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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
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これが、彼女の世界

 駆け抜けるその先でまたも現れる機械人形、ここは奴らのアジト。恐らく何処もかしこも機械人形の生成工場となっているのだろう。ティンは剣を抜く刹那。

「銃兵隊、撃ーッ!」

「続いて魔導師部隊、中級単体系魔法、放て!」

 それよりも早く銃撃の一斉掃射が人形達を押し込み、魔法が飛び交う。ティンは思わず足を止めてしゃがみこみ、そこを狙ってか連携して飛び込み機械人形に蹴りを見舞う一人の騎士。顔を見上げつつ視認し、見覚えが無い甲冑だなと思いはするが、そこに刻まれたたった一つだけ見覚えのあるものを目にする。それは甲冑に刻まれた紋章。これは、確かと思案し、すぐに答えに至る。

「プーデクスの、国旗!?」

「総員抜剣ッ。機械の鉄屑どもにプーデクス王国精鋭騎士団ナイツザブレイズの実力をここに示すのだッ!」

 先陣を切る騎士が剣を抜き放ち開戦を告げるが如く叫び上げた。その声に合わせ、銃兵や魔導師以外の騎士達が一斉に剣を抜き放つち構えた。そして騎士が煌めく切っ先を敵につき向けて。

「突撃ぃ!」

「メタナン様直属部隊の力を示すのだ!」

 銃兵と魔導師の援護の元に騎士達が一糸乱れぬ連携を以って次々に機械人形の軍勢を撃破していく。その光景に圧倒されている最中、先陣を切っていた一人の騎士がティンの前の出て。

「お初の目にかかります。私はブレイン、メタナン様直属の精鋭騎士団、ナイツザブレイズの臨時指揮官であります」

「ど、ども。でもなんでプーデクス王国の精鋭騎士団が」

「先日、プーデクスとイヴァーライルの間で同盟が結ばれたのです」

 その一言でティンは理解する。つまり彼はメタナンがティンの事情を察して送ってくれた援軍なのだ。

「メタナン様は事態を把握されると我らに援軍の準備を命じ、自国へと戻って行きました。メタナン様は『盟友の危機に馳せ参じることが出来ないのは悔しいが、隣国がいつ侵略してくるとも知れぬこの状況下でおいそれと長期に渡って国を空けるわけにはいかないのだ』と、メタナン様は仰っていました」

「隣国が侵略って、大丈夫なのかそれ。と言うか、今も国境侵犯されてるの?」

「ええ、過去に数十年前に隣のシードゥッフェルタ領が中隊規模の軍勢を国境沿いの村に差し向け、村を襲撃して蓄えを強奪していったことがあります。そうでなくとも隣接する他国は国力の低い我が国に何度も軍事演習だのと言って勝手に国境を犯し、我が国の自然を荒らしているのです。無論、我らとてそのような横暴を許すまじとして来ましたが、証拠不十分で逃げられたどころか代わりに魔獣の討伐をしたから報酬を寄越せとまで言って来る始末。今でこそ、メタナン様の尽力のおかげでそのような事は減りはしましたが……いえ、今はいいでしょう。申し訳ありません。今は戦いに集中するべきですね」

 ブレインは言葉を一度切ると振り向きざまに背中へ襲い来る機械人形を部下と共に両断する。

「そう言う事情もあり、我らを援軍として送る事となった次第です。さあティン殿、ここは我らナイツオブブレイズにお任せを! 我らとて誇り高きプーデクス王国筆頭騎士メタナン様により選ばれた精鋭騎士団、この程度の輩に遅れなどとりません!」

「公爵様はご自分のなすべきことを為されよ! この場は我らが!」

 勇き誇りを掲げし、栄光の騎士達は異界の地で声高く宣言する。ティンはこの場にいない鉄仮面の騎士に頭を下げながら。

「ごめん!」

 返し、先へと駆け抜ける。背に響く鋼鉄の音を置き去って。思えば、色んな人々がこの場に、異界の戦場に馳せ参じてくれた。誰にも、何も、助けてとさえ言っていない。何故に、そう思う刹那、襲い来る機械人形。ティンは柄を握り締め。

