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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
242/255

剣の一族

 暴れ狂う内部エネルギーの影響で頭部が爆発する黄竜。この時、奇跡的にかあるいはそうなるように仕組まれていたのか、厳重に守られていたとあるデータのプロテクトが物理的に破壊される。

 本来であれば、正当な手段を持ってアクセスすべき箇所だったが予想外の展開に対し緊急プログラムが作動し、本来あり得ない現象が起こる。

(何だ? これは、哭いてる? 誰が? マー坊が?)

 それは、黄竜の基礎プログラムに仕込まれたとあるデータの再現。彼ならいつか辿り着く果てと信じて作られた、最後の遺品。

(おいおいまたか、全く。誰だい、僕の可愛い孫を泣かせるのは。泣きやんでくれ、マー坊。僕はね)

 それを燃え盛る内部から見つめる魂が、最後の遺品をその全身に刻み込み見届ける。必ず、きっと必ず、この遺品は彼の元へと届けるのだと。



 ーー君の笑顔が、大好きなんだ。だから笑っておくれよ、ボクの大事なマー坊。



 奇跡に奇跡を重ね、此処に一つの魂が新たな次元へと超越を果たす。



 荒い息を漏らす中、ずっと追いかけてきた邪魔者を排除した彼女に残ったのは、意味の分からない言葉と虚しい達成感だけで。すぐに興味を失ったティンは光子化した自分の腕や足を拾い上げて、くっつけた。

 自分でも中々にイカれた発想だとは思うが、まだ光子化しているのならくっつけて魔力で形を整えれば元に戻るのではと言う考えである。かくして、落ちた左腕をくっ付けると直ぐに光と光が結びつき元に戻っていくのを見て安堵の息を吐きつつ天を見上げた。

「戻ろっかなぁ……いや、でも椿さんは腕が切られてらどうしようもないとか言ってたし」

 ティンは試しに術式を解除する。肉体は違和感が残るほどに問題なく、意外と平気だと思いつつ立ち上がるとやはり切断された骨までは騙せない。持ち前のバランス取りがなければ立ち上がった瞬間に切断された骨が体内でずれた事だろう。

 ティンは剣を杖にして先へと進む。が、そこで見かけたものを見て驚愕に彩られる。

「メディカル、ルーム? おい、これって治療室? 何で此処に、いや、利用出来るとすれば」

 一縷の望みをかけて部屋のドアを切断し中に入って中を覗くと、異世界であるにも関わらず見慣れた術式へと手を伸ばし触れ魔力を注ぎ込む。

再生(リバース)

 肉体が2時間ほど近く前の状態まで巻き戻る。当然、切断された骨は元に戻り、激戦を経た肉体疲労も消えた。ティンは切られた腕と足を動かし何の違和感もないことを把握すると前へと歩み行く。

 その先にあった広い空間。白い光が満たす何かの建物のエントランス。そしてその階段の上でこちらを見下ろす人影が四つ、全て女性だ。そこに四人の女性がティンを待ち構えていた。三人の剣士達を束ねし蒼空を断つ覇王が悠然と。

「ご苦労、ようこそ我が故郷へ。と言っても世界においてと言う意味ではあるがな」

「あんたか。で、此処に居る理由を聞いて良いのか?」

「んー、別に構いはしないが特に無いぞ? 私としてはただ此処は感慨深いから来ただけであるしな」

 踵を返して先を行こうとする王にティンは。

「感慨深いって、どう言うことだよ?」

「ふぅむ。まあ良いか、その答えを知りたいか? ならアミを置いていくから倒してみろ。嫌なら黙ってついてこい」

 告げ、アシェラは立ち去る。ティンはどうするか一瞬迷い。

「そいつの相手をすれば良いのか?」

「ああ」

 アシェラは既に姿は見えない。だが彼女はティンの視界から消えた場所で薄く笑い、アミに一言告げると彼女は毅然と。

御意に(Yes)我が(Your)貴き陛下(majesty)

 ティンは対峙する黒髪のおかっぱ頭女性を見上げる。彼女は腰の剣を外し自らの前に置く正座する、ティンと彼女。アミとの間に凡そ10mほどの距離が離れているが、一体どういう意図があるのが不明で。

