表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/255

蒼空の剣帝

 エグネイはお使いの途中らしく、丁度いいからと同じタイミングで皐と分かれ、ティンは再び一人旅となった。だが今度の旅はきちんと目的がある。が、結局行き先が分からないのが難点だが、まあ昨日よりは何とも前進したものである。そう思ってティンは森の中を歩いていた。

 そんな時だ。ティンは森の中でばったりと、一人の男と出会った。

「……む?」

 男は声を漏らしながらもティンの横を通ろうとした。対するティンは森の中で出会った人間にどう対応するべきか迷っていた。そう言えばと思い出してティンは。

「こんにちは」

 と、挨拶をする。が、男は急に立ち止まる。

 男の外見は蒼を基調とした兜に肩当や胸当てに篭手を付け、大剣を背負った男。男はやがてゆっくりと振向き、ティンを凝視する。

「……え、何?」

「貴様……何処かで会ったか?」

「はい?」

 ティンは頭を傾げる。一体何の話だろうと。男はじっとティンを見詰め続ける。

「……あのさ、人のことをそうやってじっと見続けるの、如何かと思うよ」

「……もしや」

 そう呟くと男はごそごそと肩に下げた荷物を下ろすとあさり始める。ティンは一体何をやってるのかと思って見続けていると、男は突然一つの手紙を持って立ち上がる。

「おい、貴様。これに見覚えはあるか?」

「え?」

 言われて出された手紙をティンは見る。そこには、驚くべきものが存在した。

「こ、れ、孤児院の皆!? 何でこれを持ってるの!?」

「やはりな。貴様、孤児院で写真を取ったことは無いか? 例えば旅の写真家が来たとか」

「あ、あ、あ!」

 ティンは思い出す。そうだ写真を撮りながら旅をしていると言う冒険者が孤児院に来たことを。折角なので皆の集合写真を取ろうと師範代が言い出したのだ。なんでも、旧友に渡すとか、絵葉書にするとか。

「貴様、スガードと言う男に聞き覚えは無いか?」

「……ん? 誰それ。あたしは知らない」

「……何? この、黒髪の男だぞ? 貴様、スガードの弟子ではないのか?」

 と、男は写真の中にいる一人の中年男性――ティンの師範代を指差す。当然、ティンは目を見開いて驚いた。

「え、え、え!? 師範代、スガードって言うの!?」

「……ふっ」

 男はその様子を見てふっと笑った。そして面白そうに写真を一つ取り出す。

「やはりな。スガードのことだ、自身の過去など恥ずかしがって語ろうとはせんだろう。この写真を見るといい」

「え……え、ええええええええ!? 誰これぇッ!?」

 ティンは人生最高に驚いた。なにせそこには自分の良く知る人物の若い頃の姿が映っていたのだから。髪型が一緒だから直ぐに分かった。が、顔がどう見てもおかしい。今の師範代は髭面のおっさんだが、写真の中の師範代は黒髪ショートには変わりが無いが、髭は無いうえに目つきが非常に鋭かった。まるで殺し屋か何かの鋭い、いや此処まで来ると鋭過ぎて人を近付かせない雰囲気さえ持っている。