「エクスプロードッ!」

 聞き慣れた声が、爆炎となって世界を焼く。ティンは思わず身を伏せ、直ぐに声がする方へ振り向く。そこから参るは吹雪、凍てつく道迫るは鋼鉄の壁。

 鉄壁は機械人形を纏めて押し込むとそのまま遠くへと弾き飛ばして急停止。振り向けば、そのまま勢いを殺せずにすっ転びクルクルとティンの前に滑り込んで来た。青髪のメイドは直ぐに立ち上がると誇りをはたき落とし、何事もなかったと言わんばかりのドヤ顔で。

「おやティンさん、今宵は良い月ですね」

「いや此処屋内だよマリンさん」

 ドジと愛嬌が売りのメイドさんことマリンのご登場である。更におまけと追加だと言わんばかりに赤髪のメイドの操る真紅の双刃がバターを捌くが如く次々と鋼鉄の人形を断ち切り落とし、鉄屑の山を作り上げていく。

「フレアー・エミットォッ! ふぅ、久々の実戦で体が鈍ってると思ってたけど、意外と動くもんだね。おや、ご機嫌麗しゅう公爵様。今宵は良い月ですね」

 トドメに火をぶちまけて消毒を終えた後に笑顔でぶっこむみんなの頼れるメイド長、ルジュさんの登場である。太陽のように煌めく笑顔が素敵で良いのだが、両手に持った双剣とその背後が爆炎でなければもっと良いと思うのだがと言うコメントがついてしまう。

 しかし、彼女にも突っ込まざるを得ないと思うティンだが言葉を発しようとした瞬間背後の圧力を感じて振り向く。そこに立つは、白金の君主。闘技場で暴れた伝説を持つが故についた通り名は聖剣女王。その尊き名は。

「エーヴィア・D・イヴァーライル女王陛下、ッ!?」

「久しいなレディアンガーデ卿、さてゆっくりと話している暇はなさそうだな」

 見渡す限りの敵、敵、敵。ティンの命を狙う不逞の輩がエーヴィアの周囲を取り囲む。

「あの、女王陛下。何故」

「レディアンガーデ卿、貴公に勅命を言い渡す」

 厳とした言葉に、思わずティンは身を硬くする。だが次に飛んで来たの予想外のもので。

「貴公の命を狙う愚か者を我が前に差し出せ。どこの誰の喧嘩を売ったのか、我らの手で思い知らせてやろうではないか。どの道、あいつらも暴れ足りないだろう」

「は、は!? 女王陛下、何を」

「何って、あれ」

 気軽に、腰に下げた剣を抜き女王は左の方へとその切っ先を向ける。その先には病み上がりの肉体を酷使し、何処まで動けるのか見極めんとする氷滅の剣士が凶気と共に踊り狂っていた。傍に立つ戦斧を振るうシスターと共に。それを見てティンは思わずうげーとなり。

「あいつらがある程度満足するまで放置する必要があるんだよ。と言うわけだ、早く行け。最近ラルシアもいないし退屈なんだよ」

「ああ、成る程。陛下も暴れたいんですね」

「いや、別に。まあ母さんに留守番押し付けて来たから早く行かないと割と本気で、お前どうなっても責任とれんぞ」

「それでは陛下、勅命を慎んでお受け致しましょう。御身に勝利を、我らが女王陛下」

 エーヴィアの一言でティンは早急にこの事態を終わらせるべきだと判断し、敬意を込めて礼の形を取り、踵を返す。

「ああ御身に勝利を、レディアンガーデ卿。やれやれ、帰ったら祝賀会な。奢ってくれよ、公爵殿」

「ええ、ではとびっきりのをご用意させましょう。それでは行ってまいります」

 やれやれと、エーヴィアは無言で頷きティンは戦場へと駆け抜ける。そして女王は戦場へと目を向ける。己が騎士に刃を向ける無法供を視界に収め、ただ一言。

「来いよ、丁度いい。聖剣女王とまで言われた我が剣、異世界まで通づるか確かめてくれる。半端であればこの施設ごと両断してくれよう」

 返事は無言、そして強襲。エーヴィアは無礼であると極光の聖剣を振るい、機械仕掛けの人形達をなぎ払った。

 ティンは更に前へ前へと駆けて行く。ただひたすらに、自分を行かせてくれた者達に僅かでも報いるためとただ前に。だがそうはさせぬ、これ以上女一人けして行かせるものかと機械仕掛けの人形達が徒党を組んで現れる。

