表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
250/255

かけ違えた何か

 瓦礫と、朽ちた残骸と、砕けた椅子と汚れたテーブルが並んだ空間で、ある男がピアノで奏でるが如くにキーボードを叩く。一心不乱に、虚空を眺める瞳で男は叩き続けた。

 その空間へ複数の足音が響き、やがて破砕音と共に誰かが突入してくる。男は、気づいているのかいないのか構うことは一切しない。

 だからこそ侵入者も――ティンも気にせず剣を引き抜き、その切っ先を突き出す。

「お前との因縁も、これで終わりだ」

「何故ここにいる」

 返される言葉はどこか意味が通らない。ならば言葉を交わすことに意味は無いと、ティンは剣を構えて。

「マルロウッ!」

 踏み込み刹那、また現れたのは見ず知らずの誰かで。今度はどこの誰との知り合いかと思えば。

「お前、エルクス!? なんでここにいるんだ!?」

「なっ、アア!? 何故貴様がここにいる、カイヴルはどうした? いや、今はいい。マルロウッ、もういい、止めるんだ!」

 まさか、まさかの、酒場の店長が口を挟んだ。どういう理屈か、どんな因縁か、しかしエルクスと呼ばれた白衣の男はこの機械工場の主人たるマルロウに言葉をかける。

 しかし、マルロウは拒絶の態度を示し。

「僕は、もう止まれない。ぼくは、とっくにヨゴレているんだ」

「いや、君はまだ汚れていない!」

 続いて出てくるのは、空飛ぶてるてる坊主とでも表現すれば良いのだろうか。ティンは次々と現れる新規の登場人物に驚きつつも戦闘態勢は解かずに構え。

「き、み、は」

「僕が知っている、君は汚れてはいない。だからやり直せるんだ! 君はまだ」

「うる、さい」

 マルロウは宙に浮かぶ映像を消し、足元の術式を展開する。

「僕は決めた……決めたんだ。誰にも、止めさせはしないッ!」

「いいや、俺が止める。止めてみせるッ! これでも一応、お前もダチを名乗った事がある人間だッ! 絶対にお前を」

 エルクスが放つ誓いの言葉は、無情にも現れた巨大な金属の塊の降臨によって阻まれた。見れば、凡そ4m前後の甲冑鎧だろうか、マルロウはその中へと入り込み。

「ば、馬鹿な……MAMESだとッ!? やめるんだマルロウ!」

「MAMES!? あの馬鹿、旧世界の遺産を持ち出してどうする気だ!?」

 驚くエルクスと店長、この場合はアアとでも呼べば良いのか、ティンはどう聞いても人名とは思えないその言葉に対して記憶から消去して目の前に現れた甲冑に目を向ける。

 間を置き、甲冑の目元が光りだす。それと同時に後ろで瑞穂とアシェラのひそひそ話が聞こえてきた。

「ねえねえ、あれって何?」

「Marionnette・Assaultsoldier・Magicarmored・Etherdriveengine・Systemconnecttype、通称MAMESと呼ばれる人形鎧だ。marionnetteがつく辺り察しがつくと思うが、あれは内部に人が入って動かす操り人形だよ」

「内部構造は?」

「魔術で作られた人工筋肉と、それらを制御する術式と工房だな。内部に乗っている人間を、物理的に魔力回路に接続する事で、魔法を扱うほどの素質が無い人間でも動かせる奇跡の魔道具。人類が生み出した、人類史上最も狂った兵器だよ」

 ティンはデカブツの攻略情報を聞き出しているのだと思い、二人の会話に耳を傾ける。だがそれに対して火憐と有栖と芹奈が同時に目を見開いて。

「おいこら待て、今なんつった!?」

「今、貴方が話したことが事実なら、魔法を扱うことすら出来ない人間が魔法を扱うが如く、内部から鎧を制御出来る兵器、だって!? そんなもの、設計思想からトチ狂っている!」

「だから言っただろう、あれは人類史上最も狂った兵器だ、と。内部に魔力を生成する術式が組み込まれており、後は媒体となる人間を乗せれば動く代物だ。そしてどうなるかは、お察しだよ」

