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好きにしろ(仮)外伝:神剣の舞手  作者: やー
彼女が紡ぐ未来への物語
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レディアンガーデ公国開発工事

「それでは皆様方、異議はございますか?」

「いやだからお前怖いって、あと超能力全開やめろ全員怯えてる」

 完全に会議室の空気を支配しきったティンが笑顔で言い切る。会議に出席していた面々は約1名を除いて完全に怯えきっている。その例外の一名こそが無礼を働かせたら右に出るものはおらず、場の空気を破壊し悪くさせたら最強無敵、口にするは常に正論この国究極のブレーキにして名物毒舌大臣、ミルガである。

 しかし、頼みのミルガは神妙な面持ちで無言を貫くのみであった。なので笑顔のレディアンガーデ卿に対し1人の貴族が手を挙げる。

「おやいかが致しましたエルオツ卿」

「いえ、ですね。レディアンガーデ卿は本日公爵になられたばかりです。その様な者がいきなり」

「ほう、つまり卿にはレディアンガーデの今後についての計画がお有りと、そう申されるわけですね? いえ、解説は結構。私の様な昨日今日爵位を承れた若輩者とは違ってこの国の行く末を案じて居られるとは光栄の極み、ささどうぞレディアンガーデ公国の今後についてどうぞ」

「あいや、その、ですね。私は意見ではなく」

「勿論、意見ではなくレディアンガーデ公国の政策方針をでございますね、無論ご承知ですさあどうぞ」

 飛躍した発言に加えて畳み掛ける様な反論の許さない押し付けにも等しい発言だけ残すと早々に席に座り込み彼に発言権を残して退場、誰もが困惑した様子でエルオツに目を向けた。当然彼がいいたのはティンの言動が余りにも無礼であり、この場において最も萎縮すべきであると言う事のみだ。何も、ひいては誰一人としてレディアンガーデ公国の政策方針をだなどと考えてはいない。

 が、その事実はこの会議場の空気を握った彼女が一切許さない。困惑し無言を貫く彼に。

「おや如何致しました? 卿が以前語っていたことをそのまま言えば良い、ただそれだけの事でありましょう」

「えあは、いや、ええ!?」

 唐突なティンの爆弾発言に場の空気は騒然、誰のが敵意を露わにしてエルオツを見る。エーヴィアは通信術式でティンに。

『今のはどう言う意図だ』

『彼らとてこの国に関して無策では無いでしょう。よってある程度の国をこうしたいと言う意欲はあるはず、と言う事で掛けたカマです。御喜びください女王陛下、彼はこの国の未来を彼なりに考えておられるご様子です。無いのなら、根拠もないが故に即座に否定出来るはず』

『狼狽えるのは本当に何か策や案があるからか、成る程。詐欺師に引っかかる程度の政治家は使えるものかね』

『そこは知りませんよ女王。ただ、そうは言っても女王の前で格好付けたい欲もなきしにあらず。まあこの程度でグラつくのなら彼は現状その程度という事です』

 そんなやり取りを行なっていると唐突にミルガ大臣は眼鏡を外してはレンズを磨き眼鏡をもう一度かける。やがて彼はゆっくりと拳を振り上げて、軽く机に向けて拳を下ろす。振り下ろされた拳は降ろされた軽さと反比例し爆音染みた派手な音を響かせた。

 その音にティンは勿論周囲の貴族達までも驚き大臣の方を目を向いて注視した。ただ一人、女王だけは呑気に。

「ミルガの魔法見たの20年ぶりだなぁ、つーか使えたのかよお前」

「魔道魔術の研鑽を怠った覚えなどありませんよ。これがあるから現役でいられる、それより貴公ら。主たちには仕事が詰めているはずだ、経歴はどうあれどレディアンガーデ卿のこの精力的な意欲を見て見るが良い。これほどまでに国を思う騎士が嘗てどれほど居たと言うのだ」

「し、しかしですね、幾ら格も歴史を失ったと言えども、通すべき礼儀というものがあるでしょう。何より彼女がこの国を乗っ取ろうという野心があれば」

「その時こそ、女王自らの手でその首を刎ねれば良い。通すべき礼儀? 下らぬ、それこそ公爵閣下に対し無礼であろう。それとも、この泥舟と言える国の統治者である陛下の決定に背く気か。陛下が居なくなればゴミ屑同然に成り下がる程度の貴族の分際で、陛下がかの者こそレディアンガーデを託すに相応しいと定めた者を、その卑しい文官如きの身分で。は、どの権限で口にする愚か者。少しは考えてものを言え、彼女がすでにこの会議で出すべき答えを出している。ならばもうその話題は終えるが良い、私は陛下に小言を言う仕事が残っているのだ」

