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役者はもう一人

 ティンは取り合えず叫びたいことがあった。

 まず、有栖とか言う人の研究が五日間で終ったのはいい。その間不眠不休の風呂入らずはまあ、ギリギリ良いとしよう。だから瑞穂と火憐と有栖の三人で銭湯に行くのも……まあ良いとしよう。だが。

「何で一人増えてんの!?」

「えっと……火憐、この馬鹿面晒した金髪美少女は誰? 拉致って来た?」

「違うからな、メイリフ」

 銀髪ショートの姉御と言う感じの女性が笑顔で失礼な台詞をぶっかます。直後には確りと火憐の突っ込み付だ。

「拉致って来たんじゃない、こいつから来たんだ」

「あの、火憐さん、訂正する箇所がおかしいと思うのですが?」

「そうだよ! 人を馬鹿馬鹿言うな!」

 雪奈(黒髪版)がそんな事を静かに告げ、ティンも便乗して怒鳴るが。

「どうでもいい」

「ああ、どうでも良いな」

 メイリフと火憐は気にせずにそう言い切った。取り合えずティンは呆れた声で。

「で、そいつ誰?」

「メイリフです。ご機嫌麗しゅう、(made)(moi)(selle)?」

「今更取り繕っても遅いことに気付けアホ」

「アホとは酷いなぁ、なあ瑞ちん」

 直後、瑞穂(銀髪版)はメイリフの後頭部に向けて豪速パンチを送り込むがメイリフはひょいっと腰を折って回避する。

「変な渾名を付けないで」

「と言うより瑞穂さんは私の身体でそういう事しないで下さい!?」

「いや、それよりいきなり後頭部に殴りこまんでくれ。あたしじゃなきゃ直撃だぞ多分」

「と言うか火憐、メイリフさんは基本的に法螺と言葉遊びで喋るから真面目に聞いてると疲れるよ」

「なあ、収集付けないか。いい加減に」

 このコントに終止符をつけるべく、有栖がそう言った。問題があるとしてはその本人の目の下にはくまが出来ていることだろう。

「……この人、寝かせた方が良いんじゃ」

「うん、分かった」

 直後、瑞穂はすっと有栖の鳩尾を殴り込んだ。当人は何か言いたげであったが、瑞穂は一切に気にしなかった。雪奈は大いに気にした。

「って、だから! そういう乱暴な体の使い方は止めてください!」

「……いや、どっちかと言うと私の体の方が脆いんだけど」

「うん、確かに。瑞穂の方が防御力は低いなあ、体力は雲泥の差だが」

「え、そうなんですか?」

 雪奈と火憐が話し込んでるとメイリフは有栖を四次元バッグに詰めると笑顔で手を鳴らし始める。

「はいはーい、じゃあ準備初めっぞー」

「って、何でお前が仕切んだよ。つーか、有栖を鞄に詰めんな」

 メイリフはバッグを提げるととことこと歩き出す。一向はその後ろにほいほいと付いて行く。火憐は友人への対応にむかついたのか、ムキになって指摘すると。

「いや、これ十分荷物じゃん。術式の方はこいつの研究成果をチラみして大体理解した。準備くらい出来るよ。実行出来るのはもっと時間掛かるが」

「……リアルチートを目にした気分って、こんななのか?」

「曲がりなりにも古代王族直系だしねーあんぐらいならハナマハダの王立図書館の一角に基礎があったし、魔力の色が違うだけで一週間もありゃあたしでも出来るよ。んで、誰だい? 自分の身体捨てて別の人間になりたいなんて馬鹿は。ちょっと顔の骨格変わるまで殴りたいんだが」

 火憐はあっけらかんと下手をすれば人一人の人生が崩れ落ちそうな所業を行ったメイリフに対して辟易したような顔をする。メイリフはその言葉に対して逆に呆れたような表情を見せた。

「大体リアルチートとは失敬な。こりゃ寧ろチートを凌駕して征服するバグだよ。こちとらかつて世界中の英知を掻き集めた魔道図書館の館長さんを背後霊とご先祖様にもつんだぜぇ? 凡人と超人を一緒にしちゃ可哀想だろ、酷いのは一体どっちなのかは考えてみろよ」

