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姫と騎士

 ティンは皐を背負って暫く歩いていると道路に入る。歩いていると大きな街が目に入って来た。やがてティンは何時の間にか道路から街に入った。

 適当な宿屋を見つけ、いつか浅美や瑞穂がやってたようにチェックインをして皐を部屋まで運んだ。

「それにしても驚きですね」

 ティンは皐をおろして驚く。気絶していたと思っていた人間が目を覚ましたのだ、当然だろう。

「まさか、ティンさんがチェックインできるようになってたとは……見ない間に立派な冒険者になりましたね」

(こいつは喧嘩を売ってるのか?)

 ティンは皐の減らぬ口にむっとしながら布団の中へと入れる。すると皐は震える体で懐から携帯型お着替えくんを取り出すと元の服に着替えた。

「そう言えば、なんで着替えたの?」

「あれは月宮に伝わる戦闘服、決死戦服です。羽織れば最後、自身は死したものとして扱い、決死の覚悟で戦う服です」

「し、死んだって、なんでそこまで」

「剣に生き、剣に死す。剣士なら誰もが夢見る理想です。私も覚悟だけはそうありたかった……それだけです」

 皐はそう言って目を閉じた。

「さ、皐、大丈夫!?」

「ええ……結構、疲れました。少し、寝かせて……下さい……後、敗者の、責務です……この宿代は……私が払うので……どうぞ、ご自由に」

 それだけ言うと皐は瞼を落す。

「さ、皐? 皐? 皐!?」

 ティンは瞼を落とした皐に呼びかける。そして、皐は――。

「んっ……姉上……もう酒は……まだいけるって……年を考えろ……」

 思いっきり、寝言を呟いていた。ティンは呆れた表情で宿を後にする。



 ティンはとりあえず、街中を適当に歩き回っていた。と言っても、彼女に行く所など存在しない。故に、本気でぶらぶらと流れるように歩く。そして、ティンは衝撃的な人物と見かける。

 揉み上げ部分が頭の上で盛り上がった、長い髪の女。見間違うはずも無い、彼女の名は。

「み、瑞穂!?」

「はい?」

 瑞穂(?)はのんびりとした調子で振り返り、ティンが駆け寄る。

「な、何で瑞穂が此処に!?」

「え、えっと、巡回ですが……あのぅ、どちらさまで?」

 ティンは首を捻った。あれだけ長い間一緒にいたと言うのに、彼女は覚えていないと言う事に。

「あたしだよ、あたし! ティンだよ!」

「ティン……さん? ええっと……んー? 騎士の格好って事は神聖騎士団の人? ええっと、あそこにティンと言う方は居たかしら……家名は?」

「家名? ああ、苗字? ええっと……あれ?」

 再びティンは頭を捻る。瑞穂に自分の家名を名乗った事など無い。何故であろうか。

「……ないと思うけど」

「え、無い? と言うことはもしかして孤児ですか? それにしてもおかしいですね、教会に入った時に貴方に苗字を渡している筈ですが……」

 と瑞穂(?)はまたしても訳の分からない事を口にする。いい加減にティンも何か気が付いてくる。

「……あんた、瑞穂だよね?」

「はい、水穂ですよ」

 ティンは本人確認をし、更に頭を捻る。確かに彼女は“みずほ”で問題ないえ、何? 既に文字から別人だって分った? でも読みは同じ『みずほ』だよ? ティンもまだ気付いてないから続くよ?

 彼女の姿をちょっとよく見てみる。髪型は間違えようもなく瑞穂と同じ。しかし、顔にばかり注目していて気が付くのが遅れたが、今の彼女の服装は瑞穂とは全く違っている。瑞穂の服装は基本白と黒だが、彼女のはもはや真っ白だ。そして決定的に違う箇所が存在する。それが、服装の装飾。そう、瑞穂の服装の装飾は布などでされているものが多い。が、彼女の服装の装飾は布もあるが何より、宝石が多い。瑞穂の服装に、宝石はなかった。そしてもう一つ、大きな違いが一つだけ存在する。

 彼女の髪の色が、茶色。

「んんー? そうだ、今日は服装が違う……ってか、何か前より太った?」

「服装ですか? えと、服装は何時もと変わらないって……ふ、太っ? え、ええっと、十分ギリギリだと思うんですが……そ、そう、ギリギリ、ギリギリです! こ、これくらい太っていた方が女性的に魅力があるんです……って、え?」

 ティンは女性に言っちゃいけない言葉を吐き、水穂も顔を真っ赤にしながら答えるが、此処でやっと自分に対する認識を理解する。

 それとティンよ、上の描写を全てひっくり返すと言うかそこに気付くか。

「……もしかして、貴方の言う瑞穂さんとは、凄く細くないですか?」

 水穂は諭す様な声色でティンに問う。

「うん。もう少し太った方が良いかなって思うくらいは」

「……服装は動き易そうで、大体黒と白と紺?」

「うん、そうそう。いつもそんな格好じゃん」

「……その方、氷結瑞穂と、言いません?」

「うん、そうだよ。と言うか、あんたじゃん」

 水穂は大きな溜息をついてティンと向き合う。

「あの……それは漆黒の氷姫と呼ばれる方の瑞穂さんで、私は天束水穂と言います。髪形が似ているので、たまに間違えられるんですが……顔も違うし、声も髪も瞳も違うのでこんなに間違えられるのは初めてです……と言うか漆黒の氷姫の由来と文字を考えれば違うと気づくはずですが……」

