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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
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剣の覇王

 二人の剣士が向き合い、片方は剣を失った。どう考えてもこれ以上の戦闘は不可能だが王は。

「やむを得んか。すまんが、あれをくれ」

 虚空に向けて告げた命、応えるようにアシェラのマントから出てきた妖精が門を作り出し棒を引っ張り出し、王はそれを手に取り握りしめ引き抜く。出てきたのは装飾もない普通の剣、実用性だけを突き詰めたであろう無名の銘剣が引き抜かれた。

 それを見てティンは確信する。王の剣の欠点、いや逆にあれだけの逸脱し過ぎた剣の王だからこそ生まれてしまった呪いを確信する。それが真ならば、ティンはかの王と真っ向から打ち合い。

(勝ちの目が、出た)

「ほう、勝てる可能性を見出すか」

 勝機を見出したティンの表情を見て、アシェラは楽しそうに笑みを浮かべる。勝機と言うよりは極低確率ではあるが勝てる見込みが出て来たと言うだけの話だ。勝てると言うような話ではない、だがティンはおちゃらけてやる気はもう皆無だ。今手の中にある使い慣れた剣であの剣王と切り結ぶしかない。

 ティンが覚悟を決め直して剣を握り直し、開いた距離は凡そ2mの距離を踏み込み切り込んだ刹那、アシェラは一歩下がり剣を構え直し直後に突風が舞いティンは刹那の間に下半身の体捌きだけで緊急回避を行う。そしてティンが逃げると入れ替わりに飛翔する剣圧の嵐。

(これは、あのアミとか言う奴が使ってた技!?)

「魔神、界滅閃ッ!」

 瓦礫の墓場を蹂躙して剣閃が突風となり駆け抜ける。ティンはそれを流し目に見送り踏み込み切り込もうと一歩踏み出すが同時に脳内で危険警報が鳴り響き全身の一歩を無理やり後退へ捻じ曲げ。

「もう一度受けよ、十字の剣閃」

 そこに追撃を仕掛け踏み込む剣王、撃ち上げの姿勢から入り込むその妙技こそが一度見せた絶技。

「聖王、十字剣ぇぇんッッ!」

 宙に挙げられたティンを十字に引き裂く聖王十字剣が炸裂する。一度見た技であるがゆえに捌けたがまた宙に打ち上げられアシェラは地上だ、当然のように。

「魔壊閃ぇぇんッッ!」

 飛翔する剣閃、ティンは何とか空中で体勢を立て直すと飛んで来た剣閃をアミ戦での戦闘を応用して流すもそこに飛翔する斬撃に載ってアシェラがティンのいる宙へと舞い上がり空中への常識破りな強襲を行う。ティンは当然迎撃に移るも王にとって剣を振るうのに地上であろうと空中であろうと関係ないと言わんばかりに剣を振るい、ティンも同じくアシェラと剣を交わし合う。

 光の物質化による即席の空中床を生み出して動くティン、対してアシェラは瓦礫を壁を蹴り跳び、と言うか何も無い所を蹴りによって空気を蹴り出しその衝撃で移動までしてティンと剣を交わすその姿は正に怪物そのものだ。何処の世界に単純な肉体捌きのみで宙を自在に移動し剣戟を行うものがいると言う。ティンは見出した勝機を疑うことなく目の前の化け物への不満のみを心内にぶちまけながら油断出来ない空中剣戟を行い続ける。

 縦横無尽、落ちながら交わす剣は出来るなら何処にでも逃げろと言う恐ろしく無責任で自由な物。横に転がったと思えば落下、後ろに飛んだと思えば上に行く。上下左右に逃げ場があると言うのは一見避けやすいようで敵を見失い易く避けにくい。上段から剣を振るうアシェラをは弾いたと思ったら今度はま後ろから切り上げ、回避のために身を捻って飛び退けば降り立つ地面などなく落下し、そこからアシェラもも落下して追撃しティンは途中で飛び上がって空中の優位を取ったと思ったら腹に向けて剣が飛ぶ。

 自由に体を狙えると言うのは此処まで厄介とはとティンは舌を巻きつつ、本人もこの体験は少ないだろうに破顔の相で何一つ問題なく対応できている。心の底から、本当に、いっそ憧れてしまうと思うほどにこの女王は。

