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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
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答え合わせ

前回最終話かもとか書いた気がしたが……前話の投稿日を見てくれ。まあ、そういうことだ。まだまだ続くよ。

一応。

 さて、ここで一つ振り返ってみよう。

 そも、魔力の特性は何があろうとも同族殺しを残酷なまでに抑制すると言うものである。つまり、何があろうとも魔力で人の精神を砕くことはできても、人体そのものには何も影響を及ぼさない。

 それが魔力に関わる基本にして絶対のルール。つまるところ、彼女はまだ生きている。

 では、彼女は何処に行ったのか? それを見てみようではないか。



 幕は、まだ降りてはいない。

 閉幕にはまだ早い。主役のいるところにスポットライトを持って行こう。次こそは真なる(Actae)物語の結末(stfabula)へ……さあ、再演の時間だ――。



 答え合わせを、しよう。



 暗い闇だけがある世界で。

 その暗い空間の中で、深奥の底とでも表現する場所。

 ある一点、そこだけが不思議と照らしだされるステンドグラスのように光り輝いていた。光もないにも拘らず淡い光を放つその足場、中央に短い金髪に白い服を身に纏う騎士が一人横たわっている。騎士はゆっくりと瞼を開けた。その瞳は人ならざるものを印象付けさせる不気味なライトイエロー。

 光纏う騎士はゆっくりと立ち上がって世界を見た。闇しかないその世界、だけど何故か視界は良好で、何故この足場の上にいるのかと思っていると、光る階段が不気味なライトイエローに映り込む。

 階段の先は見えない。その先へ歩むには一歩踏み出す勇気が必要だ。今、騎士はその勇敢さを試されている。

 騎士は自分の状態を確認する。体調は良好、少なくとも悪くはない。武器はある、腰には長さが違う二本の剣。手持ちの持ち物を確認、失くしたものは何もないと認める。最後に、道は目前の階段のみか。

 答えは、肯定。全身以外にあり得ない、ならば行くしかないと騎士は――ティンは前へと歩き出す。

 階段を歩く中、何故自分が此処にいるのかを考える。しかし、思考はなぜか自分とは何か、という議題へと飛翔した。理由は不明、きっと世界の裏側を見せられているかのようなこの空間が原因であろう。

 思えば、誰かが言っていたのだがこのティンという名前は自分の名前ではない。誰が指摘したのか忘れたが、そもそも彼女の魂に刻まれた名前は別のものであるという。しかし、ではティンとは何なのだろうか。それは、偽物ということか。

「偽物、か」

 口にし、自嘲する。第一、自分は本物であったのだろうか。

 答えは否。何故なら答えの化身たる幼馴染が完全に否定した、お前は『ティン』ではないと。であるのなら、自分の正体は何なのだろうか。

「あたしの、正体」

 答えは幾らでも用意できた。模範回答はそれこそ山のようにたかく積まれていて、雨のごとく自分の真実とかいう情報が降り注ぐ。しかし、それは。

「何の意味もない」

 肯定。

 そう、何一つそれは意味を持たない。何故ならば、それはティンの、もしくはメアリー・スーウェルの情報だ。此処にいる、神剣を手に戦いの舞踏を続けた誰かではない。では、自分とティンの違いとは何か。

「ああ、きっと。昔のあたしはたぶん、全部に俯瞰してた」

 これが答え。ティンとはそもそも傲岸不遜を地で行く人物であっていたはずだ、それは複数の人々が指摘している。決して今のように『何かを必死で行い、泣いて笑って怒る人間』では決してない。

 超常的な頭脳を持ち、自分の人生に見切りをつけて笑って目を背けてた。それがティン、常に余裕を持っているように見えた女。実際はただ、未来から逃げていただけだった。

 未来から逃げる事はそんなに悪いことか、答えは否。よくない事ではあるが、罰せられるものではない。彼女が咎められたのは、単純に無自覚のまま未来へ目を向けて歩いたからだ。本来作っていた筈の世界との壁を自分の手で壊し、その向こう側へ干渉したからである。