 一息に言い終えると会議当初から出されているキンキンに冷えたお茶を一口。それに合わせてティンが立ち、笑顔で。

「で、他に異議のある方は?」

「いいえ、ありません」

 一同合意のもとに、レディアンガーデ公爵を交えた初の国家会議は幕を閉じた。



「結局、あの人は何がしたかったんだ?」

 数日後、無事にレディアンガーデ公国の公爵待機用の館、いや小屋でティンはそんなことを考えて居た。ミルガは何故自分のフォローをとふと思う。

 彼が自分を持ち上げるであろう理由が見えない、それが異常に不気味に思えた。何せ相手はこの国きっての毒舌大臣、裏があると見るのが正常であろう、とティンは確信している。

 なお、瑞穂はイヴァーライルを出る前に一応会話を行なったものの、一応、一度はレディアンガーデに来たが日帰りしてイヴァーライルに戻っていったのでここにはいない。当人曰く。

「いや毒沼の中で生活は無理」

「言うなよ、あたしも無視してんだから」

 と言うことで即移動していった。ティンとしても此処がなんとも表現しにくい場所であると言うことは十全の理解している。何せ消臭剤完備の上に解毒剤付きお香まで炊かれている始末。トドメに防毒結界まで貼られた小屋なのだ、誰が見ても此処が有毒沼と言うか有毒湿地帯であると言う事実が理解できると言うもの。

 しかしてこのまま部屋にこもっているわけにもいかず、何度か外に出て工事の指揮を取る潤とあったり会話したりして時間をつぶしていた。ちなみにこの毒素は工事開始から5日ほど過ぎたあたりで闇属性の魔力が付与された負の呪いに近いものが判明し、リフィナへ通信一本で浄化された。通信後、降り注ぐ閃光と焼き消えていく不浄の毒素を見て全部彼女に任せればと思ったが。

『この国が消えていいんなら、もっと派手にやるけど?』

『いえ、姫様は一応部外者であります。お手を煩わせて申し訳ございませんでした、後はこちらで処理します』

 楽をすることは自国の今後のためにならない。と言うことでティン達は直ぐにレディアンガーデの浄化作業に入り瞬く間に公爵館の建設工事に入っていった、表向きは。

「しかし、鹿嶋殿。卿ら大学の魔導師達の手を借りるつもりはなかったのですが」

「いえいえ、この国で居候させてもらっているんです。これくらいやりますよ」

 何故か、暇が出来たから面白いデータが取れそう研究仲間について来たなどと言う理由で大学の魔導師達が大勢やって来たのだ。それに湿地の浄化も工事も恐ろしいほどに捗っていった。

 例えば、知識あるものは不浄の湿地帯を清めるために儀式術式を用いて広範囲に浄化、地盤の操作、工事を行うにも魔力に自慢があるもの達が宙に浮かせる魔法や魔術でクレーン車を一切つかない上から落とすように組み立てる立体的な建築工事、作業員達を浮かせての空中組み立てから軍用通信術式で細部の確認などなど。魔法という物をふんだんに使って行われる建築工事にティンはただただ圧倒されるが。

「普通こんなことありませんよ」

「それはどういうことですか?」

「騎士様は知りませんか? 魔導師がこんな建築業に来ること自体稀です。確かに、大きな会社は魔法つ、いや魔法が使える人達を大勢雇ったりしますが、これほど様々な魔導師達が手を貸しに来ること自体が異常ですよ。空中で鉄骨を組み上げるなんて、場所も人数もありません。何より建築工事にこんな軍用の通信術式で逐一細かい所をリアルタイムでチェック出来ること自体がもうありえない。魔法が産業の頂点に立つのも頷ける」

 語る現場監督は空を見上げる。基礎の骨組みが次々に出来上がる様はまさに空中に浮かぶ要塞のよう。

「魔導師達が建築業には来ない?」

「来ないことはありませんが、単独で鉄骨も道具も部品も全部空中に持っていって組み上げるなんて魔導師は基本来ませんよ。と言うか、そこまで魔導師も余っていません。何より、そこまでの腕があるなら建築業よりももっともっと儲かる仕事に行きますよ。魔法が使える才能を持つ人間は現在確認の取れてる全世界人口の約四割、魔法が使えるだけでその人は人類にとっては宝ですよ」