 簡単に言えば、クールな雰囲気のイケメンがそこに居た。

 ティンは何時ものおっさん姿の男しか記憶に無かった。故に言える、誰これと。こんな美少年知らない、むさいおっさんなら知ってるがこんなかっこい人は知らぬと。

「はは、あいつは昔から女好きでな、時代はクールイケメンだと言ってこうしていたんだ。どうだ、目線が鋭過ぎてまるで暗殺者か何かだろう?」

「ああ、そこは変わってないんだ」

 ティンは呆れの思いを込めてそう言った。ちなみに今は。

「今は渋いダンディがモテるんだと言って髭を生やしてる……そうだが、これではただの無精髭と変わらん。今度あったら言ってくれ、髭を剃ったほうが女受はいいと」

「うん、ナンパが失敗したほうがいいから絶対言わない」

 ティンがそういうと男は再びふっと笑った。

「しかし、スガードもいい加減いい歳だ。縁談の一つや二つあったとしてもおかしくない」

「えぇ~あの師範代が~? 何かやだ~」

「ふっ、貴様は奴が誰かと恋仲になるのは嫌か?」

「嫌。あのおっさんの毒牙に掛かる人が可哀想」

「ははは、そこまで言うか。まあ、確かに貴様にとってあいつは親も同然、今更そんなことを考えろと言うほうが酷か」

 そう言うと男はしきりに笑い、ティンを見詰める。

「ん~……と言うか、いつも女の人を追っかけてるイメージがある」

「そうだな、あいつはいつもいつも女の尻やら胸やら目を向けてるな。まあ嫌わないでやってくれ。ああ見えて、あいつの幼少期は凄惨なものでな。詳しくは語れんが、女には生まれた頃から餓えているのだ。少しは大目に見てくれ」

「……生まれた頃からナンパヤロウだったの、あいつ?」

「そうではない。単純な話、あいつには母親から愛されたことが無いのだ。生まれて直ぐに死んだそうでな、自分より大人の女性を好むのも甘えたいと言う願望からかもしれない……さて、本題と行こうか」

 ティンは本題って何ぞ、と思っていると男はティンを再び見詰める。こう、値踏みする様に。

「本題って? そういや、あんたなんて名前?」

「俺は亮。導魔亮。剣帝と呼ぶものもいる。本題と言うのはだな――貴様との一戦だ」

 瞬間、ティンはターンのステップを踏むと直ぐにブリッジの形から大きく後転する。直後、ティンが居た場所に何かが通った。いや、剣だ。ティンが持ってるのと同じ種類の刀剣が亮の手にある。

「素早いな。その身のこなし、貴様の基礎戦術も奴譲りか。いい演出だ、心が躍る」

「行き成り何すんだ!」

「剣士と剣士が向き合ったのだ、切り合うのが通りだろう?」

「……じゃあ、それ抜かないのかよ」

 ティンは亮の背負っている大剣を見詰めながら言った。対する彼は。

「俺にとって得意な得物などは無い。強いて言うなら剣の類だ。今回はあえて貴様と同じ土俵で戦おう。スガードより仕込まれたその剣の腕、見せてみろ」

「こ、のッ!」

 ティンは叫ぶと同時に駆け出し、抜剣して駆け出す。亮も同じく刀剣を持って駆け出してティンと剣が交差し――ティンは剣と剣がぶつかる刹那、ティンは即座に剣を重ね合わせることを回避して身を屈めて敵の剣閃をかわす。直後、ティンの頭上を通る風がその剣の圧力を物語っていた。それは攻撃をかわしたティンへと素早く斬り返され、彼女はそれを地面を蹴り飛ばすように回避する。が。

「うぁ、ひゃっ!?」

「むぅんッ!」

 振り抜かれた剣閃、その圧力とも言える剣風がティンを押し出す。

(な、何て馬鹿力……ッ! 斬られたらやばいってレベルじゃぁ、んぁっ!?)

 ティンは剣風に押されていると亮は一気に距離を詰め、ティンにその剣を振り下ろさんと構える。宙ではどうしようもなく、彼女の回避技術も何かに接地していない今では使いようが無い。

 剣が振るわれる刹那、ティンは持っている剣に力を込めた。そして剣と剣が再びにぶつかる――彼女がさきほど瞬間的に剣と交差することを回避したのは、触れたあの一瞬で自分の剣が押し負けることを理解したからである。では何故今は重ねるのか、と言えば単純な話、この状況に置いて彼女は丁度いい足場を見つけただけである。そう、剣風さえ巻き起こるほどの速度と圧力で振るわれるその剣。ティンはその剣がぶつかった瞬間、歯を食い縛って力を受け流してその反動を利用して自分の体を持ち上げ――瞬間、ティンの体が跳ね上がる。

