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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
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意外と捨てたものではない

 皐たちを置いて先を行くティンの前にやはり現れる仮面の人形たち、だが暗黒の鎖が彼らの足を縛り地にそしてそのまま周りの機械人形を薙ぎ払い、続いて暗黒の剣閃が叩き潰す。

 漆黒の華が舞うかの如く、鎖はさらに分裂して機械人形を絡め取って投げ飛ばす。鎖は空になると適当な鉄くずに巻き付いて、漆黒の美少女剣士が戦場のど真ん中に躍り出た。

「クリス、何してんの!?」

「あら、ティン。何って見ればわかるでしょ、憂さ晴らし。最近暇なんだよね〜、あんたぶっ飛ばしてもかったるいし」

 クリスは暗黒の大剣を振るって機械人形の群れを壁に叩きつけ、闇の鎖を投げては機械人形を更に同じ箇所へと放り投げて。

「ダークネス・ブリンガーッ!」

 刀身を真っ黒な闇に染め上げて纏めたところに一気に叩き込んだ。闇が機械人形を飲み込みぐずぐずに砕いて行く、そんなクリスの背後に機械人形が。

「クリス!」

「退いた退いたー!」

 割り込みキックを繰り出したのは、ジーンズに革ジャンの格好した帽子を目深まで被った女。見覚えがないわけではない、その正体をよく知って居るが故に。

「嘘、フレシア!?」

「ったく、名乗りぐらいやらせろって!」

 懲りずに襲って来る機械人形に回し蹴りから次の相手にカカト落とし、ダンサーとして鍛えに鍛え込んだ足腰を使った彼女の護身術だ。

「ったーく多いねぇ、奴さん」

「全くうざいうざい、ティン、あんた邪魔だからどっか行って」

「で、でも」

「気にすんなよ」

 フレシアは帽子のツバを後ろにしては笑顔を見せ。

「ヒロインがラストスパート切ってんだ。クライマックスまで一気に駆け抜けなくてどうすんの。ホラホラ行った行った、あたしら端役は端役として華麗にバックダンサー決めてっから行ってきなよ! モタモタしてっと、あたしが全部持ってくぞ!」

「フレ、シア」

 ティンに言葉をかけながらクリスとフレシアは次々と襲って来る機械人形を蹴り飛ばし切り潰し薙ぎ払う。それを見てティンは。

「っ、御免!」

 苦い表情で口にすると踵を返して一気に駆け抜けていく。フレシアはそれを見て寂し気な笑みを漏らす。前だけを見て何処までもどこまでも突き進む。その先、また予定調和が如く現れる機械の仮面人形達。ティンは剣を握り抜剣仕掛けるが。

「刹那超え、万象を穿つ稲妻! 終焉の刻を刻むは天の雷霆!」

 薄暗い施設が真昼間かと間違える程に視界が白くそしてそれは雷火の朱と変わり機械人形を打ち砕いて行く。それは雷、荒れ狂う天霆は無慈悲に機械を貫き終焉の刻印を刻み込む。

 英雄が如く、勇ましく戦場に舞い降りたそれは両手に雷霆の剣を手に敵を一掃する。それをこそ、永遠なる雷撃。

「エタニティ・サンダーブレイクッ!」

 一閃、轟く雷が戦場を駆け抜け鉄屑を無残な残骸に打ち砕き蹂躙する。だがそのくらいで怯む雑兵なぞいはしない、敵は孤高の英雄とあれば物量で押すべしと更なる軍勢が襲い来る。がしかし、そのくらいで。

「白銀の聖剣よ、天の裁きへと御身を変えよ! 来たれ空の豪雷ッ! これぞ天空の裁断ッ!」

 揺るぐ程度で英雄などなれはしない、掲げた手で掴むは天霆轟く裁きの剣、真紅と染め上げるその雷。いざやと振るい立ちはだかる鉄塊に裁きという破滅を下す。

「エターナル・カタストロフィッッ!」

 雷鳴唸り、爆音、轟音、破壊と天霆が世界を揺るがし言葉にすらできぬ破壊の音を奏でる。激しい雷火は空間さえ焼き尽くしなぎ払い、遍く闇を虚しく彼方へと追い込んだ。

 ようやく薄らぐ光に、雷霆の英雄の御姿を一目見ようとティンが注視すれば、そこに立っていたのは山吹色の髪の魔導師。

「鹿嶋、さん!? え、は!?」

「遅くなってしまい、申し訳ありません。いえ、出来れば公爵閣下と共に出陣できれば良かったのですが思いの外準備に時間がかかってしまって」

 手にした雷光を霧散させるはイヴァーライル王国王立大学所属の鹿嶋だった。彼女はバツが悪そうに、と表現するよりも自分が悪いとでも言いたげな態度でティンに接する。そんな、彼女は悪くないとティンは。

「いや、あの、あたしは」

「ああ、いえ、出撃要請が有ったのは知っていますよ。ただ日時が追って説明するとだけあって、まさか数分後とか普通分かりませんよ。なら一緒に書いてくれればよかったと言うのに」

 呑気に、自ら作り上げた地獄を背後に語る鹿嶋。しかし、そんな彼女に機械人形の魔の手が。

「鹿嶋さん!」

「とーりゃー!」

 凡そ戦場に似つかわしくないのほほんとした叫びが響き、着ぐるみが落っこちて機械人形の群れをいとも容易く蹴散らす。鹿嶋はため息交じりに己の窮地を救った着ぐるみに対し。

