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月下の剣戟舞踏

 白刃が閃き、月夜に黒い影が散る。

「皐、エグネイ! そいつら機械だよ! 気をつけて!」

「知ってる」

「知ってます」

「……はい?」

 ティンは一応親切心を持って二人に知らせたが、二人はあっさりと不要と答える。しかし、何故知ってるのか? このエグネイは兎も角、何故皐が知っているのか。

「知ってるのは何故か、と? 斬った手応えを見れば一目瞭然です。ええ、これは人の肉ではありません。完全なる鉄の手応え……確かに鉄屑の人形ですね」

「……ああ、通りで硬いと思った。人の肉じゃないと思ったけど、機械かこれ」

 二人は敵を切り裂きながらそう呟く。別に確証を持って敵が機械だと思っていたわけではない。ただ、斬った感触に違和感を感じただけだ。そこにティンが確証をくれただけだ。言いながらエグネイは双剣を手繰り、襲い来る者達を次々と切り裂いていく。

「生兵法は怪我の元、適当に覚えた技で戦うのは関心しませんね。エグネイさん、その程度の技量で二刀流を使うのは如何かと思います」

「な、なま?」

「中途半端な技量って意味ですよ」

 言うと皐は抜いたままの刀を振り翳して素早く納刀するとしゅっと敵の首元目掛けて手刀を叩き込む。と、敵の鉄人形の首がすっ飛んだ。次に皐が踵落としを叩き込むと頭部から鉄人形が真っ二つとなる。

「おっ、おおおおーい!? 何でそうなる!?」

「手刀で首一つ飛ばせずにどうします?」

「手刀凄過ぎる!?」

「足のは足袋が鉄糸仕込なので、鋸の要領でがりがり削りますよ」

 エグネイが驚きの声を上げるのも当然である。そもそもこの世界に置いて魔力の加護があるせいで同族殺し――即ち殺人が出来ないのだ。故、人の首が飛び、真っ二つに裂かれる様など滅多に見られない。しかし、皐の武術は本来そういうモノ。魔力の加護がある世界とは言えども、その技術は紛れもなく戦場で鍛えられた本物の殺人術。例え自分の爪であろうとも命を刈り取る凶器へと変える、研鑽され続けた技術だ。

「相手が人でないのなら、遠慮なく斬って捨てても良いのですよね?」

「出来ればグロ画像は遠慮の方向で!」

 エグネイは叫ぶが皐は気にした様子も無く戦いを続ける。だが、最も異様なのはティンの方だ。彼女の剣は何時も通りに速い。が、草むらの中を駆け巡る彼女の動きが何時もどおりだ。そう、何時もどおり、影も見えない程に。草むらも関係なく、彼女は駆け馳せる。何が問題なのか? と問われれば、間違いなく足元は軽く隠れるほどの高さの草のある地面にも関わらず舞う様に動いて回る。彼女にとって、もはや草など足枷にもならないと言わんばかりに。

 走る剣閃は鉄人形の体に入るとそのまま通り抜けて一刀の下に両断される。ティンの剣閃は幾度も駆けるが、一度も止まることは無く、一太刀たりとも止める事も出来ずに鉄屑を量産していく。そんなティンの比較対象を上げるならエグネイだろう。彼女も双剣を手繰り、手数で押し込んでいくがティンと比べると一人潰すのに時々やたら時間が掛かる。どうも時折やたら頑丈な機械人形が出てくるらしい。

「くっそかってぇ!」

「エグネイさん、少し下がることを勧めますよ」

 皐は一人倒すのに手間をかけるエグネイを見て静かに、冷静に、淡々と伝えた。実際に彼女は手数に物を言わせ、強引に押し込んでいくタイプだ。故、自然と前に出て行ってしまう。だからこそ落ち着いて下がれと言う意味を込めて言った。が、皐は本人も無自覚の毒舌家だ。いつも何時も気が付けば余計なことを言って人を怒らせる事が多々ある。だからこそ。

「それじゃあ、いつか死にますよ? 余計に足を引っ張るだけかと」

「――知るか!」

 言われたエグネイはそう叫んで更に前へと踏み込む。皐に言われた言葉は言葉通り以上の意味は無く、単純に心配して言ったのだろうが、次の言葉が酷く余計だ。エグネイは酷くムキになって双剣を振り翳して敵集団へと突っ込んでいく。

