フォースこそストレングス
エーヴィア一行が一歩踏み出すがそこから当然のように光の流星が降り注ぎ、続いて光が集まって人の形となって彼女達に襲い掛かる。しかしリフィナが張った術式によって光の軍勢は悉く劣化していき。
「そんな手品、見飽きた!」
対応して頭上に術式を構築し、続いて光の攻撃魔法を兎に角発動させる。発動させた術式によってエーフィリスの軍勢は全て強化を受け、おまけにリフィナのフォトン・アブソーバーを一切受けなくなる。
いや、実際に影響は出ているがそれ以上に強化を受けているのだ。リフィナは奥歯を噛み締め、更にあれこれと術式を展開しつつ詠唱によって魔力を制御する。術式で魔法を発動させつつ別の魔法を詠唱で制御する、一般の魔導師は勿論熟練の術者ですら頭がいかれてもおかしく無い密度の魔法をリフィナはこの修羅場において一切のミス無く構築、制御している。
これこそ、魔法界における姫と呼ばれる天才の神業。彼女と同クラスの技は最早世界に姫連合に属する者しか行えないとすら言えるだろう。それも、その輪の中でさえ上位の者に限定されるとまで来たものだ。
だが、ここに来て強化されたリフィナに驚く暇は無い。していただけでも術式が狂う上にそもそも維持だけで精一杯なリフィナからすればだからなんだ、と返すほどに忙しいのだ。
無数に押し寄せる軍勢にティンが躍り出ては神剣一閃、黄昏の斬線が疾風と駆け巡り直ぐさま一掃していく。最早たかが雑兵如きに構っている余裕はどこにも無い。
エーフィリスは兵士を展開しながらも更に後方へ巨大な魔法陣を並列に設置。続いて光線を広範囲の展開しつつ魔法陣に魔力を送り込み、そのまま新たな魔法の準備へと移行している。
ティンの中で術式に詳しいものがリフィナ一人、その彼女が喋れない以上術式の内容が判明出来ないが。
『不味い、あれ砲撃魔法だ!』
突如リフィナの声が耳に入る。いや、リフィナが対話出来ない事にいい加減切れたリフィナが無理やり通信術式を起動させてティンに声を叩き込んだのだ。よって今ティンにすべきことは。
「あれ、砲撃魔法です!」
「なら潰すぞ!」
流星群が降り注ぎ光の槍が暴れまわり魔力で出来た兵隊が次々に雪崩れ込み更に光の雨が襲い来るこの嵐の中、エーヴィアは簡単に言って。
「クラウ・ソラス!」
「ブレイク・テンペスト・バスター!」
エーヴィアが振るう剣が光が舞い散り拡散して目の前の有象無象をなぎ払い、エーフィリスは光魔法の攻撃系Aランクこと高密度の光を一点に集めて敵に放つシャイニングブラストを反撃に打ち込み、ラルシアが同じくビーム型の無属性攻撃魔法Sランクである波導の力を束ねて単純なエネルギー体として叩き込むブレイク・テンペスト・バスターを更にカウンター気味に放つ。
光と無のエネルギーが激突し衝撃を生み出し交差するもその間にエーフィリスが用意した砲撃魔法が輝きだし、光を放っては収束して極太レーザーを解き放つ。
直後、リフィナが防御魔法を発動。極太レーザーを防ぎ更に光を吸収するが。
「だから効くかぁ!」
当たり前のように撃ち砕かれた。最早、リフィナが幾ら魔力を捻出しようと防ぎきれない程の高魔力で放たれてい。
「ミラーコーティングシールド!」
砕かれた直後、ラルシアが割り込んで防御魔法を発動した。誰から見ても無謀な行為、エーフィリスも無駄だとそのままラルシアの発動させた魔法に叩き込む。だがその刹那、リフィナはこのときを待っていたと言わんばかりにたった今思いついた策を実行に移す。
散らばった光子吸収の術式を急速にそして無数に発動させ、エーフィリスの放つ極太レーザーを吸収する。いくら吸収しようとも、極大な魔力の密集体であるそれを取り込むなんてことは普通に考えたらあり得ない。
だが、この術式に隠されたいや秘められた否真なるでもなく、もう一つの機能を発動する。そも、この術式は天に輝く星々の光を一点に集めそれを自身の魔力として取り込みほかの術式へと流しこめるものだ。もとよりこの術式自体、備蓄と注入が元々の機能。では何故何度もエーフィリスに砕かれることになったのか?
