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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
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会いたい人は、誰

 浅美に後を任せ、ティンは更に前進する。やがて登場する、見飽き始めた機械人形の群れ。ティンは抜剣をしようと。

「いや、貴様の手はいらん」

 手を伸ばす刹那、機械人形群を見るも無残な残骸の山へと変える一人の男。ここに来て、この男がティンの行く道を開くと言う。

「亮、あんたもか!」

 剣帝と謳われし英雄が君臨する。亮は両手に剣を握りしめ、続いて現れた機械人形達を一刀の元にすべて薙ぎ払う。

「少々物足りぬが、此処は俺一人で十分よ。貴様は先に行け! きにするな、俺とて剣士である以上戦場に身を置くことこそ己が宿命だと弁えている!」

「ごめん、ありがとうな!」

 ティンは礼を述べ先へと突き進む。その先、次のエリアに到達すると次は狼の牙が飛び交った。

「リフェノ、とそのおじさん!」

「てめえ、まあいい」

 何か言いたげに声を上げる全身甲冑を身にまとう傭兵剣士、一騎当千の実力を持つとされる剣狼とまで言われた男だ。尤も、実はその呼び名も「傭兵の癖に誰とも交わらない哀れにも逸れた一匹狼」という皮肉が元なのだが、それも久しい話だ。

 リフェノは叔父の動きに合わせ、手にした長刀の一振りで並み居る機械人形群を両断。彼女の叔父こと剣狼も機械人形の持つ頑丈性など御構い無しに切り砕き、次から次へと残骸の山を作り出す。

「あたしも」

「うっせえ! お前の手なんかいるか、さっさと行けよ!」

「は、全くだ。こいつは俺たちの獲物だ、横取りされて給料が下がったら笑えねえ!」

「いや給料って」

 剣狼の言葉にどこか納得を覚えるティン。思えばリフェノは置いておくにしてもプロの傭兵である彼は何故此処で剣を振るっているのか、確かに考えてみればおかしな話である。

「あんたら一体誰に雇われたって!?」

「は、プロが簡単にクライアントの名前を言うものかよ。傭兵なめるな」

「いいから先に行けって、こいつら全員うちらの敵じゃねえよ!」」

 叔父を切り裂く、そんな心配さえ感じさせない長刀の乱舞、事実として熟練の傭兵は考え無しの大立ち回りを見事なアドリブで切り抜けている。側から見ていてこれほどに心臓に悪くそして頼もしく思えるものはないだろう。ティンはそう結論づけ。

「ありがと、任せた!」

「任せろぉっ!」

 リフェノの野狼が吐く咆哮の返しにティンは苦笑しながら先へとかける。次のエリアで見たもの、それは。

「お、悪い」

「なぁ!?」

 目前に迫った漆黒の刀身にティンは思わず身を捻ってかわし、その剣の持ち主へと視線を向けて。

「おっす、ティン元気?」

「ナンパ野郎、てめえ何でここに居る!?」

 関哉だ。彼が漆黒の大剣を手に機械人形を一太刀で打ちくだきそこらへんに放り捨てて行った。ティンはなのが何だかよく分からんと返すが関哉もボリボリと後頭をかくと顎をしゃくってある方向を示す。そこには、銀髪の女魔導師と緑の女魔導師が魔法の乱舞を見舞っていて。

「ちょっとそこの男! 何サボってるのあんた前衛でしょ、わ、わ、わあああああ!? 来るから来てるからちょっとねえちょっとエレーナどうにかしてぇ!?」

「ごめ……魔力、きれ……」

 ティンが彼女達を視認すると同時に魔力がキレ始めて悲鳴をあげり緑ポニテの魔導師。エレーナと呼ばれた女も疲労困憊といった様子で肩で荒い息を吐いて実に官能的だが、物量に任せて勝利は目前と迫る機械人形群が背後では何とも言えず。

「あのさー」

 関哉はちょっと地面を蹴ると爆発した様に吹っ飛び彼女達の前の躍り出るとそのまま機械人形群の優勢を木っ端微塵に粉砕し、一気に殲滅し尽くす。

「俺、かわい子ちゃんの為なら何でもすっけど、何で可愛げのない女を庇わなきゃ行けないの? これ呪いか、俺って呪われてんのか?」

「は、はあ!? 居るでしょ可愛い女なげっふぉがっほゔぉぇ」

「叫んで噎せる可愛い女なんていねえから、つうか女なら可愛がられて当然なんて奴はカスだからゴミだから、お前らは愛でられる努力して出直せ根性捻じ曲がった糞女ども」

 吐き捨てながら黒き剣を振るう関哉、これならどう見ても彼一人で十分な気がすると言うもの。寧ろ途中でガス欠になる彼女達と言うお荷物を背負って居るとさえ言える状況だ、何故そこまでして好きでもない女達を守って戦って居るのだろうか。

