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電光と氷結の再会

 注:この話を読むとき『電光よりも早く、氷結よりも鋭く』を知ってるとより楽しめるかも知れません。

「あのぅ、一つ疑問があるのですが」

 雪奈は街の適当に安くも無ければ高くも無いホテルの和室で中央の机で語り始める。そこにはティンや火憐に瑞穂と有栖の四人が集まっている。火憐は鎧を脱いだラフな格好で。

「疑問って言うのは何だよ」

「何故、瑞穂さんの命が狙われているのでしょう? 瑞穂さんを殺して得なんてあるのでしょうか?」

「それについては私が説明しよう」

 と有栖が手を上げた。それに合わせて皆の視線が集中する。

「はっきり言えば、瑞穂に死んで欲しい奴に瑞穂を殺そうとする奴ならごまんと居る。別に不思議なことは無い」

「なっ、何故ですか!? 瑞穂さんに死んでほしいだなんて」

「おいおい雪奈君。君は一体何を言っているのかね?」

 机を叩き、声を荒げる雪奈に対して有栖は余裕所か詠う様に解説を始める。

「この世に、聖人君子が如くの人であっても憎まれる理由が無い人間は居はしない。居たとしても、それは究極完全な独裁者かカリスマの持ち主だよ。そんなものは既に人ではなく神か何か、いや神であっても憎まれない存在などありはしないよ。この人間社会、どんな些細な理由で人が殺されるか分からぬのに。

 更に言えば、瑞穂ほど人を選ぶ人間は居ないよ。彼女と対面すればあまりの人間性に誰もが引いてこいつは違う存在だと立ち去るか、非常に面白い人間だと興味を持つかの二択だ。おっと、この言い方だと瑞穂を憎む人間は居ないと言うことになってしまうな。いや失敬失敬。

 どっちにせよ、瑞穂が特異な人間であり、彼女を排除したがる人間にはこと欠かんよ」

 そう言って有栖は茶を口にすると火憐が不機嫌そうな顔で。

「つってもよ、瑞穂だってただの人間だぞ? 組織だって殺したがる人間なんて居んのかよ? 瑞穂に変態趣味をぶつけて来る奴は沢山居たけど」

「はっは、火憐よ。瑞穂の経歴を語ってみろよ」

 言われて火憐は逆に疑問を浮かべながら瑞穂の経歴を思い出す。

「えっと、あいつはタマムコガネシティ西区第」

「そうじゃない。あいつが学校を卒業してからの経歴だよ」

「えっと……旅に出て……えっと、お前一年ぐらい何してた?」

「私に聞かないでよ」

 瑞穂は無表情で返す。

「えっと……本気で分からん。魔王ぶっ飛ばして、妖精界いって姫になったくらいだよな?」

「ああ、その通りだ。火憐、それだけで瑞穂の命が狙われる理由は十分だよ」

「……は?」

「まず一つ、一年前に現われた魔王の一人、それを討った事。奴に心酔していた奴は結構居るし、瑞穂を恨んで命を狙ってもおかしくは無い」

 有栖の言葉に火憐と瑞穂は互いに見合う。

「……あいつって、人間嫌ってなかったか? 人間が嫌いで世界征服やったんじゃ」

「確かそのはず。でもその孤高の道に惚れた人も大勢居たから、有栖の言う事は当ってると言える」

「うわぁ……まじかよ」

「それだけじゃないぞ」

 火憐と瑞穂はげんなりとした表情で言い合うが有栖は更に続ける。

「瑞穂は姫になったが、果たしてそれを快く思ってる人間がどれだけ居ることやら」

「……おい、そいつはどういうことだ有栖」

 有栖の言葉に火憐は余計に不機嫌な顔をする。まあ当然であろう、話されてる内容は親友が殺される理由だ。火憐としては聞いてても不愉快が限界突破しているし、何より瑞穂がどう思ってるのかが気になる。

