次の街へと
翌日、ティンは街角で佇んでいるきれいな着物を着て、三度傘を被っている女剣士に語りかける。
「おーい、皐ー!」
「おはようございます、お食事は済んでいますか」
「おう、皐は如何なんだ?」
ティンが声をかけたとたん、直ぐに皐は三度傘を外して挨拶をするが関哉の言葉は軽く流した。後ろから現れた格摩が。
「おう、一応食ってきたが……お嬢ちゃんはこれからかい?」
「いえ、私は自前の握り飯をさっき食したばかりでして」
「……旅するのに、おにぎり?」
「はい。最近の魔法技術は素晴らしいですね、時間凍結によりなまもの、とまでは行かなくてもある程度のものなら携帯出来るとは。これも前世紀の終わり頃に開発されたと言う時間凍結魔法の理論のおかげですね」
皐はそう言って短く切られた竹を口に含んだ。
「……おいティン、随分和風な友人が居るじゃねえか」
「皐んちは全部が全部自給自足品でな、刀以外は自分でこさえるらしいぜ。その竹の水筒に三度笠も手製だそうだ。下手したら袴とかも自分で作ってるのかも」
「流石にそこまでは。後、聞きかじった程度で月宮の風習を当然のように語らないでください、はっきり言って不愉快です」
関哉の説明に皐はそう鋭く言い放った。その様子に格摩はこっそりと耳打ち。
「おい、お前一体何したんだよ?」
「し、してねえよ。なんか向こうが勝手に機嫌悪いだけだよ」
「俺らにはめっちゃいい感じじゃねえか。何したんだよ」
「は、話しかけただけだよ。それですっごく毛嫌いされてる」
「ああ、皐はナンパとか嫌いだからねえ……」
気付けば皐を置いて皆が関哉とひそひそ話をしている形となっている。そこに気づいたのか。
「皆さん、何か?」
「いや、何でもねえよ。つうか、何で俺を嫌うんだよ、お前は」
「私、不真面目な人は嫌いですので」
そう言ってぷいっとそっぽ向いて歩き出した。
「あ、待ってよ。もう行くの?」
「ん? 行かないのですか?」
「んーいや、楓さんにお礼とかしてないしな」
「んーな細かい事気にしないでいいよ」
ティンが言うと後ろで声がした。後ろに振り向けば私服姿の楓が立っている。
「あれ、仕事は?」
「ティンちゃん、今日は日曜だよーあたし今日休みだよー流石に日曜は休むって」
からからと楓は笑いながら解説する。そうと分かれば。
「あ、じゃあその、ろくな御礼も出来ないで」
「いーよいーよ、餓鬼が変な事考えてねーで素直に受け取っとけって。無理なく返せなくなったときでいーからいーから。だから格摩、手前はとっとと好き勝手行って来いあほ」
そう言って楓は格摩の肩をバンバンと叩いて楓は何処かへと立ち去ろうとする。それを見た林檎は。
「もう行くのですか?」
「ん? そりゃせっかくのオフだしね、遊ばなきゃ損ってもんでしょーが」
そう言って楓は立ち去った。皐はそれを見届けて。
「中々に切符のよい御仁ですね。見て見てすっきりします」
「あー、確かに。何かこーすぱっとしていて見てて気持ちいいよね」
「んじゃ、取り合えず行くか」
「一先ず、隣町までこの一行で行くとするか。街道とおってすぐだしよ」
「そうですね、正直気の合わない人も居ますがそれも旅の醍醐味と言うやつなのでしょうね」
皐は関哉を一瞬見ると侮蔑の意志を視線にこめてそのまま振り返った。
「……本当、お前凄い勢いで嫌われてんのな。ある意味すっげえな、あんなに礼儀ただしいのに」
「おい皐! ちょっと待てよ! 俺お前になんかしたか?」
問いかける皐の反応は微塵も無く、皐は三度笠を被りなおして先を行く。
「あれ、皐は一緒に行かないの?」
「いえ、折角ですしご同行しようとは思いますが……正直気に食わない人が居るので」
「いや、あいつの一体何が気に入らないって言うんだよ。俺は一応一緒に飲み交わした相手だし、そう悪い奴とは思ってねえしどっちかと言うとフォローしたいんだが」
「……私、不真面目とか、一本気の無い人嫌いですから」
皐は振り返る事もせずに格摩にそう返した。格摩は溜息混じりに後ろの関哉に振り向くと。
「……お前、あの子にナンパしたのか?」
「ったりめーだろうが。可愛い子は一回茶へ誘うのが俺の流儀だ」
「それが原因じゃねーか!?」
「んー? いや、それじゃあねえっぽい」
関哉はぽりぽりと頭をかきながら言った。
「は、はあ?」
「あいつ、ナンパ自体は嫌ってねえよ。寧ろ好きみたいだ」
「じゃ、じゃあ何で」
「んー、皐に声をかけた後他の子にも直ぐに声かけたからかなあ……それが気に入らないんじゃねえか? あいつ、そう言う一途さを好んでるからなあ」
「……何か、お前、あいつの事をよく知ってるっつか、見てるな」
格摩は感心するように呟くと関哉はおうと答え。
「可愛い女の子を褒めるのは男の役得であると同時に義務だからな」
「なるほどな、その一点だけは見習いてえもんだな」
「まあ、そんな感じであいつからすると俺は不真面目なんだろうなあ。何せ一人だけ口説かずほいほいと彼方此方口説いて回ってんだから」
「……分かってんなら何でやるんだよ」
「他にも可愛い子がいんのに、何故くどいちゃいけねえんだよ」
関哉は何を当たり前の事を言っているんだと言わんばかりに返す。格摩が呆れ顔で言おうとすると。
「貴様ら、いい加減にしろ。ついて来る気があるのなら歩きながら雑談しろ」
更に呆れ返った表情を浮かべた林檎が、そこに立っていた。
「ん、ああ悪い悪い」
「あの剣士二人はもう街を出たぞ、愚者共。来るなら早くしろ」
林檎はそう言うと体を翻して出口の方へと歩いていく。格摩は頭をかいて。
「しゃーね、走って追いかけるか」
「行くか、おーい林檎ー! 一緒に走るぞー!」
そう言って関哉は格摩と一緒に駆け出すと同時、林檎はポツリと。
「要らん」
言うと、風を纏って飛び上がっていた。
「……あいつ、風も使えるのか!?」
「火以外にも使えるかなとは思ってたが……風も使えるのか!?」
言って、あっと言う間に消えていく林檎を見送り、追いかける様に二人は走り出した。場所は無論知ってるし、そんなに話し込んでいた記憶は無いから街から出てもそんなに遠くにはいってないと思っていたが。
「……此処だよな?」
「おう。此処だぜ?」
関哉と格摩は周囲を見渡すが誰も居ない。
「……もしかして、もう向こうに着いたとか?」
「いや、にしちゃあ早すぎるだろう」
「ティンさん、何故道を知らないんですか?」
「え、皐が知ってると思ってた」
と真後ろから声が出て来た。二人は至極無表情で後ろに振り返ると二人の女剣士がこっちに向かって歩いてきた。
「あれ、待ってたんですか? 置いていっても良いのに」
「あれ、話し込んでるから置いてったのに何でもう居んの?」
「お前ら、なあ……」
「……面どくせえ。行こうぜ」
じゃ、また。




