さて、飯を食おう
その後、浅美は二人を背負って石橋の上に飛び降りる。
「はい、着いたよ二人とも」
「有難う」
「ども」
瑞穂とティンは素早くお礼言うと浅美から降り、浅美自身も手を掲げると背の四枚翼が光の粒子に変化し光の羽根が生み出され、浅美の掲げた手の中に納まった。
そして浅美はそれを素早くポケットの中に仕舞い込む。
「ねえねえ瑞穂さん瑞穂さん」
「……何?」
「一緒に着いて行こうよ!」
「落ち着け。まずそこから」
「えっとね、瑞穂さんが仲間になった!」
「良いから落ち着いて。一先ずそこから始めようよ」
「だから、瑞穂さんが瑞穂さんと瑞穂さん!」
「何?」
「……何で此処に居るの?」
「そうだね、まずはそこだね」
「……いや、何このコント」
ティンは二人のやり取りを見て取りあえず感想を述べた。催促したのは誰だよ。
「この辺りの石橋には地下に遺跡があってね。興味が湧いたから中を探索してたの。そしたら行き成り岩盤が落ちて来て吃驚して取りあえずむかついたから犯人ぶん殴ろうと思って徘徊してたら犯人っぽい人見つけたから殴りに行った。
以上」
「分り易い上に目的変わってないかと思う様な説明有難う」
ティンは浅美と暫く一緒だった賜物か、一先ず突っ込んだ。
「じゃあ一緒に行こうよ!」
「浅美さん、一先ず何かのプロセスが飛び抜けてる」
ティンと浅美は同時に「プロセス?」と首を傾げ「過程だよ」と瑞穂が突っ込み返し、ああと手を打った。
「……で、私としては別にどっちでも良いんだけどさ。
一先ず、近くの街に行こうよ。お互い言いたい事聞きたい事はまだ沢山あるだろうからさ」
そう瑞穂が促す。残り二人は首を縦に振って同意すると瑞穂を先頭に歩き出し――すぐさま浅美が先頭に立った。
「浅美どうしたの?」
「瑞穂さんが方向音痴だって忘れてた」
瑞穂は遠い目をして明後日の方向を見る。
「おぉい」
ティンは思わず突っ込んだ。
街道とは到底思えない森の中を進むと、木々が門の様に立ち並んで居るのが見える。そこを潜り抜けた先には少し古めの街がある。全体的に古き良き物を思わせる石造りの街並みだ。
街に着いた三人は顔を向きあう。
「で、早速どうする?」
「一先ず昼食でも取りながら話そうよ。もう良い時間だし」
「そうだね。じゃあ皆は何が食べたい?」
「肉!」
「分かった。じゃあ今日はハンバーグに」
「焼き肉屋に行こう」
瑞穂は仕切る様に言うと歩き出す。
(……このままで、良いのかな)
ティンはふと、顔を俯いて考え始める。先程の戦闘。結局助けて貰うだけだった、あの戦い。
(やっぱり、あたしは何も出来ずに浅美や瑞穂とか言う奴に助けてもらったし……剣が。まともな、砕かれない剣が……そうだ。砕けない、絶対に砕けることの無い、剣。
剣さえ、あれば……! あれ、ば……どうにか、なるかな……? 浅美とあいつの一騎撃ちも、ろくに見えなかったし。剣が、あっても……)
「ええーなんで?」
「浅美さんはお金使い過ぎるから。後サイフも出して」
浅美は言われて財布を取り出すと瑞穂がぱっとそれを回収する。
(あっても……あった所で、あたしに何が出来るんだろう。剣なんて無くても……あたしの、あたし如きの剣じゃ……)
ティンは力なく頭を垂れ、右手で虚無を握り締める。
「ああーわたしのサイフー!」
「とり合えず没収。一先ず皆の共通資金と言うことでわたしが管理するね」
「そんなー! 酷いよ瑞穂さん!」
(……浅美って、結構騙されやすいな)
ティンはちょっと離れた所から二人の騒ぎ様を見てそんなことをぼーっと思う。二人はティンを置いてそんなやり取りをしながら街中を歩いていく。
そんな中、瑞穂が後方に居るティンに首を向けた。
「……どうしたの? ティンさんも来なよ」
「あ、うん」
二人は街の中の焼肉屋に入り、適当な席に座って肉を焼きながら情報交換を行っている。
「で、ティンさんの神剣を狙ってる奴らがあの仮面の連中と」
「うん、そうだよ」
浅美は肉を引っ繰り返しながら答える。
「ふぅん、で連中のアジトの目星は?」
「目星?」
「そ」