 動き出す巨大な鎧甲冑に火憐も有栖も瞳孔を開く勢いで注視する。対し剣王は目を細めて。

「ほう、お決まりの絶叫が響かない。余程音が漏れにくいのか、改造の結果か。面白いな、あの欠陥まみれの狂兵器をどう弄ったのか見てみるのも一興か」

「絶叫?」

「この女の話が事実なら、アレを動かすたびに神経の近くか内部に穴を通すと言うことだ。それも麻酔抜き、肉体全身にな。そんな狂気の道具を平然と動かすなッ!?」

 有栖が解説中、マルロウの操るMAMESが動き出しティンに向けて拳を振るう。当然避けるが同時に甲冑の隙間から細長い筒が伸びて火を吹いた。

 ティンは突然の不意打ちにも知っていたと言わんばかりに回避運動を取り、ここに二人の決戦の火蓋が遂に落とされる。

「ティン、すまない。僕ではマルロウを説得できなかった」

「っ、お前誰だよ?」

 回避した矢先に突如現れた空飛ぶてるてる坊主に驚くティンだが相手は構わず。

「僕は、クーロン。かつて、ううんついさっきまで黄龍の中で彼の心を担っていた妖精が妖精霊種に進化した存在だ」

「はあ!? じゃあ、お前、黄龍、なのか?」

「正確には、その心の部分だけだ。僕と言う心、そして黄龍の思考データが入ったAI、これらが組み合わさって初めて黄龍は、黄龍という自我を持つ」

 クーロンの解説を聞いたティンは、思い出す。黄龍との戦いを。

「黄龍は、心を持ってた? あいつは、ただの機械じゃ」

「違う。最後まで彼は勘違いしてたけど、彼は、言わば有妖機。妖精が乗り込んで動かす機械、妖精のパワードスーツだ」

「嘘、じゃあ、あいつは。あいつは!」

 言って、ティンは立ち上がってマルロウに向き合った。もう過ぎ去った記憶であり、振り返ることしかできない。だから。

「僕にはもうマルロウを止められない。身勝手なのはわかっている、でも、お願いだ、マルロウを」

「知るか、そんなの」

 懇願するクーロンの言葉を切って立ち上がるティンは目の前の鎧と対峙する。

 その、筈だった。

 だが、二人の女は違った。大学生の魔法学界の卵と全智蒐集の黒猫が同時に目を輝かせてアレを視認する。

 その絵に惹かれてしまったティンは一瞬気取られるも、浅美が割り込んでティンの手を引いて飛び去って行く。

「悪い!」

「いや、待って」

 その奇妙な違和感を浅美も感じたらしい。お互いにお互いの顔を見あって頷きあい確かめ合う。

 あの鎧を(・・・・)二人に・・・見せてはいけない(・・・・・・・・)

 それを察すると同時、最早手遅れであると認識する。何故ならあの二人は既に視認している、識ってしまっている。

 その時点で未来が確定した。ならばこの後の反応など当然のように。

「ティンさん」

「閣下」


「あれ、バラしたい」


 異口同音、瑞穂と理央の口から同じ言葉が発せられる。ああ、確かにこの二人は先輩と後輩、詰まる所は似た者同士であると言うことだ。二人とも同じように同じ感性を持ち合わせているのだ。

「人類史上最狂兵器、なにそれ構造を把握したい」

「奇跡のような出会いです、これは是が非でもバラして内部を把握しなくてはなりません」

 二人は一歩前に歩み出し。

「行きますよ、先輩」

「行くよ、後輩りお。ついて来て」

 二人は同時に己が目的のために駆け出した。ならば良し、ティンも浅美もここまで来れば容赦も遠慮も要らずと把握。

 流石自重を母の子宮において来たと思われるだけはあるとして三人は己が持ちうる魔力を回転させて行く。

「我が天上に煌めくは深淵なる水星よ、汝が印をこの手に刻もう」

Echter(かの者ほど)als(本当に)er(誓い)schwür(を守った)keiner(者は)Eide(おらず);

 treuer(かの者ほど)als(真面目に)er(契約)hielt(を守った)keiner(者は) Verträge(なく);

 lautrer(かの者ほど) als(一途に)er(人を)liebte(愛した)kein(者は)andrer(いない):」

「日は、生まれた時から変わらずに決まった輪を、星と競うように翔け回る」

 動き出した鎧を止めるべく、瑞穂が氷鎖を精製して身体を縛り上げて拘束して行く。だが、その程度はいともたやすく引きちぎられて。

「ああ、冥府すらも歩み行く旅人よ。そなたの叡智を求めて盗賊が、商人が、医者が教師が詐欺師が話を聞かせれおくれと待ち焦がれている」

und(だがか)doch(の者は),alle(あらゆ)Eide(る誓い),alle(と全て)Verträge(の契約そ),die(して)treueste(全部の愛)Liebe(を裏)trog(切っ)keiner(てしま)er(った)

