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その到来を誰にも止める事が出来ない

「あ、そう言えば護堂さん」

 話題が切れたことをいい事にふと思い付いた話題を振ってみる。とは言ってもほぼ報告と言うか告げ口になってしまうであろうが

「雪奈って言う娘さんいますよね」

「ほう、雪奈か。如何にも、わしには雪奈と言う名の娘が一人おるが。何処かで会ったか?」

 護堂は娘の話を振るや否や、妙に嬉しそうな反応を見せた。そんなに娘の話が嬉しいのか、ならと思ってあの話を出さずにはいられず。

「会ったも何も、娘さんこのお祭りに来てますよ? 気になるなら会ってみれば良いと思いますが」

「ぬぅ……そうか、あやつが此処に」

 急に嬉しげな表情が消え去り苦い表情がそこに浮き出る。娘の話は良いのに本人に会うのは無理らしい、そんな馬鹿な話はないと思いたいがティンはふと雪奈が父親を怖がっていることを思い出す。

 つまり、彼女からして父親はあまり会うのを良しとしない人物であると言うことだ。だがそれは娘側であって父親側は娘に会うのに遠慮などないと思うのだが。ティンは軽く思考するも式を組み上げるために当て嵌める式と数字が欲しくてつい。

「どうかしました? 娘さんと会えば良いんじゃ」

「いや、よそう。あやつはわしを避けておる」

 先程まで獅子と称するに値する程の男性が、急に枯れ果てた木のように萎れた。その姿は確かに60に至った老人と呼ぶには相応しく、余りにも寂しそうな背中があって。

「わしは子等に対し厳格であるべきだと思い、厳しく接して来た。越えるべき壁であると謳うが如く、な。息子はそれを深く理解し、家族を捨て己が身を修羅の道行く一振りの剣と鍛え上げた。それは良い、世間一般からした一家からすれば常軌を逸していようが我等は剣士。であれば行く道は血に塗れて然るべきだ……が、それは姫君である雪奈に在るべき道ではない。しかし娘にどう接していいか分からずに、わしはいい加減な理想ばかりを押し付けてしまった。それが今の状況だ、娘から畏怖の対象としか映らぬ父親など滑稽であろうよ」

「ええと、あの、はあ」

 何か声をかけるべきであろうかと思うも、何も声をかけることなど出来ない、いやきっとしてはいけないのだろう。ティンにとって父親は未だに触れることの出来ない話だ。

 出来ることはここで一度沈黙し話題を振り直すことの相違ない。と思っていた時にだ。

「護堂さーん、おやまあえーっと何方で?」

 後ろから多くの荷物を持った女性雑誌記者が登場、以前見たときはいなかった男性助手も一緒だ。彼女はティンなんて眼中になかったのか或いはど忘れか、前回はしっかり覚えていたと言うのに。

 隣の助手が頭をふりつつ呆れ気味に。

「先輩さ〜一応女王へのアポ取ってくれた人でしょド忘れなんて失礼過ぎますよ。あどうも、女王へのアポありがとうございます。これ詰まんないものですが、今後とも週刊冒険者をよろしくお願いします」

「あ、あーあー思い出したごめんごめん、凱旋祭のすっぱ抜きでうちの売り上げ上がってもう大変よこれ! しかも女王陛下と公爵夫人へのの事前インタビューまで掲載、カーメルイア社長と一家三人の記事に売り上げが週刊誌トップ5ぶち抜きの奇跡まで起こしてもう編集長クタクタでその皺寄せと幸せでクタクタで、そんな体で昨日今日とまたもや独占インタビューで行っちゃうか、これでうちらイヴァーライルおんぶに抱っこで業界一位狙っちゃうかってなもんよ勝ったなガッハッハッハッ!」

 助手がペコペコとティンに菓子の箱を丁寧に名刺込みで渡してくる横で忙しさを声高く笑いあげる記者。しかしその瞳に虚ろな闇が色濃く浮かんでいるのは何故であろうか。

「護堂さん、あの人大丈夫ですか?」

「うむ、恐らくいつもの1日72時間勤務であろう。そっとしておけ、雑誌記者は程々に忙しくなければ生きてはいけぬのだ」

「いえ、先輩は1日96時間営業です。うちら4日前からイヴァーライル関連記事バッカ書かされる傍で女王インタビューです、誰か代わって下さい、もう眠いです」

 よく見てみれば二人共めの目の下にクマが出来ている。ところで1日は24時間しかないはずだがどうやって倍加されていると言うのだろうか。もしかしなくともあれか、寝なければ1日は終わらないとでも言うのだろうか、最早何も言えない思いがティンの脳裏に流れていった。