「いいか、瑞穂が姫になった原因とは何だ? 撃墜数百万突破だろう? と言うことはだ、瑞穂の呼び名は氷姫(こおりひめ)ではなく氷姫(ひょうき)だろう? 訓読みではなく、音読みであることが重要だ。良いか? 姫と言う称号は音読みでは……基本的に、軽く見られる」

「軽く、見られる?」

 火憐は有栖の言葉に問い返す。

「ああ。本来姫と言うのは魔導師界では天才少女を称える称号であり、アイドルの称号だ。その意味は、無論魔法学にて革命とも言えるほどの研究をなした証明。つまり、魔法界を先陣切って切り開く存在、それがだ。闘いによって得た、など姫連合からすれば汚点も良い所さ。故に瑞穂に消えて欲しい奴は大勢」

「そんな事ありません!」

 と、机を叩いて立ち上がったのは雪奈だ。

「姫連合に、そんな事を考えているような人は居ません! そんな事を考えるような人が居たとしても、じかに瑞穂さんを害そうとする人など居ません! 蒼末の氷姫、蒼末雪奈が保障いたします!」

「残念だがね、瑞穂の命が狙われる理由はそれだけじゃない」

 有栖はそう言って雪奈を煽る様に言う。

「それだけではないと、では他には」

「瑞穂の、家柄だ。君ならよく分かってるだろう、雪奈君?」

「ッ……それ、は」

「家柄って、一体何のことだ?」

「瑞穂の家柄は、はっきり言って魔法使いの家として無名過ぎる。そこもマイナスポイントだ。ただの無名の家の出で、そのうえで闘いで得た称号で姫入り。そう言った部分も混ぜて瑞穂に死んで欲しい人間は居るし、多いと言うことだ」

 火憐はその言葉に雪奈に視線を向ける。

「おい、どういう事だ雪奈」

「……実を言いますと、姫連合では家柄と言うのが実質的に重要視されているのです。魔法使いとしての歴史や、親がどういった人物なのか本人の研究状況とか、そう言ったものです。姫連合ではそう言ったものが乏しいと姫として軽んじられる事がよくあるんです」

「……そいつは随分腐ってるな、姫連合」

 火憐は極めて不機嫌そうな顔で言い放つ。その様子に雪奈は慌てるような仕草で。

「でっ、でも、瑞穂さんのは問題ありませんよ。それにそんなことが起きるのは姫が多い時です。今は寧ろ姫の中に英雄と呼ばれるべき人間が加入したことによって、姫連合にもある程度の実力があることを証明されましたし」