 Wißt(汝ら)inrそれが,wie(どういう)das(ことか)ward(分かるか)

 Das(あたしを)Feuer(燃やすこの),das(炎が)mich(指輪の)verbrennt(呪いと全ての),rein(不浄)'ge()vom(溶かし)Fluche(て祓い)den()Ring(める)!」

「それは雷鳴のように、早く。そう、そして何よりも早く。この永遠を翔け抜けよう」

 続く一手は足元の凍結、続いて先に詠唱と構築を完了し終えた芹奈が理央の前に立ち。

展開駆動(Opendrive)慟哭を謳え(Howling)漆黒へ堕とす(blacks)虚空の剣(aber)!」

 闇を纏った刃を突き出す芹奈。突き出される細身剣の切っ先と突き出される拳が激突し、ほんの一瞬だけ両者が静止したが芹奈がモノの見事に吹き飛ばされた。

 落ちる先、朽ちた椅子に闇纏う剣を叩きつけて問題なく着地する芹奈、対して無防備になった詠唱を続ける三人は。

「有翼の帽子と靴を身に纏い、双蛇に巻かれし杖を手に地上を旅歩く伝令神。持ち得る豊かな知恵を以って神秘の宇宙よりその恩恵を恵んでおくれ」

Ihr(だか)in()der(貴方)Flut(達は)löset(この水)auf(で穢れ),und(を流し)lauter(溶かし)bewahrt(してよ)das(り尊)lichte(き黄金)Goldへと,

 das(至高)euch(の純金)zum(にか)Unheil(えて)geraubt(預けよう). 」

「光と共に飛翔せよ、その一閃は炎を超える。それはだれも知らない、届かない。至高の存在」

 だからどうしたと気にも止めずに詠唱を紡ぎ。

「そう貴方こそ、雄弁なる魂の導者。三重偉大なる錬金術師!」

Denn(かの)der(神々の)Götter(終末、)Ende(その)dämmert(黄昏は)nun(始ま)auf(った).

 So() - werf(あたしは)'ich(かの)den(荘厳)Brand()in() Walhalls(ヴァルハラ)prangende(を燃やし尽くす)Burg(者とならん).」

「この祈りこそが私の原初!」

 三人の術式が同時に形成され、並み居る氷結の妨害を打ち砕く巨躯が迫るも。


展開駆動(Opendrive)!」

「来たれ神々の黄昏、召喚ッ!」

創世(オリジェネレート)!」


 黄昏の光と重なる神速の翼が飛翔した。


掲げるは煌めく水星(Mercury)汝は密と疎の奏者たれ(Alchemist)ッ!」

「ラグナロックッ!」

「神翼、天包ッ!」


「理央ッ」

 闇の剣を握って再び戦場に舞い戻る芹奈はまた前衛を買って出るが、振るわれる鋼鉄の拳を剣で受けて膝をつく。

「火憐先輩、誠に申し訳ありませんがご助力をお願いできませんか!?」

「無理言うな馬鹿後輩!」

 言葉より早く、行動さえ置き去って、神威の翼が飛翔する。数千にも及ぶ斬撃の嵐が鎧の急所を無残に切り刻むも鎧は一瞬光るだけで傷が消えた。

 浅美の攻撃によって生まれた隙間から攻撃を逃れる芹奈、続く理央の銃撃が鎧の装甲と足下を溶かす。

 溶け出す、否液体に変化する個体を前にまた鎧が光ることで再度構築されて行く。その刹那に芹奈が接近して斬りつけて。

「火憐先輩!」

「アホか、んな馬鹿みてえなツッコミにフォロー出来るか!」

 火憐の叫びに芹奈はそれでもと手にしたレイピアで鎧の足を止める。その間に理央が懐から針を取り出し投げつけ、ティンも神剣を振るった。

 針が刺さり固体が水に切り替わり、失せた装甲へ切り込むが即座に鎧を戻して後ろの飛び下がり、芹奈が追撃をしたが鎧の隙間から銃身が伸びて火を噴く。

 銃撃の直前、神速の嵐が舞う。だがそれでも銃口より放たれた魔法の弾丸が芹奈に届く直前、なにかが芹奈を掻っ攫って消えていく。

 ティンは急に動くなにかを目で追うと、それは理央だ。理央は芹奈を脇の下で抱え込み宙を、右腕から引っ張られるように動き、更に芹奈を自分にしがみつかせると空いている左腕を振って何かを撃つ。