「その台詞をお前に返そうか。凡人と超人を同じ舞台に上げたの誰だよ」

「それこそ失敬な。この女のやった事は正直あたしとしちゃ拍手喝采もんだぞ? 自分の専門外の研究でここまでのもんをよくもまあやったもんだ。寧ろ此処までの大掛かりな儀式術式まで用意して誰の精神を替えようってんだ」

 メイリフはそう言ってにやけて見せた。表情はにこやかではあるものの、瞳には明らかな侮蔑の色が混ざっていた。それを見て溜息を吐いたのは火憐だ。

「瑞穂と雪奈だよ、まさかこの状況を見て分からんとでも言う気か?」

「……は? え、何、その程度のことに大掛かりな術式使おうとしてんの?」

「いや、待て手前。チートもいい加減にしろ、こちとら瑞穂と雪奈の知恵を振り絞った結果なんだぞ、この程度とは何だ」

「いや、こんぐらいならごっつんこすりゃいんじゃね? それが原因なんだろ?」

「まあ確かにそうだけど」

 メイリフのあっけらかんとした答えに瑞穂は呆れるように応えた。

「ならあれだ、電気系統の術式で脳内電波を繋げて送信しあえば」

「え、出来るの!?」

「一応。術式の調整と準備に一ヶ月要るけど」

「出来たんだ!?」

 エレナはメイリフがあまりにも自分が以前否定した術式をあっさりと肯定された為か目を丸くして驚いた。一歩間違えば顔芸クラスの表情つきで。

「と言うか、人間の意識って大体が電気信号なんだぜ? 出来ないって思う方がおかしいだろ」

「でで、でもっ、だからってそんなの魔法で干渉出来る訳」

「ああ大丈夫大丈夫、それくらい魔法の許容範囲だから。大体、こんなもんがあるんだから電気系統はもっとあると思うのが自然だろ?」

 エレナはへなへなと自分の勉強不足を認めて引き下がった。



「ねえ、一つ聞いていい?」

「なんだい金髪アホ面少女」

「……その呼び名は変えろよ」

 一行は荒野の一角に集まっていた。メイリフは荒野の一角に盛り上がった岩に座り込んでおり、彼女の目前の地面が勝手に字を描いていく。ティンはそんな彼女に問いを投げるが、彼女の台詞に眉をしかめる。

「いーじゃんいーじゃん、で。何聞きたいん?」

「よくはない……でさ、何でこう……人格交換術式なんてもの作ったの?」

「ああ、それね。こいつは単純な話、不老不死を目指した結果だよ」

「ふろー不死? 何だっけ、死なない人?」

「そーそーよくしってんな。人間には寿命がある。これは人の寿命を超越しようと試行錯誤を繰り返した結果だよ」

 メイリフの言葉にティンは頭を捻った。

「何でまたそんな事すんの?」

「魔力ってのは心の持ちようによっては長生きできる。魔力には元々精神に同調する性質があるゆえ、若い姿が長く続くことによって精神自体が疲弊しない限り見た目の年齢が上がることも非常の遅い……が、結局それでも延びる寿命は長くて二百年が限界だ。何故だと思う? めんどいからいっとくと、人間には“癌”とも言える機能が一つ存在する。そいつの名は、自滅因子(アポトーシス)

「アポ、何だって?」

「アポトーシス、自滅因子を意味する言葉。自滅因子と言うのは……有体に言うと自殺願望かな」

 ティンの言葉に続くのは瑞穂だ。

「所謂、自身を滅ぼす因子とかそう言うの。生物である以上、避けては通れないもの」

「悪く言えば生きることは辛いから死んじまおう、良く言えば十分生きたから死んじまおう。そんな感じ。こいつを乗り越えないと、幾ら寿命が無限になろうと幾ら老いない身体を得ようと意味が無い。最終的には自らを滅ぼしてその一生に終わりを告げる。