「お前、どれだけ怪物なんだよ!?」

「これほど、だよ! いやすまない、更に上を行けるかなぁ!?」

「こ、のッ……! お前、こんな所に居ないで、神話の世界とか、英雄譚の中にでも行けよッ! そっちのがよっぽどお似合いだよ、こんの、化け物がぁッ!」

 空中で大した足場も無く乱舞剣まで披露する女王にティンは舌打ち罵倒に近い、いや完全に罵倒の言葉を吐く。だがアシェラはその言葉を笑みと共に受け入れ、それに王と反応し堂々と。

「ああそうとも、私は化け物だ。貴様の指摘した通り、こんな所ではなく神話の世界にでも行った方が似合いだろうさ。だが、それで? どうする人間、私の知る英雄曰く、いつの世も化け物を屠るのは人間と聞くがどうだ。お前も一つ、この怪物を討滅してみるか?」

「出来るかよ、そんなの! そこまでに成り上がった怪物を倒せるのは、同じ怪物だけだ!」

「ハハッ、違いないッ!」

 空中で30以上もの連撃を繰り出し、更に空中絶技を見せ付ける王と切り結び捌き流しながらティンは叫ぶ。

「だが、貴様はそれでも勝てると思っているのだろう? その目は未だに光り輝いていると言うことは即ち勝ちの目があると言うことだ。この怪物を相手にして勝利を確信しているからであろうが!」

「別に、勝機がない訳でも無いってだけだ!」

 落ちる最中、空中を蹴りつけ空気の層を弾き飛ばして跳躍するアシェラを上段から叩き付け、それでもアシェラはさらに空を蹴り弾き跳び上がり体重を剣に乗せてティンを逆に抑え込む。

「ほう、では言ってみるがいい。その勝機とやら、私に届かねばどのみち無残に散るだけだよ!」

「届く、いいや違うな」

 力加減を駆使して何とかアシェラを弾こうとするがどう力を抜いてもアシェラの剣閃がティンの体を貫く軌道にあるため手が一切出せない。単なる体術のみでここまで行けるというその異常性、それこそがこの女の欠点。

 そうだ、この異常性に『誰一人』『何一つ』『この女についてこれない』と言う事実こそがこの女の持つ歪みであり欠点なのだ。それはどう言う意味を持つのかといえば。

「あんたに、あたしのいる所まで来てもらう!」

「ほう?」

 ティンはそれを証明しようとある方向から力をかけた。結果、アシェラは火花を散らす程にティンの剣を打ち弾き、ティンもその勢いに乗り跳び退いて距離を取りつつ魔法による追加攻撃を送るが、落下を利用したアシェラの一閃により潰され、アシェラは瓦礫の壁へと手にした剛剣を突き刺し壁に立つ。

「今ので確信したよ、あんたの異常性はあんたが剣士である限りあんたを縛り続ける!」

「続けろ」

「その前に、あんたはその壁に足を突っ込んで立てるか?」

 アシェラはティンの問いの意味がよく分からず、一先ず言われた通りに壁に片足を埋め込んで壁の上に立ってみせる。それを見て、ティンは自分から言っておいて実際に出来るところを見て悍ましいものを見たと言う表情をしながら。

「それがあんたの欠点。そんな、普通の人間には出来ないことが平然と出来る異常者が剣士という枠に入ること自体が異常なんだ」

「なるほど、確かに常人に私の真似など到底出来まい。それで?」

「だからこそ、だ。だからこそあんたには誰も何もついてこれない。規格外過ぎるあんたに、手にした剣でさえ追いつく事が出来ないんだ!」

 その指摘にアシェラは目を丸くする。まるで初めて言われたと言わんばかりに。

「さっきのもそうだ。あんたその気になればいつでもあたしを切れただろうに、何故か切れない。何故か。手を抜いてるから? いいやあんたの技に一切の遊びが無い、いくらあんたでも遊び半分に挑んでも剣に遊びを持ち込まない。あたしが凄い? いいやそれも違う。相対するあたしがそれを何より理解している」