 さて、と言うことなら名残惜しいがティンの中で最近トレンドとなり始めている忘却を発動、遠い目をして寝たいなぁとぼやく方々を視界の片隅に追いやり一言。

「んじゃああたしはこれで警備に戻ります」

「ちょい待って傭兵さん!? 今失礼なモノロ ーグをつけて流そうとしなかった!? そんな簡単に流さないで後ネタ頂戴よネタ! この凱旋祭でネタがっぽり出たけどまだ足りないの! ふふっ、ぐふふふふ……ああ見える、見えるぞ私の記事で週刊冒険者がトップ3入りする姿が!」

「トップ3でいいんだ」

「基本、雑誌コーナーの片隅で先週分も売られてる程度の雑誌なので。ついでに言えば固定客がいるから取扱店を止めるほどでもない程度の売り上げはあるんで」

 土下座に食い込む勢いでマントの端を摘んでネタの催促をする記者にティンは勢いがいいのか謙虚なのかよく分からん彼女たちに呆れながらも。

「いや知らんが。あとネタとか言われてもないし、ただの傭兵舐めんな。そんなスキャンダル持ってるとかないし」

「大丈夫、王家の日常とかこうホラーっぽいのとか無い? 無い? 無い? 無いっ?」

「言われても」

 しつこく頼んでくるのでティンはやむなくふと過去を振り返り、面白そうな小ネタ情報を探すが漏らせば漏れ無くラルシアに滅殺されそうではあるのだが。

 あるにしたって。

「マリンって言う青髪のメイドさんが御歳54でメイド歴40年とか、実は呪いの影響で私服を持っていないとか?」

「いえ、本当にそんなどうでもいいことじゃ無くて、日常にしても女王陛下関連とかの方が良いんですが。熱愛発覚とかありません?」

「言ったら恥ずかしいの一言で殺されます。隠す気ない程に熱々カップルなんですから正面から聞けば良いじゃないですか?」

「無理なんですよぉ〜!」

 記者の無慈悲な悲鳴が上がる。何故駄目だというのか、確かに彼女は政治家だがそんなことへの情報カットしては幾ら何でも国民や国外に対して色々と問題ではと思うが。

「一応アイドルだかモデルだかで事務所通せって言われて、インタビューはティンさんのアポでOKだけどそれ以上は事務所的にすぐ許可出せないからプライベートは駄目って」

「ははっは、はあッッ!? 何それ意味わかんない!?」

「こっちが聞きたいんですケドォ!?」

 流石に、アイドルだかモデルだかで事務所の許可のない質問は無理だとか一体全体何の話だろうか。と言うか事務所ってなんだ。彼女はどこに所属してることになってるんだと言う疑問が流星と流れるもそれを察知してか名刺を一枚出してきた。

 見てみると確かにデルレオン公国にある事務所ではある。ティンは幾ら何でもこれは看過できんと女王へ通信術式を発動させるが、通じない。

 ここに来て忙しいからと術式が切られたか、或いはそもそも通話不可能な結界の中か、遠くで聞こえ始める喧騒にもうすぐパレードで女王も会話する余裕などないと言うことか。

 携帯電を探すも瑞穂に渡して以来返してもらった記憶も、事実として実物も存在しない。仕方なく質問後日かと思いきや記者が自分の携帯を広げて。

「一応、アクセスして見ましたが、何でも凱旋祭の前日に作られたようで」

「会社は?」

「カーメルイア」

 式が整った。ティンからすれば手にある名刺も目の前のサイトも全てが既知と染まっていく。つまりこれはデルレオン公爵夫人が立ち上げた事務所で、モデル体型な娘を事務所に所属させたと言うことだろう。何故そこで芸能展開の準備をするのか本気でツッコミを入れたいがそれこそ無意味というやつだ。

 なのでティンは解決した目の前の事象について全力で廃棄、そして最後に。

「んじゃあたし、これ以上のスキャンダル持ってないんでこの辺で」

「うむ、そうじゃな。達者でな、ティン」

 記者人と目を合わせず護堂に別れの挨拶をしてそそくさと退散した。再び自由の身となったティンは背を伸ばしつつ次はどの辺見回ろうかと思った直後、またもや喧騒の音がなる。

 昨日と一昨日に比べやけに仕事が多いと思いつつティンは颯爽と現場へと急行した。

 今日は忙しいなと一人心内で呟き急行すれば。

「もう駄目でしょう、喧嘩両成敗だよ?」

 一人の女剣士が、屈強な男達を圧倒していた。宙を舞う無数の武器は全て弾いたものであろうか、槍が剣が天に踊りそして地に落ちた。

 隙を見て落ちた武器を拾いに行こうとする片方、だがその移動先に置かれた刀身に阻まれて男は動くことさえ出来ない。もう片方も同じだ、彼の手を女剣士がその細い腕一本で抑えている。力でも技でもない、下手に動けば女の剣が閃き二人の首を裂くからだ。それだけの腕を持っていることを先程の絶技を持って証明している。

