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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
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再誕の執念

 ティンは色んな人達の手によって、今この地をかけて行く。どこまで進んでいっているのか不明だが、奇妙な予感がある。

 この先だ、間違いない。

 そんなティンの前にまだ現れる機械人形群、ティンは抜剣よりも包囲網を突き抜けるほうを選択して更に前へと突き進み、行き止まりへとたどり着いた。

 が、ティンは確かな感触と共に壁に向けて抜剣し切り裂く。その先には更に通路、ティンはついにきたと思って握る剣に思わず力が篭る。

 しかし。

「っ、何だか。煩い」

 耳を抑えて周りを見る。奇妙な異音、気にしなければそれでいいのだが不思議とこの音には既知を感じた。ティンはこの音を知っている、その事実が嫌な感覚としてべっとりと体に張り付く。

 何の音であったか、確か魔力に関わる音だったと即答。そこで疑問視、はて魔法に疎いはずの自分が何故魔力関係の音が拾えるのかと。これはおかしい、だが知ってる。この音は。

「確か、魔力振動音、えっと魔力駆動炉……待て、魔力駆動炉!? それは、あいつの!」

 気づくと同時に発動待機状態だった術式を全て起動状態へと移行させつつ振り向いた彼方より、一つの閃光が天をかけて己が宿敵の元へと馳せる。

 マスクを展開、アイシールド装着、両腰のブレード展開、それを掴み抜剣して超音速でティンの元へと真っ直ぐに双剣を叩き込み、ティンも即時に光子魔法を起動して限界まで加速する。急なオーダーもあってか、魔力が上手く感じられず動かすことも出来ないティンは若干動きが鈍りつつもギリギリで術式が起動し。

「会いたかった」

「お前」

 発光し光子の加護を受けるティンに対し漏れるその声は、機械人形のそれを超えて非常にクリアに聞こえた。ティンはその忘れるはずの無いストーカーの特攻を避けて臨戦体制をとりながら。

「会いたかったぞ、我が宿敵よォォッ!」

「黄竜ッ!」

 叫び、振るう剣はティンにとって最早目で追うのすら困難になる程洗練されている。人知を超えた剣閃にティンは急速に加速のギアを跳ね上げて無理やり対応させる。

「此れ迄に消費した、彼らの悲願今こそ果たす!」

「勝手に!」

 魔力の急回転は使い方の知らないティンにとって暴走領域にさえ達する量だが、そもそも掴めるものさえない為に暴走にさえ至らないと言う矛盾した結果が起きる。しかしそれさえ知らぬとティンは強引に魔力をありったけねじ込んで通常起動時よりも更に濃い光子同調へと繋げ。

