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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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蒼末家当主

 距離を取った皐は柄を握りこんで護堂を見る。

「どうした、来ないのか」

「……では、参ります」

 覚悟を持った瞳で鋭く踏み込み、矢の如く護堂に突っ込んでいくが護堂は腕を組んだまま抜き放たれる皐の居合いを受け止める。

 突き抜けた皐は護堂に振り返りながら問いを投げる。

「抜かないのですか?」

「抜いてよいのか?」

「……抜かせません」

 口にし、踵を返して納刀と同時に護堂へと向かい、狙うは腰。回し蹴りで回り込むと同時に裏に回り足払いを贈り、護堂は軽い跳躍で避けた瞬間へ踏み込んで居合いを――決めたと思ったとき、刃と刃が激突して火花を散らす。

「抜いたぞ。抜かせぬと言ったのは誰だったか」

「知りません!」

 言って皐は飛び退いて納刀し、また様子見にはいる。

「あの剣士、護堂さんに食らい付いてますね」

「いや違う」

 女記者の解説を格摩が否定する。

「ありゃ何か知らんが恐れてる。相対する覚悟は出来ても、切り結ぶ覚悟が出来て居ない。あの爺さん、マジで何者だよ」

「……皐」

 格摩の解説に関哉が息を呑む。皐は刃を少し抜くと刀身を睨む。その動きにティンは見覚えがあった。その名は。

「確か、げっかせんりゅーてんかむそー?」

「ほう、天下夢想とは。極意を使えるか、小娘と侮っておった様だな」

「いえ、見立て通りただの」

 刀を納め、皐は隙無く居合いの構えを取る。

「小娘です!」

 足をバネとして護堂めがけて風を切って突き進み、抜刀を叩き込むが護堂の左の刀が舞い一等を弾き、右の刀が舞う。

「二刀流!?」

「あの爺さん、もう一本なんて何時!?」

 ティンと格摩が驚いて声を上げる。

 皐は居合いの隙を埋めるように強引に体を捻って飛び退いて角度を変えて更に飛び込んでいく。当人に驚きは無く寧ろ最初から知ってたかのように振舞い、それこそだから如何したと蹴りと連携して居合いを放つ。だが。

「温いわぁッ!」

 響く鋼鉄の音。双剣とは思えぬ重さと剛剣で返す刃は皐の刀を児戯と言わんばかりに跳ね返す。だがその怯みさえも最小限の動きで抑え皐は次の行動へと移った。

「月斬翔!」

「ぬぅんッ!」

 居合いで放つ刃を蹴り上げつつ跳躍と斬撃を合わせ、回避と攻撃を同時に行う技で切り込むも護堂の放つ一刀に弾かれ皐は低空を舞うが素早く体制のを整え。

「天月穿ッ!」

「甘いッ!」

 続く刃を弾かんと放つ天上の月を穿つ刃までも弾かれる。

「さきほどの言葉を貴様にも送ろう」

 皐は納刀し、更に踏み込むと同時に。

「天翔」

「戦とは武器と技、この二つを合わせて行うものだ」

 天の月を切り裂かんと放つ居合いも護堂のただの一振りの前に打ち消され。

「どちらか欠けるもの、どちらも欠けるものなぞ、子供の喧嘩にも等しい」

「烈華閃ッ!」

 続く返しの刃もただの双剣の一撃の下に弾かれる。

「なるほど、その刀は見事な一品だ……だが使い手がその程度では」

 皐はまだ諦めた様子も無く、一歩退いて跳躍からの回し蹴りを叩き込み更に切り込み更に続けて円を描くように刃を振り下ろすが全ての攻撃も護堂の攻撃でさばかれる。

「目には目を、歯に歯を。確かに有効だが」

 返しに放たれた護堂の一撃に皐はふっと消え去る。まるで水面に移った月でも切ったように。直後、護堂の背より現れた皐が切りかかるが背に回した刃がそれを受け止め。

「それこそ拮抗していなければ意味が無い!」

 そのまま薙ぎ払って皐を投げ飛ばし、皐は近くの木に着地してそのまま反動をバネにしてまた護堂目掛けて皐は飛び掛り、護堂の突き出した刃に深々と突き刺さる。

「かっは」

「どうした? その程度か、月宮よ」

 皐は体を貫く刃を握りこんでゆっくりと体を引く。更に捻ってしっかりと押さえ込むように握り締めた。

「貴様もしや」

「月華閃流」

 ティンはまたもや思い出す。痛みを持って生存本能を刺激し、己をより強化する妙技を。その名は。

「身刃、一体ッ!」

 叫ぶと同時、皐は強引に体を刃から引き離して護堂から距離を置く。

「ほう、わしを油断させる為あえて刃を受けたか……しかし、長くは」

「覚悟はしました」

 護堂の台詞を割って皐が宣言し、構えを取る。語るべきは刃を持ってのみ。極限まで研がれた彼女の気が雄弁とそう語っている。護堂も事此処に居たっては確かに言葉は要らぬと同じく構えを取る。

