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平行世界との出会い

 ティンは周囲を見渡し、もう一度瑞穂と思わしき人間に目を向ける。如何みても目の前に居るのは瑞穂だ。体躯は違うし、髪は黒に見えそうなほど蒼い。この女性は一体誰なのか。

「えっと、あんた、誰?」

「人に名前を尋ねる時は自分から……と言われなかった?」

「えっと……あたしは」

「あれ、貴方……もしかして」

 瑞穂らしき人はティンの顔をじろじろと見る。そして呟いた言葉は。

「メアリー?」

 瞬間、ティンの頭中に砂嵐が吹き荒れる。耳にノイズが走る、目が砂嵐に呑まれる。なんだろう、これは。一体なんだと言うのだ。メアリーとは誰か。何処かで聞いたような。聞いていない様な。忘れたいような。

「大丈夫?」

「あ――うん」

 ティンは瑞穂に声をかけられ、漸く現実へと意識が戻る。そこで初めの問題へと戻った。

「えと、さ。あんた、瑞穂だよね?」

「ん? ええ、そうだけど……貴方、誰? メアリーみたいだけど」

「あの、さ。瑞穂、何で髪が蒼いの? と言うか体が太くなった? と言うか……やたら、エロくなった?」

 そうだ。服装はそうだが、こちらの瑞穂の全体的のイメージは官能的と言うか、ド直球で言うとエロい。腰周りといい、くびれといい、ティンの知ってる瑞穂と比べると圧倒的にこっちの方がエロい。

「え、エロく!? ん? それって……そいつ、漆黒の氷姫とか言われてる?」

「え、うん。何で?」

「私、そいつと違う。貴方に……うーん、どう説明すれば」

 瑞穂と認めた彼女は首に手を当てて考える。

「そうだね……じゃあ貴方、好きな食べ物ってある?」

「肉」

 ティンは迷わず答えた。蒼瑞穂は無視して話を続ける。

「じゃあ牛肉と豚肉があるとしよう。貴方はどっちを食べる?」

「豚肉」

 またもやティンは迷うことなく率直にいいきった。

「そう。でも今あなたは豚肉を食べると言ったけど、牛肉を先に食べることだってあるよね?」

「……え? どう言う事?」

「今のあなたは何を基準して豚肉を選んだの?」

「んー特には」

「つまり、あなたは牛肉を選んだ可能性もある。この様に、貴方の行動しだいで二つの世界に枝分かれしていくと言う事。私はこれを、世界線と言う」

 蒼瑞穂の言葉にティンは混乱していく。と言うか一体何を言いたいのか分からない。

「一体、何を言ってるの? そんな事で、世界が分かれるの?」

「平行世界――パラレルワールドって知ってる?」

「えっと、何だっけ? 漫画で読んだ気がする」

「いわゆる、もう一つの世界。枝分かれした別の時間軸の世界だよ。流石に、世界全体で言ったらあなたの夕食の内容なんて些細なことだけどね。

 兎にも角にも、そうやって世界は枝分かれして行く。世界全体はそうやって幾つものあり得た可能性に従って大なり小なり分かれて行くんだ。私、氷結瑞穂もその一つ。彼女には昔大きな分岐点が存在した。後々の人生、いや自身も運命さえも決定づけるほどのものがね」

 まただ、ティンはそう思った。何故だ? 何故こんなにも砂嵐が舞う? 受け入れてはいけない知ってもいけない触れてもいけない全てが壊れる、そんな警報が鳴り響く。

「私はね、そこで分岐したもう一人の氷結瑞穂。昔、あの子が」

「……黙れ」

 嫌だ。聞きたくない。そんな話はあってはいけない。そう、直感する。一体なんなのだろう? 自分は何を恐れている? 何だ? 何を恐れている?

 しかし、そんなティンの思いを無視して蒼瑞穂は言葉を紡ぐ。

「選んだもの。私は、選ばれなかったもう一つの可能性。漆黒の氷姫となった彼女が選ばなかった可能性、その先が私」

 ティンは、彼女の中の世界が、何かが罅割れて行く。ああつまり、そうか。そういうことなのか。つまり、彼女はこの存在を認めたくない、と言う事で。その可能性を全力で否定したいと言う事で。