「え、わひゃっ!?」

「なるほど、あの瞬間で自分の剣を軸にして俺の剣をかわすか、良い動きだ! 俺でなければ、あそこで試合が終っていたが」

 ティンは宙に浮きながらも亮を見続ける。相手は未だに剣を握っており、自分に狙いを定めてる。宙を舞う彼女は急いで魔力を練って足場を生成する。が。

「はぁっ!」

 亮の放つ剣閃が剣風となってティンに襲い掛かる。それを受けてティンは再びその場所に釘付けとなる。そこに亮は跳躍してティンに切りかかる。ティンは駄目元でもう一度同じ手段を選び取る。つまり、相手の剣の力を受け流すと言う手段。一度敗れた手段に頼るのは如何かと思ったが、現状最も有効といえるのはそれくらいだけだ。故にティンは剣と剣が交差した瞬間、再び同じ行動に移る。

「二度も同じ手を」

 亮の言葉を聞いた瞬間、ティンはこの手段は無理だと悟る。ならばと動きを変えた。即座に力の流し方を変え。

「ッ!」

「何ぃッ!?」

 柔軟な剣捌きでティンを投げ飛ばそうとした亮は驚愕に彩られた声を出す。ティンは瞬間的に亮の剣捌きに対応し、彼女は舞ったのだ。目的は接地。彼女は地面に舞い戻る為に剣風を巻き起こすほどの剛剣を受け流して地面へと降りたのだ。

 亮は宙へ、ティンは地に立つ。残念ながら彼女は此処から亮へ対処することは出来ない。遠距離攻撃用の魔法は一切習得していない彼女にそれは無理な話しだ。

 故に彼女は剣を構え直し、亮の動きを視認する。相手も相手でそのまま彼女の頭上へ舞い降りて切裂こうとしている様だ。迫る相手、ティンは擦れ違い際に切裂こうと剣を構えるが――ティンは悟る。それは危ないと。悟ったティンはそのまま――。

 亮と、剣を切り結ぶ。

 そう、切り結んだのだ。舞い降りた亮の剣とぶつけ合い、上手く力を受け流して切り結び、互いに背中合わせの状況となる。ティンは素早く身を返して自分の背に回った亮と向き合い、もう一度剣を振るい、同じタイミングで亮も剣を振るう。同時に振るわれた剣と剣が重なり。

 火花を散らして剣が交差する。

 この刹那に恐ろしいほどの読み合いが起きていた。そもそもティンは亮の剣を受け止めることなど出来ない。故に剣と剣が激突する瞬間、ティンは全力で力を受け流し、敵の体にこの刀身を埋め込まんと振るう。が、それを亮が許さない。彼の絶妙な剣捌きでティンの剣が前に飛ばない。ティンと亮は互いに剣を振るい合い、火花を散らす。

(俺も歳をとったものだ)

 亮は舌を巻く思いでティンと三度切結ぶ。何せ彼の基本剣術は地味にティンと酷似しているからである。彼も先手必勝の一撃必殺、比類なき無双の剛剣。だれが呼んだか『二ノ太刀要ラズ』、それに相応しい重い剣を重点的に使用する。

(人生でこんなにも驚くとは、俺もまだまだだな)

 故、普通の剣術使いなら剣を交わした時点で剛剣の前に潰されている筈なのだ。が、目の前の相手は卓越した剣術に加え、優れた危機察知力から此方の思惑を全てかわして来る。

(スガードよ、貴様も変わったな。よもや、此処までの逸材を育て上げるとは……恐れ入ったぞ。ならば)

 と、ティンは剣を交わした瞬間、相手の力を利用して弾かれる様に距離をとる。

「今度は、何を」

「ほう、俺の剣が変わったことをあの一瞬で悟るとは。随分と、俺を愉しませる。では、此方も全力を出させてもらうぞ」

 じゃ、また次回。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