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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
漢達の宴――謡え、野郎共の狂詩曲
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白獅子

 クラヒウンシティから出て数日、街道を歩き続けて新しい街並みが現れる。額に手を当てて格摩が言った。

「おおー、でっけえ街だなー」

「……ああ」

 何処かはしゃぐ感じに言う格摩と対照的に林檎の言葉は冷たい。

「なんて名前の街?」

「ライサンシティ」

 林檎がそんなことを呟いた。皐はそんな林檎に振り返ると。

「知っているんですか?」

「……父親が、働いている」

「ってーと、お前の実家か? 実家って何やってるんだ」

「おい関哉、こいつの苗字を考えて見ろよ、森林だぜ?」

 格摩がそう言うが林檎の表情はだんだん沈んでいく。それを見たティンが。

「おとーさんと喧嘩中なの?」

「……だった、が正しい。今は平気だが……その、今両親は離婚中、でな。正直、母親に引き取られた身としては……」

「そら、会い辛いわな。でも親父さんとは仲良いんだろ?」

「いや……一回会ってから会ってないし、そもそもその出会いも母親には内緒だ。これ以上顔を合わせたら正直気まずいと言う話じゃない」

 林檎は表情に陰を落として言った。溜息まで出るその様子に。

「では素通りしますか?」

「いや、此処は港町だから大陸移動するのには都合がいいんだ。父親と会わずにするには無理だろうが……問題は無い」

「そういやさ、ずっと気になる事があるんだが」

「ああ、俺もずっと気になってた」

 そう言って関哉と格摩は後ろに振り返る。そして遠くに木を指差して叫んだ。

「出て来やがれ、そこの黒騎士!!」

 男二人が同時に叫ぶと、帰って来たのは紙飛行機が飛んで来た。飛んで来たそれを格摩は掴み取り、中を覗くと。

『気にしないでくれ』

「気になるわ!?」

「つーか、手前何なんだ!? 誰のストーカー何だよ!?」

「私だ」

 限界まで林檎は無表情となると手を上げてそう言った。

「お前のストーカー!? あいつロリコンかなんかか!?」

「いや、あれは私の連れだ。空気になるのは得意技だからまあ気にするな」

「……あんな忍が、この世に居るとは」

「ん? どうかしたの?」

 皐は唖然としているとティンが先に進んでいて振り返って問いかける。

「いや、忍びじゃない。影が薄いだけだ」

「もっと凄くね!?」

「ってか、地属性の魔力が察知できなけりゃ俺らも気付けなかったぞ……どんなステルス能力だ」

 皆は呆気に取られながら一先ずは街へと急いだ。



「んで、こっから如何するよ。蓄えあるし」

「私は父の下に行く。皆はまあ、適当に屯していてくれ」

「ん? 何で行き成り。つうか俺らも行くよ」

「いや、いい。どうせこの街にいれば自然と父の情報が入るんだ。ならいっそ行った方が早いし問題が無い。だから」

「いや、俺も行く」

 そう発言したのは一体誰なのか。気付けば漆黒の鎧騎士が立っていた。

「……何故、お前も来る」

「一応、俺も仲間だろう? ならお前の親父さんに一応挨拶しなきゃいけないと思うし」

「お前は私の恋人か何か。そもそも、お前の好きな女は私じゃなくておねえ」

「林檎、そうじゃない。同じ死線を潜った仲間である以上、挨拶に行くのは当然だろ?」

 黒騎士はそれまで黙してかぶり続けていた兜を外して淡々と説明する。しかし、空気が一変して誰もが絶句するが黒騎士は一切気にせず話を進めた。ただでさえ影が薄いのだ、このくらい許して欲しい。