「じゃあ、メアリーって……?」

「変な事を言うね。メアリーは貴方の事なのに。もしかして、今はメアリーじゃないの?」

「いっ、今も昔も、あたしはティンだよ!」

「……ふむ、おかしいね。あなた、メアリーじゃないの?」

 青瑞穂はさも当然のように聞いて来る。だからか、ティンは怒りの眼差しでこう返した。

「あたしはッ! メアリーなんて奴じゃない!」

「つまり、今の貴方はスーウェルじゃないと。そう言えば言ってたね、メアリーの両親は娘を捨てるか迷ったって。ふぅん、貴方がそう」

「文句、あるのかよ!?」

 ティンは気が付くと剣の柄に手をかけ、抜剣準備に入っている。対する蒼瑞穂はもう用は無いと言わんばかりに背を向けると。

「帰りたいなら、そこの穴に入るといいよ。わざわざ空けて置いたから、さっさと行けば」

「え、穴って」

 ティンは言われて振り向くとそこには大きな穴がある。その先、そこには見慣れた世界があった。

「え、あの、どゆこと?」

「早く行きなって。私の魔力で維持してるんだから。その先の穴に飛び込めば貴方の居た世界に戻れるよ」

 そう言われたティンは向こうを覗くと尻を蹴り飛ばされ、異次元空間へと飛ばされる。ティンは何事かと体を捻ると蒼瑞穂は静かに手を振って立ち去った。

「あ、おい! 何をしてくれ」

 言ってる間にティンは穴の中に入った。直後に彼女は一言もしゃべれなくなる。理由は一つ、彼女の入った――いや出て来た場所は何処かの街の路地裏であった。背中で受身を取ってそのまま腰を上げて足を地に着けて尻餅をついて背中で受身を取り腰を持ち上げて足を地に着けて尻餅をついて――。

 ようは? はい。

 出て来た衝撃でごろごろと街中へ転がって行ったのでした。彼女は路地裏から表通りに出て電柱に激突してやっと止まった。

「っててて……おい! 人を蹴っ飛ばすなんてどう言う事だ!」

 ティンは自分が出て来た穴に向けて怒鳴るが既にそんなものは無く、周囲の人々は一体何事だとティンを頭が逝った人間だと言うように見ている。

「……というか、戻すなら元の場所に戻せよ! 何処だよ此処!?」

 喚いてティンは周りを見る。するとティンを見ていた人々は慌てて目線を逸らしてそっぽを向く。対するティンは急にこんな反応を見せる人々に疑問を持つが一先ず歩き出した。

 と、そこで彼女は空腹を感じ取る。原因はま隣に現れた店だ。ティンは横を見ると、ガラス越しに店の様子が見える。それは、テーブルの中に金網があると言う不思議で――もない、ただの焼肉屋だった。

 彼女はじゅるりと口から溢れた涎を飲み込む。

「……美味そう」

「ああ、確かに。こんばんはこう、カルビにビールで一杯決めてえな」

 隣から野太い声が落ちてくる。ティンは店から前に向けると白い壁がそこにあった。

「上だ上、見上げろよ」

 言われてティンは視線を上げる。そこには茶髪ショートの男の顔が置いてある。つまり、目の前に男が居ると言うことだろう。

 背は高く、肩幅も広い。白いYシャツの上に草臥れたジャケットを羽織、首にはネクタイを締めている。ちょっとぼろいスーツを着ていると言う感じか。

「よ。お前さん、お一人かい? こんな可愛い子が一人で腹ぁ空かせてるなんて駄目だぜ」

「……ナンパ?」

「ん? いんや。可愛い子が涎たらして焼肉屋の前に居たもんだからついつい声をかけちまったよ。俺ぁどっちかと言うと硬派で通してんだが、あんたが可愛いからついよ」

 男は明るく、笑いながら語る。その様子からはティンとしてはいつも思うこの手の輩への嫌悪感は無い。

「可愛い? あたしが?」

「おう。あんたみたいな可愛い子が一人でふら付いてたら巷の男どもは黙ってねえよ」

 ティンは言われると一瞬考えるような表情を見せ、笑顔で行った。



「じゃあ可愛いあたしに焼肉奢ってよ!」



「そんじゃ、また今度」

 男は無表情になると踵を返して立ち去る。

「って、ちょっと待ってよ!? 何で焼肉奢ってくれないの!?」

「俺は可愛い子にしか奢らない主義でな。悪いが一昨日来な」

 そう言ってティンに振り向く事無く立ち去る。ティンは両手で男の手を掴むが男は紳士的にその手を払う。

「待てって言ってるだろ!? いいじゃん奢るくらい良いだろ!?」

 ティンは空腹で苛立ってるのか、声を荒立てて男に食いつく。

「――お前、何やってんだ?」

 ティンは言われて発言者へ視線を向ける。青いロングコートを纏う冒険者を見てティンは目を見開いていった。

「ナンパ、野郎?」

 じゃ、また。

 次回からやたら男臭くなります。

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