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あなたの“まもりたいもの”はなんですか?

「……ざう゛い゛……」

 ティンは地獄の様な寒さに震えながら目が覚める。

 冷房効き過ぎか? そう思いながら部屋を見渡すが、木製のこの宿屋にそもそも冷房と言う機材さえない。

 見れば吐く息まで白く染まっていた。

 つまり、この部屋が0℃近いと言うことである。

 左右の二人はと見てみると、普通に安眠。

「……え? ちょ、ちょちょ、ちょっとぉ……二人とも、起きて」

 ティンは白い息を吐き、寒さに震える体で二人を揺する。

 浅美は唸りながら瞬きを何度もしてから目を覚まし、瑞穂はゆっくりと眼だけを開ける。

「……どうしたの?」

「ささ、ざぶいんだけど」

「……あーそれ仕様」

「ししし、仕様?」

「うん、氷魔導師の仕様。高レベルの魔導師は自分の一番得意な属性の魔力を垂れ流してるから。

 私、氷一つだから」

「ででで、でも、こんな寒く」

「あー」

 瑞穂はティンの吐く息が真っ白である事に気が付く。

「浅美さんも氷の魔力持ってるからね。多分それで相乗効果でも出たんじゃない?」

「……マジ?」

 ティンは浅美の方を見る。

 目を擦り、寝ぼけた目でむくりと体を起こすと。

「おはよおー……」

 とだけ言った。

「……おい、浅美。後でお前に聞きたいことが沢山あるから朝食後にゆっくり話しよう」

 ティンは眉の端をピクピクと痙攣させながら言った。



「浅美さん、ちょっと良い?」

 ティンは浅美を叱る様に歩きながら今まで聞いてなかった情報を洗いざらい聞いた。

 使える魔法属性、使える武器、今までどういう風に旅をしていたのか、どう言う事が得意なのか。

 途中から瑞穂も混ざって買い物時にちゃんと値札を見ているか、財布の中身を確認しているのか、どういう食事をして来たのか等等。

 そして瑞穂は呆れ返った様に浅美の肩をたたいた。

「……余計に、酷くなっていない?」

「だ、だって……」

「もういいよ。浅美さんを見放した私にも責任あるし」

「何で~?」

 瑞穂はため息混じりに言うと再び歩き出す。

「でも、何でティンさんが地図を見ながら一番前を歩いてるの?」

「……昨日までのやり取りをしてて、お前らに前を歩かせる事が出来ると思っているの?」

「……浅美さんの言うことを信じちゃだめだよ」

「じゃあはい」

 ティンは瑞穂にそう言って地図を手渡す。

 そして瑞穂は地図を見て方向を確認し、真逆方向に歩き出してティンは素早く肩を付かんで地図を奪った。

「ええと、セントラル・パラディンは向こうだね」

「待って、今のやり取りに何か重要なことが抜けている」

「取り合えず、お前らに前を歩かせちゃいけない事にだけは理解出来た」

「わたしは大丈夫だよ! ちゃんと風で方向先を把握してるんだから!

 瑞穂さんみたいな不思議な方向音痴じゃないんだから!」

「いや、あれの何処が方向音痴!?」

「方向音痴だよ。行きたい方向の反対方向に進む凄い方向音痴」

「なるほど。つまり私は二人を殴れって事かな?」

 瑞穂が言いながら指を鳴らしていると二人は無視して更に進める。



 三人は森の中にある整えられた街道を進んでいく。

「……空気が、澄んでる?