 そこまで見届けて体勢を戻して銃撃を続ける鎧にティンは軌道を予測しながら手に持つ神剣で捌きながら接敵する。

 ティンは視界から理央が消えてから下がる鎧に斬りかかる。何故かダメージの通りが悪い浅美だが、ならばティンの神剣で浄滅し切り裂けば良い話。

 だが鎧は虚空に術式を展開してハルバードと針付き盾を装備、更に地を踏みならして上からお馴染みの機械兵を呼び出した。

「雑魚が」

 ティンがつぶやいた刹那、光子加速を起動する行動を置き去り浅美が神速を以って全てを問答無用で切り砕き、その隙間を縫ってティンが切り込んだ。

 流石に巨大ロボットとの戦闘なぞ初めてだが(相手はロボットではなく操り人形のマリオネットだが)切り裂いて仕舞えば同じこと、ティンは先ずと鎧の目前に迫り、対する鎧も盾を構えて突撃する。

 かくして因縁で繋がった二人に激突は、ティンが針を切り落とし盾を四つ裂きにして盾を粉砕。

『神剣め、オリハルコンを容易く……ッ!』

 何かを呟くマルロウを無視してティンは鎧の腕を落とすべく光の壁を生み出し宙に踏み込み、そこに空いた腕を伸ばして切り裂かれた盾を掴んだ。

 盾だった残骸は直ぐに一振りの剣と化し、ティンと切り結ぶ。

 だが受ける巨躯の刃を流して勢いに乗り、そのまま懐まで滑り込むが、そこで鎧の隙間から伸びる銃口がティンを狙い撃つ。



 一方、理央は壁に激突する寸前に今度は伸ばした左腕から何かに引っ張られ、更に右腕を一振りし伸ばした左手が壁に接触する前に右手から天井に向けて何かを射出。

「ちょ、理央」

 何かを言おうとする芹奈を知らないと理央は天井近くまで引っ張られ、ぶつかる直前に右腕から伸びるワイヤーを握りしめて静止。銃を左腕で持ちそこから狙撃する。

 今まさにティンと浅美を同時に相手取ろうとする鎧に対して装甲部分を水に変換して行く。だが次の刹那には元に戻され、鎧は首だけを後ろに向き隙間から銃口が伸びて。

 狙撃の直前、理央は銃をしまい左腕を振って壁に向けて仕込んだ何かを射出して右手を放し更に引っ張られるように移動。

 背中に摑まる芹奈は既に目を回している。だが更に銃口は動く理央を狙ってあちこちを狙撃、だが移動する理央に触れたものが次々に液体に変わってしまい決定打にはならない。

 だがそれでも芹奈が重いのか、理央は一度椅子の陰に潜り込んで芹奈を解放した。その間にも銃撃が彼女の隠れた椅子を攻撃し、理央は地面をかき上げた。

 触れていた地面が液体に変わって、壁となり固まり銃撃をより確実に防ぐ。それを見て理央は懐からカドゥケウスの紋章が刻まれた時計を取り出し。

「まだいけるな」

「私はもう無理、あんたねちょっとは考えなさいよ!」

「お前が勝手に突っ込んだだけだろ」

「あのねぇ! いや、まあそうだけどさっ!」

 泣き叫ぶような芹奈のセリフを置き去り、理央は右腕を振って掌の何かを押して覗き出たフックを射出して移動する。



 銃口がティンを撃ち抜く刹那、足下に光の壁を形成して跳躍して避けようとするがそれよりも早く、蹴られた。

 突如起こった異変、一体何がと目を落としてみればそこには体勢を戻す昔馴染みの姿があって、左手の中指と人差し指を立たせ魔力を宿して手にした炎の太刀を、その刀身を撫でる。

