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姫と騎士―コンナワタシデモ―

 アナタノソバニイテモ、イイデスカ?

 リフィナは苦虫を噛み潰したような表情で舌を打つと振り返って走り去る。

「ま、待って……」

 ティンは弱々しくも手を伸ばし、消えそうな声を漏らす。

「待ってよ、リフィナ……!」

「ティンさん」

 そんなティンを見かねたのか、水穂は彼女の肩に手を置く。

「彼らが直ぐ傍に居るかも知れません。直ぐに移動しましょう」

「どう、しよう……あたしが、あたしがラグナロックを消しちゃったから、あんたの言うとおりにしたら!?」

「落ち着きなさい! 今悔やむより後にして下さい!」

 水穂はそう言うとティンの腕を握り締めると走り出す。ティンはただ無言のまま連れて行かれる。

「ちょ、ま、って言うか痛!? どんな腕力してるの!?」

 と、ティンは水穂に引き摺られて行く所かティンを振り回す様に引っ張っていく。と、水穂は突然足を止め、ティンに振り返る。

「すいません、ティンさん。私の考えが至らないばかりにこんな事態に……」

「え……」

「正直言って、私は代理召喚のことは知っていてもそれがどう言うものなのか知らなかったのです。使われる事も極端に少ないどころか、召喚術自体今となっては珍しい術式ですし、私もまさかこんなことだとは思っていませんでした……なんて、言ってもどうでも良いことですね」

 水穂は自嘲気に話し、ティンに向き直り。

「それに、あそこで召還しなければ貴方は魔力不足で……まさか、いえ、今はどうでも良いです」

「さっきからどうでもいい、どうでも良いって言ってるけど、何がどうでも良いの? よく分かんないんだけど?」

「……ごめん、なさい。私にも、よく分かりません。こう言うのは、専門家……本場の魔導師でないと上手い判断が下せないんです。申し訳ありません、私が知識不足故に……」

 そう言って水穂は俯いた。その体中から、どうしようもないほどの悔しさがにじみ出ている。それを見て、ティンはこれ以上彼女を責める気にはなれなかった。

「……如何すれば、良い? どうすれば、リフィナが信じてくれる……?」

 ティンの泣く様な呟きに水穂は顎に手をあて、考え込む。そして。

「……貴方が、本当に騎士として彼女の信頼を得たいと言うなら、一つ思い付きます」

「な、何!? 教えて、おねがいっ!」

 ティンは縋り付く様な思いで水穂に詰め寄る。水穂は悲しそうな目で語る。

「――貴方の持ちうる全て。それをかけて彼女に訴えれば、或いは行けるかも知れません。彼女のために、命を投げ出すほどの覚悟。騎士として、命を賭して戦えば……或いは、心に届くかも知れません」

「命を、賭ける……? それだけで、良いの?」

「簡単に言わないでっ! それだけって、本当に死んだら如何するんですか!? 貴方には、死んで悲しむ人が居ないと言うんですか!?」

 水穂はついに涙を流し、ティンの両肩を掴む。

「命を賭けること、死ぬ気で努力すること、それらと本当に死ぬことは意味が違いますっ! 騎士道は決して死ぬ道じゃありません、それも知らないで騎士なんて語らないでっ!」

「わ、分かった、分かったから、落ち着いてよ水穂」

 ティンは先程言われた言葉をそのまま水穂に返す。水穂は指で涙を払い落とすとそのまま前へと向かっていく。リフィナの元へと。



「水穂、リフィナは」

「そう遠くへはいっていません。彼女もマッピングしながらの筈。術式で地図のあるこちらから逃げることは」

「ああ、不可能だろうね」

 と言うと大部屋へと出る。その部屋の中心にリフィナが居る。

「チッ……何処までもうざい連中だなぁ……お前等偽善者なんかの世話になりたくないって、いい加減気付けよ」

「リフィナ、あたし」

「つーかさ、私なんかを保護するくらいなら犯罪者達を捕まえろよ。騎士警察に協力要請しないくせに役立たずだなぁ」

「リフィナ、お願い聞いてよッ!? あたしはッ!」

 ティンは前に出る。リフィナに駆け寄りながら語りかける。が、リフィナは五月蝿そうにティンを視界に入れると。

「――うぜぇ」

「リフィッ」

 直後、軽い炸裂音が一斉に鳴り響く。ティンは一瞬止まってからリフィナの前へと踊り出、銃の突風をその身で受ける。

「かふ」

「な、追いつかれた!?」

 ティンは歯を食いしばって背後を見る。そこには無傷なリフィナが逃げようとしてる姿。それを見て安堵すると剣を抜く。実体を持った剣を握るのが久しぶりだから少し不思議な感じだが問題ない。

