雪原の世界
刃と刃の境に、互いの瞳を除きあう。対するは海より深く暗い紺の瞳、黄金のように黄昏のようにも輝く不気味なライトイエローの瞳。
氷刃と光刃が重なり合い、二人が弾けて距離を取り合う。
「――些か、甘く見ていましたか」
そう呟いてるかみは刀をしっかりと両手で握りこみ、構えて白い息を吐いた。同時、大気が変化する。白く乾いた空気、しぼむ様に冷たい空気が満ちていく。気付けば、ティン自身も白い息を吐き始め。
「え、雪?」
見れば、白く冷たい何かが舞い落ちる。ティンの体に落ちるそれは白く冷たく、そこから連想される単語を自然と口にしていた。
一息吐いて、構えを直してるかみは駆け出す。
「なめるのを止めましたか」
見ていた皐は口端を釣り上げて呟く。彼女は雪が降り始めた瞬間に三度傘を被って観戦を続けていく。その姿は非常に楽しそうで。
「いえ、認めたか。どちらにしてもよい傾向ですね、彼女を無名と侮るのは流石に自殺行為です。ああ、それとも」
悦に入ったその表情は期待か、或いは別の何かか。
「誇りを賭すか」
この雪は一種の結界であり彼女の世界。氷霊の剣はそれ自体が強大な氷魔法の触媒であり、寒気に満ちたこの空間は剣の魔力を持って生み出したものであり、更にはこの冷気を持ってこの剣はより強化を増す。生み出された冷気は大気の温度を道ずれにしてより深くより純度の高い氷の魔力を生み出して鋭い刃を生み出す。
もう一つ言えば、当然この雪自体も彼女との触覚とリンクされており、雪の降るこの空間にいることはるかみの掌の上で踊る事を意味する。
しかし、この状況を有効に使えるのが何もるかみだけではない。
雪を踏みしめ、駆け抜けてかの御敵へと刃を振るった瞬間、ティンは瞬時に消え去る。雪のレーダーで察知しようとすれば。
「え、なっ」
先程よりもより鋭利かつ繊細に動きに逆にるかみが驚かされる。だがそれも一瞬。元より相手は条理を超える機動力の持ち主、これくらいのことで動じていては到底上には至れない。雪が降り積もると言う事は地面が凍りつき、滑りやすくなると言う事。それをあっと言う間に自身のステージに変えた彼女の発想にも驚かれるが、今は切り捨てただ己の剣を信じて切り返す。
舞う様に立ち回る彼女の剣戟はまるでフィギュアスケートの如く目まぐるしく動き回り、より苛烈に華々しく剣を振るう。応じてるかみも剣を振るって応戦するがやはりティンの剣の方がはるかに早く、ほぼ防戦一方となる。
降り頻る雪にもまけずに舞い散る火花とそれよりも美々しく過激に繰り出される無数の斬撃、それを切り捌くるかみの剣閃。縦横無尽と繰り出され、上から横から後ろから下から上から肩口に腹に頭に首に足に背中に尻に顔に胸に何処から何処までと止め処なく繰出されてれは悉く防がれる。
先程と比べると防戦一方でティンに振り回されていたのと比べてこちらには余裕がある。だが防戦一方である事には変わらず、これでは多少マシになった程度だ。
しかし。
「氷霊流、極意」
ティンが一旦離れた瞬間にるかみは納刀する。同時、ティンの体が急に凍りつく感覚に囚われる。瞬時にその原因に感付き。
「張り付いた、雪!?」
全てはこの降り頻る雪。体に付いたこの雪が急に互いにリンクを始めて全体的に凍り付き始める。ティンはこの異常事態に逃げようと体勢を整えるが此処に来て方向転換が行えなくなる。それもそう、この空間の神は誰かと言われれば間違いなくるかみだ。とは言っても流石に彼女に物体の移動まで制御は出来ない、だがティンの足元を凍らせて摩擦抵抗を無くし高低差を作って自分の前まで躍り出るようにコースレーンを作るくらいは軽く出来る。
繰出される一刀は正しく聳える氷山さえも切り崩す一刀。故に名を。
「氷山崩剣ッッ!」
じゃ、また。