 何かすっごく澄んだ空気が漂っているよ」

「いや、空気なんて分かんないし」

 浅美の言葉にティンは冷ややかに言葉を返す。

 そして、城門の様な扉が見えた瞬間。

「止まれ!」

 と、凛とした声が森中に鳴り響く。

 城門の中心に、青く短い髪を肩先で切り揃えた騎士が水色の刀身を持つ槍をティン達に突きつける。

「貴様ら、此処が騎士達の聖都セントラル・パラディンと知って進むつもりか!?」

「……騎士達の?」

「ふん。知らずに来たのか、この愚か者共」

「通っちゃだめ?」

 浅美が一歩歩み出て騎士に話しかける。

「……通りたいのなら、許可証を取れ。

 此処は曲がりなりにも聖都だ。無許可で通せるものか」

「何処で取るの?」

「古都にあるだろう。そもそも、聖都には転移術式で入る以外に方法がない」

「え、そこの門は?」

「そう思うなら、そこから先に進んでみるといい」

 浅美は言われて更に一歩進むと、見えない壁にぶつかった様に弾かれる。

 地面に術式が浮き上がり、青白い壁が展開されている。

「この通りだ。辺り一体に結界が張られている。

 通りたければ古都に行って通行証を貰い、転移して来い」

「……此処から戻るの?」

 ティンは不満を表情に浮かべながら睨む様に言った。

「そうだ」

「……でも、街の人達何も言ってなかったよ?」

「当然だ。余所者に、それも目的の無い冒険者風情に聖都まで案内するものか」

 青髪の騎士は話にならないと目を背ける。

「じゃあどうすりゃ良いの?」

「そこまで面倒を見る義理は無い。自分で見つけるんだな」

「それは幾らなんでも酷いと思う」

「……ほう。では私にどうしろと?」

「少なくとも、あたし達くらい特別処置にしたって良いじゃん」

「傲慢も良い所だな」

「何も知らせなかったのはそっちじゃん」

「では、此処に騎士を志す者は居るのか?」

「き、騎士?」

「そうだ」

「騎士って……なんだっけ?」

「騎士。

 広義には騎馬で戦う戦士、及びそういった戦士へ送る称号そして国に忠誠を尽くす軍人のこと。

 現在では騎士道精神に則る戦士にも送られる称号でもある。

 大和乃国の武士道に通ずるところがあるとされている。

 一言で言うと、単なる職業」

 瑞穂は虚ろな瞳で棒読みで解説を行う。

 青髪の騎士は釈然としない表情で瑞穂を睨む。

「……おい、貴様は騎士を愚弄する気か?」

「別に。私は自分の記憶から引っ張り出した情報を口にしただけだよ」

「……ふん。で、お前たちはどうすれば納得」

「待て」

 女騎士の言葉を切る様に男の声が響く。

 同時に街を包む青白い結界が消失する。

「……貴様、どう言うつもりだ。焔進の聖騎士」

 女騎士に紹介されるように黄金の髪が燃え盛る様な波打つ髪型をした甲冑の男が歩み出る。

「落ち着け、水の聖騎士。彼女達の言葉にも一理ある。

 聖都に入りたいのなら好きに入ると良い」

「何故だ!?」

「どうしても、此処に行きたいのだろう?

