表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
254/255

これにて、幕は落ちる

 決着と同時、世界が崩壊していく。放り出されたマルロウはひび割れて砕けた地面から異次元の彼方へと流されていく。ティンも元の姿となって膝をついた。荒い息を吐きながらもティンはなんとかといったという調子で立ち上がる。

 ここからどう帰るのか、そんなことを考える暇なんて何処にもない。何せ地面が次々に砕けて虚空へと消えていくのだ、ティンも慌てて逃げ出す以外にないのである。

 疲れた肉体でとにかく走った。走って、走って、走ったが、出口なんて何処にもない、というかあちこちから地面が崩壊していく。世界が意味を失くして崩壊していく、此処の崩落に飲み込まれたら最後。

「取りあえず、訳の分からん次元の濁流にのまれるのだけは分かる。行先なんて、もう想像つくかよ!」

 誰に言うでもなくティンは叫んだ。気づけば、すでに周囲の足場はほとんど消滅している。ティンは思わずため息を漏らす。此処から異次元に流れたとして、もう一度レウルスの居る所に流れる望みは恐らくないだろうと。

 かつてティンはレウルスに言った、異次元に飲み込まれた存在を見つけるなど、それをピンポイントで見つけて再会するなどほぼあり得ない、もはや万事休すである。ティンは思わず、此処までの物語に思いを馳せた。

 家を飛び出し、出会い、経験し、聖騎士を選んで、戦って、別れて、出会って、また分かれて、出会って、再会して、また分かれて、出会って、戻って、再会して、再会して、出会って、戦って、戦って、戦って、戦い続けて、此処に来た。

 そんな、思い出を振り返っては。

「冗談じゃない! ここに来て走馬燈、ふざけんなぁっ!!」

 ティンは虚空に向かって叫ぶ。しかし、足場はほぼ消滅して砕けている。もう何処にも行く所はない。ならば。

「じゃあ、神剣で……いや、それこそ駄目だ。下手すりゃ、この次元自体をぶっ壊して特異点に落っこちる。ああもう、くそどうしろって言うんだよ!?」

 もうすぐそこまで来ている足場の崩壊。滅びゆく世界。きっと、此処は二人の因果が結んだがゆえに構築された場所なのだろう。もう腰を下ろす場所すらない、この世界でティンは諦観を迎えて。

「あ、さ、み?」

 思い出す。何故か、浅美といつか交わした約束。何かあったら、よべと。だが。

「今呼んで、どうする」

 都合よく来るというのだろうか。いや否、否、否と言いたいのに。

「ああ、もう、くそぉぉぉっ!」

 ティンは覚悟を決めて、泣く様に。

「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁさみぃぃぃぃいいいいいいいいいいいッッ!!」

「なぁに?」

 ぬっと、長い金髪を持つ女が、次元の壁に穴をあけて顔を出す。微笑みながら、彼女は左手でティンの手を掴んで異次元の中へと引っ張った。

「わっ、ちょ」

「さあ、帰ろうティンさん。みんなの居る所に」

 異次元空間に友人を引っ張り込むと、彼女は右手握った長剣を上に飾す。それは、混沌を操り空間を切断する魔剣。

「カオス・スパイラル!」

 禍々しい混沌のオーラを纏う長剣、そしてその剣は空間を断つ力を解き放ち、そして虚空を一閃。虚空の空間が引き裂かれ、次元に大きな穴を生み出す。その穴を見て、カオス・スパイラルを脇の下に挟み、手に掴んだティンの両手を手にぐるぐると回転し。

「じゃあティンさん、そっちのわたしもよろしくね!」

「って、ちょ、お前!?」

 穴目掛けて放り投げられた。穴に入った直後、すぐに地面に激突する。反射的にティンは背後に振り返って。

「こーらー、浅美ー! 人を、投げるんじゃなーい!」

「は?」

「へ?」

 ティンは茫然と周囲を見渡す。すると、そこには次元の彼方に消える前の光景が広がっていて。そして、先ほど声をかけた先にいたのは。

「華梨、お前なに泣いて」

「ティ、ン。ティン! ティン! このバカ野郎!?」

 叫んで、華梨が抱きしめた。

「わ、ちょ、お前、苦しいって、いきなり何だよ!? って、おい、こらそこ、何便乗してんだ! いたい、いたい! やめろこらああああああああ!!」

 戻ってきてそうそう、熱烈な歓迎を受けるティン。やがて、華梨は強く幼馴染を抱きしめて、その心臓の鼓動を感じながら。

「おかえり、ティン」

「あいよ。ただいま、華梨」

 微笑みながら、お互いに言葉を交わし合った。



「お、あったあった」

 あれから一か月も経った。色々思いながら孤児院に戻ったティンは、まず妹たちから熱い熱い歓迎を受ける。会うたび会うたび泣かれて、じーさまは笑って、師範代はバシバシとティンの頭を叩き、ばーさまに『ただいま』とだけ挨拶をした。

 そして、二人に旅の経緯を語って今もこの孤児院にいる。

「ふっふふーん」

 公爵としての職務は基本、やらなくてもいいとのこと。というか余計なことはするなと女王から言われ、今は孤児院で自堕落な生活を送っていた。

 つまり、全部元通りである。と、言うには語弊がある。

「おちゃっぱはーと」

 今ではすっかり冒険者生活が板につき、気が向けば冒サポで依頼を受けていたりする。結野から教わったように、近所の荷物運びを受けたり、近くの害獣駆除や魔獣退治を受けて孤児院の経営資金に充てている。

「おーし」

 以前と比べて、前へと向かっている。だが最近では、ラルシアが何処かに消えたとかでイヴァーライルが不安定だという妙な噂があったりするが、それでも平和には違いない。

 なので。

「んじゃ」

 お煎餅でも齧って。

 淹れたての緑茶をすすり。

 今日も沈む夕日に、黄昏と一つになりながらティンは。



「明日も良い日でありますよーに」



 呑気に呟きながら、まだ見ぬ明日へと思いを馳せる。

 明日も、良い日でありますようにと。

 今日よりも素晴らしい(いっぽ)であるように。



 END。

 これにて、神剣の舞手本文を終了とさせていただきます。

 また、エピローグを置いておきますので興味があればどうぞ。


 なお、ご意見ご感想とうなどは一切不要ですので、言いたいことは画面の前で呟き、別のページへと飛んで下さいませ。

 ここまで読んで下さり、またあなたのお時間を使わせていただき、誠に感謝します。

 あなたの丁度良い暇つぶしになれたでしょうか。

 それではまたいつか、どこかの作品で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