「星天斬ッ!」

 双剣を交差させながら跳躍と共に切り上げ、機械人形集団をまとめて一気に打ち上げる。宙に舞った彼女の下にはまた多くの機械兵士達が集まっている。エグネイはそんな眼下を見据え。

「堕天星衝!」

 叫ぶと同時、エグネイは光の魔力を足元に溜めて物質化してそこを足場にして双剣を前に突き出して空中を駆ける様に地面目掛けて跳ぶ。その先はティンが元々立っていた場所であり、今敵の居ない場所だ。見事に皐と敵を挟んだ形となる。

 しかし、彼らとて間抜けと言うわけではない。すぐさま蟻が砂糖に集るかのようにエグネイの下に殺到する。エグネイは双剣を振るって近付いた敵を斬る付ける。

 先程敵を挟んだ、と言えば確かに聞こえは良いが実際の所はどちらかと言うと彼女が一人敵陣に突っ込んだ形となる。つまり、今エグネイは窮地に自分から立ったとも言える。だが、実質彼女は一番の安全地帯にやって来た、とも言える。何故ならば。

「え――」

「――退いてッ!」

 ティンは言うとすぐさまエグネイが対峙していた鉄人形を一気に鉄屑へと変えていく。

「余計なことを!」

 エグネイは言ってティンの横に並び双剣を振るう。ティンは一太刀で振るう刃に触れたモノをその場で両断し、鉄屑を更に量産していく。対するエグネイは何度も剣を振るうことで刻んで行くことでやっと一人、二人と倒して行く。エグネイはその差に愚痴るように叫んだ。

「何、で。お前、そんなにばったばった敵を斬れんだよ!?」

 エグネイは愚痴るように叫んだ。別に答えなんて期待していなかったし、出るとも思っていない。だが――。

「モノには必ず、物質の構成上に脆い箇所がある! 薪に切り裂かれやすい箇所があるように、新聞紙にも切り裂かれやすい箇所があるように!」

 だからこそ、まさか返答があるとは思えなかった。ティンは再び一刀の下に鉄屑を量産していく。エグネイは驚きのあまりに動きを止め。

 対するティンは目に集中する。視力に限界まで集中し、物質の脆い箇所、即ち目と言われる切裂かれ易い場所を探し見つけた。そこが点のように見えるが、それは単純に極度の集中力から他の箇所が目に入ってないだけだ。そしてその点目掛けて。

「そこに刃を当てて力じゃなく、細かい物質を丁寧に少しずつ切り離す様に切裂く!」

 点に刃を当てた瞬間、切裂く筋が線となる。その切り取り線にそって真っ直ぐに、撫でる様に剣を通す。結果、鉄人形が二つの鉄屑へと成り代わる。それを見たエグネイは。

「で、でっ、出来るかああああああああああああああ!? そんな大道芸、真似出来るくぁああああああああああああああああッ!?」

「なるほど。あの一瞬にあれだけの技術を詰め込んで居るとは……」

 皐は感慨深そうに呟く。

 エグネイは投げやり気味に叫ぶと双剣を交差させて駆け出し、近くの相手を一撃二撃と連続で一人を相手に切り付け続ける。立て切り薙ぎ払い刺突交差切りと立て続けに双剣を叩き込む。対象は無論一人だ、複数にも向けられなくも無いが彼女の技術では一太刀で切り捨てて切り捨てて何て行動は彼女の技術では自分の首を絞めるだけだ。

 対してティンの動きは正しく無双だ。動けば一つ二つ、そんなものよりも遥かに手早く、そして確実に鉄屑の山を築き上げていく。エグネイは言うに及ばず、皐ですらもそこには至らない。対峙すれば一振りで鉄人形を両断し無力化する。