「ああ、今になって理解した」

 迫る剣と打ち合い、その軌道から切り結ぶには何の問題ないと把握し、このまま剣戟を続ける。火花散らし、ティンは黄竜の剣を正面から迎え撃つ。

「オレは貴様の剣に惹かれていたと言うことを! そうだこの思考、お前ら人間で言う恋と言うものに近いッ!」

「は、はあ!?」

 二度、三度。打ち合い切り結びながらの、感情のないと自称する機械からの告白まがいの発言。ティンは挨拶がわりに首に向け剣を振るい。

「いや、うざいっつか、失せろストーカー!」

「だが、そもそもオレには為さねばならいい使命があった。戦いを楽しむなど、本来あってはならないのだ! オレは既に故障していると言っていい!」

 その剣を上から叩き落とし、更に黄竜のもう片方の剣がティンに迫るがそれも予想済みと流し距離を置き剣先ギリギリの範囲から切り込む。

「じゃあ修理にでもいけよ、お前本当ウザいしキモいわ! 使命なんてどうでもいいだろ!?」

「オレは機械だ、そんな存在に使命の放棄などナンセンスにもほどがある!」

「機械、感情がある癖によく言う!」

 黄竜は誘いに乗らず一度下がって剣が過ぎた後に直進、だがそれも知っていたティンの剣と交差し。

「お前は、歪んでいる! 機械でもなければ、人でさえない!」

「認めようとも、そしてそんなオレを(強く)させたのはお前だ! 宿命によって結ばれた仇敵こそだッ!」

 剣と剣が激しくぶつかり合うと同時に黄竜はブーストでティンを押し込むが受け流され、刹那押し切った黄竜のマスクに切れ目が入る。

「故にこそ、オレはお前を斃す! 己の為などではない、あの人のためだけにッ!」

「今更エゴを吐ききった分際で、何を言う! お前が、そうしたいだけだろうがッ!」

 初撃を取るのはティン、だがそれでこそと黄竜はブーストを限界まで起動させティンへと迫る。本来であれば見ることさえ出来ない早さ、機体だって追いつかないがティンはその動きを完全に読んでいる。

 だからこそ、黄竜の反撃はいとも容易く受けられた。その上でティンは冷徹な目で淡々と超速の世界で動く機械を斬りさばく。

「ならばそれは、あの人の技術の証明ッ! オレの存在意義その物だああッッ!!」

「違うッ! お前は自分のことさえ分かってないただのバカだ! もう良い、今度こそ二度と出てこないようにぶっ壊してやるよッ!」

「よく言った、オレの唯一無二なる御敵よォォォッッ!!」

 互いの剣が火花を散らし、黄竜が大振りに剣を振るいあげる。黄竜の一撃を紙一重で避けつつ黄竜の右足をヒザ関節から両断する。ティンの頬を置き土産と言わんばかりに切り離された黄竜の足が掠めていく。それさえ織り込み済みだ。

 故に、直後の黄竜から繰り出される斬撃で右肩の肉が切り飛ぶのも予定調和。今のティンの肉体は通常時よりも濃厚な魔力注入による深い光子同調によって骨の周囲の肉以外が光子となっている。もはや肉体の半分以上が光と同化している以上、ティンに物理攻撃はほぼ効かないと言ってもいい。だが、それでも血肉の代わりとなった光子を元の肉体に戻す前にこの状態を解けば、当然のように光子が血肉に戻ってしまう。

 サラサラと砂金のように溢れる光子の血潮。だがティンはまだ動くと追撃を仕掛ける黄竜に合わせて攻撃を捌き、背後に回って左肩の関節を切断する。

 黄竜はティンの動きに応じ反撃で遊ばせていた左の腕を切り飛ばす。それも知っているとティンは黄竜の心臓へ突き出すも肩関節の異常によって動きにくい左腕を犠牲に防ぐが、そのまま左腕を両断しティンはしゃがみこんで転がり黄竜と交差し距離を取る。

 ティンは受け身取りつつ身を起こすと、反転した黄竜が目の前に迫っていて、起き上がりと同時に跳び上がって黄竜と宙へ縺れ合う。しかしブースターを持っている黄竜は直ぐに制空権を取るとティンを地へ叩き落とす。

 しかし、その一撃に乗ったティンは逆にそこを軸に体を持ち上げ黄竜の上を位置どり背中越しに心臓へ刃を突き立てる。そしてそれにさえ黄竜は反応し追いつき斬り返しティンを更に宙へと打ち上げる。

 宙に光の足場を形成、方向を変えて跳躍し距離を取るティンに超機動で強引に追いかける黄竜。だがそれさえも読み切ったティンは黄竜の顔面に刃を流し、黄竜も突如置かれた刀身を前に強引に軌道をネジ変え回避し、マスクが切断され顔半分が露出。その攻撃に流石だと評しさらなる機動力でティンに追い縋る。

 ティンは空中で体勢を立て直して地上に戻る刹那、まだだと高速で突っ込む黄竜と切り結びバランスを崩し地上に降りる、直前ティンの右足が脹脛から両断され宙を舞う。それも予想済みか、何の迷いもなく地上に降り立ち光の足場で足の代わりとするが動きずらい事には変わらず、そこに意識を向け首筋も軽く削がれた。

