姫と騎士―輝光の聖騎士―
ティンはリフィナの手に引かれて町外れの古びた教会の中に入り、リフィナは手馴れた雰囲気で教会の奥に入り床を探り、取っ手のようなものを取り出してそれを引っ張り、床が開く。そしてティンの方に振り向き。
「ほら、先入って」
「え、うん」
ティンは催促され、その中に入る。中は暗く、石造りの階段が続いてる。ティンはとりあえず奥まで階段を下りていく。正直暗くて仕方ないが、明りが無いなら仕方ないとティンは降りて。
「おい、そこの馬鹿」
とそこで後ろから声が来る。発言者はリフィナだ。
「光の魔法が使えるなら明かりくらい自分で灯しなさいよ」
「へ?」
後ろから言いながらリフィナはティンよりも前に行く。その指先には光が集まって輝いている。ティンは取りあえず黙ってついて行くことにした。
「どこに向かってるの?」
「教会地下の奥。そこなら一先ず安全だから」
言いながらどんどん階段を降り、次に広い空洞に出た。真っ暗で周囲の様子が確認出来ず、ティンはぐるりと周囲を見渡す。
「フラッシュ」
リフィナは手を前に開いて差し出し、魔法の名を告げる。すると空いた掌の中で光が弾け、暗い部屋を明るく満たす。
そこにあったもの、それは。
「よ、鎧?」
「そ、この辺りが戦争してた頃、教会は此処を即席の病院にしたって訳。此処にあるのは一種の倉庫、死んだ兵士達の鎧やらが無造作に置かれているから、怨霊とかいるかもよ~」
「へえ、そうなんだ」
言いながらティンはさきゆくリフィナの後について行く。
「ちょっとあんた、女なんだから少しは怖いとか思わないの?」
「いや、普通幽霊くらいで怖がる?怨霊とか言われてもあ、そって感じだし」
「かっわいくねぇ……」
「その台詞、そのまま返して良い?」
二人はそんな事を言い合いながら歩き、暫く歩いていると急にリフィナは振り返ってポシェットから何かを取り出し、それをきた道に放り込む。
「今なにしたの?」
「ちょっとトラップ。あたしらの真後ろを一種の神殿に作り変え、異界化させて後を追いづらくさせる。ま、時間くらいは稼げるでしょう」
そう言って踵を返して行く。教会地下は地上より地下の方が充実しており、さびれた上と比べてこっちの方が広くて大きい。
「ここは一体」
「地下の礼拝堂。大昔、異端者たちの根城だったのが始まり。それが見つかり、あらゆる時代の流れで時に倉庫となり、時に秘密通路になり、マニアな冒険者には結構知られている話よ」
リフィナは言いながら歩き進み、やがて適当に置いてある木箱に座り込む。
「ま、その辺にでも適当に座りなよ。そんな演劇みたいな服、いつまで着込んでるのよ」
「え、この服? そう言えば、ずっとこの服だなぁ……」
ティンは思い出した様に言うと携帯型お着替え君を取り出し、スイッチを押す。そしてティンはかなり久しぶりにオーラウェアに着替える。リフィナはその様子を見て。
「あんた、それ……」
「何、ほしいの?」
「いやそんなの欲しくないけど……でも、あんたそんな使い方じゃ駄目だよ」
「……へ?」
ティンは思わず素っ頓狂な声を出す。そんなティンの反応をスルーしてリフィナは携帯型お着替え君を手に取り、ひっくり返して真ん中の小さなスイッチを押す。すると注に画面が浮かび『お着替え設定』という表示が出ている。
「うえ、うえええ!? こんなのあったの!?」
「何言ってるのあんた? ケーお君って言ったらこれを使った変身でしょうが! そんなのも知らずに使ってたの!?」
「ケ、ケーおくん?」
「ケータイお着替え君って言ったらケーお君でしょうよ。全く、上着も下着も同時の上に換装時間もデフォなんて、あんたなんでこれ買ったの? 使いこなせて無いじゃん!」
リフィナは言いながら設定画面をいじる。時には何らかの項目を操作し、ケーお君の設定を無断で変更する。
「ちょ、ちょっとなにやってんだよ!?」
