええええええッッ!?」
リフェルはお酒探しをやめてスカートを隠して厨房の奥に駆け込んでいく。
「あの、店長、真実ですが俺の過去をばらすの止めて下さい……新人の子との距離とかどうすりゃいいんですか」
「無法地帯の酒場で働いてんだ、処女なんて投げ捨てたようなもんだろーが。そいつ上手いからいっそ貫いて貰えよ」
「え、こいつやった女全員再起不能にしたドSだけど。こいつに任せたら一週間は肉人形になるぞあいつ」
「店長止めて!? 俺一応反省してるんですってば! 流石にやり過ぎたって」
「つーかガチの犯罪者かよそいつ!?」
格摩は店の喧騒に負けないほどの絶叫を上げるが、誰も気に止めずに楽しい歓談が続いてる。
「え、だって此処の店員の殆どが元犯罪者だぞ? 人殺しも半分居るし」
「大丈夫なのこの酒場!?」
「大丈夫だって、此処無法地帯だし」
「ねえねえ、無法地帯って何?」
「えっと、それは別の機会にですね」
「あ、そうだ」
褐色肌の男が突如そう言って立ち去った。それを見てフェルラはティンに。
「よし飲め」
「何で」
「おら、飲めねえのか」
「いや、あのあたし未成年」
と、此処に来てこうなる。そこで褐色男が戻ってきて、その手にはティンとして見覚えのある絵葉書があり。
「あ、あ、あああああああああああああああああッ!? あんたその写真、亮とか言う奴が持ってたやつの!?」
「おお、やっぱりお主スガードの弟子か!」
こんな所で、また師範代の友人に出会ってしまった事に心のそこから驚いた。
んじゃまた。