「俺は、少なくともお前の父親か母親に挨拶したいだけだ。どう育てたらこんな無茶が趣味特技になるやつになるのか」

「お前は……もういい、好きにしろ」

 そう言って林檎は諦めたように踵を返し、黒騎士は兜をはめ直す。が、そうは行かぬと。

「って色々待て!?」

「素顔!? それ素顔!? 結構な色男じゃねえかちょっと待ちやがれ!」

 止まった時間が動き出すように格摩と関哉が叫び出した。兜をはめ直した黒騎士は振り返ると。

「気にしないでくれ。俺のことはそこらへんの石ころとでも思えばいい」

「そんだけキャラが濃くて今更何言ってやがる!?」

「どのツラ下げて影薄キャラ気取ってんだてめえは!?」

「このツラだ。悪いが、俺のスルースキルとツッコミスキルは並じゃない。伊達に毎日大喜利大会してたパーティの壁役をしてたと思わないことだ」

「どっから突っ込めばいいんだそのキャラ!?」

 格摩と関哉、加えて遠くで聞き流していた林檎さえもがその発言に突っ込んだ。

「と言うか大喜利大会ってなんだ!?」

「……すまない。私には何も擁護できない」

 林檎はそう誰かに謝るようにそう呟いた。

「そう言うわけだ、まあ今は置いといてくれ。と言うことで私達はもう行くよ、迷惑かけたな」

「お、おう」

「すげえ、あれだけどな、おい」

 そんなことを返して二人は立ち去っていく。とティンと皐は街の一角に視線を送る。

「ねえ、向こうの方で何だか大きな騒ぎが起きてるけど」

「恐らくストリートバトルでしょう。行ってみましょう」

「へえ、そりゃ一稼ぎ出来るかも知れねえな。見に行くか」

 二人の意見に格摩に同意してその集団へと足を向けていく。相当に盛り上がっているらしく、相当な人だかりが出来ている。その中央で斧戦士と剣士が激突している。

「おおーっ! すげえ派手にやってるじゃねえか!」

「なっておらんな」

 格摩の声をたたっきるように声が響いた。一行はその声の主に目を向ける。声の主は和服を纏う白髪の老人だ。老人の風貌は一見枯れ木を想像させるが、その揉み上げと頭髪と顎鬚はまるで鬣を髣髴させた。そんな彼の周りには若い男女が立っている。

「なっていない、とは」

「武器も技も何もかもだ。戦いとはただ暴力を振るえば良いという物ではない、技とそれに伴う武器があってこそだ。それがない戦など、子供の喧嘩にも等しい」

「な、なるほど、勉強になります」

 老人は顎鬚を撫でながら語る。それを聞いていた関哉は。

「へっ、語るじゃねえかあのじーさん」

「……結構、来る台詞だな」

 格摩も苦々しく返すが、ただ一人皐だけが呆けた表情で彼を見ていた。口を開け、ありえないものを見たと言わんばかりに。

「ん、皐?」

「おい、どうした皐?」

「――う、さま」

「は?」

 関哉が声をかけるが、皐は不意に口を動かし、そして。

「ご、護堂様ッ!?」

 叫ぶと皐は男の下まで駆けていく。呼ばれた男は視線を皐へ送るとゆっくりとそちらへと振り返る。

「――ほう、その月紋様の鍔……貴様月宮の者か」

「はっ、はいっ! わ、私は」

「ああ、別に構わん。わしの様な老骨相手に一々名のらんでよい。して、わしになんのようじゃ?」

「え、あ、は、いえ! その、挨拶をと」

 その答えを聞いた老人は溜息をつくと。

「貴様な、用もなくこの様なおいぼれを相手に時間を浪費するでない。わしは既に老いた身、貴様みたいな未来ある剣士が用も無く語りかけるではない」

「あ、その、すいません」

 言われた皐は申し訳無さそうに頭を下げる。隣に立っていた女性が困惑した表情で。

「あ、あの、この方は?」

「ば、バカっ! 月宮家と言ったら東方剣術四天王の一つだろう!?」

「剣術四天王?」

 片方の若い男に怒られていると、皐の後について来たティンが頭を捻った。それを見た護堂は顎鬚を撫で。

「何だ小娘知らんのか? 東方剣術四天王とは、この表の世界と呼ばれる東方大陸に居を構える四つの古き剣の家だ。蒼末、光栄、氷霊……そして、月宮。この四つの家を合わせて東方大陸の剣術四天王と言う」