「なぁに、ちょっと設定を弄って機能を変えてるだーけ。大丈夫、ちゃんとセットしてる所は手付かずだから。ようし、いいこと思いついた、あんた今だけあたしの騎士になれ」
ティンは驚いた表情でリフィナを見る。いきなりのことなのだから当然でもあるが。
「き、騎士って、どういうこと?」
「んーつまりはさ、あたしを守るガードマンになってってこと。今だけで良いから」
リフィナは無邪気な笑顔でいい放つ。対してティンは。
「……そう言えば、さっきの奴ら騎士がどーのっていってたっけ」
「そそ、そゆこと。つまり騎士って言うのは“姫”の相方で姫を護る人のこと」
「……姫? あんたどっかの偉い人?」
「……もしかしてあんた、私のことを知らないの?」
リフィナは怪訝な表情を見せ、ティンはなんのこっちゃと言うような顔をしている。
「……え、本当にどっかの国のお姫様とか?」
「あ、の、ねぇ。あんた、新聞は?」
「読んだこと無い。前に読んだことあるけど、あんなちっさい文字全然読めないよ」
ティンはないないと手を振って返す。
「……雑誌は読んだことある?」
「雑誌? ああ、漫画雑誌ならたまーに。買っても妹達が回し読むんだよねー」
「じゃ、じゃあニュースは? 流石にそれくらい見てるよね?」
「ああ、テレビはいっつもアニメとかしか見ないし」
「は、何? 私知らない? 光輝の星姫、リフィナ・オーラステラを?」
リフィナは自分の胸に手を当て、ティンに語りかける。
「うん。あんただれ? どこの国のお姫様?」
「あ、の、ねえ! 私は、星空の術式を学会で発表した、姫! 若き天才女性魔導師の誉れ高き称号! 分かる!? 魔導師の未来を背負って立つ、才能ある魔導師!」
「……あ、なんかさっき聞いたな、そんなの。瑞穂もだっけ」
「瑞穂? ああ、あんなの詐欺師も良い所! 姫の面汚しも良い所よ!」
ティンは少し驚いた。瑞穂がこんな評価が下されているとは露も知らなかったからだ。
「……詐欺師ってどういうこと?」
「撃墜数百万突破で姫の称号獲得なんて絶対嘘っぱちに決まってんじゃん! 何かやったに違いないね。この前どうやって撃墜数百万を超えたのか聞いてみたら、苦い顔して目線逸らしたし、きっと何かやったに違いない!」
「……そんなに凄い数字なの?」
「あったり前じゃん! 百万人をあの年で、たった二年で出来る訳が無いでしょうが!」
「へ、へえ……でも瑞穂って、そんな嘘つくかなぁ?」
リフィナは胸を張って自信満々に語るが、ティンは未だに頭をひねり続ける。彼女が流石に姫になる為にそんな事をするとは思えないからだ。
「ふん、ああ見えて機械になんか細工したに違いないじゃん! 全く、あんな奴が何で姫になったの!?」
リフィナはそこまで捲し立て、落ち着く様に足を組み直す。
「ま、あんな嘘つきのことはどーでもいいや。それよりも何だけど、あんた私に耳かして」
「ん、んー、良いけど」
ティンは言われるがままにリフィナに耳を差し出し、ごにょごにょとティンに語りかける。それを聞いたティンは。
「え、ええ!? ホント!?」
「ホントよホント。んでね……」
更にリフィナはティンの耳へとごにょごにょと何かを吹き込んで行く。やがてティンは目を輝かせて。
「いい! それすっごく良いよ! いつやるの!?」
「まあ待ちなさい。奴さんももうすぐ来るだろうし、もう遅いから寝ましょう。昼前から逃げっぱなしで疲れたー」
リフィナは言うとごろりと寝っころがる。ティンも欠伸をして。
「寝よ」
とだけ言ってポシェットから寝袋を取り出してその中に入って目を閉じる。
「利用するだけは利用してやるよ、馬鹿な剣士」
リフィナは無造作に置かれた箱の上で気持ち良さそうに熟睡している。そこに喧しい金属音が彼女の元へ近づいて行く。
「ほう、一人か。騎士を逃がし、貴様一人となったか」
リフィナは一切起きる様子を見せない。だが。
「あの神殿、よく抜けられたね」
「なるほど。教会地下に突如出現した別ダンジョンへと通ずる転移術式を置いたのはやはり貴様か」