 と言うよりも、ティンのイメージ的に彼はフェミニストであった筈なのだがその意思が欠片も無いと言うのはどういうことなのか。思えば、そのスタンスはティンに対しても同様ではあったが基準と言うものが上手く掴めない。

「お前のその可愛いとか可愛くないとか、ほんとよく分かんない」

「は、別に手前に分かって貰おうとか。欠片も思ってねえから、俺が言ってんのは女だからってだけでチヤホヤされたがる乞食な連中は願い下げだってことだよ。別におしゃれもしてねえ、男に見られることに意識を向けた事のねえ、でも女だから可愛がってほしいそんな輩にまで優しくするほど俺はお人好しでも物好きでも被虐趣味でもねえよ」

 関哉はそんな信念を語りながら、片手間感覚で次々に機械人形群を斬り砕いていく。元より彼が振るう黒い大剣は地属性の剣。属性抵抗が高いならともかく、そんなことを考慮に入れていないのならかの魔剣は捕食するがごとく鉄を岩を食らい散らかす。ティンは関哉の言葉に確かになるほどと遂に肯いた。

 つまり、彼の言う可愛い女というのは「見られることに意識を向けて人前にきた女」と言う事なのだろう。確かにその枠で言えばティンは論外も良い所、それを考えてみれば関哉の陰に隠れてぜーぜーしている二人組も同じであろう。確かに魔導師らしい、男からすれば煽情的な格好をしてはいるが、その格好から見えるのは単純に着易さと強いて魔術的観点から見て便利あると言う事のみ。つまり、誰かに見せる事を目的としていない。ただ機能で伝統で、そんな気軽に選んだからこうなったと言うだけの話だ。

 そんな、異性に見せることをまるで考慮してないのに女だからと媚を売る行為に関哉は拒絶感を示しているのだと把握。しかし、それはそれで何とも面倒な考えだろう。と言うか、理解したからこそ何だか腹が立って来る。何よりその括りで何故皐は良いのかと。

 しかし今はそんな事よりも重要な事がある。此処まで来て大体がティンの知り合いかその友人知人だったのだが、一体全体この女達はどこの誰なのかが不明だ。少なくとも銀髪ストレートロングな女と緑髪ポニテな女に知り合いなんていない。ティンは息も絶え絶えな二人に。

「そういやあんたらは何処の誰」

「は、はあ!? このメイシェル様を知らないってもぐり!? いつかリフィナとか言う自称星姫を超えて大魔導賢者(アークセイジ)になるこのあたしを知らないとか」

「いやごめん、メイシェルとか知らない。リフィナなら知ってる、イヴァーライルでもすっごい世話になった」

 ものっそいドヤ顔のキメ顔で語り出そうとするメイシェルの出鼻をくじくティン。そしてティンの発言でエレーナと呼ばれた女は。

「あなた、リフィナの騎士?」

「そうだけど、えもしかしてリフィナの知り合い!?」

「知り合いじゃない! 不倶戴天にして永久不変な宿命のライ」

「まあ友人かしら。一応ね、あの子は頑なに認めようとはしないけど」

 またもや言葉の途中で遮られるメイシェル。彼女はとうとうむくれて何かの結晶を齧り始めた。

「メイシェル、見っとも無いわよ。いじけてエーテルを齧るなんて。貴重品なんだから此処で使わない方が良いと思うわ」

「ふん、どーせ此処から出るのにガンガン使うんだしいつでも良いでしょ。エーテル自体ならそこらへんに転がってるっぽいし」

「エーテルって、何?」

「魔力精錬結晶」

 エレーナは地面の転がっている透明な石を摘見上げてティンに見せた。

「これが、エーテル。魔力は独自の方法で精錬すると結晶化するの、この辺りを散策してて分かったんだけど此処ってどうやら魔術研究をしてた一大都市だったらしいの。彼方此方に高純度のエーテルが落っこちてるわ、と言うかこれエーテルを超えてる。此処に研究所立てて良いかしら、異世界だけど私は何も問題ないのだけど」

「いや流石に無理でしょ、あんたの研究資料どんだけあると思ってるの。日常生活品全部纏めても四次元バッグ四つも使って更に足りないじゃない、引越しなんて無理でしょ。荷物誰が持つの」

「え、えっと、引越し費用は全部で、ああっ、研究費用と合わせたら此処に越すのに約10年!? いや、リフィナに頼めばいやダメっ! いくら友人が大成功してるからお金の都合してくれとかどんだけ恥知らずなの私!?」