 ならば通してやっても良いではないか。此処は来る者を拒まず、去る者は止めずとする聖都。

 此処まで突っぱねても引き返さぬと言うのなら入れてやるのもまた良し」

「……良いの?」

 浅美は男騎士に問い返す。

「水の聖騎士と口論をしてまで通りたいのと言うのなら」

 男はそう言ってマントを翻して街に入っていく。

 水の聖騎士は苦虫を噛み潰したように。

「……ふん、入るならさっさと入れ」

 と言い、背を向けた。

「……良いの?」

「良いんじゃない?」

 浅美の呟きにティンは軽く返して扉に向かう。

 続いて浅美と瑞穂も扉をくぐった。



 中の様子を見た三人はその光景に思わず足を止める。

そこは都と呼べる物はない。

あるのは――。

「テン……ト?」

 そう。

 野営用のテントと組み立て式の簡易宿等。

 まるで、そこは。

「野営地?」

瑞穂は周囲を見渡し、思いついた単語を吐き出す。

「そうだ。此処はかつて多くの騎士団が遠征の途中に立ち寄った野営地跡だ」

 後ろから聞こえた声に「わ」っとティンが反応する。

 見れば先程の女騎士が立っている。

「……聖、都?」

「まあ、普通の冒険者なら当然の反応だな」

 浅美は疑問を顔に浮かべて首を傾げていると見飽きたと言わんばかり女騎士は歩み進む。

「だが、此処は確かに聖都だ。

 多くの騎士達が此処に立ち寄り、己の武勇やそのあり方について語り明かしたのだ。

 何時しか、この近くにある神殿は騎士達の間で神聖化され、何時しか此処は騎士達の聖都と呼ばれる様になった」

「神殿って?」

「奥に見える、あれだ」

 女騎士は一番奥にある神殿を指差す。

 だが、どう見ても遠い。おぼろげにしか見えない。

 瑞穂は目を細め、額に手を当ててその神殿を注視して一言。

「……遠い」

「根性です」

 青髪の女騎士はさらりと言いのけて今度こそ立ち去る。



 三人は歩くこと数時間。

 昼食を取りつつやっとの事で神殿にたどり着いた。

「……おっきいね」

「いや、他に言うことないの?」

 垂直になるほど首を上に向けた浅美にティンは突っ込んだ。

「……首が痛い」

「瑞穂、行こう」

 ティンがそう言って後ろに首を向ける。

 だがいない。

 浅美が「おっきい」以下略の時に既に置いて行ったのだ。

 ティンは周辺を首を回して既に神殿内部へと入って行った瑞穂の姿を見掛けて

慌てて追いかけた。



「瑞穂ってさ、結構冷たいよね」

「あ、ティンさんやっと気付いた? 瑞穂さんは結構酷い人だよ」

「それはつまるところ二人とも殴れって言う暗示で良い?」

 ティンと浅美はヒソヒソと神殿内で追い付いた瑞穂の背後で話している。

 取り合えず瑞穂はゴキッゴキッと指を鳴らして置いた。

「……貴様らはいつまでそんなやり取りをしてるんだ?」

 声のする方向を見る方へと目を向けるとまた青髪の女騎士が立っている。

 やたらと呆れた表情で溜息をつく。

「止めない限りいつまでも続くよ」

「いつもこんな調子か?」

「うん、そうだよ」

「……貴様はさながら、保護者か」

「うん」

「違うよ」

「多分違う」

 瑞穂は肯定し、浅美とティンが素早く否定する。

 瑞穂はゆっくりと後ろに振り返ると呆れた目線を二人にプレゼントする。

「……ティンさん、浅美さん、嘘は言わない」

「瑞穂さん、瑞穂さん、いつもわたしが先導して旅してるじゃん」

「お金の勘定もろくにできない人がそんなこと言わないで欲しいな」

「方向もちゃんと分からない人が偉そうにしないで欲しいな」

「計画的な生活が一切出来ないくせに」

「男の人と面と向き合って話せないくせに」

「鳥頭に言われたくない」

「直ぐ殴る人に言われたくない」

 ティンは何か始まった女同士の口喧嘩を音速でスルーし、神殿内部をゆっくり見渡す。

「おいおい、後ろの二人を止めなくて良いのか」

「あーうん、ああ言うのは放置が一番って最近分かってきた」

「そうか。お前がリーダーか」

 瑞穂と浅美は同時に「その人一番保護されてるから」と突っ込んだ。

「……そうか、芸人冒険者か。公演は何時だ?」

 三人は同時に「ねえよ」と返す。

 そんなやり取りの最中高い笑い声が響く。

「くっくっく……面白い者達だ」

「あ、燃えてる人」

 浅美は現れた先ほど燃える様な金髪の甲冑男をそう呼称する。

 金髪の甲冑男は再び笑い声を上げる。

「燃えてる……くくく、実にあっているな、はははは」

「笑ってばかりだね」

「彼のことはお気になさらず」

 ティンがおかしな人を見るような視線を送り、女騎士は咳き払いするように言葉を紡ぐ。

「そういやさ、あんたの名前って何だよ」

「人に物を尋ねる態度とは、到底思えぬ発言だな」

「あ、あたしはティン」

 女騎士は目を細め、意外な表情を見せる。

「……ほう、ただの無礼な小娘だと思ったが。

 それなりに礼儀はあるようだな」

「ん、何かよく漫画とかで聞くじゃん。人に名を尋ねる時は名を名乗れって」

「……なら一つ覚えておけ。それは、常識だ。そして、私の名前はパルシェ。

 此処では水の聖騎士と呼ばれている」

「……厨二病?」

「え、なんだそれ」

 瑞穂は唐突にそんなことを言い出し、ティンは首を傾げる。

 後、誰か彼女に唐突に失礼なことを言うなと教えてあげて。

 読者の皆も行きなり人に向かって厨二病患者呼ばわりしちゃ駄目だぞ?