 しかしてティンのする事など暴漢どもの引き継ぎと処分だ。名乗り上げようとした瞬間。

「だから、甘いんですよ」

 川を流れる水が如く、美麗なる槍の閃光が二人の男を見事に捌いた。その姿、水を連想させる槍さばき、そしてティンが着ている服に刻まれた同じ紋章。忘れた訳でもなんでもない、ただ思い出す事がなかっただけだ。

 青い髪を短く切りそろえ、青の模様が刻まれた鎧に水の槍を手繰るその姿。忘れるなんて出来るわけが無い、だからこそ目の前に在る聖騎士殿に声をかける。

「ラプ、レスさん!?」

「え? えーっと、ティンさんでしたっけ。お久しぶりです、ご活躍はかねがね噂で聞いていましたよ」

 水の聖騎士、その称号を承った水の槍使い。ラプレスが此処に推参しあばれる無法者どもを見事に蹴散らしていった、が。

「何するの、ラプレスちゃん!」

 男達を最初に抑えた女性が涙さえ浮かべて剣を振るう。ティンからして思わず舌を巻く程に洗練された鮮やかな剣さばき、力は最小限にかつ剣を操る技量を最大限に振るわれた美しい剣だ。

 対するラプレスはその一閃を紙一重で避ける。何故槍を振るわずに庇ったのか、疑問に思う刹那。直ぐに答えは判明する、外れた剣の軌道が武装解除を狙った物だ。つまり持っている武器のみを弾く剣、そんな手合いははっきり言って初めてだ。正直ティンはどう言った動きをするのかみたいと思い。

「話し合えば分かり合えたかもしれないでしょう!?」

「昼間から酒を飲んで暴れるような奴にそんな殊勝な考えはないよ、パルシェ姉さん」

 二人は距離を取り合って間合いを図る。が、ティンはそんなことより聞きたいのは。

「ってちょっと待った!? 何、あんたら姉妹? と言うかラプレスさんなんか言葉遣い変わってません?」

 一応、警備の仕事として許可の降りていない場所でのドンパチなど認めるわけにはいかなかった。即座に二人の間へ割りこんでは久しく会った聖騎士殿に対しティンは率直な疑問を投げると。

「ああ、あの時は丁度不逞な輩が聖都に入ろうとしていたと言いますか。聖都に物見遊山で入ろうとするものが後をたたず、止む無く厳し目の態度をとっていたのですよ」

「ああ、成る程。で、こっちが」

 ラプレスの返しに一先ず納得して置くことにしたティンは、乱入に応じて剣を下ろしたパルシェへと向いて。

「ラプレスさんのお姉さんか、つーか姉妹喧嘩なら他所に行ってください」

「ティンさん、なんだか雰囲気変わりましたね。それが良いのかどうかわかりませんが」

 停戦を告げるティンに対し、ラプレスは神妙な面持ちで返し矛を収めた。

「申し訳ありませんが此処までのようですね、姉さん。でも共に武人としてあんな戯言を口にするのは関心ません」

「待って、ラプレスちゃん。私はただ」

「聞く耳は持たないと言ったはずですよ、貴方はいつまでも甘い人だ」

 ラプレスは武装を解除して踵を返す。ティンはラプレスとパルシェ、どっちへ対応するか考えているとパルシェの方からラプレスの方へ走り寄ると。

「待ってよラプレスちゃん、折角会えたんだし一緒に」

「いえ、目的は全て果たしたので行きます。姉さんと遊んでる暇はありません」

 腕に噛み付いた姉を引き剥がし、ラプレスは水を固めて馬を生み出しては跨った。ティンはあまりにも初めてな光景にまじまじと見てるとラプレスはティンの方を見て。

「用事って何、ラプレスちゃん。お姉ちゃんに話せないことじゃ」

「幾つか、同僚たちのお使いと……輝光の聖騎士ティン、貴方の様子だ」

「へ、あたし!?」

 いきなり名指しされたティンは驚き自分自身を指差す。一体何故なのかと疑問だらけになっているとラプレスは頷き。

「貴方の噂らしきものが各地で聞こえ、その果てがイヴァーライルだった故、もう直ぐこの年も終わりを告げる。だから新年を迎える前に、聖騎士として己に恥ずかしく無い生き様を生きているかと皆が気になっていましたから」

「えっと、各地で噂ってなんですか? 悪評だらけでしたか?」

「さあ」

 不安気味なティンの疑問にラプレスは微笑みながら首を横に振って。

「それは自分の胸に問いかけるべきでは。私は貴方を見て、現場を確認しました。目的は全て果たしたので、己の旅に戻ります。それでは良い年を」

「あ、良い年を」

 ラプレスは何かを言い含めた微笑みを残しつつ、去って行った。それが妙なほどにティンの心に突き立てられていて。

 んじゃまた次回。

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