瑞穂は焼き上がった肉を箸で掴み、たれを入れた小皿に移す。ティンも瑞穂と同じ作業をしつつ、彼女と言葉を交わす。
「いや、よく分かんないんだよな。そう言うの。あいつらいつも突然沸いて来るし。ほぅいや、ほうやってふるんだろ?」
「口に物詰めたまま喋らない」
「むぐっ、はりんみたいなこふぉひゅうな……」
ティンは喋りながら次々と肉を口に放り込んでいると瑞穂が咎める。
「一先ず、この話は一旦置こう。後で色々調べておく。とり合えず食べよ」
そう言って瑞穂は金網の上で焼かれる肉を弄くる。ティンは瑞穂の言葉に納得し、手にした大盛りご飯に焼けた肉を盛っていく。浅美は浅美で肉の匂いを嗅いでは顔を顰め、仕方なく金網に置く。
「浅美は何やってんだ?」
「気にしないでいいよ、病気みたいな物だし」
「病気?」
「酷い……」
「はい?」
ティンは浅美の呟きに頭を捻る。
「酷い、この牛肉、酷い! これ、明らかに肉にするべきじゃない牛を肉にしてる!」
「……瑞穂、浅美は何を言ってるの?」
「浅美さんは魚肉や獣肉にはちょっと五月蝿い人でね。不味い肉にはああ言う風に文句を言い出すんだよ」
瑞穂は焼けた肉にたれをつけ口に放り込む。
「むーっ、だから焼肉屋は嫌なんだよ……こんな風に育てたんじゃ牛さんが可哀想だよ。育てるならもっとちゃんと」
「あ、すいません。これとこれとこれを」
ぶつくさ言っている浅美を放置して瑞穂は側に来た店員に素早く追加注文を行っている。店員は短く返すと素早く立ち去った。
「なに頼んだの?」
「取り合えず、多少でも値が張る奴でも持って来れば文句も引っ込むと思うよ」
瑞穂は言うと空いた所に新しい肉を配置していく。ティンはご飯の上に山盛りとなった肉をご飯ごとかき込んでいる。続いて浅美がまた肉の色を見たり匂いを嗅いだりして表情により一層睨む。そんな事をしている内に新しい肉がやってくる。その瞬間、浅美は目を見開いて店員さんの手からぱっと皿を奪う様にとる。
「気にしないでください」
「あ、はい」
瑞穂は間一髪入れるように店員さんに言葉を伝えると、一先ず一礼をして立ち去る。浅美は更に並べられた肉を凝視し、匂いを嗅ぐ。
「……この匂い、色合い……」
浅美は目と鼻で牛肉を吟味するとそれを手掴みで金網に並べる。
「ねえ、良いの?」
「良いの良いの、浅美さんは寧ろ黙って食べてる方が納得してるから」
瑞穂は何時もの事と言わんばかりに焼けた肉と野菜を回収している。
「そうなの? 所で瑞穂」
「何?」
「……色々回収してる割に、全然食べてないけど」
「要る?」
ティンが瑞穂の更に積もりに積もった焼けた肉や野菜等を箸で示すと、瑞穂はそっとその皿をティンの元に置く。
「……貰う。ご飯おかわりー!」
ティンはまだ半分も減ってないご飯を片手にそう言った。
三人は食事を終え、店を出ると歩きながら話し始める。
「じゃ、取りあえず買うもの買っちゃおう。浅美さん、荷物見せて」
「はい」
浅美は言われてほいっと肩に下げていたリュックザックを手渡す。瑞穂はぱっとそれを奪い取り、中身を調べ始める。
「……瑞穂っていつもこんな感じ?」
「ん? うん、瑞穂さんは大体こんな感じだよ」
(……うわあ)
ティンはがさがさと浅美の荷物を漁る瑞穂を複雑な表情で見つめていた。
「……浅美さん、なんで魔力コンロや鍋しか無いの? 傷薬とか持たない?」
「あ、そうだ。瑞穂さん、薬品系そのまま持っていかないでよ!」
「……いや、それは浅美さんが物臭なだけでしょ」
呆れながら瑞穂は荷物確認を続ける。結果、瑞穂は立ち上がって浅美に心底呆れた表情を見せ。
「浅美さん……鍋以外にも何か買おうよ……」
とだけ言った。流石のティンまでその発言にあきれ返る。
「え、ちゃんとクーラーボックスに食材入れてるよ?」
「……そう」
瑞穂は生返事を返した。
「えっと、取りあえず必要な物を買い揃えて……一応狙われてるんだし単独行動を控えるように。ティンさん、欲しい物とかある?」
「えっと……剣が、欲しいかな?」
「分った。じゃあ、まずは武器屋に行こう」
「場所分るの?」
「すいませーん、道を聞きたいんですがー」