 柄を握り一息にまとめて両断するかと剣を構えたと同時、吹雪が舞い散った。マリンの援護かと思ったが直後に咲き乱れる剣閃に別人であると知る。

 降り頻る雪さえ切り裂く鋭き刃、そんなものを駆使する剣士などティンの知り合いに一人しか存在しない。吹雪が開けた先、水色の髪を短く切り揃えた氷刃に刀を手にする剣客。

「惜しいですね、もう少し前に居れば切り落とせたのに」

「怖い事を言うな」

「ここは戦場(いくさば)、油断した者から首が落ちる修羅場です。尤も、この手で切り落とすと決めた者がこの程度で切られるとは露とも思ってませんが」

 るかみは和かに微笑み、ティンに向けて冷厳なる一閃を見舞う。ティンはその早さに、身動きひとつせずに受け止め……彼女の背後に迫った機械人形を見事に一太刀で切り捨てた。るかみの振るう刃は冷気を纏うが故に、切っ先より一寸だけ斬撃の範囲が伸びている。だからこそ、見た目以上のリーチを持っているとティンは真横を過ぎる剣閃を見抜く。

 しかしとて、鋼鉄の体を一太刀で両断するのは流石に並みの実力とは思えない。と言うわけでもなく、氷漬けにする事で物質から柔軟性を奪い切り捨てているのだとるかみの動きから察する。動きの鈍った機械人形を一刀の元に切り裂く絡繰、それこそが凍結によって切り裂き易い箇所を生み出すと言う恐ろしく現実的な理論と氷を断ち切る高い技術を用いたものである。

 るかみはティンに見せつけるかの如く、機械人形の襲撃を一人で切り捨てて行く。玄武を元に作られた対物理特化機体だろうが、機体を凍て付かせて切り砕けばいいのだと剣を以って雄弁に語る。

「これが、剣術四天王」

「ふっ。こんなものは世界の強豪の前では吹かれて飛ぶ程度、私の剣術四天王()の名はまだ重すぎますよ」

 感嘆の声を漏らすティンにるかみは自嘲げに笑い、刀を鞘に収め虚空に向けて居合いを放つ。放たれた斬撃が目前の道を彼方までも凍てつかせ、更なる一撃で機械人形全てを無残に砕き散らす。るかみは一息つくと刀を下ろして。

「お先へどうぞ、ここで試合のも一興ですが邪魔が多すぎます。なに、準備運動ならいくらでも出来るのでお気になさらず。貴方と試合時には最高のコンディションにしておき」

「おーい」

 るかみが口を開いている間にもかかわらず、割って入る愚かな機械人形を切り裂こうとしたと同時、回し蹴りが突き刺さった。るかみは僅かに驚き、ティンも驚愕の視線をその人物に向ける。彼女が見知らぬ相手だから、などでは無い。気配を欠片として感じないからだ。

 着地し、るかみの援護の入ったのは銀髪を結い上げた女性冒険者。るかみより大人に見えるが、彼女は一体何者か。よく見ると何処かで見た気がしないでも無い。

「こんなとこでくっちゃべってないで、さっさと片付けちゃってよ。こいつらいくら壊してもすぐ出てくるし」

「フ、フロリエさん、あの飛風さんは」

「すぐ来ると思うよ、あんたが一人で行ったと聞いてほっとけないって言ってたし」

 フロリエの台詞は何処か事務的で、感情が篭っているとは思えない調子で口にしていた。これではまるで機械、と言うより酷いほどに無関心であると表現すべきか。

 戦場に身を置いているのに戦闘行為そのものを見下している、とでも言おうか。より的確に表現するならば、戦うこと自体を疎ましいと言っている、それが一番合っている。フロリエはそんな殺意も敵意も害意も、果てには悪意すら感じさせない調子で腰の双剣を抜いて逆手に構える。此処まで殺気が無いとなればもはや一流の暗殺者と言ってもいい。彼女は本当に冒険家だろうか、とティンはいい加減疑問に思いはじめる。だがフロリエはそんなティンに侮蔑というか、お前は不要だとでも言いたげな視線を送り。

「ほらそこ、邪魔だからどっかいって。やる気ないでしょ」

「……ごめん」

 戦意の落ちたティンの内心を見抜いたとでも言いたげなフロリエ。間をおき、ティンはそれだけを口にして駆け抜けた。

 薄暗い工場の中を一人どこまでも突き抜けていくティン、だがやはりその先にも機械人形が、と思いきやそこにあったのは機械人形の成れの果てともいうべき存在。何故であるのかは不明だが今回は趣向が変わって機械人形で出来た瓦礫の山が作られていた。誰の作品か、とも思って眺めて見るもあまりにも無造作な積まれ方を見ると芸術品でも何でもなく、ただ壊して捨てただけ、という事実が伝わる。そう思っていると何処からともなくずずっと何かを啜る音が、続きコポコポと水が注がれる音が響く。ティンは柄を握り臨戦態勢をとり、音がする方へと慎重に回り込む。

