再会する光と闇
ティンは街道をとことこと歩き、別の街にへとたどり着いていた。目的も何も無い旅だが、最近襲撃が無いので半分観光と化している。
「……あれ、あたし何の為に旅してんだっけ?」
とうとう口にしたこの言葉。取り合えず近くの噴水に備えてあったベンチに座った。そこでぼーっと街を見渡す。すると、ある人間に目が留まる。
女性としては標準的な背丈に長い黒髪、キリッとした冷ややかな目線、そしてぴんと張った糸の様な堂々とした佇まいに出る所は出て締まっている所は締まっている体を持った、多分美女と評するに値するだろう人物。更に加えるならまるで葬式の帰りとでも言う様な真っ黒な服に、体中に巻かれた鎖。鎖の先はその背丈に届かんばかりの大剣で、それを腰で固定する様に吊るして言える。全身を鎖で雁字搦めに縛ってるゆえか、ただでさえグラマラスな肉体が余計に強調されている。
ティンはその女性を見ると瞬きして雑多に紛れる彼女の大剣を掴む。
「ねえ、ねえ! クリスじゃない!?」
ティンは少々興奮気味に言った。呼ばれた彼女は振り返り、少し首をかしげると困った様に口を開き――。
「……誰? 貴方」
――まるで、アニメか何かの、それも美少女の様な声が漏れ出る。一瞬、時間が止まった様な感覚が街を支配する。と言うか、今誰が喋った? と感じる人が多いだろう。もしもこの世界が小説ならば誰もこの状況が理解できないと思われる。何せ、如何見ても大人で、少女の雰囲気など一つも持ち合わせていないだろう女性から漏れ出たのが大人とは酷く言いがたい、と言うかやたらと高い少女のような、よく言えば可愛らしい、悪く言えば媚を売っている様な声だ。と言うか、確実にアニメキャラとか萌えキャラとかの声だ。
対するティンは嬉しそうに。
「やっぱりだ! このミスマッチな声絶対クリスだ!」
「……あのね、誰だか知らないけど声については何も言わないで。と言うか、本気で貴方誰?」
彼女は困った様にティンに対して返す。
「あたしだよ、ティンだよ! 山凪剣術道場兼孤児院のティン!」
と、返された彼女は一瞬呆けると表情を驚き一色に染め。
「ティ、ティン!? え、うそ、何であんたが此処に居るの!?」
「ほら、やっぱりクリスだ」
ティンはそう言って彼女を指差す。
「ちょ、ちょっと待って。本当にティン? 姿が全く違うじゃない。髪も短いし、そもそもその演劇役者みたいな格好も何? 一体何処をどう見ればティンだと言えるの?」
「あー……そう言われると……あ、そうだ」
と、ティンが思いついた様に手を打ち、すうっと息を吸って。
「クリスティナさんはー! 真っ赤な薔薇柄のー! し」
と大声を出した瞬間。ティンの顔面に拳が埋め込まれ、後ろにあった噴水の近くまですっ飛ぶ。直ぐに立ち上がると。
「何すんだよ!」
「こっちの台詞よ!? な、な、何であんた人のしっ、しっ、それ知ってるのよ!?」
「だって、クリスのブラとかパンツとか洗ってるのあたしら孤児院や道場の人間じゃん」
ティンが威張る様にそう言うと周囲で『薔薇柄か』とか『赤のブラか』とか言う呟きが漏れ、クリスは反発的に周囲を睨み、ぶっ飛んだティンの近くへと歩み寄る。
「と言うか、何でよりによってそれなのよ!?」
「え、だってクリスの持ち物だってはっきり言える奴って言ったらパンツとブラぐらいだし」
「他には無いの!?」
「ええーっと……あ、その大剣もクリスのだよね? あ、でも名前知らないや」
「ぅぅ……ああ、もう! この馬鹿さ加減は確かにティンね、ええ! ティン以外にありえない!」
彼女――クリスは喚く様に叫ぶと腰から吊るした大剣の柄を握り締める。瞬間、クリスを縛り上げていた鎖が溶ける様に消え去り、自由を得た剣が重力に従って地面へと落ちる。
「ええ――久しぶりにあんたと戦うの、良いわ」
「え、何で?」
「あれだけ喧嘩を売っておいて、しらを切ると。良いわ、おかげでこっちはストレス最高潮よ、遠慮なくぶった切ってあげる」