「我、御身に捧ぐ者。煉獄へと進み業火を以って灼熱を歩まん」

 ティンを蹴り上げた昔馴染み、華梨は握る太刀に祈りを捧げながらも向けられた銃口が火をふくよりも早く炎と共に駆け出し鎧の足下に燃え盛る太刀を叩きつけて。

「故、これよりこの身は御身の化身。焔の印を掲げ、その威を天地に示さん。炎とは、不死の証たるなれば、貴き光で照らし出さん!」

 華梨の体が炎に包まれ赤く染め上がる。炎とは古きを滅し新たを生み出す勇気の印たるならばと、今彼女は焔の不死鳥が如く。

「は?」

 羽ばたくはずだったのだが途中で炎が消えて内から先ほどと変わらぬ幼馴染が現れる。一体何がどうなっていると言うのか、先程まで熱く詠唱していた女と同一の存在とは思えない。

 ティンは訳がわからんと自分に振るわれる巨大な刃を切り弾き、地に降り立ち突き出される槍も軽くいなして華梨の隣へと滑り込んだ。

「いや、何してんの」

「え、えっと、この後どうすんの、こう言うのって」

 意味が分からない。ティンは火憐にでも聞いた方が早いと答えを出すが生憎と本人は非常に離れた場所にいるから恐らく無理だろう。ではどうすればいいのか、華梨は何やら魔力を持て余しているようで何処と無く居心地が悪そうにしている。

「なんで使えもしないのにそんなことをしたんだよ馬鹿!」

「だって、この間は使えたのに、何で今は使えないの!?」

 困惑する華梨、ティンは視界の端で完全に待機している火憐に目を向けるが、完全に出遅れて瑞穂のストッパーに徹しているらしい。

 使えない、そう切り捨ててティンは神剣を回して足下を斬りさばく。合わせ、華梨は槍を振り回す鎧と焔纏う太刀を手に切り結ぶ。

 鎧は下を狙うティンを蹴り飛ばそうと足を動かし、華梨は足が浮いた瞬間を狙い真上から爆炎吹き上げて押し込み、今度は華梨を叩き落とそうと左手の剣を振るうもそこにティンが脇の下を切り裂く。

 鎧は一瞬光る事で傷を戻し、鎧の隙間から銃身を展開し銃撃。華梨とティンは魔弾の中を切り落としながら合流、二人は視線を交わし華梨が自分の腹に太刀を突き刺して大爆発が巻き起こった。

「は、ぁあ!?」

 そこまでしろと誰が言った。

 ティンは突如起きた幼馴染の異変に驚き表情で突っ込んだ。しかしこの炎と衝撃で銃撃が晴れた、ならばとティンは光子加速を用いて一気に踏み込む。

「紅華」

 だが一歩踏み出すと同時、ティンと隣り合わせに燃え盛る深紅の炎から何かが弾け飛ぶ。

 紫混じりの黒髪が、天辺から燃えつき炭のように黒くだがその髪先は熱く熱く、それは正に熱を宿す鉄の様に赤く染まり。

「炎、陣ッ!」

 弾ける炎と化し、光となり駆けるティンの横を飛翔する。地を踏み、爆炎を宙に散らし、業火の太刀をその手に掴み、灼熱の剣士が輝光の聖騎士と肩を並べ、いざ邁進。

 だが鎧は地面を強く踏みならし、ティンは鎧の目前で華梨の腹を蹴り出す。突如幼馴染を蹴るティンに華梨は素早く肩を掴んでその勢いに乗り後ろへと跳躍。

 蹴ったのは目の前も危険から華梨を救う為で、華梨は蹴られた瞬間に全てを把握して更にティンの肩を掴んで蹴った幼馴染を引っ張ったのだ。

 物心ついた時から一緒に暮らして来た、挙動一つで相手の行動理由くらい把握せずしてどうすると言う。

 だが、ワンテンポ足りない。

 術式の外に出たが溢れる光が二人を捉えたままだ。ティンは足下に無理やり足場を形成して更に踏み込み、華梨は足下に爆炎を生み出し、だが寸前に浅美が現れ二人を時が動くよりも先に有効範囲の外へと引っ張り出す。