「……へ? 漆黒の氷姫? 誰それ?」

 ティンはのんきに返す。しかし、聞き覚えがあるらしく、頭を捻る。

「漆黒の氷姫ですよ? 氷結瑞穂さんといえばそちらの方が通じると思いますが」

「漆黒? 何でそんな呼び方なの?」

「漆黒と言うのは瑞穂さんの黒くて長い髪と黒い瞳、そして氷姫と言うのは氷魔導師を意味し、姫とは世間に認められるほどの行為をした若い女性魔導師の総称。故に、漆黒の氷姫です」

「ふーん……あ」

 ティンは思い出した。氷結瑞穂の名に聞き覚えがあったことに。そして、それをどこで聞いたのかを。

「氷結瑞穂って、去年テレビに出てた人じゃん! そうだ、何かこう、でっかい建物のテレビとかに出てた人だ! 映像見てないから、どんな人か見てなかったけど、何かテレビで色々言われてた!」

「ああ、当時の瑞穂さんは色々と言われていましたから……何せ、姫の称号を手に入れたのが撃破数百万ですから……しかも百万突破ですし、マスコミもあれやこれや色々とあること無いこと言っていましたし、友人として教会の権力を使ってマスコミを押さえ込んだりと色々大変で」

「それってしょっけんらんよーってやつ?」

「あ、いえ。あの話題は姫連合としても見過ごせない状態になっていましたし、教会が動かずとも姫連合が動いたと思いますよ」

 ティンは適当な相槌を打つ。正直本人にはちんぷんかんぷんである。

「姫連合って、何?」

「姫連合を知らないんですか? 氷姫は知っているのに……えっと、姫連合と言うのは若く、優秀な女性魔導師に送られる称号である姫が集う連合です。彼女達は事実上かつての貴族に近い階級が与えられていて、社会的地位も高い方々です」

「……つまり、偉い人々?」

「……ええ、はい」

 水穂は分っているようで分ってないようなティンの対応に険しい表情となっていく。

「……この教養の無さ……まさか、彼女の孤児院ではろくな教育をしていないのかしら……。えっと、ティンさん」

「ん、何?」

「失礼ですが、今お年はいくつで?」

「十九だけど?」

「これで、十九……」

 水穂の表情はより真剣みが増していく。

「ティンさん。貴方は新聞などは読みますか?」

「ん? 読まないよ。前に師範代に読ませてって頼んだら『お前に読ませても無駄だ』と返されたし」

「な……貴方の孤児院は一体どう言う教育をしているんですか!?」

「え、え? 行き成り何を怒ってるの?」

 と水穂は憤り、ティンが驚いていると何かを思い出したように踵を返す。

「そ、そうでした、巡回の後にも用事があるんでした。ではティンさん、またいつか」

「ほーい。水穂か……瑞穂、今何をしてるんだろうな……」

 ティンは置いてきた友人を思い出しながら歩き出す。そんな時だ。ティンの横から誰かが突っ込んできた。水穂に似た白い法衣に似たローブに、茶髪の長い髪を結い上げ、ポニーテールにした少女だ。ティンの横を抜けようとして――ティンの足に引っ掛かって転ぶ。

「ちょ、あんた何処に目ぇ付けてんのよ!?」

「え、え、その、ごめ」

「待てぇい!」

 そんなやり取りをしている間に金属音が響く足音が近付き、見てみれば全身甲冑の者達が一気に此方へと向かって来る。少女が来た方向からやって来たその者達はティン達を囲んでいく。

「大人しく我らと来て貰おう」

「やだもんね! っべー!」

 甲冑の問いかけに対して少女は砂埃を払いながら立ち上がり、舌をベーっと出す。ティンは凄く微妙な表情で彼女に顔を向ける。

「……ねえ、ちょっと」

「ほら、行きなさい我が従僕よ! 何時ものように蹴散らしなさい!」

「なっ、星姫の騎士だと!? そんな情報、聞いては」

「待て、一体何なの?」

 甲冑の連中が戸惑っている中、ティンはだんだん何かに巻き込まれている様な嫌な予感がしながら剣に手をかける。

「何でもいい。そこの娘もついでにやってしまえ!」

「巻き込まれた!? ちょっと、あたしは無関係だよ!」

「ちょっと、あんた騎士服を着ているくせにフェミニスト精神は無いの!?」

「フェミ……って、何?」

 言っている間に甲冑の集団は一気にティンに襲い掛かり――素早く踏み込み、三人連続で切り捨て、身を返すと同時に一番遠い相手目掛けてもう一本の剣を抜き。

「掛かったわねぇッ!」

 居合いの要領で甲冑の連中に剣を投げようとした瞬間、少女の顔、口元がにやける様につり上がり、足元から光り輝く魔法陣が展開され。

「輝け星陣、スターダストレイン!」

 甲冑の連中諸共光の魔法陣で包み込み、光の屑が降り注ぐ。甲冑たちは舞い落ちる光の屑――星屑によって舞い踊り、そしてより苛烈に舞う光が甲冑達を一気に薙ぎ払っていく。最後に立っていたのは、茶髪ポニーテールの少女だけだった。

「ふん、この光輝の星姫に喧嘩を売ってただで済むと思ってんだから相当に頭イカれてるわね。ほらあんた、行くわよ」

「え、ちょ」

 茶髪の少女はそう言ってティンの腕を引く。

「ま、待ってよ! あんた誰!?」

「この私を知らないの!? しゃーない、よっく聞きなさい。この私は光輝の星姫、リフィナ・オーラステラよ!」

 少女はそう言って困惑するティンを引いて何処かへと行く。

 今回はちょっと短めです。では神剣の舞手『姫と騎士編』始まり始まりー。

 んじゃ、次回。

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