「……貴様は騎士を愚弄しているのか?」

 女騎士――パルシェはこめかみをピクピクと動かし、額に青筋を浮かべる。

 この様に真面目に厨二病で仕事してる人に言うと怒られるぞ。

「ちゅうにびょう? ふむ、現代人はおかしな単語を用いるな」

「貴方も現代人でしょうが」

「ん? おお、すまんな水の聖騎士よ。

 何分暫く俗世から離れていたものでな、最近ではそういう言葉があるのか。勉強になる」

「覚えるな」

 パルシェは静かに呟くと神殿の出口に向かって歩き出す。

「……そういやさ。聖騎士って何?」

「聖騎士。広義」

「貴様は黙ってろ」

 パルシェはきつい口調で瑞穂を黙らせる。

 いい加減彼女も瑞穂が失言女王だと気付き始めたらしい。

 パルシェは溜息混じりに視線を上に上げながら言葉を紡いだ。

「上を見ろ」

「上?」

 ティンは言われて上を見る。

 そこにあるのは――像。

 巨大な、甲冑と槍、斧、そして剣を天に翳す三つの石像だ。

「すっごーい……」

「あれこそが此処が聖都と謳われる所以だ。

 多くの騎士達が此処に駐屯した時、この神殿にこの像が祭られているのを見つけてな。

 まるで、自分達を称えているかのように聳えているこの像を中心にやがて聖都と言われるようになったのだ。

 そして、此処は同時に誓いの場でもある」

「誓いの、場?」

「そうだ。

 聖騎士とは、本来主君に仕え、その活躍を褒め称えられた騎士に送られる名誉ある称号。

 神聖なる祝福を受け、忠義を捧げる騎士だ。

 同時に、此処ではこの像に向けて騎士の誓いを捧げた者達に送られる信念の称号だ」

「……信、念?」

 パルシェは頷くと解説を続ける。

「そう……己自身が人生をかけても良いと思える信念に忠義の証を立てる。

 そうする事で、此処では神聖なる祝福を得て聖騎士となるのだ。

 本当に“まもりたいもの”を守る為に。な」

「まもりたい、もの……」

「お前も聖騎士になりたいのか?」

「え?」

 ティンは背後からけられた声の方に振り向く。

 そこには燃え盛るような金髪の男が立っている。

「えっと、あんたの名前は?」

「私の名はブースト。焔進の聖騎士の名で呼ばれている。

 一つ問おう。お前は、聖騎士になりたいのか?」

「えと、あたしは」

「迷いがあるなら、止めろ。どうせなれはしない」

 ティンの言葉を遮る様にパルシェが言い切った。

「な」

「聖騎士になるには、神聖たる純真な願いを捧げる必要があるのだ。

 貴様にそれがあるか?」

 パルシェの鋭い眼差しがティンを射抜く。

「人生を捧げてでも“まもりたいもの”が、貴様にあると言うのか?」

「……あたしは、ただ。剣が欲しいと」

「剣? 剣を手にしてどうする気だ?」

 ティンは自分の胸に手を当て、はっきりとした意思を持って答えた。

「……自分の問題を、自分で解決する」

「話にさえならない」

 下らんと、パルシェは視線を外した。

「な、何で!」

「剣を得たくらいで解決するのか?

 そもそも、何故剣が居る? 見た所武装してない様だが?」

「そ、れは……」

「何故剣を欲するかまでは分からん。

 だが、それが一体何の為の剣なのか。それさえ分からん輩の聖騎士たる証は無い」

 ティンは、ただ押し黙る。

「……あたしは、ただ」

 ティンは、それだけ漏らして神殿から走り去る。



「あれ、浅美?」

 ティンは神殿の外で浅美が待機しているのを見て、声をかける。

「何で此処に?」

「瑞穂さん構ってくれないし、ティンさんも何か神殿の見学してるし、暇だから。

 ティンさんもういいの?」

「えと、何が?」

「見学。瑞穂さん、まだやってるみたいだし」

「あ……えとさ……暫く、一人にさせて貰って、良いかな?」

「大丈夫? 何か変なやつらが」

「大丈夫だって。此処にならあいつらもこれないと思うしさ。

 ちょっと……一人で考えたいんだ」

「……分かった。でも何かある時は私を呼ぶんだよ?」

 浅美はそう言って街の方へと歩き出す。

 ティンは神殿の入り口の端っこに歩き、腰を落とした。

「……ふぅ……」

 息を吐いて、大きな木々と水の膜で出来てるような結界に彩られる世界が広がっている。

(……あたしは、何で聖騎士になろうって、思ったんだろう?

 ただ、剣が欲しかった。でも……あたしが剣を欲しがった理由って?