 そして立ち上る破滅の光、晴れた先に鎧は隙間からまた銃身を伸ばして射撃。同時にまた術式を展開して起動、浅美はそれよりも先に鎧を止めるべく飛翔、ティンと華梨は振り返りながら浅美が今さっきまで蹴散らしていた機械の相手を。

 浅美が動き、鎧を切り裂く。

 最早0秒の世界を動き、誰よりも早く何よりも早く動き回る浅美が混沌の闇を纏う剣を以って切り裂いたのだ。これで勝負が終わるはず、しかし鎧は浅美を無視して術式を展開。

 ならばと浅美はもう一度鎧を刹那を超えて億に至る斬撃を繰り出す。響く斬撃の音、だが鎧は一切傷付かずに微動だにしない。

『無駄だ』

「事象の認識阻害だ。平たく言えば、相手に理解の及ばない攻撃は無効化される。お前の(・・・)攻撃は(・・・)動きは(・・・)誰にも(・・・)追い付けないし(・・・・・・・)知らないし(・・・・・)理解もされない(・・・・・・・)んだろ(・・・)? 誰にも理解されない攻撃である以上、現実には起こらない」

 それでもと時間を置き去り切り刻む浅美へ無情な言葉を投げるアシェラ。しかし幾ら攻撃を繰り出そうとも、激しく響く斬撃の音だけが残るのみで。

 ティンは、閃光の刃で以って次々に沸いて出る機械兵を薙ぎ払い斬り捌き斬線にて虚空を彩り描く。華梨も負けじと炎の太刀を握りしめ、灼熱の剣閃乱舞を繰り出し爆炎とともに機械兵を砕いていく。華梨の炎が見事に機械兵達を一刀のもと両断し、爆散粉砕する。

 華梨の一刀から放たれる一撃は術式によるブースとも受けているからか非常に高く、触れただけで鉄が赤く染まりやがてはバターも同然に切り落とし爆砕。そんな無双の剣舞の中でティンと華梨は互いの目を見合った。

 ただそれだけ。ほんの刹那の間、片目の視線が絡み合っただけ。しかしその交差の二人は一気に機械兵の群れを突破して攻撃を続ける浅美の下へと進撃。

「浅美、任せろっ!」

 流石に浅美相手に視線だけで意図が伝わる訳がなく、叫び浅美と位置を交換。振るわれる槍を前にティンが前に出て閃光の斬撃にて弾き、続いて剣を振るいティンも返しの一撃で対応し更なる追撃も輝く剣戟を以て迎え撃つ。

 ティンと競り合う鎧、その隙を縫う形で火達磨と化した華梨が飛び込む。対応して銃口が伸び射撃、続いて術式が展開され水と吹雪が舞うが華梨はそれらを太刀を一閃して全てを蒸滅させ、続いてさらに飛び交う氷結にもう一太刀振るうが本体には届かず。

 しかしその時鎧の周囲に針が円陣を描いて突き刺さり、天井に吊るされた理央が左腕からまたフックを射出して移動、その最中に円陣目掛けて苦無を投げ飛ばした。突き刺さると同時、突き刺さった針から奔る魔力光が互いに結び合い術式が形成され。

「瀑水天衝陣ッ!」

 立ち上る巨大な水柱、強烈な水の勢いと圧力が陣の内側にいる存在を微塵と削り取る。理央は壁に辿り着くと更に水柱へと手にした銃を打ち込み、水柱が光を放ち爆炎と変化する。

 しかし、それでも鎧は光を放ち再度錬成。続けて錬成とは違う光を放ち、華梨が灼熱と共に切り込むものの。

「エーテルドライブエンジンコネクトスープラスマナインプットシステムセットアプイグニッションッ、リミット・ブレイク!」

 その剣戟に合わせ鎧が急旋回し華梨の一撃に間に合わせ、その上で追撃も行う。だが燃え盛る業火を握る華梨は、その動きを自身を爆発させて吹っ飛ばすことで強引に退避。間一髪のところ回避に成功すると次は自分をもう一度爆発させて無理やり体勢を戻す。

 あまりにも常識外れな空中機動、しかして鎧はそれにすら追い縋り退避した直後に体勢をリセットして切り込む華梨の一撃と交差。

 誰にも噛み合わせられない筈の流れるような華梨と鎧の一合に平然と割り込む人影が一つ、ティンだ。恐らく世界でただ一人、華梨の身のこなしだけで意図をくみ取れる存在。そこに居るだけで、対話すら可能にする奇跡の相方だ。