「姫を逃がすな! 多少傷つけても外傷は無い、遠慮せずに行けッ!」

 甲冑の声が響き、ティンは怒りをその目に宿し踊る様に駆ける。

「オマエらあああああああああああああッッ!」

「鬱陶しい小娘だ」

 リーダー格は懐から黒光りする拳銃を取り出す――そう、殺傷設定の拳銃。人の命を軽く消し飛ばす凶弾の詰まったソレを、ティンへと向け。

「死ね」

 引き金を引く。

 轟音が鳴る。人の命を消す凶弾が飛び、ティンの下へと直進し――と、ティンは発砲の時点で踊る様に横に反れてソレをかわす。リーダー格は舌を打ってティンに向けて発砲、当然彼女はソレをかわしその回避位置に時間差で銃を撃ち込む。

 リーダー格はソレで終わりだと思っていた。事実、ティンは撃たれた銃弾を舞う様に身を捻ってかわし、その動いた先に銃弾が迫っていた。

 が、舐めてはいけない。

 今こそ教えよう。ダンシングステップの真骨頂を、その本当の恐ろしさを。速さ? 自由自在な足運び? 違う。後者は的を得ているようで、少しずれている。その本当の価値は――。

「な、かわした?」

 その、柔軟性。ダンスで鍛えた柔らかい身体をふんだんに利用した脅威の回避率。

 ティンは二発目を避けた直後腰を折って三発目はティンの背中の上に舞う髪を貫いて飛んでいく。

 リーダー格は奥歯を噛み、銃を連発する。だがティンはそれら全てを踊る様に避けて行く。まるで此処がダンスパーティの会場の様に。当然だ。この技術はティンが荒地で鍛えぬいた技術だ。空中ならいざ知らず、身体の何処かが接地さえしていればそこを軸にして舞う様に回避出来る。加速も、剣舞も、全てそこから発生した副産物に過ぎず、本来は徹底した回避技術である。

 ダンシングステップで防戦に徹したティンは、ほぼ無敵。誰にも当て様が無い。当てたくば四方八方から同時にマシンガンの掃射でもして来いと言うのだ。最も、欠点と言えば攻撃に転じれば当たる可能性が出ることだが。

「くそっ、これ以上は無駄玉か!」

 そう言ってリーダー格は銃を仕舞い、腰に下げた手斧を投げつける。ティンは当然の様にそれをかわし、そこに甲冑の仲間が斧で切りかかり剣で降りかかって来る――が、ティンはそれら全てを当ったかのような動きで全て回避し、逆に足払いをかけて包囲網を突破する。

 狙うは敵将ただ一人。

 ティンはリーダー格を睨んで剣を構え、舞う様なステップで相手の首を狙い――。


「きゃぁっ!?」

「は、離しなさいよっ!?」


 ばっとティンが振り返ると、いつの間にか現れた甲冑が水穂とリフィナに襲い掛かっている。リフィナはあっさりと捕まえるが、水穂は捕まえた相手を逆に背負い投げで飛ばし、杖で殴り飛ばす。

「余所見はいかんなぁ」

 ちゃきっと、ティンが更に振向くと眉間に拳銃が突きつけられる。

「かわしてみせろ!」

 鳴り響く銃声、直後に金属音が響く。

「ティンさんッ!?」

 水穂はリフィナを拘束していた甲冑を殴って倒し、ティンの方へ向くと、彼女は甲冑の目の前で姿勢を崩していた。発砲の直前、バランスを崩して射線上から直ぐに避けたのだ。直後、ティンはリーダー格の拳銃を握っている腕――右腕を睨む。点は二つ、筋すじと手首の脈。そこへ正確かつ手早く切り裂く。

「ぐぁ!? こいっ!?」

 切り裂かれたリーダー格は拳銃を手放しかけ、ティンは尻餅付くと手を軸に拳銃を蹴りつけ。

「しま」

 拳銃が宙を舞い、ティンは素早く足を地に着けてまずは足を切り、バランスを崩した所で首下を切り裂いて振り返って急いでリフィナの下へと駆ける。

「リフィナッ!」

「いかせ」

 ティンは目の前に現れた甲冑達を飛び越える様に舞った。彼女を突き刺そうと槍が飛び出るが、それさえ足場にして踊る様に駆ける。護るべき姫達の下へ。

 周囲に居る甲冑達を頭上から強襲、同時に切り裂いて片付ける。

「御免、二人とも!」

「こちらは無事です、ティンさんはリーダー格の甲冑を!」

 リフィナはティンを背中に向けて箒を向け。

「リフィナさんっ!」

 水穂が間に挟み込むように現れる。

「今はそういう場合ではないでしょう!? 誰が敵か味方か、ソレくらい分からないほど子供って訳じゃないでしょう!?」

 リフィナは苦虫を噛み潰したような表情から酷く困惑した様な表情となる。それは、まるで。

「わ、わたしっ、私は、私は……」

「リフィ、ナ、さん?」

「たっ、ただっ、私は……ッ!」

 ティンは襲い来る甲冑を斬って捨て斬って捨てて行く。今の彼女にリフィナの言葉なんて届いていない。ただあるのは、盲目なほどの“守る”と言う感情のみ。守りたい人が居る、守りたいと願った人が居る。だから、ただ剣を振るう。機械のように。