 頸動脈付近の血液が光子となって流出する。痛みはないが自身を形成する何かは消えていく喪失感にティンは吐き気を覚えながら脇腹を抉られ、お返しに黄竜の腹部を貫き二の太刀で背筋の中央を抉り出す。

 息も荒く、体から漏れる光子が中々に激しい。血液に変えればきっと致死量の怪我だろうがまだ持たせる、騙し騙しに持たせ切るとティンは黄竜の動きへと合わせようと体を傾け、そこで片足が失せたことのよってかバランスを崩す。そこに襲い来る黄竜の連撃、ティンの体が徐々に削られ肉体を構築する光子が散っていく。急所はずらしていくつもお返しに攻撃を繰り出し黄竜の体を僅かに抉り出し内部燃料やエネルギーが漏れ始めるが、それでもバランスを崩したティンの方が不利だ。此処に来てこのミスはあまりにも痛すぎる。

 動きを止めたティンに猛攻を仕掛け、更に黄竜は空気抵抗で瓦解しそうな機体を騙し騙しに運用し遂にティンの防御を抉じ開ける。それを確認した黄竜は好機と見て一気に距離を取り方向転換し、ブースター全開フルスピードでティンに直進する。その剣の切っ先は当然切り落としたティンの左腕側へ、剣を真っ直ぐ突き出し己自身を槍として攻め込む。ティンには最早防ぐ術もかわす術なぞはないとして真っ直ぐ彼女の元へと勝利を確信し。



 黄竜とティンが交差する。



 その、直前ティンの目が爆ぜたかの如く光を放つ。まるで、それも知っていたと言わんばかりに。



 そして、ティンは剣を黄竜の方へと突き出し切っ先同士をかち合わせる。その剣は見事受けながらされ、黄竜はティンの置く刀身の中へと自ら飛び込み。



 黄竜がティンの背後へと回り込む。宙を舞う黄竜はブースターに残る推進力に誘われ直進し、やがてブースターに火がついたまま、あるいはブースターの推進力ゆえか、空中で機体が真っ二つに両断されて。

「ああ、マスター。オレは、結局」

 空中で分解を始め、内部のエネルギーが行き場を失い暴走を始める。黄竜は螺旋を描きつつバラバラに吹っ飛び。

「まだ、やれ、る。マス、ターがな、ない、ない、い、いて」

 地面と激突し、部品を四方のバラマキながら転がる黄竜を、ティンは荒い息で膝をつきながら眺めた。流石に肉体損傷なんて人生初だが、光子化の術式に感謝の念しか無い。腕が足が、首や肩の肉が抉られようと人体の喪失感のみに抑えられているのは、薄気味悪いほどに都合がいい。

 黄竜はそれでもと立ち上がろうと身を起こし、声を途切れ途切れに出しながら身を起こそうとするが、暴れたエネルギーが弾けて黄竜の頭が爆発する。

「あの、か、ない、ないて、て、て、哭い、てる? 誰が、マー坊? おい、また、マー、泣かせ、たの、かい?」

 肉声が機械の声に変わっていく中突如誰かの口調となる。黄竜は、まるで別人がその体に宿っていると言わんばかりに動きが変わり、見えない光にでも手を伸ばしているかのような腕を突き出して。

「泣き、や、れ、ボク、ボ、ボ、ボク、は」



 ーー君の笑顔が、大好きなんだ。だから笑っておくれよ、ボクの大事なマー坊。



 もうまともに発音さえできないその言葉を発するも、その言葉は誰にも届くことなく黄竜の内部エネルギーが暴走し爆散し炎上した。黄竜の中で何が起こったのかは、ティンは決して分からない。分かるわけが、無かった。

んじゃ次回。

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