「……私が研究に没頭してる間に姫連合も変わったものだな」

 と言って有栖は一度言葉を切る。だが、そこにティンが割って入る。

「えっと、ご免。その、詳しく言うと長くなるんだけど、瑞穂が命を狙われる理由はわかんないけど、そういう理由じゃないよ、うん」

「何故だね、ティン君? そう言えば君は彼らの事を初めから知っていたようだが、一体君は何を知っているのだ?」

「えっと……長くなるし、上手く説明出来ないんだけど、良い?」

「ああ、構わんよ」

 有栖に催促され、ティンは此処までの経緯を語り始める。その説明は文章化するとやたらと長い上に要領を得ないので割愛。隣で聞いていた瑞穂が。

「つまり、ティンさんの体に宿った神剣を狙ってあの仮面集団が来てるの。それが何故か私も狙ってるって事」

「なるほど、分かった。ふぅむ、しかし、そんな連中が何故瑞穂を狙う?」

「……もしかして、あたしが」

「おい、また自分が原因でとかアホくさいこと言って逃げるんじゃないだろうな?」

 ティンの曇った表情を見た火憐が率先して言い放つ。ティンは何かをいいたそうな顔をしつつも頷いた。

「……どっちにしても、敵の目的なんてどうでもいいよ。困る事でもないしね」

「まあ、確かにその通りだが」

 と、そこで話を切り替えようと瑞穂が口を挟む。正直言って彼女的にこの話題は非生産的であったらしい。

「今気にするべきは人格交換と言う現象だよ」

「なあ瑞穂、それこそ今話し合って意味があるのか?」

「確かにそうですよ。人格について知らない事の方が圧倒的に多いです。少なくとも私達に出来るような事は……」

「ああ、そのことについてね。ちょっと、心当たりがあるんだ。今、電話するね」

 そう言って瑞穂はずっと手にしていたであろう携帯電話を取り出すと何処かにかける。

『はいはーい、もしもしー? スポンサーさん? 或いは顧客(クライアント)希望? お望みの商品はなんでございましょうか? 家電製品でしょうか? それとも兵器ですか? 簡易ウェポンから理論上一個大隊を蹴散らせる超兵器まで何でも取り揃えてございます。通話では簡単な解説しか出来ないので、カタログが希望ならお近くのFAXの番号を教えてください』

「……それが、何時ものセールストーク?」

 瑞穂は飛び出るマシンガントークに呆れるような声を出す。

『……ん? 顧客(クライアント)じゃないの? じゃあスポンサー希望ですか? どちらの会社さんですか? それとも……』

「ご免、どれも違うよエレナさん」

『……ん? あんた誰? 何であたしの電波の番号知ってるの?』

 瑞穂の携帯から出て来る電子音は怪訝な声を出す。瑞穂は無表情を貫き。

「ちょっと、面倒なことになってね。一応、瑞穂だよ」

『……ん? 瑞穂? 声がおかしいよ? 全く別人って言うか……もしかしてミズホ? いや、あれも声一緒だし……』

「直接会いたい。今何処?」

『えーっと……今そっち何処? あたしはランドリア王国の王都だけど』

 瑞穂はその言葉を聞いて深い溜息を吐く。

「何でまたそんな所に……今私達はカイポートシティに居るから一応近くかな?」

『分かった、じゃあ明日そこに行くから明日の昼に待ち合わせで。場所は電気街ね』

 と言うとエレナは電話を切った。

「……と言うことで、明日は電気街に行くよ」

「私、地図無いんだが」

 言った瞬間、瑞穂は地図を取り出した。

「おおっ、メイリフ特製分割地図じゃねえか。まだ持ってたのかよ」

「うん。全部持ってるよ。これ結構便利」

「……これ、手書きの様だが一体誰が書いた地図だ?」

「友人が。細かいことは明日にしよう」



 翌日、瑞穂は地図に従って電気街へといくが、そこは色々とカオスであった。PC関係のパーツが売っているのは勿論、様々な家電製品にPC系のゲームソフトなどの店頭ポスターも貼ってある。

「……え、えっと、これは……」

「うわっ、このゲーム続き出てたのか。卒業してからやってねーなー」

「なあ、これ成人向けゲームのポスターじゃないか? と言うかだんだん変なとこに入ってないか?」

 有栖は周囲を見渡し、そう言われるも瑞穂はずんずん前に進んでいく。すると急に立ち止まる。そこにはフードを被った人物が座り込んで何かを弄り回している。

「瑞穂、どうした?」

「……何をしてるの?」

 瑞穂は唐突にたずね始める。対してフードの人間は作業を続けたまま。

「ん、ネットの方に繋がるかどうかのチェック。後、最近のニュースのチェック。ま、これだけ出来れば上等だけどね」

 と、軽い調子で返した。瑞穂はそう聞くと確信を持って彼女の前にしゃがみこむ。

「久し振りだね、エレナさん」

「……えっと、さ。感じられる電波に外見、あらゆる情報が貴方が瑞穂じゃないといってるんだけどさ」

 そう言ってフードを取ると、そこには長い金髪を黒いリボンで結上げてポニーテールでライトブルーの瞳を持った少女。

「その仕草、あり方が、全部が瑞穂だって言ってる。正直、混乱寸前だけど」

 そう言って彼女――エレナは無邪気にニッと笑った。

 じゃ、また。

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