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姫と騎士―黄昏の十字神剣―

「あたしはね、ただ――あんたの、友達になりたいんだ」

「――良いの?」

 自分勝手なことばかり言った。自分の敵ならとぞんざいに扱った、何度もその思いを踏み躙った、知っていたのに、軽い思いで彼女の気持ちを踏みつけた。

 何時か、弱いと言う理由だけで自分を傷付けた奴らの様に。

「こんな、私で」

 リフィナは問う。問いかける。自分で本当に良いのか。自分の様な最低な奴が。

「本当に、いいの? 友達って、言って」

「良いよ」

 ティンは直ぐに答えを返す。リフィナに答えを渡す。ずっと望んでいたことだから。

「本当に?」

「良いよ。あたしは、あんたに忠誠を誓う。ずっと、あんたの仲間で味方で――友達だ」

「――ごめん」

 そっと、漏らす様に、リフィナが呟く。

「御免……なさい……御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、御免なさい、お願い、許して下さい、ただ、ただ……!」

「大丈夫だって。あたし気にしてないよ。だからさ、ほら。笑って?」

 ティンはそう言って立ち上がり、主戦場を見る。そこにはいつの間にか一人で奮戦している水穂の姿がある。

「女一人相手に、随分な数ですね」

「ぬかせ、この偽善者がぁッ!」

 水穂は叫んで襲い繰る甲冑を杖で殴り飛ばし、魔法で吹き飛ばす。

「偽善者、ですか。ええ、そうでしょうね。我々のやってることも偽善で、やってることも偽善そのものなのでしょう」

 水穂は力任せに近くに倒れている甲冑の足を脇に抱え込み、ジャイアントスイングで周囲をなぎ払い、抱えた甲冑も放り投げる。

「ですが、それがどうかしました?」

「何?」

 リーダー格の甲冑は立ち上がりながら水穂の言葉に返す。

「偽善、ああ偽善。そんなもの」

 水穂は言いながら甲冑を殴って飛ばす。技も無い、ただの力任せである。

「そんなもの、初めから」

 続いて地面を殴り付け、光の爆発が起きる。

「分かってますよ!」

 水穂の周囲に居る甲冑は全て居らず、みな総じて地に伏している。

「偽善? 偽善で結構! 偽善でなくて、何が救えますか!? 我ら神官、偽善を持たずして何を説けますか!? 偽善者でも、それでも我々は救いの道を説くのです! そんな偽善でも誰かを救えると言うのなら、私は一生偽善者のままで構わない!」

 残ったリーダー格の甲冑に向け、水穂は錫杖の先を向ける。

「届ける必要は無い、聞いてもらう必要もないし、耳を傾けて貰わなくても良い! それでも私達は誰かを救い、信奉の道を、神の使徒たる道を選んで歩くだけです! 勝手に聞いた人が勝手に救われれば良い、無理に聞かせる必要はないし、そんなことで齎した救いなどに何の意味も無いんです!

 聖職者(ぎぜんしゃ)をあまり舐めるな、こちとら伊達に神の名の下に生きては居ないんですよ!」

 ティンは、思わず水穂の言葉に心が震えた。分かる、彼女の様な人が聖人と呼ばれるのだろうと。だけど、違う意見を言う人も居た。

「――気持ち悪い」

 不意に、リフィナが漏らす。

「くそ、なんだよそれ、ただ単に耳障りの良い言葉を用意して、それで良いと言ってるだけじゃないか。お前等人間かよ? 聞いてくれなくても良いって、お前らは機械か何かか、悔しいとか思わないのかよ……」

 吐きそうな顔でリフィナはそう呟いた。ティンはそんな彼女に。

「そう言う言い方は無いだろ」

「ふん、あんたみたいな馬鹿はそれで良いんでしょうけどね」

 ティンは呆れてため息をつく。やっと友達になれたと思ったが、この毒舌はどうやら標準らしい。

「取り合えず、後はあいつに」

「嫌だ」

 ティンはリフィナの声を遮る。

「な、あんたねぇ、自分の立場分かって」

「今、騎士としてじゃなく友人として言わせて貰う。リフィナ、水穂をここにおいていけない。ずっとリフィナを心配して此処まで来たんだよ? 助けてやろうって気は無いの!?」