 鹿嶋がそんなことを熱く語る。だがティンはへぇと流すが。

「だと言うのに、魔法が使えない人はどうして……いえこれはただの愚痴ですね」

「そう言えば、何故あなた達は此処に? 居候だの暇だっただの、どうにも嘘くさい」

「あ、はは。ははは、ま、そうですよね。理由ですか? 実を言いますと、潤さんが可哀想だったのでつい。最初、イヴァーライル本城の建築工事の話で虚ろな目をしている所を見て、どう言うことかと思って覗いてみると、まあそこに書いてあるのは馬鹿かと聞きたくなるレベルのお粗末な企画書。立ち向かうのは絶望に染まり涙目の少女。それで、つい」

「大学の人々を巻き込んで手伝った?」

「いいえ、実はあそこで作業してるの、多分大学の人々でしょうが、皆んなイヴァーライル大学の人じゃないんです」

 ははは、と鹿嶋は苦い笑みを浮かべる。しかし、それは即ち。

「へ、あ、ええ!? じゃあ、誰ですかあれ!?」

「いやぁ、その。級友?」

 ティンが上空指さし突っ込むと鹿嶋はやっちったと愛嬌のある笑顔を見せた。ティン的には笑えば良いというものではないが。

「いやぁ、私も流石に大学の人達に対して気軽にブラック企業しようぜなんて言えませんよ。そこまで信頼ありませんし。なので友人達に知識を借りようとしたら返事は単純、現地で話を聞くでして」

「えじゃあ、この人達は」

「皆んな、善意で来てくれたお人好しですよ。お祭りで同窓会でもしようとか、一仕事からの酒は美味いとか、開発途中の術式の実験をやり放題と聞いてとか、みんな来るなら一緒に来るとか、纏める身にもなれと怒鳴り散らしたいくらい人が来てしまって。本当に困ったもので」

 そう言っているうちに上空より魔導師が一人降りて来た。それを見たティンは変な悲鳴が上がる。何故なら彼女は。

「水野、翔子、さん」

「あ? ああ、ティンか。鹿嶋さん私休憩入るけどいい? 疲れちゃって」

「ああハイハイ、休憩はその都度その都度ちゃんと時間とってるのでその通りに」

「ハイハイ分かってる分かってる、なんか学校のときより口うるさい気がするのは気のせい?」

「あのですね、あなたも私ももう学生じゃないんです大人です、何時迄もそんな規則にルーズで社会に馴染めるとって無視すんなこらー! 休憩時間、30分で今日中には建物の骨組み終わらせるんですからねー!」

 眉をピクピクさせながら口煩く水野へと指示を出すが当人はハイハイを繰り返すのみであまり身の入った返事はない。がしかし鹿嶋はその場から動かない、諦めたのではない。彼女以外にも次々と交代だからと休憩を取りに降りて来た人々が。

「皆さん、休憩時間には時間厳守でお願いしますからね!? 何時迄も学生気分じゃ困るんですよ! ってほらそこー、サボらない! あなたは休憩までまだあるでしょう! あそこふざけない! 工事現場で落下事故起こしたら誰が責任とると思ってるんですか!? あと皆さん、いい加減委員長はやめて下さい! 私は一体どこの委員の長だと言うんですか!? 学生気分はいい加減捨てて!」

「ほらいきり立つなよ魂のいいんちょ。はい茶」

 いきなり出て来た火憐が鹿嶋にペットボトルの茶を出すと、奪い取りグビグビと飲んでいく。

「っは、生温いお茶をありがとうございます。ところで火憐さん、私あなたを呼んだ覚えないんですが」

「あたしも無いな、有栖が手伝えってうるさいから来たんだよ。まあついでに暇してた冒険者してる連中も引っ掛けたのあたしだが」

「通りで人数が増えてると。ええいもう、こちとらキャパオーバーですよ! ただでさえ元々キャパオーバーだったのに余計な人数増やさないでくれませんかねぇ!?」

「いやぁ、あたしも頑張ったよ? 同級生全員召集なんて滅多にできねえし。まさか鹿嶋の名前で全員二つ返事とは驚いた、よ人誑し」

「殴ってくれと言う催促ですね分かります」

 鹿嶋が怒り心頭で火憐に殴りかかるとひょいとその一撃を避けた。

んじゃまた次回。

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