 そんなティンが踏み込み、華梨と鎧が打ち合い、刃が交わる刹那に鎧の中央部へ。懐に飛び込み、その内部にいる本体へと切り込んだ。華梨を狙っていた刃は当然距離を詰めるティンへと向かう。だが狙いが反れると同時に華梨もティンの後を追い中央部へと切りかかる。

 結果、華梨が爆炎の太刀を握りしめて振るわれる槍と剣を弾き飛ばす。それによって生まれた隙、ほんの僅かな詰み手、幼馴染が切り開いてくれた道を潜ってティンは胸部装甲を両断して叩き落す。

 露出するマルロウ、入り口に足をかけて神剣の一刀を鎧の中の本人に叩きつけるべく。

「待ってたぞ」

 踏み込んだと同時、マルロウは勝利の笑みを浮かべた。ティンはそれよりも早く切り裂けばいいと剣を握る。

「この、瞬間を!」

 それと同時、マルロウは狂気に満ちた笑みを浮かべてティンを迎え入れた。その表情を見たとき、流石のティンも一歩下がらざるを得ず決定打となる。

「術式起動、こいつの持つ術式を分離譲渡、対象は僕ッ!」

「あ、やらかした」

 マルロウの叫び、アシェラは何かを思い出すように声を漏らす。その声に近くにいた瑞穂火憐有栖は一斉に振り向き、攻め立てるように詰め寄った。

 周囲の剣王の一族達と店長は何がまずいのかまるで理解に及んでいないが、アシェラは呟いたこと自体も不味かったと舌を出し。

「いやさ、この世界って術式の根幹部分を開発した妖精がいるだろ? 其奴らのお陰でこちらの世界は術式の研究開発が進んでいる。術式を理解しなくても、道具一つ技術一つで解除出来るんだ」

「お言葉ですが陛下。そのような、子供ですら知っている常識を何故今」

 口を挟むアーヤをアシェラは制す。その間にもティンは展開された術式から一歩も動こうとはせず、華梨も救援に向かうが結界が展開されて近づくことができない。

「今の言葉を聞いての通りだ、保有する術式の分離と譲渡何て妖精が使う子供騙しの術式だ。この世界で育ったなら、子供でも解ける。そう、この世界の(・・・・・)住民ならな・・・・・

「逆に言えば、この世界の住民でないならどうやっても解けない!?」

 店長の言葉と共に光が弾けて、ティンが乗り込んだコックピットから落ちた。その手からは持っていたはずの神剣が消えていた。

「ティンッ!」

 落ちた場所に華梨がかけ寄って彼女を起こす。ティンはよろよろと立ち上がると上を見る。そしてその先、マルロウの手には。

「やっ、た……ッ!」

 輝く黄昏の十字剣があって。その事実にマルロウは成功の喜びの打ち震え、高く笑いあげる。だがどれさえおき去って、浅美がマルロウの首元に刃を埋め込もうと。



 それよりも先にそれが起こる。



 ティンの心臓が、強く跳ねた。



 その目から黄金の涙が溢れる。



 口から光が吹き出す。



 ティンは口を開いて言葉を成そうとすると、彼女の内から光の濁流が溢れ始めた。

「拙い、全員そこから離れろォッ!!」

 響く店長の声、マルロウは溢れる光に呼応してティンの元へと飛び立とうとする神剣を強く握りしめた。

「くそ、今術式を握っているのは僕だぞ、なのにッ!?」

「チィィッ! アカシック・インストール!」

 叫んだ店長は瞬時に姿が変わる。大人の女性が、美少女の姿に変わり、次の間には浅美と華梨と理央を抱えて立っていて、片膝をついて荒い息を吐く。

「ったく、この姿でのオーバーロードは流石にきついのだけど!」

「え、え、ティンは」

「諦めなさい、あれはもう無理よ。光が溢れてる、稼働中の術式から強引に引き剥がされたらどうなるか、わかるでしょ!?」

「っ、そんな事をすれば大回転中の魔力が行き場を求めて大暴走するに決まってる! 高速列車からいきなり線路を引っこ抜くようなものだぞ!?」

 店長の乱暴な解説により、状況を理解した有栖が端的に表現した。だから、結果はただ一つ。ティンを中心に光が膨張し、アシェラが前に出た。

「我、ここに妖精達の理想郷を召喚す。穢れなき者のみ先へと行くが良い! 展開(Open)稼働(Activate)! 天空に座す我等が(Guardian)白亜(of)の守護城塞(AVALON)ッ!」