クリスが言うと、足元から闇が吹き出る。瞬間、ティンが踊るようにステップを踏んで動き出してクリスは周囲を一気になぎ払い、周囲を見る。そして闇の塊を真上へと発射し――噴水しかない筈の真正面から光の剣がクリスの胸目掛けて飛翔し、クリスは右手にしている大剣を前に置いて防ぐ。
「あ」
クリスが漏らした瞬間、光の剣が音を立てて弾かれていた。そして――晴れていく闇の中から宙を舞う剣を握り締める真っ白な手。それはそのまま滑る様にクリスの首元に――届こうとした瞬間、剣の持ち主――ティンに向かって闇の弾丸が翔る。ティンはそれを真正面から受け止めて弾け飛んだ。
「え……かわさなかっ」
直後、クリスは大剣の柄を両手で握るとそのまま後ろに剣を振るうと刃の激突音が響き、火花が散り、そこには確かにティンが居る。そのままティンは走り去り、クリスは大剣を握り直すとさらに振向いて大剣を振るうと再び火花が舞う。今度は影も形も無い。
「面倒ね」
言いながら大剣を振り回す。振るった先に火花が舞い、黄昏の影が舞う。
「……はぁ」
クリスは息を吸い、はく。体中からドロドロと闇が溢れる。周囲を侵食する闇たち。禍々しさが溢れる闇。クリスのストレスを食らい成長した闇達。光を奪い、黒で塗り潰す空間。途端、闇が切り裂かれて光が溢れる。
「暗いんだよ!」
「ええ、あんたなら斬って来るでしょうね」
叫んで闇を切り裂くように光を纏って現れたのはティン。真っ暗な闇の中を切り開くように現れた光は闇の中で一際強く光り輝く。クリスは大剣を構え直し、迫り来るティンに向けて大剣をなぎ払う。ティンは悠々とその一閃をかわし――次の瞬間には振り抜かれた筈の大剣が再びティンを狙って振るわれる。空を斬り、確かな質量と風圧を持って振るわれる闇の大剣。振り抜かれた筈のそれは物理法則何それおいしいのと言わんばかりに切り返される。
ティンは瞬間に頭を下げその一撃をかわす。さてネタばらしだ、ティンは頭を下げながらクリスの顔を睨む。その先、口元、そこには鎖が咥えられていた。毒々しさと禍々しさを放つその闇の鎖はクリスの振り抜いた大剣へと伸び、そして絡み取っている。つまり、振り抜かれた大剣が戻って来たのはその瞬間に別方向から力が加わったからに他ならない。本来の物理法則と照らし合わせればあり得ないが、生憎とクリスの持つ武器は魔剣、そう魔剣なのである。
魔剣、魔力武器とは魔力を含んだ金属――通称魔鉄を使って鍛えられた武器だ。それには特性を付与でき、色々あるがそれの内の一つ、魔力同調と言うものがある。分かり易く説明するならば『同じ属性を持った武器の体感重量を消す』だ。詳しく、そして端的に言えば『闇の魔力を持った人間は闇の魔剣の重みを感じない』と言う話。厳密に言えば違うのだが、今は如何でもいいことだ。此処で重要なのは、クリスは今己の愛剣の重みを感じないし影響もされない。だからこそ少女の肉体で――解説の枠を忘れていたが、一見熟れた体に大人びた佇まいのクリスティナ・ナイトノワールは現在十八でまだ誕生日を迎えていない――大剣を片手で扱えるし咥える事だって出来るのだ。
では戻ろう。
状況は単純、クリスがフルスイングした大剣を鎖を使って引き戻して切り返し、ティンがそれをぎりぎりで回避した、それだけ。依然周囲は闇に侵されており一点の光も無い。闇を照らすのはティンの手に持つ光の剣のみである。
ティンは刹那の間を置き、その体を闇へと滑らせる。
「無意味なことね」
鎖を離し、大剣を両手で握り締めてクリスはあざ笑うように呟く。しかし、彼女の言うことは一切も間違えては居ない。この領域は全てクリスの領域、言い換えればクリスの体内にも等しい。故に身を隠そうが何をしようが全てがクリスに筒抜けなのである。
だが。
「……え? 反応が」
更に言い換えれば、闇から出れば感知出来ないと言うことであり。
「落とす」
クリスははっと。
(回避、いや間に合わない!)