単純に、この術式で吸収した魔力は一度リフィナの元へと貯蓄される。その後、リフィナの手によって様々な魔法となるのだが、この時に不手際が発生する。つまり一度リフィナを経由する為にラグが生じてしまう。それでリフィナの術式による防御が間に合わず、エーフィリスによって砕かれていたのだ。では今回はどうだ、エーフィリスから奪った魔力は全てそのままラルシアの魔法に注がれる。それも多角に展開された光子吸収の術式は展開された数だけ魔力を吸収する。吸収した分だけ、即座に送り込まれるが、問題は属性が合わないことだ。だがその程度リフィナにとってすれば問題のうちにすらならず、即座に色を落としての単なる純粋な魔力としてラルシアの魔法に送り込んだ。
直撃する寸前、Aランクが精々だったミラーコーティングシールドが一気にSSランク級にまで跳ね上がり、そのままエーフィリスの砲撃魔法を受け止めた。爆ぜる光弾ける爆音、エーフィリスは紙を破るように撃ち砕けると思っていた為に目の前の現象に思わず息を飲む。
そうしている間にもリフィナの光子吸収の術式、フォトン・アブソーバーは防御術式に送る必要もなく他人の発動した魔法という注入の制御や限界を一切気にしないものに対してとことん、吸収した魔力を注入する。それも目の前の極太レーザーだけではなく当然周りの魔法も全て吸収していく。そして吸収したそれは無論次々にラルシアの魔法に注ぎ込まれていくのだ。
そして遂には、エーフィリスの放った砲撃魔法を丸ごと受け止め切る。エーフィリスはあり得ないものでも、それこそ悪夢を見ている気分だった。が、悪夢はまだ続く。
ラルシアが発動させた魔法が、一体何だったか。エーフィリスはふと思い出し思わず口端がひっとひきつり上がる。そうだ、確かミラーコーティングシールド。あれは確か。
「吸収」
「反射!」
全てを理解したエーフィリスは防御術式を発動させながら後退するがそれすらラルシアが許さない。取り込んだエーフィリスの魔法を、さながら光を取り込む宝石が光を取り入れ過ぎ溢れて輝きが如く、ラルシアの放つ魔法として発動させる。
撃たれた魔法はそれこそ光速でエーフィリスを飲み込み蹂躙し破壊の渦に飲み込み爆散させる。響くエーフィリスの、悪魔でも締め上げていると感じさせる甲高くも生々しい悲鳴。遂に、遂に魔王に対して有効打を叩こみ瀕死に追い込んだのだ。
エーフィリスは世界の外側付近まで吹き飛ばされるも、空を駆ける騎士と王が逃走を認めない。エーフィリスは体勢を戻して魔力を手繰り。
「惑星と惑星の間に潰れて消えろ! シャァイニングゥゥッ!」
騎士と女王の両側に浮かぶは二つの光星、それはエーフィリスの導きにより二人を挟んで接近し。これぞ俗に。
「グゥレェェェェトォ! アトラクタアアアアアアアアア!」
「そうか」
対するは幾度と繰り出された豪快な二振りの聖剣、遠きものは音に聞け近き者は目にも見よ、これぞ光魔法戦技の奥義。
「ダァブル、エクスカリバーッ!」
展開される二つの聖剣が二つの光の惑星を両断し打ち砕く。あまりにも豪快な光景を背にいま輝光の聖騎士が宙を駆ける。振るい上げるは黄昏の神剣。
「そんなもの、もう効かない!」
「知ってるよ」
エーフィリスは堂々と神剣の斬撃をその身の受けた。光に満ちたこの体は光の神剣では断つことは出来ない。そんなことは知り尽くしているし、頭に入れている。から、こその。
「効くやつ連れて来た」
ティンの一言にエーフィリスは瞳孔を開かせて彼女の後ろを見る。そこにはいつの間にきていたのか、ラルシアが確りと、ヴァニティ・ゼロを握りしめて、片手で上段に構えていて。
避けねば、しかしエーフィリスはティンから受けた斬撃の衝撃が、痛みはないのに残った衝撃が、その刹那の行動を許さずラルシアも義妹になったかも知れない彼女の作った隙を見逃さない。
