世界を巡った結果
戦場の合間を駆け抜けるティン、その行く手を塞ぐ機械人形達、拳を構え蹴りを放たんとする連中の攻撃を掻い潜り反撃の一撃を、だがその刹那へティンの抜剣よりも早く鋭い剣閃が疾る。
突然の出来事でティンはまず面食らうが、それよりも早く鉄をも両断する剣戟がティンの目前で美麗な舞となって振るわれる。ここまで鮮やかな技なんてティンの知る限り数人しかおらずしかもその内は誰よりもティンが知っていて、だからこそ彼女では無いと断言出来て。
戸惑う間に機械人形は全てただのガラクタへと解体されていた。そしてそれを構築した人物がゆっくりとその姿を現し。
「あの、えっと、ラプレスちゃんのお友達だっけ?」
「貴方、確かパルシェさん!?」
凱旋祭で偶然知り合った女性だ、だが何故彼女がと思っているまた機械人形の増援。しかし出現と同時に水槍の一閃を以って一掃、そこに水を固めて出来た騎馬を駆る聖騎士が一人。
「随分と無茶をなされているようですね、レディアンガーデ卿」
「ラプレスさん!? 何故此処に!?」
剣が舞、槍が貫く。微風が薄く鋭く切り裂き、飛沫が飛び交い迷いなく貫く。最初に会合した時、喧嘩を始めていたとは思えないほどの連係で次々に機械人形を打ち砕いていく二人にティンはなお何故二人がこの戦場にいるのかと。
「私は己が忠義の元に生きる流浪の騎士。何処へであろうと征くだけだけ、そこが戦場であるのなら、この槍が必要であるというのなら尚のこと」
「敵が機械だと言うのなら私の剣に迷うものはありません、その上で命を殺めようと言うのなら尚更に。我が剣は人以外の存在を容易く切断致しましょう」
雄弁に語るパルシェは言葉に違わず並いる機械人形の群れを一振りの斬撃で両断する。あいも変わらぬティンに迫りほどの華麗かつ繊細な鋭い剣戟、思わず息を呑むもののラプレスがティンの頬へ矛先を掠らせ。
「何をしているのです、早く行きなさい」
「ラプレスちゃん!?」
突如ティンの頬を槍で掠らせると言う暴挙に驚くも、周囲の機械人形の処理に追われラプレスの槍を弾けない。しかしティンは一瞬目を閉じると頷き。
「すいません」
水槍を潜り抜けてティンは先へと駆け抜けていく。ラプレスはその様子を寂しげな笑みを浮かべて見送くると、水槍をふるって機械人形を蹴散らす。
ティンは脇目も振らずに前進を続ける。が当然のように追撃が止むことはない、機械人形の出現場所はあちらこちらにあるのだから誰かが一つ一つの場所を受け持った所で意味はない。
故に何人の増援が来ようと無意味だ、どちらかと言えば常にティンの隣に立つ方が望ましく現実的である。
「ヴォルゲン」
ティンへと差し向けられる追っ手の一撃、ティンにとっては例え背後からの一撃であろうと既に知っているものと等しいものである。が、それを察知するより冷徹な一閃が。
「ブレイザーーァァァァァアアアアアアッッ!」
灼熱を伴って突き刺さる。極低空を貫くが如く飛翔する灼刃、凍てつく地表を滑るかのような軌道で焔を穿ち導きティンの元へと進撃する。
ティンの元にやって来たのはいつか見た黒髪の冒険家、名前はなんだったかと思い出すより前にティンの身体を抱えて滑空しては停止。直後彼女の軌道から爆炎が噴き出し一帯に集まっていた機械人形の一群が焔に飲まれて掻き消えた。かと思いきや、彼女が手にする剣は焔を噴き出したと思えば氷雪を撒き散らして機械人形達を凍てつかせてさらに先へと突き進む。
いきなり抱えられつつも駆けられる事態に混乱しつつも、しかし彼女が自分を守って戦っていると言う事実にこの者は味方であると言う事実に安堵しつつも何者であるのか思案する。戦場を単独で動き回るこの女性はなかなかの手練れだと認識していた。足元には氷を展開し、背中には術式を背負ってブースターを吹かせて推進力を得ている。先程から見せる高機動力は二つの魔法を見事に操った成果かと改めて実感、かつての知識を掘り起こし、これを確か人は反属性魔導師と呼ぶのだと言う。意味は単純に共に相反する属性魔法の素質を持ち合わせる表裏一体、陰陽太極、それを単独でこなす人間なのだとか。
そんなことを思い浮かべていると彼女は苦い表情でティンに。
「跳ぶよ、口閉じてッ!」
直後、足元が爆発。氷の板を床にし爆炎という推進力を以って更に前進、前進を続ける。一体何者なのか、着地と共に投げ出された事で体の自由を取り戻すと。
「あんた誰!?」
「モモコさんッ!」
叫ばれる別の名前、直後にティンの近くから飛び出た機械人形へ向けて研究所内の古びた銅線から電気が迸るとその中から人間が電気と同調しつつ飛び出して来て。
「先生直伝、ライトニング・ナッコ!」
拳を突き出し、人が光の速度で、雷そのものとなって機械人形ごと空を貫いた。雷光と駆けたモモコは着地すると更に両手を掲げ、両手のうちに電気を溜め込み巨大な電気の球を生み出す。周囲から湧き上がる機械の悲鳴、電気をエネルギーとしているものから根こそぎ奪い去り自身の力と変えているのだ。それこそが、電属性魔法上級上段の位置する正真正銘のAランク魔法。
「超電気球ーッ!」