「こーえい……? もしかして、ゆーこってやつ?」

「え? え、ええ。優子さんも立派な剣術四天王の末裔ですよ。と言うかよく知っていましたね、優子さんのフルネーム」

「うん、でこのじーさんも?」

「な、なんて口を利いているんですか貴方は!? こ、この人を誰と心得ますか! このお方は」

「よい。ただの老いぼれだ、戯言を口にする老人に過ぎん」

「そんな訳ありません! 護堂さんは立派なお方です!」

 否定したのは皐ではなく、隣に立っていた女性。それを見ていた皐は。

「えっと、この方々は?」

「ん、ああただの仕事仲間だ」

「仕事仲間、ですか?」

「ああ。この老骨と言えど仕事をして食い扶持を稼がねば意味が無い。わしはこの者達が出している週刊誌にコラムを出しておる。今は『最近の冒険者』と言うテーマでインタビューの途中であったのだ」

 護堂は説明を終えると皐は慌てた様子で頭を下げ。

「す、すいません! お仕事の邪魔を」

「いや、構わん。寧ろ良い、ただの観戦になる所で終わったのだが……小娘、わしと一試合するか?」

 護堂は目を閉じながら問う。

「え、あ、その、わ、私など」

「構わん。言ったであろうに、わしはただの老人だ。もしや、勝つのは貴様かも知れぬぞ?」

「ねえ、じーさんの名前って何なの?」

「ん、ああ遅れたな。我が名は蒼末、蒼末護堂。蒼末家と言う古い家の当主だ」

「蒼末……?」

 ティンは再び頭を捻る。

「もしかして、雪奈って知ってる?」

「む。娘だ。そやつがどうかしたか?」

「む、娘さんだったの!? じーさんって、結構若い!?」

「今年で61だな。で……」

 片目が、開かれる。突然、弾けたかのようにオーラが放たれる。その衝撃に誰もがたじろいだ。観戦者達は勿論、試合をしていた者達まで一歩引いた。

「どうだ、勝負するか? 月宮の小娘よ」

「っ、あ」

「上を見上げ、己より高みを目指す。総て若者に許された特権だ、生かすも殺すも貴様次第だ」

「――逃げると、思いますか?」

「ああ――思わぬ。貴様が、その刀を持つものならば、その資格があるのなら」

 護堂が腰の刀に手をかけ、皐もまた鞘口を握り締めた。

「では、いざ尋常に」

「勝負」

 瞬間、皐と護堂から手早く距離を取る。

はい、今回は物理面のみを視点に置いた場合作中屈指のチート級の実力を持つ護堂さんの登場です。

 この人は以前出て来た雪奈さんのお父さんで、とかまあぶっちゃけ作中で書いてる事此処で書いてもしょーが無いっすね。

 ああ、ちなみにこの人は魔法の才能は確かに持っていますが剣術修行に傾け過ぎたせいでろくに発達せず、作中の通り魔法使いのくせして見た目=年齢になると言うこの作品では非常に稀有な存在です。

 あと、剣術四天王について。

 剣術四天王は作中で書いてある通りの存在ですが、それ以外にも4000年以上の明確な歴史を持つ剣士の一族、という条件も存在します。また、この四つの家はかつて一国一城の主でもあるのです。

 その中で月宮、氷霊、蒼末、光栄の現在までの道のりは。

 月宮。

 大きな戦の波が失せた事を感じ取った事により即座に国を解体して適当な国と迎合させた後に一族全員が姿をくらまし、とある山奥に隠れ里を作って剣術修行に明け暮れている。この家は戦いに生きる事のみを至上としてあった為に伸し上がって国を取った一族ゆえに民の事など考えず、ただ戦のみを求め続けたが故の選択。現在では隠れ里に住みつつ、剣に接しながら生きており今でもスポーツ選手、密偵、軍人などを密かに出し続けている、ぶっちゃけどの家よりも政治に関わり続けている家。特に、この世界において忍と言えば大体月宮家の作った密偵および暗殺者とされている。今でも都市間連合や騎士警察隊の最終手段の一つとされており、またこの世に間違った忍者像を広めているとされているのも実は月宮家と言う噂も。理由としては『間違った忍者像が常識となれば、本物の忍の技を技と思わなくさせる為』とのこと。

 と、このように月宮は剣士としては正しいあり方と言う者がいる一方、政治家や上に立つ者としてはぶっちゃけ最低の下種に値する、と歴史家達は評価している。おまけに言えば、剣術四天王の中で一番早く国を捨てた一族でもある、と言う事が余計に拍車をかけており、一部では月宮を『剣に生きた狂人の集まり』とまで言う者も。

 まあ全部書くとなっがいので次回にまわしまーす。

 

 ではまた。

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