甲冑達は疲れを見せることなく立ち塞がるが、多くの仲間が少し震えているところを見ると相当に疲れているようだ。対して振り向くことさえせずにリフィナ。
「しっかし突破に一日半もかかるなんて、待ちくたびれて二度も寝ちゃったじゃん、どうしてくれんの」
「ほう、あのような罠を仕組んでおいてその台詞とは頭が下がる。どのような神経か聞きたくなる思いだ」
甲冑達のリーダー格が一歩前に出て語る。リフィナは背伸びをして甲冑どもの方へと振り向く。
「にしてもがっちゃがっちゃ全くうるさいったらありゃしない。あんた達ねえ、レディに気を使おうって無い訳?」
「すまんが、人間兵器と呼ぶべき貴公をレディと呼ぶには些か抵抗が」
「ふん、挑発だけなら一丁前?姫を人間兵器呼ばわりなんていい根性してるじゃない。ぶちのめしてやろっか?」
リフィナは身体を起こして木箱から降り、箒を手に取る。同時、甲冑達は武器を手に取り戦闘隊形に移る。
「一人でこの数をどうする?」
「魔導師が一人で相手するのに、無策だとでも?」
「小細工なぞ通用せぬ。こちらには対魔法装備も持っている」
「で、しょうねー。んじゃこっちもやるとするか」
リフィナは左足を後ろに送り、カンッと高い音を鳴らす。魔法陣が展開され、甲冑達が一斉に動き出す。
「リンク、セット!」
リフィナは魔法陣を目の前に展開し、更に魔法陣は輝きを増していく。
「無駄だ! クリスタルの前に、例え姫だろうと意味は無い!」
「ハートコネクト!」
リフィナは指を払い、魔法陣に書き加えていく。
「ブースト! イグニッション!」
そして輝く魔法陣が砕ける様に弾け。
「でえええええええええええっやあああッッ!」
中から白い服の剣士――ティンが現れる。その手に持つのは、ケーお君。
「な、貴様は!?」
「燦然登場!」
装置を起動させ、ティンは光を纏い、オーラウェアのシルエットが消え、ティンの腰から光が弾け、スカートが現れ。
「輝光の!」
続いて上着が装着され。
「聖騎士!」
腕を大きく振るって翻り、首元から続いてマントも展開され、腰に光の剣も追加され、指を立てて顔の前へと置き。
「ティーンッ!」
決めポーズと共にティンの纏う光が弾けて散る。
「ふん、特撮ヒーロー物気取りか!? 舐めるな!」
「打ち合わせ通りやるよ! ティン、あんたの体内魔力を出来るだけ放出させながらこっちに来て!」
ティンは何も言わずに抜剣してリフィナの元へと駆け出すが、甲冑連、中が立ちはだかる。ティンは甲冑の一人に銀の騎士剣で切り裂き、続いて襲ってくる甲冑を踊るように飛び越え。
「騎士なぞ放って置け! 狙うは姫一人だ!」
「ふん! 姫を舐めんじゃないわよ! クリスタルが相手だって」
リフィナは箒を構え、魔法陣の術式を構築し、甲冑のリーダー格がクリスタルの装飾が施された槍を構えて突進し――二人の間に、ティンが読んで字の如く踊り出る。
「な、にぃ!?」
「リフィナ!」
「あ……い、行くよティン! 魔力支配!」
リフィナは一瞬硬直しながらもティンの背中へと手を突っ込み、光が溢れ出す。そして、ティンの体中が光り始め。
「え、何、何なの、これ……?」
「今此処に、代理となりてかの神剣を召喚す! 代理召喚ッ!」
ティンの体中から発せられる光が線となり、ティンの体中を駆け巡り、その手に光が集う。そして――その手に神々の黄昏、黄金の十字架、最終戦争の名を冠する剣が光臨する。
「来い、ラグナロックゥゥゥゥゥゥッ!」
ラグナロックが、ティンの右腕に呼び寄せられる。そして。
「な、何、何なんだよ、これ……」
ティンの体中に、身に覚えのない傷が無数に走っていた。顔から足の先まで、びっしりと。それは正しく、狂気の現場だ。
ん、三話で終わらせる予定が長くなりそうな予感。んじゃ、次回にまたー。
クリスタル=魔力砕きの宝石と呼ばれるもの。魔力に当てると魔力が乖離して魔法が掻き消される。