「ああ。ところで、本当に挑むのですか?」

「あ、当たり前だろうが!」

「そうですか。いえ、貴方程度では僭越ながら陛下の遊び相手にすら務まらないかと思うのです。これは別に、悪意をもってでは無くあくまで善意で言わせて頂きますね」

 アミは目を細めると、ティンに向けて見下しているとさえ言える薄い笑みを浮かべると。

「貴方では、無理です。今なら間に合います、前言を撤回し黙して来なさい」

「随分言ってくれるな」

 流石のカチンと来たティンは闘志をたぎらせアミを睨むが。彼女はため息混じりにゆったりとした動きで目の前に置いた剣を手に取ると。

 直後、ティンの目の前から粉塵が立ち上る。何が起きたのかと地面を見ればいつの間にか切れ目ができており。

「如何しても挑むと仰るなら、そこより一歩踏み越えなさい。それをもって挑む意思ありとします」

「踏み越えれば?」

「ええ。踏み越えれば、我が剣にてお相手しましょう」

 ティンはその斬線を見て、一歩足を踏み出して線を踏む。

 それを見て、アミは目の前に置いた剣へと手を伸ばす。

 そして、ティンはもう片足を持ち上げて。

 アミは剣の鞘を柔らかく触れて持ち上げ、柄をそっと添えて。

 片足を斬線から超えて、線引きされたその先にある戦場へと踏み下ろし。

 添えた手を握りこぶしにして、軽く柄を掴み取る。

 そして、ティンは戦場に足を踏み置きアミは剣を抜き放ち。

 刹那、ティンは察知した危機意識につられて即座に身をよじる。自分の体があった場所を剣閃が過ぎ、丁度斬線の上を掠った。

 この一撃が始まりの合図となって、剣閃が嵐となって襲い掛かる。

 ティンは引きつった笑みを浮かべながら、その場からすぐさま撤退。当然アミの元へと真っ直ぐに向かうように、が追いかけるように宛ら機関銃が如く。

(な、何これ)

 まるで機関銃みたいな音が背後から響く。ティンは方向転換し、跳躍して一瞬アミの姿を瞳に写す。冷淡な眼で、正座の姿勢を保ったままティンを見ている。余りにも余裕を見せるアミにティンは奥歯を噛み締めてその座から引き下ろすと内心誓うもそもそも近付く手段自体が皆無と言う状況だ。

 アミは正座の状態で、まるで固定砲台が如く目で捉えるのも難しいほどに鋭く速い刺突を繰り出してくる。此処でティンはアミが何をしているのかを把握した。彼女は機関銃と間違えるほどの強烈かつ恐ろしい速度と連射性で刺突を行っている、ただただそれだけであるのだ。それを把握するなんだその非常識はと愚痴りつつ、空中に設置した光の壁を踏みしめ跳躍。

 連打される刺突の嵐は射程範囲内にある遮蔽物を貫き砕き破砕音が響き渡る。ティンは右に左に、回避運動を取りながら僅かに近付くも近づけば近づく程に刺突の速度が上がっていくのを感じ、近付くのが困難と化す。そもそも、此処は元々どこかの施設のエントランス、設置された階段は上に行くほどに狭いため下手に正面から無策に近付けばハチの巣へと早変わりだ。

 だが手はある、いや探すとティンは魔力を練り上げて具現するは光の壁。ティンの膨大な魔力を注ぎ込んで生み出された壁は、如何に供給が上手くいかずとも物量に物を言わせて押しつぶすに違いない。ティンは幾重にも重ねた光の壁を展開しアミの連続突きに対抗した、瞬間。

「エッ!? ウッ嘘ォッ!?」

 感じた手応えから、そんな小細工に意味はないと宣告を受ける。そこから分かるのは刹那の間に繰り出された突きがゆうに三桁を凌駕していると言う驚愕の事実。1秒も経てばその繰り出される突きの数は実に千打。そんな手数にティンの用意した壁など幾ら魔力が注ぎ込まれようが物の見事に撃ち貫き、魔力補給を受けて強化再生される前に砕くだろう。何より恐ろしいのはその精度、一点に向けて放たれ突かれた数は寸分の狂いもなく最低5点。同じ箇所に、ほぼ同一の時間に同じ力で五回もの刺突が重ねられているのだ。最早、彼女自身が分身し別方向から同じ箇所へ同時についているも同然である。