 再び皐は音もなく影も絶って駆け出す。その道のりはただ真っ直ぐに、振るわれる護堂の刀と刃を交え。

「ぬ!?」

 皐の抜刀が、護堂の剣を僅かに押しのけ、彼の懐へと潜り込む。更に納刀から一気に抜き放ち――

「惜しいな」

 刀は護堂の腹に食い込み、それだけで終わっていた。

「二つの強化技で自身を強化し、隙を突いて潜り込んで来たはいいが……わしが少し腹に力を入れるだけで止まってしまう様なものではな」

「馬鹿、な」

 その衝撃ゆえか護堂の服がずれてその中身が僅かに見える。一部の隙も無く鍛え上げられ、見事に割れた腹筋が刀の刃を見事に防いでいた。よく見れば、先程まで枯れ木のようだった男が、今ではまるで白銀に輝く獅子の如く燃え上がっている。

 皐は歯を食い縛り、引き下がろうとした動こうと瞬間。



「ひくんだ!」



 はっと皐は顔を上げて一瞬、頭が真っ白に染まりあがった。そこに打ち響くようにもう一度声が響く。

「皐、ひくんだ! 早く!」

 ティンが叫んでいた。皐は一気に現実へと引き戻されて膝蹴りを叩き込まれ勢いに乗ってそのまま飛び退く。

「で、どうする。その刃は届いたとして、引き裂けぬなら意味は無いと思うが」

「次は、斬る」

 着地した皐に問いを投げ、皐は体勢を整えて返す。この答えに護堂は口端を吊り上げ。

「結構」

 とだけ言うと手にする二刀を構えなおす。

「本来の型に嵌め直しましたか」

「ほう、わしの構えまでも知っておるか。顔を知ってる件といい、月宮の忍は健在か」

 そっちの答えにはこたえず、踏み込んで駆け出し同時に護堂も動き出す。皐はとっさのフェイントで攻撃を釣ろうと。

「甘い」

 した瞬間だった。すれすれを狙った、だが掠った瞬間に皐は刀に釣られて護堂の目の前に舞った。思わず皐は口元が引きつり。

「何か、言った方が良いか」

「あ、いえ」

 直後。

 交互に野獣が襲い掛かるが如く、左右から全てを薙ぎ払って突き進み体を捻り渦を巻いて上昇、続けざまに皐を地面に叩き付けた。結果として皐はトラックにでもはねられた様に回転しながら宙を舞う。

 人間とは、こうも簡単に吹き飛ぶのか。見てた者にそう思わせるほどの鮮やか、かつ荒々しい剣戟に誰もが絶句し、皐は近くの噴水に叩き込まれた。

「ふむ、手を抜いたつもりではあったが存外派手に飛んだな」

「っ、皐!」

 護堂は冷ややかに呟き、あっけに取られていた関哉は直ぐに走り出す。噴水の中に居る皐はぐったりと項垂れ、噴水に背を預ける形で尻餅をついている。

「お、おい、皐」

 関哉は噴水の中に入り、そんな彼女の目の前に立つと口篭って皐を見つめる。するとぴくん、指先が動き僅かに顎が上がった。

「ぁ……れ、ここ、は?」

「立てるか? 皐」

「ぇ……ぁ、いらない」

 そう言葉を作ると皐は顎の下げた。それを見てたティンは。

「す、すごー……」

「おい、そこの金髪の小娘」

 完全に蚊帳の外状態だったが、そこで護堂に呼びかけられ振り向くと。

「次、貴様に勝負を挑もう」

 その台詞を口にしたとたん、空気がざわつき始めた。

 剣術四天王解説、次は蒼末家だよ。

 蒼末。

 剣術四天王の一つとして、最も特異とされる一族。なぜなら、武門の家であると同時に魔導の家としても有名だからである。そもそも蒼末の始まりは『蒼』と呼ばれる術式を使う術者の家であり、主人を守る為に生み出されたのがこの蒼末流と呼ばれる剣術である。詰まるところこの剣術、実は一人ではなく後方支援を前提としたもので本来一人で戦うようには出来ておらず、見る者によっては勇猛果敢、或いは無謀とされる事が非常に多く団体戦でこそ真価を発揮する剣術でもある。

 盾を持たず、両手に武器を持つそのスタイルが全てを物語っており、攻撃に特化しているのは背後の主に忠義と言う信頼をおくと同時に主の敵を撃滅する剣だからである。また、一子相伝とされる蒼末の秘術『蒼』はその難解な術式により相続に成功するだけで姫と呼ばれるに値する為、姫連合また貴公子同盟には蒼末の名が常に存在するとされている。

 なお、蒼末家は剣術四天王中で二番目に国を失くした一族である。理由としては『時代の流れが自分達の様な単一の主を不要とし始めたから』要は民主主義の流れに応じたと言う事である。この時、蒼末の家は元々持っていた城の本丸があった部分以外その全ての土地を都市間連合に売り渡しており、その際『決して民を無下に扱う事はない』と言う誓約書を書かせ、大々的に蒼末家との同盟を結んでから国を捨てた。その為、他の剣術四天王達と違って今尚蒼末家の家は何処か城の様な形、及び間取りとなっており見る者によってはそこが元々城であった事を感じると言う。

 また、同盟を結んだ時に都市間連合は蒼末家に対し『今後政治に関わる一切を禁ず』と言う条件を提示して結んでいる。これについては『当時の蒼末家のカリスマを恐れた当時の政治家達が提示した』と言う噂が流れているが真相は未だ不明となっている。

 それじゃあまた。

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