 要するに、だ

 ここに居るのは、昔の自分がやったことさえ忘れて勝手に前へ進んだくせにいきなり元居た場所に戻ろうとする愚か者である、と言うことだ。

「そりゃ、瑞穂も怒るか」

 考えても見れば恐ろしいほどの不義理だ。自分であれだけ世界に関わっておいて、その果てには結局自分の殻に閉じ籠って終わり。何と言う裏切りだろうか。

「つまり。あたしはとっくに壊れてたんだ」

 今までこの舞台の上で踊り続けたのはティンでもなければメアリーですらない。それがある意味の答えだった。

 だと言うのなら、あの時、あの決戦で、神剣を失くしてここに落ちた自分は、一体何者だと言うのか。ティンではない、ティンは全てを俯瞰して常に自然体だ。メアリーでもない、彼女は両親の愛に満ちた存在だ。

 目の前のことに注力し、親の愛すら知らないと言う、この剣士は一体誰なのだろうか。

「誰でも、ないんだな」

 敢えて、ソレを形容せよと言うならばそうとしか表現しようがなかった。だが、その表現に若干の引っ掛かりを覚える。そうだ、これも元々自分だったような、そんな錯覚を思い出す。

「ああ、そっか。だから、答え合わせか」

 自分がやって来た事、自分がやるべきだと思った事、そう信じて進んだ事、そこに嘘は無かっただろうか。偽りのない、真実だと言えたのだろうか。その答えは。

「最初から、答えがあった。あの瞬間、真実を知った時点であたしはもう、ティンじゃなかったんだ。あの瞬間に、全部が壊れた」

 誰かですらない何か。それが今ここにいるナニカの真実。つまるところは、偽物だったのだ。名前などない、最初から存在すらしない、あの日に自分の全てを砕かれて折られて壊されたから。

 そうだ。孤児という立場に縋って目を閉じて未来から逸れて歩いて来た女には、本当の事はあまりにも受け入れ難かったから。

 親なんていらない。

 血の繋がりすらどうでもいい。

 そこにいる何処かの他人(かぞく)だけで良かった。

 みんなと同じ、捨てられた存在で。

「今更、何なんだよ。人を捨てたくせに。子供を捨てたくせに。愛してるってなんなんだよ。愛してるなら、捨てても良いのかよ」

 生みの親に愛されない。

 愛されて生まれたけど、もう愛は貰えない。

 それだけが、あそこに集まって来た子供達の繋がりだった。少なくともティンにとってはそうだった。事実、あそこに集められた子供達の親を名乗る人物は誰も彼もが揃って人として屑ばかりで。

 だから『みんなと(・・・・)同じが良い(・・・・・)』と、自分の親をそうに違いないと切って捨てていた。例え真実が何であろうとも、分からなければ幾らでも蔑ろに出来た。

「それで良かった。良かったんだ」

 吐き捨てながら、重い足を無理やり持ち上げて階段を上る。どこが最果てなのかも分からないまま。



 だから、彼女には最後の試練が待っている。

 これはそういう筋書きの舞台劇。

 未来から逃げていた女を無理やり未来へ向けさせるというだけの物語。目を覚まして、周りに目を向けてごらんと叩きつけるお話。

 逃げた先には碌な事が待っていないのだから。



 だってこれは、貴方だけの人生(ものがたり)だ。



 上を見上げて、階段に先が無いと理解する。その果てにはまた別の足場があった。その先には黒いコートの誰かが立っている。その両手には直刃の剣、表情は読めないもののその出で立ちからわかる事はただ一つ。

「あたしは、あなたを許さない」

 声を聞いた刹那、それが自分の口から出た言葉だと錯覚する。脳裏が焼け尽く、チリチリと何かがざわめく、視界と耳と頭に砂嵐が巻き起こる。

 分からない、分からない。意味が理解出来ない、こいつは今なんて言ったのか騎士の耳を無視して通り過ぎた。

 分かるのは敵意と害意と悪意と殺意、宣戦布告とともに双剣を構えて駆け出した。

 殺気を感じた時点で騎士も同じく抜剣、謎の剣士と剣を合わせる。瞬間、何かがブレる。まるで、これと出会ってはいけないと言われているかのような既知感が騎士の身体を蹂躙する。

 知っている、識っている、分かっている、解っている、判っている、今もこの剣士のことを何故か十全に把握し理解し、何もかも手のひらの上とばかりに知り尽くしていると感じる。

 そこにあるだけで何をしてくるのかが読み切れる。まるで鏡だ、今自分は鏡に斬りかかられている。

 だから右の剣を受け、捌き続いて突き出される左の剣を身を屈めて避け、続き。

「っ、ぁ!?」

 刹那、既知感(デジャヴ)が体を襲う。動きが読めすぎる、自分はこの動きを知っていると誤認出来るほどに。万の、億の、兆の、更にそれを超えて未来があふれ出す。この敵の全てを理解し尽くしてると謳うが如くに。

