光が飲み込む創天
エーヴィアは魔王を切り裂くも魔王は涙を流して光と消えていく。そんな中、エーヴィアはふと。
「おいティン、着替えあるか? この服動き辛い」
「いやそんな都合よくある訳、ありました」
言われて荷物を漁ったティン、そこから非常に懐かしい物が出て来た。昔、と言うより数カ月前に買ったオーラウェアだ。少ししか使ってない軽装剣士用防具、エーヴィアが身に着けられるのか少し不安に駆られたもののティンは。
「あの、オーラウェアとかありますけど着ます?」
「これよりマシなら」
エーヴィアは非戦闘服の今の服装を摘まむと、世界が光と変わり瓦礫が次々に消えていく。恐らく、暢気に着替えなどしている暇なんて無い筈だ。だがティンはエーヴィアのその答えに応じてほいと服を出す。
エーヴィアは物は試しとポシェットから取り出したけーお君に受け取った服を登録し、その直後に起動。見事に服が切り替わり、サイズぴったりな状態で装備される。
「何だ、意外といけるな」
「あれ、この服自動調節付きだったのか?」
ティンはそんな機能有ったかなと思いつつそれよりも目の前の異常事態へと視線を向ける。世界が光へと砕けて発光し光になっていく姫君に集まっていく。エーヴィアは着替え終えると立ち上る光を見つめ。
「一体、何が起きてるんだ? 何がどうなったんだ?」
「世界が、光に代わっていく。遂に最終段階に移ったと言う事か」
「最終段階!?」
リフィナの一言にティンが叫んだ。彼女は静かに肯くと光が集う魔王を見据えると。
「こいつの狙いはただ一つ、世界の支配者になること。その方法は創天術式による世界の上書き」
「そして、それを阻止するには術式その物の核であり魔力を吐き出す源でもあるエーフィリス本人の排除が必要不可欠。もう一つ言えば、此処はあの女が作り出した日記の中の箱庭の世界だ」
先程彼女が出したたった一つの確かな答え。それは単純な話であって、ティンは天に浮かんでいく魔王を見据えつつ。
「結論からして、あの女を生かしておく理由は欠片もない。世界征服阻止と言う意味でも、此処から脱出と言う意味でも」
「にしても、攻略法は何だ!? いや待て、あいつは何をしている?」
叫ぶようなエーヴィアの指摘、実際魔王は世界中の物質を光に変換し、天に巨大な方陣を展開していくのみで全く何もしてこない。ティンは剣を引き抜くと天に座す魔王に向かて駆け抜けていく。
続きエーヴィアが腰の剣二本を抜剣し、ティンに追従し天へと駆けリフィナは術式を起動させ、天に吸い込まれていく光を吸い込んでいく光を逆に取り込んでいく。
ティンと共に魔王の眼前に舞い上がった女王は双剣を手繰り、刀身に極光を宿して。
「ダァブル・エクスカリバーッ!」
「ライトニング」
振るわれる二振りの聖剣、その合間を縫うが如くティンが人体の急所らしき心臓部へ向けて剣を突き刺し引き抜き突き抜けていくが。
「デッド・スタッブ!」
「くっそ、手ごたえが無い!」
真下で見ていたラルシアはなぜか青い表情を見せていたが、ティンもエーヴィアも非常に苦い表情で光の魔王を見る。彼女は他の何も見ず、ただただ天に広がり続ける方陣だけを見続ける。
それ以外何も見ておらず、ならばとティンとエーヴィアは更なる剣戟を魔王に叩き込む。だが、それでも彼女は何も気にせず広がり続ける天の方陣を眺め続ける。光の剣で首を突き双剣で心臓を切り裂き頭を切り裂き腰を薙ぎ心臓を貫くも、彼女達の表情は苦い物に変化していく。
徐々に色濃くなっていく焦りの表情。全くつかめない手応えに自分達が何をしているのかすら覚束なくなってくる。そんな所に、リフィナは貯めた光を操り一点に集め。
「スターダスト」
落ちた星々の屑をかき集める様に、周囲の光を構えた箒の先へと募っていく。そして太陽が如く光り輝くソレを魔王に突き向け。
「レイ・バスタアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
解き放つ。
星の闇海を切り裂く星屑の道が、味方も気にせず無防備な魔王の背を撃ち貫く。ティンとエーヴィアは直ぐさま攻撃を中断して魔王から跳びのき、星屑の道は魔王ーどころか天の方陣にまで突き刺さり爆光が炸裂する。光輝の道が消え去った後、たたずむ魔王は僅かに表情を動かしながら真下のリフィナへと視線を移す。
彼女が怪訝な表情で睨んだ先、そこには僅かに方陣が解れていた。しかしその歪みは直ぐに消え去り元通りに修復されていく。だが。魔王はリフィナへぴっと指先を向けると。