 狂気染みた剣術にティンは恐怖と畏怖と尊敬を同時に覚える。理解した、これは逆立ちしても剣の腕では一生勝てない。だがティンはその事実に思わず口端を歪めて。

 僅か2秒と持たずに渾身の壁が崩される、ティンはこれを受けたら文字通り8m前後離れた場所から縫い付けられると理解し持ち前の肉体捌きで回避、そこから直ぐさま刺突の嵐から逃れる為に壁に足をかけて跳躍の要領で駆け抜け右から左へと逃げて逃げて逃げ続ける。

 如何に攻撃の速度が凄まじくとも所詮は突き、面の動きには弱いはずと言う発想だがアミは正座の状態を維持しながら突きから振りへ動きを切り変える。ティンはあの刺突芸を見た後であるからこそ、おそらくこれもと。

「はぁっ!?」

 繰り出されるのは飛翔の剣閃、それは良いがよりにもよって網目の、予測した回避先全てに置かれたそれは正に獲物を刈り取る狩猟者のそれである。気分は単純、高熱レーザーがこちらに襲ってくるとでも言うもの。ティンは僅かに呼吸をすると剣閃に向けて己が剣を振るう。

 幾十に、幾百に、幾千と幾万に計算を重ねた未来予想のうちで選んだ未来がこれ、剣閃と切り結べると言う前提が無ければ全ておじゃんになる手立てだ。この目論見が外れればティンは無残に斬り刻まれ好きなだけで突き抜かれるであろう。しかして結果は、見事な手応え。

 そのまま押しつぶされるかとも思う程に、しかしそれ以上に凌げると感じた一閃にティンは更なる追い打ちをかけようとするアミを見据えて、僅かな剣閃の隙間へと鍛え抜いた柔軟な肉体捌きでくぐり抜け、目の前の剣閃を光の壁を盾代わりに体を持ち上げその先の剣閃も光の壁越しに踏み抜き、踏み越えて行く。

 如何に細かく網目模様の剣閃を貼ろうとも。

(剣閃である以上は、振い放たれている。なら僅かであるが隙間ができるッ! ほぼ同時に放たれていようとも、その一撃一撃を作るには相応の動作がいるッ!)

 ティンは正に網目の剣閃の中を踊りながら、それを乗り越えて。

(まさか、正面から潜り抜けて来るとは思ってないだろ!?)

 アミは、それを見て目を見開き動揺する。彼女にとっては正に異常事態に等しい。まさか、あの詰めてを踊り抜けて来るなんて、なんて。なんてなんて何んて。

「非常識な、戦場(いくさば)に遊びを持ち込むなど!」

 不埒な、許せぬと斬線と刺突の連打、連打、連打連打連打。繰り出す突きと斬撃の遠当て、ティンは横に避け跳び上がり跳び上がり刺突の一撃を光の壁で乗って跳び上がりさらに前へと進み、剣で捌き光の壁で流し、遂に地に降り立つ。

 目前の剣士との距離は凡そ4メートル、やっとの思いで此処に辿り着いたティンだが油断出来ない。アミは未だ正座、何としてでもあの女を立たせねば気が済まないとティンはまず右に飛び、アミは左から薙ぐ。

 恐らく、ティンの避ける方向から先読みし己の剣が早いが故の行動であろう。だがしかし、ティンは肉体負荷を消し飛ばしために強引な一手を。

光子加速(フォトン・ブースト)二倍速(ダブルアクセル)ッ!)

 二倍速に至り強引に肉体の軌道を真上に動かし真横の一閃を回避、ギリギリ約1ミリの差で回避すると光の壁を足場し二倍速で加速が、アミは倍速化したティンに在ろう事か対応、自身も二倍速で剣を戻し突きの一撃、刹那さえ超える一撃にティンは避けることが出来ずに受けて。

 剣で受けるも意味が無い、瞬時にほぼ同時に同じ箇所へと突きが飛んで来る。こうなって仕舞えば最早ティンが負けを認めるまで連打突きが来る。そう、剣で受ければ。

 アミは手応えより、ティンは剣に光の壁を纏わせていたことを把握。アミなら戻すだろう、と言う未来も見切っていたティンの一応の保険が、彼女を突きの軌道から逃す一手となり、ついに凡そ1m、アミのそばまで近づけた。