持ちうる全ての力を振り絞って、今渾身の斬撃のここにみせる。ラルシアには最近のトレンドがあった、世の中力こそパワーなどという言葉があるが彼女からすればもう古いという今は。
――フォースこそストレングス。
特に変わんないだろ、そんな誰かのツッコミを流しつつラルシアは剛腕と魔力にものを言わせた一撃をエーフィリスに、頭から叩き込んだ。頭から顔面を胸を心臓を腹へ股へ貫き切り裂く。その衝撃を以って、遂に魔王エーフィリスは。
断末魔の叫びを上げて弾け消えた。
エーフィリスを撃破した直後、世界は真っ白に染め上がる。一体何が起きたのか、認識しようもにも自分がどうなったのかさえ分からず、気付けば白い背景の世界に自分が立って居る事に気付いて。
「陛下、ラルシア、リフィナ!? 皆は!?」
「此処だ、ティン」
声のする方は後ろ、振り向けばその先にエーヴィア達が居て。更にその奥にエーフィリスが立って居る。だが、彼女は遠い彼方を見つめておりティン達に対して敵意は感じない。そしてゆっくりとティン達に振り向き、微笑んだ。
「エーフィリス、あんた」
「遂に、終わったのか?」
エーヴィアの言葉に目を閉じてすぐ隣に目を向ける。そこに何時からそこに居たのか、鎧甲冑の金髪男が立って居て。
「すまない、エィフィ」
腰を折って、謝罪する。エーフィリスは黙ってその言葉を聞入れては微笑みを騎士に向けると。
「私は結局、こうすることでしかお前に救済を齎す事が出来なかった。許せだなどと、口が裂けても言う気はない」
「エイヴァン」
そんな中、エーヴィアは彼らの下へと歩み寄り、彼女達も後からついていく。
「私は、友として王の愛した女を救う訳でも無く。兄として妹に安らかな眠りを齎す訳でも無く。ただの騎士として、愚直に国に尽くす事しかできなかった。それが私と言う男だ、エィフィ」
「兄さん」
「お前に、兄と呼ばれる資格は無い。何せお前の名を禁忌とし、似た名前で濁すように広めたのは、何を隠そうこの私だ。リークの馬鹿は、最後までお前と言う存在を何処かに残したかったのだろう」
騎士は頭を上げて、エーヴィアとその仲間たちを見る。
「その結果がこれだ。我が子よ、今回の事態は、私に全ての責任がある」
「と、言っても」
先祖に言われたエーヴィアは少し困った顔を見せると、エーフィリスはくすくすと笑いだした。
「もう、行き成りそんな事を言い出したら皆困っちゃうでしょう兄さん」
「だが、エィフィ」
「ねえ、兄さん」
エーフィリスは兄に優しく微笑むと。
「私と兄さんは断った二人っきりの兄妹だよ? 兄さんの思いは私の思い、兄さんの願いは私の願い。それはいついつでもそうでしょ?」
「エィフィ、だが私は」
「それにほら」
彼女はティンを、エーヴィアを、ラルシアを、リフィナを見て。
「こんな子達が、自分の未来の為に戦った。この子達が居る未来の礎になれたんだもの。悔いはないし、逆に驚いちゃった」
「驚いた?」
「うん、だって途方もない程の未来にまで、イヴァーライルが残ってたなんて吃驚! リークが政治出来ると思ってなかったんだもの! うふふ、兄さんが凄く頑張ったんだね」
「エィフィ。お前と言う奴は」
とうとう、エイヴァンは妹の言葉に笑った。そして今を生きる彼女達に向き直ると。
「ありがとうね、リークの後悔を晴らしてくれて」
「すまない、君達に迷惑をかけてしまった。私の王が、本当に迷惑かけた」
「いや、いいよ。あんな爆弾がうちの国の地下に眠っているのを処理出来て良かったから」
「爆弾、か。確かに下手な爆弾より凶悪だろうな、君たちが帰る世界が無いのだから」
エイヴァンの言葉になごんでいた一行が一気に凍り付く。しかし騎士はそれを無視して。
「日記が開かれると同時に世界丸ごと飲み込んで時間軸を当時の物に、現代を軸に挿げ替える。君達は思った筈だ、何故現代の物が此処にあるのかと」
