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王城を探検

「しっかし、此処ってなんだかラストダンジョンみたいになってますね」

 ティンは上を見上げなら呟いた。旅の聖騎士、熟練武器商人、聖剣女王と名立たる武人が一堂に会しながら一行は優雅に城の中を探索していく。しかして大問題なのが全員が全員城の内装に明るくないと言う哀しい事実であった。此処までそろっていてまさかの全員迷子と言う事実は彼女達の精神に大変な打撃を与え。

「にしても、ラルシアが飯を持ってたとは意外だ」

「ええ、こんな事もあろうかと思い準備しておきました」

「いやどう見てもそれ貰いもんだろ、しかも取引先とかの。何で全員祭りに来てるんだ」

「煩いぞティン。あたしとラルシアの付き合いだぞ、そんな事は百も承知だ」

 言いながら女王はラルシアから受け取った焼きそばをずずっと頬張り、ラルシアは舌を打つ。ぶっちゃけ女王の食べる物とか食べ方とは恐らくかなり違っているだろう。エーヴィア曰く歩き続けて空腹になったそうだ。

 更にエーヴィアはラルシアからお茶を受け取るとそのまま開けて口にする。ティンは溜息交じりに周囲を見渡す。そこは豪華絢爛を絵にかいたような、ティンが言う所のRPGのラストボスにでも通じてそうな内装で、何処に通じているのかまるで見当がつかない。

 まず、今いる吹き抜けの螺旋階段。ずっと上まで行けばきっと中ボスだかラスボスだかが待っているのであろうその来る所まで来たと思わせる雰囲気にティンは圧倒されつつ、高い天に聳えるであろうその先へと思いを馳せる。金色と言うべきか、黄土色と言うべきか、燦然と光る王城内の装飾達がこの王城内装をよりその迫力と荘厳さに拍車をかけている。

 尤もティン自身がそう言ったゲームなどをやっていたわけではない。ただ単純にそう言ったゲームを見た事があると言うだけだ。煌びやかな光輝く王城の中を、螺旋階段の先へと進んでいく。その最上階に何があるのだろうか。

 色んな人々が通り過ぎ、或いは階段の様子を見ている人達を追い越して最上階へと至る。階段の彼方は白い光が照らしていて先が見えない、その先には何があるのかと思いながら三人は階段の果てに足を踏み入れる。

 その先にあったのは、中ボスでも無ければラスボスでもない。敢て確実にいるものを表すのであれば、まず観光客がいる。更に城下町を一望できる作りになっていて。

「第一展望台だな、こっから城の本丸に行けるって話だったはず」

「あの女王陛下、こんなに広いとか聞いていません。何があったんですか? この間此処で世話になった時より広くありませんか?」

「ん? あん時からずっと工事中だよ。祭りやるからただの市役所同然の屋敷をガチの王城にしようって決めたらしい。建築とかはほぼイヴァ―ライル縁の人間とかに絞って一月半で廃墟をごまかしただけのしょっぱい市役所をガチの王城にしろと言ったらしい。で、職人たちが故郷の王城を直す上に自分達で作り直すならと時間と魔法と資材の許す限り深夜テンション真っ青の建築やらかしたそうだ」

「よく許しましたね、そんなの」

「だって私の与り知らぬ所でやられたことだし。ぶっちゃけ、私は基本此処に住んでないから別に良いんだが……たまにはいいかと思って歩いてみたのだが物の見事に迷った」

 エーヴィアは言いながら展望台に立って街を眺め始める。光り輝く王城より顔をのぞかせる金髪淑女、周囲の者達は一般客の中に普通に国主が混ざっていることに気にもしてないらしく、というか。

「凄い美人、誰だろあれ」

「多分どっかのお嬢様とかじゃない? 周囲にボディガードも要るし」

「すっげー美人、モデルさん? 見た事ないな」

「んーあんなグラビアモデル見た事ないしなぁ、女優さん?」

 等と言う声がちらほら聞こえてくる。ティンはラルシアとエーヴィアに。

「何か誤解が凄いね、と言うか此処に居るの女王なんだけど」

「冷静に考えなさいな」

 ティンの言葉にラルシアはふっと笑うと肩を竦めて。

「いつも真っ白な戦装束が疾くドレスに腰に下げた三本の剣、更には立って居るだけで周囲を圧殺するあの威圧感が無ければ誰も彼女を女王だなどと認識しませんわ」

「確かにね。白羽のカチューシャ見て女王だってわかるの其れ関係者だけだもんね」

「煩いな、お前ら景色でも見たらどうだ」

 聞いていたエーヴィアは舌打ちして振り向いて来た。

「つうか、本当出口何処だ。お昼を此処で取ってから歩き回ってるんだが何処に行きゃ出口なんだよ本当」

「何故案内もなく」

「本城に遊びで来るの初めてだったんだよ、見て回って何が悪い。これだって私の国の持ち物だぞ」

 エーヴィアは遊んでいたら迷ってしまったと言う大人として凡そ発言して良いものではないであろう台詞を両手を腰において寧ろ偉そうに言い放つ。二人は呆れ気味に。

「一体幾つですか貴方」

「だって、23年も生きてこんなデカい城に足を踏み入れたの生まれて初めてだぞ」

「案内付けましょうよ、念のために」

「かったるい。私が一々案内ボイス効く人間に見えるのか」

 ティンとラルシアは互いに顔を見合わせ、溜息を吐いた。そしてラルシアから貰ったであろう焼きそばを啜り始めた為に移動を再開。どう見ても良い所のお嬢様にしか見えないモデルさんっぽい女性が堂々と立って焼きそばを啜るのは色々問題がある。