 剣は小ぶりに、最速で最短。この女へ刃が届きさえすれば何だって良いとティンは何よりも早い一撃を繰り出し、アミは遂に立ち上がってその一撃を受ける。

「やっと、立ったな」

「そうですね」

 一言、アミは漏らすと一歩引き剣を胸の前に持って来て、腰の上に左腕を置き、一瞬瞳を閉じる。その姿はまるで、一振りの剣のよう。

「トキヴァーリュ王国、王位継承権第192位。アミ・トキヴァーリュ……推して参ります」

 まるで、今からなら相手をしてやるとでも言わんばかりに。アミは此処からが決闘だと言葉なく宣誓し刃と刃の戦いは大詰めに至り、此処で交差する二人の剣。此処から二人の本当の戦いが始まるのだ。

 重なるアミとティンの剣は激突しているにも関わらずに無音、その事実に冷や汗を流すティンは互いの剣を弾き、近接で切り結ぶ二人が奏でる剣戟の音は非常に軽かった。まるで細身の剣で突き合うかのような剣と剣と交わし合い、互いに押し合わない刃と刃を合わせるだけの軽い交わし合い。

 ティンは口端を釣り上げるとそのままアミの剣を弾き飛ばした。無防備を晒すアミ、誰がどう見ても隙だらけだ。ティンも突如得た、好機に対して笑みを浮かべ心臓へ向け剣を突き出し、アミは剣をティンの刃と交差させ滑らせティンの軌道から避けて逆にティンの懐へと。

 騙され、釣られたティンはまだ笑い続け知っていたよと告げるが如く剣を一度手放しそれでもアミは剣を滑らせ途中から叩き落としつつティンへ切り上げ、ティンもその一閃を目にししゃがみ込んで剣を手に取り足払いからの追撃に薙ぎ払い、アミは跳びかわし追撃の薙ぎ払いも剣を構えて防ぎその衝撃に乗って。

(僅かでも距離を取ってまた遠当てッ!)

 刹那的に読んだティンは剣が当たる直前で寸止めし、剣がぶつかる瞬間にアミは軸足を地に付けティンの寸止めに合わせて剣を弾き構えを直し真っ直ぐ突き出す。ティンはそれを見て知っていると言わんばかりにアミの振るう剣の切っ先に自分の剣の切っ先を当て重ねた。

 金属同士が奏でる甲高い音が響き合い、二人の睨み合いが始まるのも束の間。均衡をまず先にアミが破壊する、剣を弾き右にステップを踏みながら横に薙ぎティンも対応しアミと剣を交わし合う。交わす剣戟から響くは非常に軽い剣の音、互いに鉄と鉄を叩き合うだけの軽い切り結びが続く。

 二人の振るう剣は指揮棒でも振るうかのように軽やかで、ともすれば絵でも描いてるとでも勘違いしそうなほどに繊細な剣戟の応酬。軽やかな金属の音がまるで音楽でも鳴らしているかのよう、だがこの裏で二人による過激な読み合いが行われている。

 アミの剣は、ティンと同じ系統。つまり、力から徹底的に抜いてその殆どを技術につぎ込んだ技術編重剣士だ。しかも、その上でティンよりも遥か上を行く剣の腕を持っている。実際、アミのように瞬間的な連続突きもほいほいと剣から斬撃を飛ばす事も出来ない。手応えから察して、魔法の類も使ってないと言う恐ろしい代物だ。故に、だからこそ。

(届かせて、みせる!)

 届かないと言うのなら上等だ、ならば挑んでやろうと言うもの。ティンはアミの剣に合わせてダンスのステップを混ぜ込み一振り一振りが必殺の息にまで昇華しているアミの一撃を斬り捌く。一振りを凌ぎもう一振りを十の万の億の未来から読み取り選択し凌ぎ次の未来を読み込む。一々読んだ未来に付き合ってもられないほど、アミの剣には一切の容赦がない。ティンですら、彼女の剣に敵う訳がないのに何故こうして切り結べているのかが分からない。

 一手間違えれば、力加減や踏み込みのポイントを僅かにでもずらせばその瞬間に自分が切り刻まれて終了であろう。しかしそれはティンも同じこと、相手方が油断でもして何かを間違えてくれはしないかとあらゆる手を講じて誘ってくれるのだが鋼の精神とも言うべき立ち回りが一切応じてくれない。の、だが。