 甲冑達は武器を突き出しティンを牽制するが関係なくティンは甲冑の集団に飛び掛る。前衛の壁を通り越し、甲冑一人の首を切り、次の喉を突き、次のを胸を裂き、舞う様に次々に甲冑達を切り裂く。鎧の隙間を貫き、脆くなった箇所へと刃を通し、中の人間を綺麗に切り裂いていく。

 ティンに向けてマシンガンを撃つ者達まで現れる。もはや同士討ち等関係なく、甲冑に身を包んでいるのだ、マシンガン程度で如何こうとなるならそもそもそんなものを身に付けている方が悪いと言うものだ。そんなことにもう構っていられない、兎に角撃つのだ。

 ティンはそれをかわし、いや極力避けて銃弾の嵐の中を急所をなるべく避けて突き抜け、再び敵を切り裂いていく。荒く息を吐く。流石に十を超える様な大勢を相手にし続けて強引な先方を取っているのだ、体力の消耗だった激しい。それでも自身に活を入れ続ける。全てを賭して彼女を守るのだと。

「――もう、いい」

 知らず呟いた。誰が? その声を聞いた水穂は驚きながら発言者を見る。

「もう、いいよ……」

「リフィナ、さん……?」

 リフィナだ。さっきまで、ずっとティンを敵視し続けた彼女が、呟き始める。

「別に、そうまでしてくれなくて良いよ……」

 箒を取り落とし、涙声で呟き始める。

「一体、どうして……」

 水穂はそんな疑問を持った瞬間、ティンの声が耳に届いた。

「やっと捕まえたぞ、小娘が……!」

「は、離せ!? 髪を掴むな!」

 ティンが舞う様に回避していた中、復帰したリーダー格が完全に隙を付いてティンの長く、輝く様な金髪を掴み取る。そのままリーダー格はティンを持ち上げる。

「ふん、戦場に赴くのにこんな長い髪をそのままにして置く方が悪い! これで貴様も、終わりだぁぁッ!」

 リーダー格は腰に下げた剣を引き抜き、振り上げる。ティンはそれを目にする。時間がゆっくりと感じる。ある決断がせまる。

 水穂は言った、全てを賭して彼女を守れば、リフィナの信用を得られるかも知れない。

 ああ、今がその時なのだろう。ティンの自分の髪が好きだ。長い金髪が好きだ。綺麗だと褒められて嬉しかった。だから、邪魔と分かっていても伸ばして居たのだ。でも、今これが邪魔だ。ではどうするか?

(斬りたくない、斬りたくない、これだけは嫌だ、髪だけは……!)

 内心そう叫んでいてもしょうがない。頭では分かっている。如何すれば良いか、如何するべきか。ああもう、分かっている。分かっているんだ。命よりも大事に思っていたそれを失わなければならない。失わなければ、信用は得られない。ならば――やる事は一つ。

「くっぅぅぅぅぅっ!」

 涙を呑んで、自分の髪を掴んで。

「うああああああああああああああッッ!」

 自分の剣を、髪に当てて、切り裂いた。

 短く、開放された金髪が拘束から解き放たれた様に、舞い落ちる。ティンは開放される様に地面へと降り立ち、身を返してリーダー格の腰を一刀の下両断する。

 誰もがまるで水を打った様に静まり返る。リーダー格の手に握られていたティンの金髪が宙に舞う。誰もが凍り付いた様にティンを見ていた。長く美しかった髪が短く切り裂かれ、無理矢理切ったせいか細かい髪が舞い散っている。

 ティンはそんなのを気にせず周囲を切り裂く。

「ティン、さん? ティンさん!?」

「え、うそ……?」

 やっと水穂とリフィナが動き出した。そしてそれに応えるようにティンがリフィナと水穂の前に現れた。

「何、であんた、髪を……あんな、自慢してたじゃんか、あんなに気に入ってたじゃんか!?」

 リフィナは泣きそうな声でティンに問いかける。

「――大丈夫だよ」

 対してティンは気にもともめてないと言って返す――無論、嘘だ。気にしない訳がない。大事にして髪だ、生まれて初めて、自分で、あんなに沢山髪を斬った。でも後悔なんてしない、そんなものある訳がない。

「リフィナが無事なら、それで良いよ」

「……あ」

 リフィナはティンの言葉を聞くと思わず声が漏れた。そして、止め処なく。

「あ、あ」

 声が、漏れていく。

「あ、あ、あ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?

 違う、違うっ! 別にこんな、こんなんじゃ、でも、でもおおおおおおおっ!?」

 顔面を押さえてリフィナは叫びだす。ティンはそんな彼女の傍に寄り添い。

「いいよ、別に。あたし、さ」

 ティンは崩れるリフィナに語りかける。

「騎士になりたいとかさ、正直そんなのどうでも良いんだ。あたしはね、ただ――」

 リフィナは顔を上げる。ティンは上げた彼女の表情を見て告げた。



「――あんたの、友達になりたいんだ」

 ただ、そう笑顔で言った。ただ一途に、彼女を安心させたくて。涙を堪えながら。

 終わんなかった。次でこそ終わらせます。ではまたー。

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