慌てて大剣を頭上に掲げ、直後に確かな衝撃に伴ってそれに相応しい音が響き渡る。クリスはそのままティンを払い、ティンもそれの勢いに乗って飛び去る。再び闇の中へと消えるティン。今、クリスの目の前には二つの選択肢が迫っている。他には無いのかとか、まだ考え付く幅があるのかとか、そういうまだるっこしいことは必要ない。至極単純な話、今のクリスが展開する闇を消すか否かである。
この闇の空間、これを展開することによるメリットは幾つかある。まず、相手の視覚を奪い去ること。この闇の空間に光が存在しない、つまりこの空間に置いてクリスは絶対的な視覚の優位性を得られている。だが、それはクリス自身にも言えるがそれについては次のメリットで解消されている。もう一つはクリス本人の索敵範囲の拡大である。闇を生み出しているのは自身の魔力、つまり自身の触覚にも等しいのだ。故に闇を纏っている状態のクリスは目隠しをしているものの、不意打ちは受け難くする事が出来るのだ。そして最後――それは闇に紛れることによって自分の居場所を隠せる、と言うことだ。闇の中心地はクリスの意志で自由に動かせる。故にクリスは常に相手と自分を取り込む事で相手を翻弄するままに戦うことが出来る。それをやらない理由は一つ。日中だからこそ闇の維持に消費する魔力が多い為、闇の制御が上手く出来ないのだ。そもそもクリスは剣士である。魔導師ならば例え昼間であろうと真夜中の如く闇を動かせるが、クリスの魔法の実力では闇のオーラを展開して維持するだけで精一杯なのだ。
だが、デメリットもある。それは視覚――正確には視界を失うことだ。故に、さっきの様に闇から抜け出されれば察知が出来ない。つまり、闇の外からの攻撃には中に入られるまで対応が出来ないのだ。だからこそ、先程の様な事態が起きる。
疑問があるとすれば、何故ティンがクリスを補足出来たのかと言えば一言で言って勘だ。だが確かな確信があっての勘だ。
ティンとクリスは元はと言えば同じ孤児院に住んでいたのだ。といっても彼女は皐月と同じく孤児院へと流れて来たよそ者で、どちらかと言えば剣術道場側の人間だ。しかし、それでも彼女達は四桁とは言えないが三桁にも及ぶ程の数だけ模擬戦を行っている。本気の勝負はこれが初めて、そう初めてである。だからこそお互いに分かっているのだ。その戦法、そのやり口、それらが殆ど互いに熟知している。つまり、戦術の詳細な組み立てかたいがい全てを把握しているのだ。
駒となるものは互いに把握し切っていて、知らぬのは持っている手札とその斬り方。
だからこそ言える。故に見える。闇を消し、ティンと正面からぶつかると言う手段が。愚行の極みとも言える手段だが案外にそうでもない。視界を戻すと言う事は彼女の動きを目で見て逐一把握できると言うことだ。つまり、闇と言う保険をかけて奴の挙動を把握するよりも視認して次の動きを把握した方が安全とも言える。
その際に最も厄介と言えるのがダンシングステップ。これが一番の不安材料。ティンの素早い動きを支えるこの技術はあまりの小回りの利き易さに人間の視界の狭さを実感させられる。どれだけ首を、目を動かそうと彼女の動きは目に入れることが出来ないのだ。故、肉薄されれば追いかける事はほぼ不可能と言える。大剣と言う巨大武器だから――などと言う言い訳さえ出来ないほどの小回りを利かせたその移動技術は肉薄されれば成す術も無く彼女に切り刻まれるだけだ。
ではどうするか、クリスは目の前のうちの一つの選択を取る。
闇を維持し、息を整えてじっと待つ。それだけ。直後、彼女の感覚に引っかかる。それは――。
「剣? 投げたか」