ティンの問いに対し、瑞穂は返す様に通行人の女性に話しかけた。
「はいはいなんでしょう?」
「武器屋は何処ですか?」
「ああ、武器屋ならそこら辺に色々あるよ。
此処は古都ハルベルトと言われるだけあって中々に上等な斧系の武器を売っているのよ」
「……斧? 剣は無いんですか?」
瑞穂は表情に疑問の色を浮かべて聞き直す。
「剣ですか? 剣なら古都ブリンガーにしかありませんよ」
「え、此処に剣無いの!?」
続いて割って入ったのはティンだ。
「え、ええ。此処古都ハルベルトは聖都セントラル・パラディンの周囲に作られた街でして。古都ブリンガー、新都ハスタ・スピアの三つに囲まれて出来ているの。古都ブリンガーに行くなら、聖都セントラル・パラディンから経由した方が良いわね」
「そうですか。有難うございます」
瑞穂は一例すると通行人の人は立ち去った。
「と言うことだから、武器の購入は別の街まで待って」
「あ、うん。で、何を買うの?」
「備品を色々。浅美さん、銃弾は?」
「何を言ってるの、瑞穂。浅美が銃弾が要る訳ないじゃん」
ティンがないないと言ってると浅美は荷物の中から拳銃を二丁取り出し、中身の弾倉を取り出して更に銃弾と書かれた袋まで取り出して中身の確認を行う。
「んー、最近使ってないからって弾丸の補充やるの忘れてたなあ」
「……何当たり前のように拳銃取り出してるんだ? と言うかそんな話聞いてないんだけど!?」
「じゃあ銃弾も補充出来るかどうか探してみようか」
そう言うと瑞穂は踵を返し、歩き出す。
夜。夕食を取った三人は宿を取った。
「流石にこの辺で銃弾を取り扱っているお店は無かったね。聖都って所にも無いってさ。暫くは剣だけで戦ってね」
「うん。暫く銃を使ってなかったし大丈夫だよ、瑞穂さん」
「そう」
瑞穂は軽く頷くと次はティンに振り向いた。
「ティンさんも良いね」
「……え、あ、うん」
「どうかしたの?」
「……その、さ。瑞穂と浅美って、友達、なの?」
「そうだよ!」
二人の会話を遮る様に浅美が乗り出してそう言った。瑞穂は溜息混じりに語りだす。
「元々私と浅美さん、後他の人達と一緒に旅をしてたの。色々な所をね。ずぅっと……でもさ、だんだん一人で居たくなってね。それで暫くパーティを抜けたつもりだったんだけど……結局解散しちゃったんだ」
「うん。皆、瑞穂さんがいなくなったら次々にバラバラになっちゃってね。
瑞穂さんがいたから、皆が集まってたみたいにいなくなっちゃってね……火憐さんも最後まで皆を引き止めようとしたんだけど……メイリフさんと林檎が「一人の都合に合わせる必要は無い」って言って……結局、皆いなくなっちゃった」
「……そう。火憐が……迷惑、かけたね」
瑞穂はそう言って細い目で窓を見つめる。遠い国に思いを馳せる様に。遠い空の下に居るであろう、友人を思うかの如く。
「……もし、かしてさ。あたし、邪魔?」
「ううん全然! わたしと瑞穂さんは恋人って訳じゃないし」
「……は? 恋人?」
「ん? ああ、瑞穂さんには火憐さいだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!」
「ねーねー変な事をほざく馬鹿は貴方かなー貴方かなー?」
「みみみみずみずみずみず瑞穂さんあた頭頭があああああああああああああっ!?」
瑞穂はすぅーっと浅美の背後に近づくと、そのまま頭を締める。さて、読者たる皆さんはご存知だろうか?頭にもぎりぎり関節とも呼べる部分が存在するのだと。何が言いたいか? つまり、今彼女は浅美に関節技をかけているのだよ!
「……わあ、仲良い」
「そ?」
「うん。と言うかさ、女同士で恋愛とかありえないでしょ?」
「うん。生物学的にあり得ない。同姓には人間の本能的に恋愛感情を抱いたり、欲情する事は出来ない」
瑞穂は言うだけ言うと浅美を開放する。
「痛いよー」
「うん、なら変なこと言うの止めようか」
浅美はまだ唸っている。ティンは、そんな二人が眩しく見えた。
(これが……友、達……あたしには……華梨が、居るか。でも、今は……)
「どうしたの? ティンさん」
「あ、いや。なんでも」
んじゃ