「遅い、何やってたの!」

「あ、ごめーん。道に迷っちゃって、だってりぃちゃんって早いんだもん」

「あーもー、それは二人きりの時だけにしてってば。りっちゃんだって、旅仲間の前でそんな呼び方されたくないでしょ?」

 謎の着ぐるみと何故か砕けた口調で話し始める鹿嶋、そして着ぐるみの口がパカっと開けば中にリボンがトレードマークの少女らしき存在がちょこんと。

「もう、人のこと言っておいて自分のことを言っちゃいけないんだよ!」

「女、の子?」

「ああ、すいません。彼女、少女趣味なだけでこう見えて21です、これでも同じ学校で同じ教室で机を並べて勉強し有った仲です」

 衝撃が走る。こんな少女ですら、自分より年上で瑞穂と同い年だと言うのだ。世の中不条理の満ちていると思っている内に口が閉じて着ぐるみがハンマーを持って増援の機械人形達を殴り飛ばす。息を合わせ鹿嶋が。

「降臨せよ、神威の雷鎚! 我が親愛なる友に力を!」

「此れが、私達の必殺!」

 降りかざしたハンマーに雷が集い、白き極光を顕現させる。これぞ天霆と下す地砕の一撃。


霆鎚の神震(ミョルニル・クエイク)ッ!」


 鹿嶋がティンを抱えて飛び上がりつつもティンを遠くに投げ、雷鎚が機械人形ごと地に突き刺さり地に衝撃と共に雷撃が駆け抜けた。地を揺るがす衝撃と焼き砕き薙ぎ払う一撃が研究所跡に轟く。

「公爵様は先へ! 此処は任せて下さい!」

「うん、わたしとりぃちゃんにかかれば敵なんていないもん!」

 着ぐるみと背中合わせに立つ鹿嶋、そんな奇妙な絵面を見つつティンは地に立つと。

「ごめん!」

 そのまま鹿嶋と着ぐるみ少女のりっちゃんなる人物を置いて先へと走り去る。通路を駆け抜け、その先にも相変わらず襲い来る機械人形の軍勢。ティンは剣を抜く体勢に入ろうとする刹那、別方向から飛んでくる極大の暴威を察知して思わず緊急回避を行う。

 直後、飛翔するは銀光。狂乱の旋風が敵も味方も無くただ巻き込む者達を蹂躙していく。その姿は正しく猛獣、獅子が如き強襲にティンは唯々恐れおののくのみである。が、それが故にこの蹂躙をなした存在。人物、これが人間の手による物、更にそれが知り合いであると言う事実が余計にティンを震わせた。

 その人物、こんな事を実行出来る彼にティンは姿を確認する前に語り掛ける。

「ご、護堂さん? あの、何故ここに」

「ほう、貴様か。奇遇だな」

 等と、白々しいセリフを口にしながら護堂は立ち上る砂煙を断ち切りその姿を見せる。普段の枯れ木を思わせる姿は何処に消えたのか、今そこにあるのはその名に劣らぬ白銀の獅子たる姿、多くの剣士達の胸を熱くさせる煌めく英雄がそこに立って居る。

 そこに誰かが走り込んだ来た、姿を確認するとそれは二人の男女。護堂の取材を行っている雑誌記者コンビである。この命のやり取りが行われている修羅の戦場に、凡そ似付かわしくない非戦闘員、何時から彼らは戦場カメラマン、否この場合は戦場記者と呼ぶべきであるか、それはさておきそんなものに転職したと言うのか。

「何してんの?」

「ご、護堂さんが、久しぶりに手の抜かない全力戦闘を見せてくれると言うので、戦場まで取材ですゴルァッ!」

「せせ、先輩、やっぱりここ、危険なんじゃ!? さっき襲ってきたの機械ですよね? 死にますよね!? 俺、修羅場には慣れましたがこう言う修羅場はノーセンキューなんでヒィッ!?」

 叫ぶ最中、護堂の剣が男の背後へと剣を突き出し迫る機械人形の顔面を貫く。頬を掠める豪剣に男は腰を抜かして尻餅をつくが。

「立て、ここは戦場だ。怖気付いたものから死んで行くぞ」

「はひ、はひぁッ!?」

 情けない声で無理やり立ち上がると男性記者は先輩女性記者にしがみ付くことブルブルと震えながら周囲を見渡す。実に情けない姿ではあるが、戦場未経験であれば仕方がない。彼は戦士ではないのだ。

 と言うよりこの状況でも立っている女性記者の方が異常、と言うべきで有ったがよく見ると目の焦点があっておらず口にするのも後輩からのセクハラ云々よりも。

「ネタ、護堂さんの全力戦闘、これは記事になる、来週の一面はこれで決まり! んふ、んふふふ、写真撮ってその様子を全身全霊で記事にしテェ」

「ダメだこりゃ、現実逃避してら」

「やれやれ、だからわしはやめておけと言ったのだがな。来てしまった物はやむを得まい」

 護堂は一息つくと周囲から襲い来る機械人形達を物の見事に薙ぎ払う。その剣閃には流石のティンも入る隙間が存在せず、間に入ることすら困難と化す。

「行けぃ、この場にはわしだけで十分よ」

「で、ですが」

「貴様には、貴様の為すべきことがあるはずだ。行け」

 獅子の視線がティンを射抜く。ティンは護堂に対し一瞥すると踵を返して。

「すみません!」

 一言置いて前へと駆け出す。それに対し護堂は。

「愚か者め、謝罪より口にすることがあるだろうに。さて」

 周囲には鉄屑人形、対峙するは白銀と輝く獅子、観戦客が二人。この状況に際し護堂は懐かしいと笑みを浮かべる。

「思えば、久し振りの戦場か。面白い、来るがいい鋼鉄の人形。わしを討つと言うのならやってみろ」

 双剣を手にただ一人、獅子が咆哮と共に駆け抜けた。なお端っこでそんな戦争と言ってもおかしくない次元の戦いを震えながら見ている記者がいたが、それは置いておこう。

 んじゃ次回。

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