「では、何故?」

「あれが、あんたの、あの剣を扱う剣士として最高の一刀だからだよ。あたしにギリギリ避けられる程度が、あんたの全開の限界だからだ!」

 ティンの指摘を言われたアシェラは憂いの表情で横を見る。その視線に先にいるのは、アンナだ。アシェラと共にいる彼女の方へと視線は向いていた。

「今のもそうだ、いつだって切れるのに切れない。あたし相手じゃ、相手にもならないはずなのに」

 宙に浮いたままティンはこれまで感じた違和感を語る。そう、相手は逸脱し過ぎた剣の使い手。それがどうして切り結ぶことができるのか。それが疑問で仕方なかった。

「手加減も何もせず、そのまま有象無象として切って捨てれば良いのに。あたしを瞬殺する程の剣を振るえば良い、ただそれだけのことさえあんたはしない。何故?」

 勝負を楽しんでる、否。舐っている、否。この怪物は、何故か人間という枠のうちに、何方かといえば剣士という枠の中にいたがっている。つまりこの王はティンに敬意を表し剣士として切ろうとしているのだ。つまり、相手するほどでもないと見下しているわけではない。

 追加するなら、その上でティンを瞬殺出来ないのだ。歴然とした実力の差があるにも関わらず。

「それは、そんな事をすれば、その剣が壊れるからだ」

「……っ!」

 ティンの指摘にアンナが反応する。何故ならその事実は、誰もが知っている常識でありながら、王が常に向き合い抱えて来た問題だったから。

「あたしを、無抵抗に切れるほどの一刀を出せば、その剣が砕けるからだ。それもあたしを切って壊れるんじゃ無い、あたしに刃が届く前にその刀身が砕けるからだ! 見てみろよ、その無骨でシンプルな剣。鋭く研がれてる訳でも無い、ただ頑丈で丈夫なだけの鉄塊を」

 アシェラは指摘を受けて己の手にある剣に目を向ける。そこにある剣は確かに、無骨な鉄塊と呼ぶに相応しい形状で、ティンの指摘に一切の反論が出来ない。

「それがあんたの行き着いた剣の成れの果て。追いつけるのはもはや聖剣くらいか……いいや、違うな!」

 先程の、聖剣を消した時に台詞を思い返す。あの台詞を素直に取ればつまりこういうことで。

「もう聖剣でさえ追い付けない、いや聖剣ですらあんたの技を受け止める事が出来ない次元に到達している! 規格外の剣でさえ通り越した挙句まともに使えるのは無骨な鉄塊だけ。それこそがあんたの行きすぎた剣術、異常性の塊たる剣技だ!」

 アシェラはその指摘を黙して聞き続ける。

「あんたには誰もついてこれない、人も、剣も、何もかも。聖剣でさえ追いつくことが出来ない。そのくせしてあんたは剣士であろうとする。人としても、剣士としても逸脱し過ぎたにも関わらず、まだあんたは認めずに剣士であろうとする。それが、逆にあんたの足を引っ張る! 怪物が、人間になれないのと同じだ。あんたは、剣士であろうとする限りあたしを斬れないっ!」

「成る程。誰もついてこれないか」

 叫ぶティンの指摘への返事。それはポツリと漏らすアシェラは壁に足をつけた状態から剣を一切手加減なしの、本気の全開の一刀。ティンは全くその挙動に反応できなかった、いやいつの間にかと言えるほど早い剣閃の構えでやっと悟ったのだ。切られる、いや切られたと直感する程の剣速で振られる剣はティンの肉体を蹂躙し引き千切り打ち砕くかに思え瞬間的に目を閉じた。

 が、混沌とした破壊音を暗闇の中で響かせてティンの体を何かが掠めただけだった。目を開けて王を見れば、アシェラの手にある剣はボロボロに崩れていて。

「ふむ。予測通りだ、一切の加減なしに振るった秘奥の一閃だったが、空間も刀身も耐えてはくれぬか。すまん、新しい剣をくれ」

 アシェラは妖精を呼び出すとボロボロの剣を妖精に渡し、別の剣を受け取る。

「聖剣について見抜かれたのは正直痛かったよ。誰も言わなかったし、私自身もただ単純に聖剣と合わないだけだと思っていたからな。納得のいく指摘を受けたのだ、ぐうの音もでんよ」

 妖精が取り出す剣を手にすると構え直し、ティンにその切っ先を向けた。

「だが貴様の指摘、まこと見事だ。ああそうだとも、“今の貴様に本気を出せる剣など、この世には無い”。しかし重ねて言わせてもらうが、だがそれで? 私の出せる限界では、貴様を切れないと言う程度の事実に何の意味がある」

「あるよ、つまりあんたは手加減せずには戦えない。剣を持って、剣で戦う限りあんたは本気で、全力全霊で剣を使えない……なら、そうであるうちにあんたを越えれば良いだけだ」