「反則ってレベルじゃねぇ……」

「力ではなく、技術だけであれだけ……恐ろしいと言う話ではないのですが」

 その様子を見て皐とエグネイはそんな事を呟く。

 皐は納めた刀に手をかけると抜き放ち、近くにいる敵を切り捨てて回し蹴りと同時に納刀し、一撃で相手を砕くと再び居合い抜きで鉄人形を斬る――が。

「硬いッ!」

「クソッ、何んだこりゃ!?」

 エグネイと皐は一気に険しい表情を浮かべる。急に二人の攻撃が通り難くなったのだ。ティンは変わらぬ、と言うか一太刀で二人三人同時撃破がだんだん当たり前となっている。

「こいつ……玄武か!? 何でこんなに!?」

「玄武……ああ、貴様が切った我らが四天王か。我等はその量産型、一式玄武と比べれば性能は落ちるが」

 そう言ってティンに向かって十、二十と言う数の蹴りと拳が突き出る、が彼女にとっては寧ろ飛んで火に入る夏の虫と言わんばかり全て刹那の間に切って捨てる。

「――あいつの方が、まだ強かったぞ」

「馬鹿、な……! 基本性能は落ちているとは言え、装甲強度も戦闘プログラムも玄武のものを引き継いでいるのだぞ……!? 何故!?」

 胴体を両断され、意識が消し飛ぶ刹那の間、機械人形は疑問を発言する。ティンは静かに。

「装甲? 戦闘プログラム? ああ、それだけじゃ無理だ。拳の挙動も蹴りの鋭さもあいつに比べちゃ雲泥の差だよ。あたしと張り合うなら、まずそこを重視しなよ」

 ティンはそう言うと相手は聞き終える前に機能が停止する。その姿は酷く憐憫を誘ったが、ティンは反応もせずに捨て置いて残っている敵に目を向ける。

 エグネイは光を纏った剣で機械人形を貫く。その顔は酷く疲れている様子だった。

「やっと、倒せた……! くそかってぇ……ッ!」

 エグネイは貫かれた鉄人形を蹴り飛ばすと切り払って周りを見る。周囲にはもっと敵が居た筈だが、全くいない。恐らくはティンが全部切り捨てたのだろう。

「……チッ、気にいらねぇ」

 エグネイはそう言って吐き捨て、剣を一払いするとまだ残っている敵に向かって駆け出す。最前線ではティンが未だに無双の活躍を見せている。エグネイはティンの横に立つと双剣を振るって彼女と同じ様に戦闘の継続を行うが、結局の所一人相手取るのに手間取っている。

「ちぃっ!」

「月穿蹴ッ!」

 エグネイが舌を打って一歩下がった瞬間、変わりに出る様に皐が蹴り上げを叩き込み、機械兵士の体をへし曲げる。直後、白刃が舞い月を描いた瞬間もう一つの刃が月を切裂いて機械人形を肩から両断する。

「月華閃流、斬月閃。なるほど、コツさえ掴めれば出来なくはない、と言う感じでしょうか」

 皐はそう言うと刀を抜いたまま近くの鉄人形を切りつけ、そのまま納刀すると回し蹴りを叩き込み、直後にティンが切裂いた。

「以上ですね」

「うん」

「くっ、そ……!」

 エグネイは悪態付くと緊張の糸が切れたように片膝を付き、右手の剣を突き刺して寄りかかる。。見れば人一倍疲労を表情に浮かべており、体中から汗を流してる。

「……魔法の駆使し過ぎですよ、エグネイさん。足りない火力を魔法で補うのは如何かと。そこまで魔法の才能がある訳ではないでしょうに」

「うる、さい……! 使えるモンは、使うべきだって優子ちゃんも言ってるだろ」

「いや、エグネイさんのそれは使えるレベルではないでしょう。相手を選んで戦えば良かったと思いますよ」

「五月蝿いと、言っている!」

 エグネイは言ってこっちを見ないもう一人に目を向ける。

「何だよ、言いたいことがあるなら言ったらどうだ」

 もう一人――ティンは答えず、振り返らずエグネイに視線だけを向ける。

「悪いな、無様でよ。その程度なら……くんなよとでも言う気かよ、え?」

「別に。と言うか、勝手に来たのそっち」

 ティンはそう言って目線を草原の先に向ける。エグネイはばつが悪そうな顔を見せて双剣を放って寝込む。

「此処で寝泊りですか?」

「うっせー。魔力使い過ぎで疲れたー。ねーむーいー」

「はぁ……ティンさんは如何します?」

 ティンはいそいそと寝袋を取り出していた。

「此処で寝るんですか」

「うん、とりあえず今後の方針は決まったし、夜も遅いしもう寝ようかと」

「あの、幾らなんでも自由過ぎる様な」

 そんなこんなで、今日は仲良く三人で草原で寝泊りとなった。

一週間遅れた割に大した事ないないようだった。じゃあまた。

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