 動揺は一瞬、永遠に感じながらも現実への影響は皆無。騎士は読め過ぎる未来から強引に一つ選んで薙ぎ払いを繰り出す。だが、その動きも騎士にとっても敵にとっても欠伸が出そうなほどに単調な一撃で、あっさりと弾かれる。

 全てが予定調和であると言わんばかりに、騎士は弾かれた剣を戻して舞うかのように次の一撃を放ち、続いて舞踏と共に剣戟を披露してみせる。

 敵は双剣、ならば手数で劣っている以上はそれをフォローしていくのが当然であろう。何故か敵の動きは常に予測の範囲内、いつか切り結んだ星の双剣士の方がまだ強いだろうし、白獅子に至っては遠く彼方だ。ならばいける、騎士はそう判断して双剣を振るう目の前の女剣士と――。

(女、剣士?)

 何故だろう、目の前にいる彼女(・・)のことをまるで古い友人であるかのように、自然と女性であると認識した。あの黒コートに見覚えは一切ない。無い、のに何故。何故。何故、何故何故何故何故何故何故、どうして。

 右の剣を切り弾き飛んでくるもう一振りを同様に切り捌き蹴りこむが読まれているのか避けられる。もう一度追撃を繰り出す女剣士の一閃を捌き、騎士が切り返し、女剣士の双剣が舞う。

「お前、誰だよ!?」

 剣を捌きながら問いを投げた。頭が落ち着かない、砂嵐がいつまでも激しくなる一方で止まらない、未来を見通す頭が加速を一向に止めてくれない、頭がどうにかなりそうだ。何故なのか、騎士には理由が見えない。

「誰?」

 女剣士は声を漏らす。その声もやはり騎士自身の口から出たと錯覚出来るほどで。

「誰、だって?」

 激しく響く鋼の輪舞、飛び散る火花が頬を掠めるがそれさえ冷たいと心が漏らす。そんな激しい剣の凌ぎあいの中で女剣士は淡々と。

「分かっている筈なのに、何故問いを投げる?」

 騎士は女剣士との激しい攻防の中で遂にそのフードに刃を当てることに成功し、その素顔を視認する。その、顔は。

「あたしは、お前だ」

 鏡のように瓜二つで、背中にぱさっと軽く波打つ長い金髪がこぼれる。そこにある瞳は、人ではないと思わせるライトイエローで。

「お前だよ――メアリー」

 その素顔に騎士は、女剣士を――。

「あたしは、メアリー・スーウェル。並行世界の、お前だ」

 フラグなら以前にもあった。パラレルワールドの氷結瑞穂と出会った、パラレルワールドの父親とも出会った、なら何故並行世界の自分自身と出会わないと言えるのだろうか。騎士はその顔を、姿を凝視する。

 同じ顔、同じ髪、同じ瞳、同じ背格好、見れば見るほどに騎士と瓜二つだ。

「あた、しは」

「あたしはお前を、あの世界のメアリーを許さない」

 その言葉は自分への処刑宣告だ。何処にでもない何処かに落ちた、見たくもない自分に対する憤り。

「なん、で」

「なぜ? 決まっている」

 震える騎士を前にメアリーはコートを脱ぎ捨て、切りかかる。

「お前は両親の愛を知らない」

 振るわれた双剣を不格好に受け止めた。単調な一撃、普段の騎士なら問答無用で切り捨てられた一撃のはず。だが。

「その身に刻まれた愛情に唾を吐いた」

 メアリーの言葉が、無数の刃となり騎士を切り裂く。

「父さんの苦しみも知らないやつに」

 ああそうだとも。メアリーとはこういう存在だ、孤児のティンとは決して分かり合えないし目の前にいるのはただの残骸から出来た何かだ。だからメアリーは宣言する、こんな奴にだけは決して負けないと。負けはしないのだと。

 思考を放棄して目の前の現実から目を背けるような奴には、確かに受け取った両親からの愛情を踏み躙って自分の都合がいい様に改ざんして貶めるような奴には、決して。

「母さんのスープも飲んだことがないやつに、メアリー(あたし)は負けない!」

 メアリーの振るった刃が、敵わない筈の騎士を切り裂いた。



 目を背けないで。

 しっかりと前を見て。

 逃げてはいけないよ。

 さあ――君の『答え』を聞こう。

んじゃまた次回。

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