「ん、んなの向うが勝手に善意振りかざして来ただけじゃん! 私が」

 瞬間、リフィナの頭上にチョップが送り込まれる。痛みは無いが視認するにはある程度の動体視力が必要になりそうなくらいの。

「な、何を」

「うっさい! 良いから行く!」

「ああもう、分かったわよ!」

 リフィナはやけくそ気味に水穂を指差し。

「あの偽善者、とっとと助けて来いよ!」

「了解!」

 水穂はその会話を聞いて思わず微笑んだ。そんな場合ではないけれど、彼女達を見ているとある幼馴染を思いだす。

「ふふふ……なんか、良いですね。こういうの。ですがご心配なく! これでも荒事はなれています!」

 そう言った彼女は錫杖を構えて優雅に立つ。そんな彼女の続こうとティンが踏み込んだ瞬間、背中を突き刺すように誰かが叩く。その正体は。

「リフィ、ナ?」

「大人しくしろ。油断した人間の魔力を逆支配するなんて私なら簡単だからな」

 リフィナだ、確りとした意思のある瞳でティンを見る。そして手から溢れる光を束ね、ティンへと動かして行く。光はティンの体へと流れ込み。

「いくなら、此処はやっぱり」

 体中に線が走る。視覚と感覚を誤魔化す誤認の術式を掻き消し、彼女の本当の素肌――切り傷だらけの柔肌を浮き彫りにし。

「神剣しかないだろ!」

 ティンの手が光る。光は手から剣へと伝っていき膨張を始める。

「来い、黄昏の十字神剣!」

 そして、再びそれが現世へと光臨する。神々の黄昏の名を冠する神剣が。

「ラグナロック!」

 剣が砕け、中から別の長剣が誕生する。黄金の十字神剣、ラグナロックが。

「ついでだ! 私が魔力操作してやるから使いたい魔法剣技を言ってみろ! どんな複雑な技だろうと撃たせてやるよ!」

「あ、じゃああれ! でっかい剣作る奴がいい!」

「って、よりによってあれかよ。まいっか!」

 ティンは神剣を構えて駆け出す。

 水穂はと言うと、錫杖を構えて派手に殴りかかる。リーダー甲冑はその一撃を受け止めて返しと言わんばかりに弾き飛ばす。弾かれた水穂は勢いに乗って跳んでそのまま後ろへと下がり、その間を埋める様にティンが駆け抜ける。

「もう髪きり脱出の手は使えんぞ小娘が!」

「うっさい! 人の髪に勝手にさわんな!」

 叫びながら距離を詰めながら、神剣で斬りかかりリーダー甲冑は手にしていた剣で神剣とかち合う。大きな金属音が響く。一瞬競り合ったように見えたが格の差を見せ付けるように黄昏の刃が鉄の刃を飲み込んで砕く。

「な、にぃ!?」

 リーダー甲冑は続いて振り上げられた神剣を避け、右腰に下げた袋から斧を振り上げて神剣と火花を散らす。

「じゃ、初めよっか」

 とリフィナが呟いて指を鳴らす。瞬間、ティンの体中の鼓動が高鳴る。決して異常が起きたのではない。心臓が高く跳ねたのではなく、単純な話、これは魔力鼓動と呼ばれる、急激の多数の魔力を動かしたときに起きる現象だ。つまり、ティンの体内魔力が激しく動いたと言うこと。

「っ――」

 ティンは一瞬呻き、神剣を咄嗟に真上へと向ける。そして――。

「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 光の大剣が、地下教会に顕現する。地下教会の天井をぶち抜くほどの大剣、極光の大剣。ティンはそれを手を抜かず遠慮もせず思いっきり。

「くっらえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!」

 ぶん下ろす、天井を砕き壁を切り裂き、怨敵の下へと――!

「ヌゥッ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 リーダー甲冑は手にしてた斧で防ぐが、そんなちんけなものは神剣の前には塵に等しく、黄昏の光に飲まれて消え、極光の大剣をその全身で受け止める。歯を食い縛り、全力を持って光の大剣に抗う。

 やがてティンは刀身を根元からへし折って振りぬく。

「く――」

 リーダー甲冑は声を漏らし、笑い始める。

「ふ、は、ははははあっはあははははははあはははははははははははははははははははッッ! 耐えた、耐えたぞ小娘ッ! これで」

「終わったと思ったかい?」

 続くはリフィナの声。そう、光の魔法で顕現したものが、折れる(・・・)訳が無いのだ。つまり、これは――光の物質化。折ったのでは、無い。あってはいるだろうが狙いはそこじゃない。

「これでえええええええええええええッッ!」

 ティンは上空へ舞い上がる。その手には輝く黄昏の十字神剣、そう折ったのではなく取り外したのだ、もう一本を作る為に。ラグナロックを振りかざし、再びかの神剣が極光の刃を帯、大剣へとその姿を変える。

「おっわりだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!」

 咆哮の様な叫びと同時に振り下ろされる極大の光剣。地下教会の壁と言う壁、天井と言う天井を砕き、瓦礫を光が飲みこみ、破壊の限りをし尽くし、止めの極光大剣が振り下ろされる。

「ぐぅぅぅぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!」

 再び折り重なる衝撃にリーダー甲冑は叫び上げるながら抵抗する。約二本分の光の大剣による圧力。早々抵抗出来るものではないのだ。やがて最初の剣の刃に亀裂が走る。砕けていき、最後に。

「はっじけろおおおおおおおッッ!」

 リフィナの叫びによって二つの大剣が爆発する。吹き飛ぶ周囲の瓦礫や倒れた甲冑達。その光景を呆れた表情で水穂が見ている。

「……これ、魔力提供者は?」

「無し! いやぁ、私も少しは魔力やるべきかと思ったんだけどさぁ……ラグナロックの魔力付与公式ってまじっぽいなぁ……」

 言いながら晴れる粉塵の中を見る。そこにはリーダー甲冑の胸に神剣を突き立てるティンがいた。

 風邪で苦しい一週間でした。故にこのクォリティでうpすることを謝ります。すいません、次回で姫と騎士編終わらせます。

 さてこの終わる終わる詐欺は何時今で続けりゃ良いんだろ?

 じゃ。

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