「っておい、これからどうすりゃいいんだよ!?」
「問題は無い。君達は今から、エィフィが元の場所まで送る」
動揺するエーヴィア達にエイヴァンとエーフィリスが笑顔で答える。
「私の魔力を全部使って、貴方達が最初に居た場所に戻すよ。元の場所にね、そうすれば何もかも元に戻るから」
「何もかもって、まさか」
「うん。私の存在はきっと、元の世界には跡形も無く残っていない筈。兄さんが介入して、エーフィリス何て女が居たことすら無かったことになる」
「でも、それってあんたが」
ティンの言葉にエーフィリスは指を立て、ティンは黙った。
「良いの、もう。私は、こんな未来があったと思えただけで十分」
「だがエーフィリス、あんたの魂は」
「気にしないで、そもそも私はリークと兄さんの思いで出来た存在。本当のエーフィリスじゃ、ないんだ」
そう言うと、世界が真っ白に包まれていく。光輝に包まれ、世界が元に戻っていく。その中で、エーフィリスはティンに目を向けると。
「そう言えば貴方、変な感じがする」
「――え?」
禁忌に触れたと、見てはいけない何かに触れたと言わんばかりに彼女は。
「あっちゃいけない人に、会ったでしょう。目と鼻の先に居るのに、絶対に手の届かない所に居る人に」
聞き終える前に、ティンは白に溶けて行った。
さて、その奥。そこにある物とはなんなのか。一行が下りた先にあったのは。
「陛下、机があります」
「机? 怪物は?」
「いません、いたら既に切っています」
ティンは周囲を見渡して言う。そこは今にも崩れそうな、瓦礫の中に出来た部屋と言った所。その部屋はおんぼろの本棚数個と、机が一つ。本棚の中には本が幾つかあるのみで。
部屋に明かりは無い。と言うかティンが腕を発光させることでライト代わりにしていた。それを見たリフィナは思わず。
「フラッシュ使えば?」
「この部屋太陽に包まれるけど?」
溜息を吐いたリフィナは部屋に光を撒き、明るく照らす。机の上、そこには大きな本が一冊置いてあるのみだ。ティンはエーヴィアに顔を向けて確認を取る。エーヴィアも頷いて催促し、ティンは本を開いた。
本の中、それを見たティンは肯き中を一言口にする。
「陛下、大変です」
「どうした?」
「本を手に取ったら」
ティンはボロボロになった本の欠片をエーヴィアにバっと見せて。
「崩れました。これぼろ過ぎです」
「壊すな馬鹿野郎」
「ふむ」
続いて日記に触れるラルシア、だがラルシアが一撫でしただけで崩れ落ちた。それを見てラルシアは。
「これ、乾燥し過ぎたのでしょうね。年代物のようですが、まあ中が見えないのであればゴミ同然……これらも一緒でしょう」
ラルシアは本棚に並んでいるものを見てそんな指摘をする。そしてエーヴィアは頭をかくと一言。
「じゃ、戻るぞ」
「了解です、此処には何もありませんでしたね」
「ああ、全く人を驚かせやがって。一先ず何の部屋かわからないし、さっさと出てここを閉じるぞ」
言って、エーヴィアに続いて一行は出口に向かって歩き出していく。その最中、エーヴィアは後ろを振り向こうとして。
「いでっ」
「あだ」
ティンとぶつかり合い、結局エーヴィアは出口に出るまで振り返る事は無く、そのまま穴から出た。そして、後ろを振り向くと。
――これで良いんだよ。
そんな声を告げるように、ラルシアとリフィナがが後ろに居て、後ろの穴が良く見えなかった。まるで、後ろを振り向く必要はないとでも言いたげに。
「エー、なんだっけ?」
「陛下?」
「いや、いいや」
そうして、一行は図書館一角の空洞を調べ終え、出て来たのであった。そこには何無かったと言う事実を胸に。何もなかったのだ、そう、何も、あそこには存在しない。
初代国王の亡霊も、後悔に生きた騎士も、堕ちた姫君も。
何も、無かったのだ。
それではまた。