「異世界に引越ししようで一発じゃない? こんだけのエーテルがあれば、いやこれは最早エーテルを超えたエクス・エーテルとでも呼ぶべきか。これだけあれば」

 メイシェルは落ちていたエクス・エーテルをいくつか握りしめると天にかざして。

「シャイニングオーラ・ジャッジメントレインッッ!」

 展開される大型の術式、そこから放たれる光が雨となり裁きの光として機械人形群を一気に薙ぎ払った。メイシェルは口端が裂けるほどの笑みを浮かべると顔を覆い、笑い上げた。

「凄い、暴走寸前の魔術行使なんて何年振り!? まだいける、これで」

「あ、さっきもその調子で前衛の人を引っ込めて、あっという間にガス欠になって涙目になった馬鹿がそこにいるわ」

 魔王の雰囲気さえ纏ったメイシェルがカチンと固まった。ティンは取り敢えず踵を返すとエレーナがマントの端を掴んで引き止めて。

「あんた! リフィナはあんたの事を手紙に書いていた。新しい友達だって、そう言ってた! 信じられる? あの偏屈や拗らせきったあの子が、あんたはそんだけのことをやったんだと思う。だから、私もメイシェルも、今此処に来れないって言うリフィナの代わりにきた。えぇっと、その、あいつの友人なら私にとっても友人、だから良し、万事良し!」

「いや何が?」

「少なくとも、私が此処にいる理由。此処は任せて」

 言って、エレーナは地面に転がるエクス・エーテルをいくつか拾うと口に入れれ噛み砕き雷撃の嵐を解き放つ。

「行って!」

「悪い、任せる」

 ティンの返しにエレーナとメイシェルは親指を立てて返し、ついでに魔導師達の復帰に合わせて地面に座り込んだ関哉を見ると軽く手を振っていた。ティンは捨て置き更に前へと前進する。

 そして次のエリア、そこに踏み入れたティンはすぐに回れ右したい気分になった。道が此処にしかない以上前進以外に選択の余地はかけらもない。無いの、だが。

「行くぜ、俺たちの漢気を見せる時だッ!」

「煩いぞ、貴様は黙れ」

 大剣を手にする濃ゆい漢達が、既に陣取っていた。と言うか逃げたい、此処にも立ち寄らねばならないのかと小一時間悩みたい。だが此処より戻ると言う選択肢は皆無。ならば行くしか無いのだ。

 どうか、気付かれずに黙って素通り出来ますようにと祈りを。

「待ってたぜティン! さあ来い、此処先に行くといぐぉ!?」

 武旋が己が剣を地に突き刺し咆哮のようなオーラを纏うが、直後に真後ろから殴りつけられた。一体誰なのかと思って見るが、見覚えがない男だ。黒髪の短い、美形の剣士。本当に、イケメンという単語をそのまま絵にでも落とし込めばこうなるのではと言う程に彼は整った容姿だ。

 が、そこでティンは奇妙な既知感を覚える。この顔を覚えている、見れば見るほどにその顔に、見覚えがあって。

「久しぶりだな、この馬鹿野郎が。テメエについて言いたいことが山ほどあるが今はいい。取り敢えず、親玉をぶっつぶすぞ」

「あんた、誰?」

「ああ? あ。チッ、ああクソ、そういやおめえらの前で髭なんか剃った記憶が無えな。ああ、俺だ俺、ああクソ、そういや声も無理やり作ってたな。テメエらがピーギャー泣いて喚くから和やかな雰囲気出すのに苦労したっけ」

 舌を打ち、後頭部をガリガリとカク男。ああいい、その動作で予想ついた。この男は。

「師範、代、なの?」

「ん? あんだよわかってんじゃねえか。テメエ人をっておい待て、何で俺がわかんだまさかおい武旋テメエ!」

「あ? 俺は別に何もしてねえぞ。多分亮じゃねえか?」

 慣れた調子でど付き合いまで始める二人、その背後から近寄る機械人形達にティンが声を上げる、よりも早く男達は一撃で粉砕し。

「クソが、テメエへの文句は後だバカ。じーさまとばーさまと、チビどもを心配させたツケは必ず取らせるから覚悟しろクソが」

「お前、孤児院の時もそうだったのか? 幾ら何でも教育に悪すぎねえか?」

「るせえ、織り込み済みだ」

 輪をかけて悪い答えを返して二人の男は戦場へと身を投じる。ティンは何故か曇る視界が気になって顔に触れると涙を零していることに気づく。思わず笑みが零れる。だから、行くべき方向をへとむきなおり。

「行ってくるよ、師範代!」

「うっせぇ! さっさと行けバカガキが!」

 そのやりとりにされ、懐かしさを感じながらティンは前だけ見て走った。

それじゃまた次回

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