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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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決着

 繰出される一刀は正しく聳える氷山さえも切り崩す一刀。故に名を。

「氷山崩剣ッッ!」

 居合い一閃からの振り下ろし斬り。砕ける氷塊、弾ける氷、ティンはその衝撃に体を蹂躙され、吹き飛び――。

「え」

 一瞬にして体に纏まり付いた氷が砕いて吹き飛んだ結果、ティンの体に自由が生まれた。切り裂かれた衝撃で吹き飛ぶ瞬間、ティンの剣閃がるかみの首に向かって飛ぶ。

 全力だ、全力だった。未熟者である自分が手加減などする筈ない。今まででこの一刀で斬れぬ相手も倒せぬ物も無かったし、この必殺技で勝てない事は今まで無かったし、かの魔王三つ巴の時でさえ、この技による締めの必殺は不動であった。その技による必殺が此処に破られた、いや問題はそこではなく一刀で相手を切れると思っていたのが予想を違えたと言う衝撃の方が大きく。

 そんな所で、ティンの剣閃がるかみの首元を切り裂いた。

 全身を駆け巡る、喉元を一瞬鋭い鋼鉄が通り抜ける感覚。同時に弾ける風圧が切り裂かれた喉元へと吹き抜け、より切られた感触にこじ開けられていく不快感がるかみの体を蹂躙する。この不快感を前にるかみは歯を食いしばろうとして、自分の首元から血が噴出すイメージがよぎった事で――思わず、るかみは無意味な抵抗を止め気を失った。

 結果、ティンはアスファルトの上に落ちて舞いるかみは降り頻る雪の絨毯の上に落ちた。

 降り頻る雪は一気に晴れ、再び世界を黄昏が包んでいく。しかし、黄昏は直ぐに消え去り夜の闇が世界を侵食していく。たった一人、試合を見ていた皐が一人歩み寄って。

「ふむ、引き分けですかね? にしても」

 皐は天を仰ぎ、夜に染まった空を見る。

「雪を降らす、ですか……」

 呟いて、皐はティンを背負った。



 また、見慣れたようで見慣れない天井を見ながらティンは目が覚めた。体を起こせば、また布団に寝込んでいたようだ。

「ああ、起きましたか」

 言われ、首を動かせば縁側に昨日見た黒髪の女性が立っている。確か、家の主――蒼末護堂の息子さんの嫁さんだと聞いたのだと思い出す。

「朝食は既に出来ていますよ。皆さん食堂にいるので、着替えてからお越し下さい。食堂はこの先ですから」

「あ、はい……」

 言ってティンは自分が浴衣に着替えて寝ていた事に気が付いた。見れば側に自分の騎士服がおいてあり、早速着替えて食堂へと向かった。

 食堂と呼ばれる場所へ行くと、そこは変わらない和室に机と料理が並べられている。そこで格摩や皐や関哉がいた。しかし、疑問が浮かぶ。ティンははてと首を捻って。

「林檎は?」

「ん、ああ。それなんだがな」

 そう言って、格摩は語りだす。

 昨日の夕暮れ時、格摩は林檎を探して街をふらついてると、ある場所で林檎を見つけた。

「おう、どうだった?」

「ん――格摩か。いや、父親にはあえなかったよ。どうやら、入れ違いになったらしい」

 そう言って林檎は何処か寂しげな表情を見せた。格摩は首を動かして近くの建物を見る。そこの建物の看板に刻まれた森林と言う文字、それを見て格摩は此処で彼女の父親が働いているらしい。