「こ、のッ!」

 アミは、そんなティンを見て。何処までも楽しそうな彼女を見て、まるでふざけるなと冗談のつもりかと怒るように表情を歪ませる。ティンは舞踊のステップを一つ取るたびに眉がピクリと動く。アミはもう我慢ならないとティンでも反応出来ない程の速さで薙ぎ払うと。

「あまりにも醜悪、もう見ていられません」

 此処は神聖な決闘場、そこに遊びを持ち込む不埒者へ。アミは磨き上げた秘奥の一つを晒すべく自ら鋭く踏み込んだ。まず左足、身を低く滑り込ませそこから剣を高く振り上げながら身を持ち上げつつ更に右足を力強く踏み込み切り上げで持ち上げた獲物へと。

 最早目では追いきれない、至高の十字閃。これぞ我が聖上にして尊き御身の秘剣。


「聖王、十字剣」


 ティンは空中にて、同じ個所へと重なる十字の一閃を叩きつけられ宙に浮く。つまり距離を取られたと言う事であり、アミは容赦なく突きの構えをティンに向ける。だがティンも負けてられんと剣に魔力を練り込みアミではなくアミの頭上へとそれを送り込んで天井を破壊する。

 流石の彼女も天井が崩れ落ちてはどうしようもない、と思いきや。

「愚かな」

 返す一言、アミはすっとその剣の切っ先を真上に向ける。罅割れ、崩れ落ちる瓦礫が――アミの腕がぶれると同時にふっと塵となって霧散する。

 ティンはその光景に目を奪われつつも光の壁を足場としつつも瞬時に距離を詰め直してアミの剣と再び対峙する。動揺が隠せないまま剣を交わすが、冷え切った頭が瞬時に思考を重ねて答えを弾きだす。つまり、瓦礫が一瞬で塵に変わるほどの速度で突きを連打。更にその風圧で浮遊する塵も消し飛ばしたと言うだけだ。最早あり得ないがそれをやってのける異能と言う事だろう。もうこれは異能の領域だ、剣術とは極めればこうもなると言うのか。

「では、その身で味わいますか」

 尊き十字閃をも凌ぐと言うのなら、この一手のみだとアミは何よりも深く鋭い踏み込みでティンの懐に入り込む。ティンは一度見た手は食わんと左に転がり逃げたが。

「一に抜通」

 突きの疾風が駆け抜ける。その刹那、虚空へ放たれた一閃の中へティンは自ら飛び込んでいた。一体何が起こっているのだと混乱しつつも瞬時に答えを割り出す。つまり、打ち出された突きの圧によって目の前の空気がぶち抜かれて真空ができたということだろう。もうここまで行くと荒唐無稽に感じるが此奴らは出来るのだ、現実にさも当然と謳い上げながら実行しているのだからもう何も言うことはない。

 そして、現実としてアミの前まで引き寄せられたティンは優に数百へ至るほどの連打突きが一気に叩き込まれる。ティンは踏み込みと漏れた一言から対応したが逃げることが出来ずに受けを選択、だが二度目は無理だと。

「二に貫穿」

 真下から撃ち上げの連打がティンを飲み込む、彼女の目には彼女の突きが駆け上る竜のようにも見え、宙に打ち上げられたティンはその瞳で更に追い掛けるアミを目にし。

「三に絶空」

 地上へと貫く連打突きの大嵐がティンを飲み込み全身を穴だらけにしていく。最早痛いと言う感覚さえ超えた蹂躙に地上へと降り立つアミは。

「四の、終焉! これぞ我が秘剣」

 振り向き、前の連打突きに重ね合わせて背後の連打突きを加えた。地上へ雨と降り注ぐ剣閃の嵐、そこに背後から重ねての連打を受けるティンへアミは。


「牙龍天穴」


 龍の牙にて天へ穴を穿つと絶剣を振るう。

 これを受けてティンが立って居られる訳が無いとアミは剣を一振りし、一息ついた瞬間。


「極奥義」


 丁度、ティンとアミとの距離がティンの持つ剣一振り分まで落ちて来たと同時。


(つい)


 落下の姿勢から、音を超えた速度でもって彼女の首へ剣を一閃。意識の外からの一撃にアミは、無抵抗のまま刃が首に食い込み半分に至ろうかと言うところでアミが両手でティンの剣を受け止め弾く。

アミさんマジしぶとすぎる。流石狂人国家王女トキヴァーリュ人、遺伝子レベルのチートはこれだから……。

それじゃあ次回。

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