クリスはその顔に似合わない幼い声で短く言うとそちらに意識を向け。
「っ、もう一つ!?」
その反対方向に目を向ける。今彼女の闇には二つの反応、飛翔する剣と突っ込んでくる誰か――つまりティン。クリスはその手段に少し驚く。何故なら、この手段は初めてなのだから。ティンが新しい剣を持っていることなど、剣を弾いた時から既に把握している。そんなものそもそも驚くには値しない。驚くべきポイントは、二つの武器を使ったこの戦法そのもの。この状況にクリスは舌を打つ。
(思えば、あの馬鹿……戦闘については馬鹿じゃないのよね)
クリスはそう思って対策をすぐさま頭に浮かべて武器を構える。
ティンは確かに一般常識で言えば相当に知能が足りない。それは事実だが――こと戦闘についてはその分と言っても良いほどに頭の切れが良い。正直、他に振り分けるべきステータスを全て戦闘につぎ込んだような感じの馬鹿なのだ。故にこそ、奴の手札を把握してるといっても何も油断が出来ない。手段が向うに割れていると言って、戦いの組み方で誤魔化す様なこと『だけ』をする奴ではない。無論、いざと言うときは新しい手段だって構築するだろう。
だからこそ、だ。クリスは十全に警戒しつつ。
「はぁッ!」
迫る剣と襲い来るティンを同時に切り払う。ティンはそのままクリスの攻撃を受け流して切り払いを受け流して潜り込んで肉薄する。
瞬間。ティンの足元に鎖が舞う。
「ゥっ!」
「捕えた!」
ティンは一瞬あせる。急なことだ。気付けば周囲の闇は一気に消え去っている。見れば彼方此方から生えた闇の鎖が彼女の足を絡め取っていた。
「これで暫くは」
クリスは光を浴びながら大剣を振り上げ。
「力押しでやれる!」
振り下ろし、ティンは体を反らして避け、大剣が地面へと食い込まれる。ティンはその衝撃で吹っ飛ぶものの足に絡む鎖が邪魔して上手く動くことが出来ない。故に逃げる、防戦の一手、彼女の持ってる片手でも持てる普通の刀剣でクリスの大剣に真っ向から勝負などできはしない。
が。
「逃げる気? でも残念――逃がすかよ脳内スカスカ女ッ!」
怒号と共にクリスはティンに肉薄してその大剣を振り下ろす。ティンは自分の剣で受け止め、そのままその一撃を受け流す。ティンは更に距離を取ろうとしてぐんと引っ張られる。足に目を置けば絡んだ鎖が今度はクリスの腰に繋がっている。
「どうした、逃げっぱなし? 家出してろくに腕前も上げてないの?」
「……だから、何だよ」
ティンは立ち上がるとクリスを睨む。
「何で騎士みたいなかっこうして、嫌がってた断髪までしてるのか知らないけど……その程度で、何かを守れるとでも?」
キッと、ティンの表情が変わる。
「別に良いけどね……逃げようが、私はその馬鹿面を一発たたっきるだけ。悔しいって言うなら、正面から切り込んでくるくらいの気兼ねでも見せてみろ!」
それが始まりの合図だといわんばかりに。ティンは一瞬でクリスとの距離を縮めると剣を振り下ろす。クリスは構えていた大剣でそのまま防戦へと移るもティンは更にもう一発、二発と斬撃を重ねる。対するクリスはそのまま防御の姿勢を取り続け、やがてティンの攻撃を弾く。
「お前に、何が分かるって」
「馬鹿には分からないだろうから、言わない!」
クリスは言いながらティンと剣を切り結ぶ。ティンも対応するようにクリスの大剣と剣を重ね合わせて火花を散らす。
「何だとオマエ!」
「何よこの馬鹿!」