 その先にあったのは、地下であろう工場内の風景とは凡そ似合わない大きなパラソルとテーブル、そして二人の女性がそこで。

「うぅむ、やはりシードゥッフェルタ産のハーブティは良いな。田舎とは思えない上品な味わいだ」

「はい。あ、こちらの茶菓子などは如何でしょう女教皇様」

 柄を握り、いつ何時でも迎撃可能であると準備を終えていたティンが向ける視線の先にいたのは優雅なお茶会を楽しむ二人の聖職者たち。ティンは知っている、この聖職者二人のことを、というか待てと。何をしているんだと声を大にして訴えたい気持ちになった。

 しかし此処は戦場、優雅なお茶会など不釣り合いであるとそこへ襲い掛かるは機械人形達。この穏やかな空気の流れる世界を打ち砕かんと機械人形は聖職者二人を強襲するが。

「ホーリィ・バインド」

「天上の裁きよ、閃光を持って罪深きもの達に慈悲と言う名の裁断を下したまえ。救世の名を謳いし尊き汝よ、安息の眠りへ。AMEN(エィィメン)

 聖なる鎖が機械人形を縛り上げ、紡がれた詠唱によって術式が展開されて天上より光が降り注いだ。それは確かな熱量を持ち聖断の光が雨となり邪なるものに裁きを下す。

「ジャッジメント」

 裁きと言う名の魔法が、鋼鉄人形を無残にもただの鉄屑のガラクタに変えていく残ったのは二人の聖職者のみ。ゴミ掃除を終えた彼女は一息つくとやがて女教皇は何時から気づいていたのか、微笑みと共にティーカップをティンにさし向ける。

「やあ公爵閣下、ご機嫌麗しゅう」

「女教皇閣下こそ、此方で何を」

「散歩だ」

 口にしてティンに差し向けたティーカップを自分で口にする。

「一杯どうだ?」

「お疲れでしょう? これでも私は大企業の社長令嬢、作法は心得ております」

 続き口を開くは水穂。彼女は言いながら紅茶を注ぐとティンの方に差し出した、当然のように茶菓子付きである。ティンはすっかり毒気抜かれて彼女達の側へ歩み寄ると立ったまま紅茶を一口。

「緑茶がいい」

「あらら、此処に和菓子はありませんよ?」

 一口飲んで苦情を付けるティンに対し、彼女の一言に水穂は困った様子で目の前のティーセットを見渡す。女教皇は呆れた様子で指を弾き、忍び寄る機械人形を弾き飛ばして。

「貴公はご馳走になるのに文句をつける気か」

「女教皇様、此処は相手にケチをつける場面ではございません。此方からお招きした以上、全霊のもてなしをせねば此方の格が落ちると言うもの。ええっと、何かなかったかな」

「いや、クッキーも美味しいし別にいいよ。紅茶はあまり飲んだことは無いなぁ、でも結構美味い」

 ティンはそう言いながら紅茶を啜った。そして飲み干すと聖職者二人は並んで席を立つ。一体なんだと思っていると女教皇は術式を展開してけーお君を起動させて法衣を身に纏う。

「さあて腹ごなしだ、盛大に暴れるぞ水穂!」

「御意に、女教皇様。我らが」


「父なる神の身許において、魂無き鉄人形に裁きを下さん」


 二人が構えた錫杖が光を放ち、襲い来る機械人形をまとめて薙ぎ払っていく。水穂がちらりと振り向き。

「どうぞお先へ、紅茶は置いておきますのでお好きなだけ飲んで食べてください。我々は此処で運動してからまたお茶会です」

「あ。ごめん」

 微笑む水穂は多くを語らぬ。しかし、それでも彼女の善意に甘えることを選んだ自分を悔やみながらもティーカップを置いてティンは更に先へと駆けていく。それを見届けた水穂は。

「では行きましょうか」

「ああ、久しぶりの大暴れだ。散華するがいい、鉄屑人形よ、AMEN」

んじゃ、次回に。

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