 そう。ただ、力が欲しかった。あたしもやれば出来るんだって。

 出来るんだ……って。でも、何を?

 あの仮面の男達。あいつらを倒せば良いのか? うん、良いんだ。

 良い……それでいい、筈なんだ……でも、それじゃ、なんか、駄目、なんだ……でも、何が駄目なんだろう? それが分からずに居る。

 だけど、ただぼんやりと、これだけは分かるんだ。これじゃあ駄目なんだって事が)

 ティンは静かに空を見続ける。

 胸の内に、あらゆる感情を織り交ぜて。

 その思いは後悔か、迷いか。

(聖騎士になれば、全部解決するのだろうか?

 ……分からない。でも、聖騎士になるには、願いがいるんだっけ。

 一生をかけても良い、自分だけの誓い。

 でも何であたしが戦わなきゃいけないんだろう。

 別に狙われているんだから、友達や誰かに守られていたって、良いよね)

 それで良いのか。

(――いや、良くない。良い訳が無い。

 あたしも。あたしだって……あたしだって、守りたい。そうだ――あたしにも、守りたいものが、ある

 大事なものがある。譲って良いモノじゃない、人生をかけても良いくらいの、大事なモノが……沢山、沢山。

 抱えても、抱えきれないくらいの、大切なものがある。

 だからあたしは、守って貰うだけじゃ駄目なんだ)

 それはどうして。

(あたしの問題に、誰かを巻き込みたくない。自分のことくらい、せめて自分も何かしたい。

 こんな事で、誰かに頼っちゃいけないんだ。だって――)

 そうだ。だって彼女は。

(剣士、だから。剣士として生きた自分には、恥かしい道を行きたくないんだ)

 ティンはしっかりと、手を握り締める。

 純白の石の地面を力強く踏みしめ、立ち上がる。

 空は、群青に染まっていた。



 月だけが照らす神殿に足音がやって来る。

 淡い光に照らされ、緩いウェーブの金髪に白い服を身に纏った少女――ティンが、訪れる。

 その到来を待っていたかのように二人の騎士が神殿内に立っている。

「……どういうことだ? 先程とは別人だな。

 迷いは晴れ、道を定めた……と言うことか?」

「良いではないか、水の聖騎士よ。

 強い意志を持ち、此処に訪れたと言う事は揺らがぬ決意を得た、と言う事なのだろう?

 では誓いを、あの像に立てるが良い。お前の持つ、信念を」

 ティンは像を見上げる。

「どうやれば良いの?」

「簡単だ。像の前に跪き、誓いを立てよ。

 それが神聖足りえるものであるなら、お前は聖騎士となる」

 ティンは一歩進み、膝を折って地に付け両手を合わせて祈る。

 これが神聖かいなかなど、関係ない。

 ただ祈るだけだ。自身の誓いを。自身の揺らがぬ信念を。

「ただ、あたしの大事な人を。あたしが大切だと思う人達を、この手で守りたいんだっ……!」

 祈りは光となり、天に昇る。

 やがてそれは純白の剣となり、天からティンの元に降り立ち、乾いた音が鳴り響く。

「っ……これ、は」

「それが、お前の誓いと信念の証。選ぶべき道は、それを掴み取ることだけだ」

 ティンは目の前に突き立てられた剣を見つめる。

 純白の花を思わせる、真っ白な騎士剣。

 ティンはゆっくりと、剣を握り締め、引き抜いた。

「迷いなんて無い。あたしは、もう決めたんだ……この道を!」

 ティンに光は光に包まれ、身に着けた服装が全て変る。

 穢れなき純白のマント、白き騎士服。

 まさに今、彼女は聖騎士となったのだ。

「ほほう、これは見事。言わば輝光の聖騎士と言う所か」

「……って、前の服装は!?」

「よく見てみろ、上に着てるだけだ」

 ティンは言われて下着の様に元々着ていた服があるのを理解する。

「良かったぁ……あの、これからあたし、此処で何かするってことは」

「無いな。ただ、志を同じくする者が此処にも居る、と言う事だ。

 お前は、お前のしたい事をするが良い」

「……うん」

 ティンが柔らかい表情で頷いた。



 その時。地が揺れ、爆音と轟音が聖都に響き渡る。

 BGM聞きながら執筆するって、良い物だよね。

 んじゃ、また。

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