「いけない子」
呟き天の星々がリフィナに向かって崩れ落ちる。即座に離れた女王とティン、彼女は姫君の危機に際し、自身を盾とすべく姫君の下へと推参するがリフィナは押し退け前へ一歩。
「フォトン・アブソーバー」
逆に姫君本人が騎士の盾となった。騎士は一瞬呆然とするも己の姫君が無策で前に出る人間とは思わず目の前の閃光を目に焼き付ける。降り注ぐ星々の欠片、立ち上る光の爆発、ティンはその衝撃を前に一歩も動けずしかし衝撃は直ぐに霧散し光はリフィナの中へと沈んでいった。
「リフィナ!」
「今ので分かった、あいつを無視しろ!」
たったそれだけ、この二つのやり取りのみで二人の天才は了承する。ティンは飛び上がり駆け抜け肯き、地に降り立ったエーヴィアがいきなり魔王を追い越し天へと駆け上るティンを見て。
「おい、あいつは何をして」
「多分、魔王の本体は真上の術式その物だ。そして、あれが創天術式の本体なら」
駆けるティンは剣を強く握りしめ、ティンの肉体に光の線が駆け巡る。そうだ、相手が今は魔王だろうと後の神様で、あれがお手軽神様製造機だとすれば。
「EchteralserschwürkeinerEide;」
歌い上げるは神々の黄昏時、投げ入れられる終幕の焔、それは目を己を世界をも焼き尽くす。さらば、ヴァルハラと一人の戦乙女が投じた焔が彼女の体に染み渡り。
「treueralserhieltkeiner Verträge;
lautrer alserliebtekeinandrer:」
身体中の魔力が迸る。もとよりこの身体はその為に染まった土台、作り上げるは黄昏の演劇場、演目は神話の最終戦争。即ち今の彼女が手にする剣は神々を焼き滅ぼし、終焉を齎す神威の剣。
「unddoch,alleEide,alleVerträge,dietreuesteLiebetrogkeinerer
Wißtinr,wiedasward?
DasFeuer,dasmichverbrennt,rein'gevomFluchedenRing! 」
「おい、あいつは何を」
天を見上げるエーヴィアも疑問を持って彼女の行く先を見る。光の足場を生成しつつ跳び上がり駆けあがっていく光輝の聖騎士はその身に黄昏を顕現させる。
「IhrinderFlutlösetauf,undlauterbewahrtdaslichteGold,
daseuchzumUnheilgeraubt. 」
「そう、別に」
駆ける黄昏の騎士が歌うその歌の意味を知った魔王は、全て分かっていると言いたげにただただ彼女の行く末を見続ける。ティンはそれでも口にする詠唱を止めず上へ上へと。
「DennderGötterEndedämmertnunauf.
So - werf'ichdenBrandin WalhallsprangendeBurg.」
手にした剣を握りしめ、今此処に握るは黄昏の光、束ねて一つにし此処に抜剣される神々の十字神剣。
「来たれ神威の十字架、今此処にラグナロクの降臨を宣言する!」
身体中に刻まれた術式が光り輝き、体中の模様が、術式が光り輝く。
「召、喚ッ! ラグナロック!」
鐘の音と笛の音が鳴り響く。その手に顕現するは鈍い輝きの十字架。神々の黄昏ラグナロック、見ていたリフィナは流石に神剣召喚は読んで無かったようで少し面食らうものの。
「やったれティン! 肝心の術式その物をぶっ壊したれ!」
「そうか、神滅ぼしの炎で神を生み出す術式その物を砕こうと言うのか!」
エーヴィアが言い、ラルシアは在庫の数を確認し、ティンは此処に呼び出した神剣を持って天へと舞い上がっていく。遂に辿り着いたその最果て、生み出された魔法陣へと切り込み、術式の中央部へと突き進み
その剣を振るい上げ。
「無駄だよ。それは創造の魔法、神ではない」
魔王の言葉に引かれながら神剣を振り下ろし、見事に空を切る。ティンは、リフィナは、エーヴィアは、その様を見て絶句。神殺しの神剣で断てぬと言う結果にたったひとつの真実を知った。
ティンは驚愕に彩られ、尚も光を超えて試行を重ね続ける。術式には干渉できず、効くかどうかも曖昧な光の魔王相手に黄昏の十字神剣を抜いたのは流石にミステイク、全ての状況が悪手へと繋がったこの刹那に魔王はただただ当たり前に受け止め常識を語るかのようにティンへ淡々と口を開く。
「神滅ぼしでは、意味が無い」
んじゃまた。