 翳した手から広がる無数の術式、それはアシェラを起点に広がり白い防壁が生み出された。それは白き城塞、かつてアーステラの天においてトキヴァーリュの地を守護せし究極の盾。

 今ここへ、伝承にすら残らない嘗ての最強無敵とうたわれし決戦最終兵器にして防衛城塞、アヴァロンが顕現したのである。

 そして白き城壁の向こう側で光の大爆発が世界を黄昏が埋め尽くし、全てを黄金で染め上げる。白き城壁が震え、木霊し、その力が世界全体を震わせていく。

 最初は何事もないかのような表情をしていたアシェラも徐々に苦悶の顔を見せ始める。閃光が衝撃となって壁に亀裂を生じさせ、しかしそれでもなお純白の光を放つ城壁はなおも聳え立つ。

「く」

「先輩!」

 僅かに、アシェラが後ろに押される。アンナが剣を抜いてアシェラの側に立つが、アシェラがそれを制する。

「下がれ、貴様じゃどうにも出来ん!」

「ですが先輩!」

 アンナはそれでも手にした剣を地に突き立てて歯を食いしばりその圧力に王と並んで対抗する。アシェラは横目で見つつ舌を打ち。

「わ、私も」

 アミも並ぼうと前へ進むが、アシェラにかかる圧力が後ろの方へと流れ始めていてアミでは前に進めない。

 剣を突き立て、体を引きずろうとも、光の濁流より生まれたその圧力によってアミは地面を転がされていく。

「ちょっと、あんた、幾ら何でも無茶でしょ!」

「無茶、でも。私は、陛下の、お側に。シェラ、ちゃんの、そばに、ぃ……ッ!」

 這いつくばりながらもなおも前へ、心から全てを捧げし主人の元へ。しかし進めども進めどもあの人の所まで手も体も届かなくて。でも諦めたくないと手を伸ばして身を引きずる続ける。

 アンナはやがて膝をつくが、それでも彼女は負けてたまるかと突き立てた剣を握りしめて尚も食い下がる。世界を染め上げる黄昏がすべてを満たし、万象を尽く薙ぎ払う黄金の閃光である。しかしそれはやがて収束し、やがて最初からそんなものなどなかったかのように光が消えうせた。

 同時に天空城塞の術式結界も消失し、世界に静寂が戻った。が、しかして弾けた光の濁流が齎した被害は甚大でもある。先ほどまで主戦場であった所は巨大な穴と化しており、周囲一帯のものを見事に消し飛ばしていた。

 人も、巨大な鎧人形もすべて幻だったと言わんばかりにすべてが消えている。の、だが、それは逆に言えばそこに居たはずの誰かもいなくなっている訳で。

「ま、まって、まってよ……」

 華梨はよろよろと立ち上がって崖っぷちまで駆け寄り、崖下を見つめる。見事に抉り取られた形がそこにはあり、つまるところそこには何も存在せず。

「ティン、ティンは、ティンは何処?」

 そんな空しい彼女の言葉だけが虚空に響く。

「魔力解離現象か」

「ええ、間違いありません」

 その状況を見たアシェラとアンナは頷きあった。

「嘘、それって、赤ん坊にしか起きないんじゃ」

「赤ん坊の時に起き易いだけで起こそうと思えば誰でも起こせるぞ」

 アシェラの切り裂く一言に華梨は崖を背に言葉もなく項垂れる。それを見てアシェラは寂しさを滲ませながら、侮蔑するかのように、呆れたように、残念だと言いたげに。

「これが、貴様の末路か」

 全て消えたこの光景を見渡して呟く。やがてこの大惨事に誰もが様子を見ようと集まっては驚きの声を上げていき。

「下らない、幕引きだな」

 吐き捨てる王の言葉に、返すものは誰もいなかった。

あれま、主人公が消えてしまいました。残念ながら彼女の旅はこれまでの様です。次回は最終話になるのでしょうか?

それでは次回まで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