 ティンの鬼気迫る告白にアシェラはあっけに取られた表情を見せる。その告白はあまりにも荒唐無稽で、ティンにとってはある意味唯一の死活問題。何故なら『生きる』と言う選択を取るならその道以外にありえないからだ。油断している間に取る、それのみが活路だと言う。ならばやるのみだ、そこに迷いなど存在しない。事実、それ以外にそもそも選択肢自体が存在しないのだから。

 だがその覚悟を聞いたアシェラは真面目な様子で何かを考え、そして顔を伏せて肩を揺らし始める。あまりにもデタラメなセリフに怒りでも抱いたか、いいや否である。

「く、くくく、クククカカカ。つまり、貴様、この王を。剣を慮るが故に負けるだと? 取るに足らぬ、羽虫を弄んでる内に毒針の一刺しで落とす、だと?」

 伏せた顔を上げた。そこには愉悦に染まり、高みへ挑む者への羨望と嫉妬と賞賛と尊敬を込めた笑顔と豪笑で、壁に立ったままアシェラはティンを歓迎する。

「面白い。面白い、面白いぞ、あぁ、さあ来るが良い勇敢なる冒険者よぉ! その勇気を認め、私の持ちうる全力で相対するとここに誓おうではないか!」

 アシェラは壁を蹴り砕いて地上に降り立ち、剣を一周させる程の大振りを見せ剣を天に突き上げる。風圧が天上駆け抜け、魔力が闘志となって刃となる。ティンはこの技は初見だと退避運動を行い。

「魔神皇」

 避けられるなら避けてみろ、そんな事を叩きつけて王は覇者の一閃を振り下ろす。

「烈衝斬ァァァァんッッ!」

 両手で握りしめた暴力の塊を地に叩きつけ爆発的な剣気の嵐をここに顕現する。ティンは必死に範囲外へと跳びのき、アシェラは堂々と宣誓の声を上げる。

「見せてみろ、貴様の力。剣王の名にかけて正面から受けて立つ!」

 宣誓を受け、ティンは上から奇襲を仕掛けるがアシェラは構え直し、だがその瞬間にティンが光子加速で限界まで加速しその一突きをアシェラの構えへと割り込み、アシェラはより深い笑みを浮かべてその一撃を迎え撃つ。

「アミとか言うのと合わせて三度目、魔神界滅閃は既に見切った。そいつの弱点は、一瞬で無数の斬撃を一度に飛ばすが故の大きな隙だ!」

 思い返せば、魔神界滅閃を放つ際はいつも一歩下がり力を込める動作をしている。それだけの溜めが必要であり、離れていればそれが好きだと思えないほどだが近接戦でまで有効な技ではない。

 交差する剣を弾きあいアシェラはティンときり交わし。

「ほう、魔神界滅閃(こいつ)の欠点を知っているのか! ではこれはどうだ!?」

 鬩ぎ合いの最中、神速の切り上げを繰り出すが。

「聖王」

「聖王十字剣の欠点は」

 ティンは目の前の真空さえ断ち切り、その修正力をもって逃げる敵を追う一閃を踊りながら逃げる事でそこ射程範囲からギリギリのラインで避けて。

「必ず打ち上げの動作から入ること、全部初動が一緒なんだよ。たとえ早かろうと構えさえ見切れば寧ろ」

 空中で一瞬の隙を見せる、王へ立ち上がりからの跳躍から背中を刃が掠める。

「どうしようもない隙を晒す」

「ああ、そうだとも、よく見切った!」

 アシェラは瞬時に空中を蹴り背後のティンへ剣を振るい、ティンも同じように受けてそこから飛び退いて地上へと降りる。そこへアシェラが剣閃と共に堕ち、更にティンと斬り結ぶ。

 共に早く鋭く、お互いの命を討ち取るが為に不殺の刃を振るいあった。火花散らし、鉄の音を響かせ、見ている者も王と向き合い剣戟を繰り広げる者も共に息をもつかせぬ剣を交える。

 ティンの振るう剣はまだまだ稚拙、王の振るう剣に遠く及ばない。その鋭さも重さもティンには無いものだ、どうやっても追い越すことはできない。

 だが。

本気で戦えば世界がヤバイ、これぞ怪物。いや待てやコラ。んじゃ次回

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