 おんもしれぇよなぁ、人は死に物狂いで不老不死を夢見てそいつを求めた。求めて求めて求め続けて、果てにあったのはこの癌細胞こと自滅因子さ。こいつを越えるのに色々考えて考えて考え抜いた先にあったひとつが人格交換。つまり、古い身体にしがみ付くから自滅因子に負けるのだと思った奴等が手にした奇跡だよ。ま、失敗だがな」

「んっ……」

 メイリフは一人で長々と語ると鞄の中で呻き声が漏れる。気にせずティンは続きを促す。

「失敗って?」

「身体を取り替えようが自滅因子にゃ勝てない。はっきり言って無意味だよ、自滅因子に勝つには永劫に続く目的が最高だ。何時までも終わろうと思わない、終わりを認めない許さないと言う強固な意志こそが自滅因子に勝つ最も有効な手段だよ。ま、目的に飽きちまったらアウトだがな。

 だがこの自滅因子、人を人たらしめる最大の要因なんだぜ? こいつがある限り人は人であり続ける。逆に言いや、こいつを越えた先にこそ人外と言う結果が出る」

 そこまで言ってメイリフは終ったと言わんばかりの笑顔を浮かべる。ティンは一体何なんだろうかと思うと気付く。地面に魔法陣が描かれている。

「さて、儀式陣は出来た。んじゃ、後はこの女起こして魔力を注いで――」

「何だ、あれ」

 火憐が何気なくそう言った。その先にあったのは、仮面の黒マント達。

「ん、さあ。いいじゃんなんだって」

「……て、敵襲!?」

「は? 敵襲って雪奈、何でだ? あんなの通りすがりの」

 メイリフはかんけーねーだろと言わんばかりにそっぽ向くと仮面集団が一気に襲ってくる。即座に対応するのは火憐とティンとエレナだ。火憐はT字型の物を手に取ると炎を生み出し、刃にして剣とする。ティンも即座に白銀の騎士剣を引き抜いて駆け出す。

 その光景にぽかんとなるが、メイリフは何か感付いた様に岩場から飛び降りると駆け出した。

「やばい忘れてた、瑞穂は世界最上級の問題収集器だった! くそっ、久し振り過ぎて失念してたわ!」

 そういうとメイリフは両の腕を眼前に置き。

我が(Myflesh)骨肉(andblood)(are)鋼鉄である(steel).」

 そう口ずさんだ瞬間、メイリフの半身が鋼鉄の肉体へと変化し、そこから繰り出されるストレートパンチが思いっきり仮面の男の顔面を打ち砕く。

「有栖、起きて起きて!」

「瑞穂さん、起こす方法が首振りって如何なものかと」

 瑞穂は思いっきり有栖の肩を掴んでがっくんがっくん揺らしていた。そうすると有栖は瑞穂の頭を殴る。

「ああっ、それ私の身体!」

「起きとるわ! 何度も身体を揺さぶるんじゃない!」

「じゃ、やって」

「いや、いきなり起こされてやれって何を……って、あれ、全部出来てる?」

 有栖は周りを見渡して準備完了しているこの状況に呆けた。が、瑞穂が促す。

「良いから早く! 戦闘が始まってるから!」

 言われて有栖の行動は早かった。魔法陣に魔力を流して術式を起動させていく。

「誰がやったのかは分からんが、これなら直やれる。さあ行くぞ!」

「瑞穂ぉッ!」

 直後、ティンの叫びが木霊する。仮面の男達が三人の下へと向かっている。

「させるかコードチェンジッ! “刹那”ッ!」

 その間に入ったのは、エレナだ。彼女の手にしている杖が戦斧から大鎌に変化して薙ぎ払うがそれでも合間から漏れていく。

「有栖さんまだですか!?」

「おい、前衛は何をしている!?」

 直後、有栖を無視して瑞穂――の身体を持った雪奈を狙った仮面の男は直後にバラバラに細切れとなっていた。その破片が飛んで雪奈の足元へと転がり。

「わ、きゃっ」

「あ」

「え」

 瑞穂と有栖は呆気にとられてそれを見ていた。そして転んだ雪奈と瑞穂の頭が激突し――その瞬間、魔法陣から光が立ち上った。

 では、また。

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