「で、ずっと此処に?」

「いや、ちょっと買い物を。それで戻って来ているかもと思ってきて見たんだが……見ての通り、結構意気地なしっぽく」

 変わりに語りだした黒騎士の方が発火を始める。どうやら林檎が魔法で攻撃したらしい。

「んじゃ、さっさと行こうぜ。にしても、どんな親父だろうな。嫁さんと娘を捨てるなんざ」

「……いや、それはまあ」

 そう言って格摩が建物の中に入っていく姿に林檎は何かを言いかけて口をつぐんだ。その様子からはまるで自分で見てこいと言わんばかりで。

 建物の中に入った格摩は受付のところに向かい。

「ああ、すいません。えーと」

「あ、所長の娘さんですか? すいません、つい数分前くらいまで居たんですか急に仕事が出来たので行ってしまいました」

「そうなのか。本当に仕事で行ったのかねぇ」

「んーそれはないと思いますよ。所長、自分の愛人だと言ってよく離婚した奥さんと娘さんの写真を持ち歩いていますし。ほら、此処にも」

 そう言って受付の人はカウンターの端っこにある写真を指差す。それを見て格摩は少し驚いた。何故ならば。

「これ、林檎か?」

「ええ。この前会った時に無理やり写真を取ったと言っていましたよ」

 見れば、凄く嫌そうな表情の林檎が写真の中に居た。正面を向いてないし、立去ろうとしてるし、無理やり取ったのだろうなっていうのがよく分かる。

「……離婚したのに、か」

「んー、どうやら奥さんとの関係が上手くいかなくて別居って感じですかね。所長は何時も言っているんですよ、いつかちゃんと出来る男になってよりを戻すんだって。そこまで愛されてるなんて幸せな奥さんですね」

「……おい、林檎」

「何だ」

 白ける様な彼女の声。格摩は複雑な表情で振り向くと小声で。

「おい、如何いうことだこりゃ」

「如何いう事とは如何いう事だ。少なくともうちの父親はこういう男だ、前情報でどういう人間を想像したか知らんが妻と娘をこよなく愛する離婚とは一見無縁の男だよ」

「何で離婚したんだよ」

「母親が、ちょっとな。精神的にあれでな、色々とある。おいそれと語れる事じゃない」

 林檎がそう言うと格摩ががりがりと頭をかいた。

「あと、今後私達は別行動をとる。何と言うか昔の仲間が来てくれと言っている。今後はそっちに行くから」

「あ? 急だな」

「急に、だよ。昔の仲間が一緒に来てくれと言って来てな。悪いがそちらの方へ行こうと思う。昔の義理があってな」

 そう言って林檎は立去った。

「って感じだ。あいつはもう来ない」

「ふーん。昔の仲間って、誰なんだろ?」

「しらねえ。ま、別にいいじゃねえか。それよりこれから如何すんだお前」

 問われたティンは不思議そうな表情で返した。

「如何するって、何で?」

「そりゃ、此処港町だしよ。海を渡るのか?」

「んー、まあ確かに皐も孤児院に帰るなら一回海を渡って表の世界に行く必要があるし」

 と言った所でその場にいた全員が何を言っているんだと言う目でティンを見る。

「どうかした?」

「いえ、あの、此処、一応表の世界ですが……」

「……はい?」

 ティンは今までの事を思い出す。一先ず、記憶通りならば自分が最後にいたのは確かに裏の世界と呼ばれる西大陸の筈……だったかと思う。

「あ、そう言えば」

 そこで自分は異世界にぶっ飛んで戻ってきた事を思い出す。もしかしたらその時かと。

「あたし、一回異世界行ったんだっけ」

「……お前、頭大丈夫か? 異世界とか何言ってんだ」

 格摩は痛い人間を見る様な視線を向ける。

「……えっと」

「んなのどうでもいいだろうが。取り合えず、俺と皐は海を渡る必要ねーってことだよ」

「何故私と一緒なのか分かりませんが、まあ私はこれから孤児院に戻ろうと思います」

 皐の冷たい言葉に関哉はがくりと項垂れた。と、そこへ護堂がやって来る。首にかけたタオルを見るにどうやら運動をしてきた後らしい。

「む、どうした?」

「あ、おじいさんお早うございます」

「ああおはよう。もう大丈夫か?」

「大丈夫って?」

「昨晩、気絶して来ておいてそれを言うか。おぬし」

 護堂はくつくつとティンの様子を見て笑った。

「で、今日で旅立つ気なのか?」

「んーと、どーするかな」

 そう言ってティンは頭を捻ったが。

「いや、今日はもう街を出て行こうぜ。特に留まる理由もねえしな」

「そうなの?」

「ああ。林檎もいねえし、特にいる理由もねえだろ」

 その意見にとやかく言うものもなく、食事が終わって旅支度が済み一行は蒼末の屋敷を出る。そこには護堂は見送りに出ていた。

「泊めてくれてありがとう、おじいさん」

「ああ、構わんよ。わしとしても懐かしい名を聞けたしな。それと貴様にこれを渡そう」

 そう言ってティンにメモを一枚渡した。そこにはいくつかの数字の羅列が書かれている。

「これ、何?」

「この家の電話番号や携帯の電話番号だ。何かあればわしに連絡しろ。では、な」

 そう言って護堂は踵を返して家に入り、ティン達は旅立っていく。

 じゃ、また。

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