振りかざした電球を機械人形達の居る場所へと叩きつけ、爆雷が暴威の嵐としてが全てを薙ぎ払う。研究所の中であろうと知らぬ存ぜぬと繰り出された一撃は見事に研究所内をボロボロに焼き尽くす。それ程の活躍を見せたモモコはティンへと振り返る。
「ティンさん、司令部っぽい奴はあっちですよ!」
「は、はい?」
「この研究所の電子ネットワークは把握しました、あっちの方に行って下さい! ここは私と美奈さんが受け持ちます!」
唐突に出てきてモモコはティンに道を指し示すと両手に電気を纏わせる。有無も言わさぬ行動力に圧倒されるティン、だがそれさえ置き去りに美奈も同じく剣を構えて。
「ここは任せて、全力で食い止める!」
「ごめん」
雄々しく宣誓、受けたティンは踵を返して先へと急いだ。しかしその先にもやはり機械人形が。
「サンダアアアアアアブラスタアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
悪態付き柄を握る、そんな当たり前の動作さえ許さぬ先手必勝の一撃。次のエリアに足を踏み入れたと同時に繰り出される雷光一閃、呆気にとられたティンの前には今金髪を長く伸ばし、ゴミ紐で結い上げた戦士が敵に向かって雄々しく仁王立ちを決めていた。側には長柄の武器、全身に電気を迸らせ悠然とティンの背を向けて立っている。
彼女は長柄の武器を手に取り魔力を流し込んで刃を形成、電刃トマホークを手に取り。
「ここはあたしに任せて、大丈夫一人じゃあない!」
「いや待て、誰あんた」
彼女は徹底して名乗りを上げない。だが任せろとだけ背中で語り、ティンを先にと催促する。そんなティンの前、遠くでは彼女と同じく電気戦斧を握って暴れる先人がいた。彼もまた遠目でティンを視認すると。
「行けよ、ここはよくわかんねーが俺たち兄妹が受け持った!」
「そういう事! あたしとお兄ちゃん、二人のプラズテル兄妹に任せてよ!」
よく分からないのはティンも同じ、だがここでの問答に何の意味があろうか。飲み込むと彼ら兄妹に向けて。
「ごめん!」
告げて駆け抜けた。本当に今日は、顔見知りどころか見ず知らずの他人にまで助けられるとは、よく分からない日である。彼らとどこで会ったのか、深く記憶を掘り起こせばおそらく出てくるのだろうが今はそれよりも先へ向かう必要がある。
「ヒャッハーー! オラどうした機械人形風情がァ! もっと良い声で哭けよァアン!?」
「あの店長、あたしヤバい奴を目覚めさせちゃったんですか? リフェルがなんか怖い」
「お前がマゾに目覚めれば全て丸く収まる。頑張れ人柱、あフェルラだっけ?」
「その疑問はない、絶対無い」
と潔く進んで行くと、いつか出会った居酒屋一行がそこにいた。フェルラという店員とリフェルという店員だったか、ティンは微妙に覚えてないためどうでもよかった。もう一つ言えば名前も知らない女店長は手にした瓢箪を口に付けては喉を鳴らして居る。まさか、あれは酒ビンだとでも言うのだろうか。あんな形状の酒ビンは初めて見るがティンからすると既にどうでもいい話である。
それを差し置いてでも何故いるのかと激しく問いたいが、重ねて告げるが本気でどうでも良い事だ。ティンは一目見ただけで興味を失ったので見なかった事にして踵を返す、主に機械人形を切り刻んで愉悦に浸る笑みを浮かべる平店員は念入りに記憶から消して。
「あんたもそう思うだろ、旅の聖騎士さん」
「いえ、私は通りすがりの一般人です」
立ち去ろうとするティンに向かって初めから知ってたとばかりに気安い問いを投げた。が、その未来もティンの手の内であったと即座に返答。だが店長は適当な瓦礫の山を椅子にしてゲラゲラと笑いあげる。当然目の前で相手して欲しそうにしてる先輩店員ことフェルラをガン無視して。
「すげえな一般人、お前の言うそれは体に神剣の召喚術を刻んでるのか」
「あんた、どこまで知ってる。いや、知っていた」
「さあて、ねえ。何処までだろうか、あたしゃ知らんよ」
言うと女店長は手に持った酒を口にして、先程までの雰囲気とは一変して少女と見紛う程のような声で。
「少なくとも、それは貴方に取り巻く最初の運命よ」
「っ、は?」」
「ここに集ったのは良くも悪くも、その運命に触れたものたち。貴方の因果がここに集結しているのよ」
唐突に切り替わった女店長の雰囲気はまるでティンの全てを初めから知り尽くしたとでも言うかのようで、面を食らってつい口が閉じたが、気を取り直して。
「どう言う意味だ」
「先へ行けば良いわ。私が何を言おうと、それで嫌でも分かることよ」
言うだけ言うと女店長はまた酒を飲んでリフェルの暴れっぷりに目を向けた。ティンは今一よく分からないままに、彼女のことを見つめる。だが女店長は完全にティンへの興味を失ったのか酒を飲みながらリフェルの無双へ目を向けるのみだ。隣で懇願し一人で長々とコントを続ける芸人店員は当然無視の構えで。
分からない事だらけであるが、ティンにとって揺るぎない事実に前進あるのみがある。ならば行う事など踵を返して直進するくらいだ。ティンは三人一行を無視してさらに更に前へと突き進む。
んじゃまた。