クリスとティンは更に剣を交し合う。クリスの振るう大剣は重さを感じさせない勢いで振るわれ、ティンもまたそれに対応するように剣を振るう。何度も、何度も、そう何度もだ。乱舞する闇の大剣は宛ら黒い暴嵐。渦を巻く様に激しく荒々しくしつこく振るわれる。それに食い付くようにティンの剣が乱舞する。その軌跡は正しく黄金の疾風。暴嵐の中心へと剣を入れる為に何度も何度も華々しく鮮やかに剣が踊る。大剣と剣が激突する度に音と共に火花が散り、より戦いを彩っていく。
「うっとおしい!」
「あんたの方こそうっとおしいのよ! 毎度毎度、人のストレスを溜めるような事ばかりしかしないくせに!」
「知るかそんなの!」
「だからむかつくのよ! いっぺん所か三回くらい斬らせろ!」
互いに叫び合い、剣戟を激しく重ねあう。見る側としては芸術とも言える剣戟乱舞。素晴らしいの一言に尽きるのだが、当人達としては溜まったものではない。故に避ける必要がある。何故なら彼女達が戦うのは単純に言って相手を切りたいからであり、ギャラリーを喜ばせることじゃない。
故にティンは。
「なら」
一歩踏み込み。
「斬らせてやるよ!」
叫んでクリスの懐に潜り込む。普通なら此処まで迫ってしまえば大剣などただの重くて大きな重りだ。邪魔でしかない。しかし、彼女の持つ大剣には一つ大きな特徴がある。それは、刀身に飾りとしてであろうか、鎖が付いているのだ。
クリスはその鎖を左手で掴み、右手で大剣の柄を握り。ティンは腰に巻かれた鎖目掛けてその剣を振るい。
同時に二人の剣が食い込む。
「こい、つ!」
クリスは痛みに耐えながらティンを蹴り上げるも、ティンはその勢いに乗って自ら跳び引き、再び肉薄する。
その突進は小回りを利かせた回避混じりではなく、純粋な突貫。故にクリスの振るう剣が正確にティンの体を捉えたが、逆に自分にもその刃が刺さる。その捨て身の攻撃。ある意味彼女が望んでいたことだが、痛み分けと言うのが何より気に入らないと心内で唸る。
ならばとその攻撃を徹底的に叩き潰すしかない。そう思って大剣を振るうもティンの剣の軌道はやはり捨て身、いや自ら剣に突っ込むと言う馬鹿としか言いようの無い戦法。
しかし有効。馬鹿らしいからこそ有効。互いに手を知り尽くしてるからこそ、有効打を与えるには確かに有効だ。ドロー狙いなど癪に障るが――そもそもティンにはその気になればクリスを一撃で打倒出来る手段を持っているのだ、ある意味この捨て身の戦法はそれを見越してなら、ある意味恐ろしい。
「この馬鹿、ふざけんな!」
叫んだクリスはティンの剣のみを狙って攻撃を行うが今度は急に捨て身から背後に回っての攻撃へと移る。流石のクリスもこれには驚き慌ててそちらに対応するも此方も急なことで対応が悪く、ティンの剣をその身で受け止める。が、お返しだと言わんばかり思いっきり溜め込んだストレスを捻じ込んだ一撃をティンに下ろす。ティンに舞い降りる真っ黒な斬撃と同時、クリスの体中に駆け巡る絶命の痛み。一つだった肉体が乖離する感覚が激痛となってクリスの体を走り回る。魔力の抑制がある以上痛みで済むその感触は彼女の意識を根こそぎ奪い去るには十分過ぎた。偽りの致命的な斬撃を受けたクリスは自分の勝利を見ることも無く意識が薄れていく。
対するティンは勝ったか、と思った瞬間に頭上に巨大な一撃が突き刺さる。この一撃で二度も気絶と気付けを繰り返す。あまりの痛みで気絶し、あまりの痛みで気絶から復帰するほどの痛み。この勝負が気絶させた者が勝つと言うのなら間違いなくクリスの勝ちだ。いや、それどころか二連勝は軽くしている。それほどの衝撃だ、ティンは崩れるクリスに重なる様に気を失った。
結果、剣士二人は激痛に耐えかねて目の前が真っ暗となり、地に伏す。
今回はこれで。んじゃまた。クリスの解説もいつかするよ、多分。