 一行は適当な扉をくぐってその先に行く。また階段があると思いきや今度は離れの塔へと通じる廊下だけがある。三人は三人、顔を見合わせると。

「んじゃいくか」

「ですね」

「女王陛下、あの建物に見覚えがございますか?」

 渡り廊下に足を踏み出して歩く三人、ラルシアがエーヴィアに問いを投げるも。

「ある訳ねぇだろ。こちとら此処をゆっくり歩くの初めてだ呆け」

「でっすわよねぇ」

 ラルシアが苦い笑いを浮かべながら離れ塔の中へと――入ろうとして、ドアノブが動かない。手に取ったエーヴィアは頸を捻ってもう一度ノブを回すが微動だにしない。エーヴィアの怪力をもってしてもビクともしないドアノブにエーヴィアは不思議に思ってラルシアの方を見るが。

「これは、魔力認証の術式ですわ。特定の方による魔力注入を以って初めてドアノブが動くようです」

「ふぅん」

 エーヴィアの視線を受けたラルシアはドアノブを弄って弄り回してチェックするとそう反すがエーヴィアは不機嫌気味に。

「でそれ誰だよ」

「さぁ……ですが、此処には鍵があるようですしそれを探してみては」

「だから、それ誰だって言ってるんだが」

 苛立った声を聴いて次に前に出るのはティン。

「恐らく、女王陛下ではないかと」

「根拠は」

「この手のロックは、本人の与り知らぬ所で本人にしか外せないようになっている筈。ならば女王が適任だと思いますが」

 ティンの解説を聞いたエーヴィアは試しにと手に魔力を送るとドアノブをもう一度握る。今度は確かな感触で回るドアノブ、扉開きその中へと入っていく。中はやけに豪華な執務室となっており、部屋の奥には二回へと通じる階段がある。

 部屋の中は赤くふわふわな絨毯が敷かれ、きっちりと整然された本棚に、高価だと一目で分かる羽ペン、まるでこの国の主が住む為に作られたであろう執務室がそこにある。特に絨毯の踏み心地が良過ぎて靴を脱ぐべきかと迷うほどだ。

「此処って、靴はいてていいよね?」

「どうぞご自由に、此処靴入れはありませんが裸足でも問題無いよう配慮しております故」

 上から声がかかる。声がする方へと見てみれば階段からゆっくりと降りて来る男性、それを見た女王は一言。

「シャガーか。此処で何をしている」

「はっはっは、中々に居心地の良さについつい休憩を。さて私はいよいよ祭りの中へと。自分の執務室へ戻るとしましょう」

 微笑みながら降りて来たシャガーはそのまま三人を避けて扉に向かって歩いていく。しかしその行動をエーヴィアが手を伸ばして止めると。

「待てお前、上で何してた」

「ただ休憩してただけですよ」

「この部屋は? 一体誰の執務室だ此処」

「貴方と、貴方が選ぶ男性が住む場所です。そう、此処こそ王の執務室ですよ」

 答えを聞くと一瞬声の詰まったエーヴィアの顔を見るとシャガーは微笑みながら部屋から出て行く。エーヴィアはぼうっとそれを見届けると、一息吐いて椅子に座り込む。椅子に背を預け、貰ったお茶を飲んでは食べきっていなかった焼きそばを啜り頬張り咀嚼して飲み込むと。

「ラルシア、もう少し欲しい」

「どうぞ、お好み焼きですわ」

 ラルシアはホイホイとエーヴィアに冷めた屋台の弁当を差し出した。その食べっぷりを見てティンはふと。

「ラルシア、あたしももらって良い」

 空腹感を味わったが故に聞くだけと問いを投げてみた。答えは思いつくものの、聞くだけはただであろうと思い、そして即答が戻って来た。袋に入った何かが叩きつけられるように滑ってティンの下に現れた。見るとラルシアは勝ち誇った様な表情で。

「食えよ貧乏人、浅ましく惨めに――拾って食え」

「お前のそのキャラいっそ懐かしいなおい」

 相変わらずの対応にティンは頭が下がる思いであった。ティンはへいへいとぼやきつつ地面に座り込むとそのまま袋を取ったついでに手も軽く上げる。まるで予測していたと言わんばかりに上げた掌にラルシアの足が直撃する。

 ラルシアは自慢の怪力で受け止めたティンの手を蹴り砕こうと力を込めようとした。が、ティンは初めから受け止めようなんて無謀な考えを持ってなどいない。ティンはその衝撃を起点に体をずらし、受けた蹴りの一撃を受け流してそのままラルシアの腹まで滑らせると手刀が如く突っ込み。

「ッチ!」

 流石に嫌だったのだろう、ラルシアは身を捻り突っ込まれそうだったティンの腕を弾いて飛び退いた。そこでお好み焼きを頬張っていた女王に。

「お前ら人の執務室で暴れるな」

「ラルシアに言って下さい」

「地面に座り込んで食おうとする阿呆に言われたくありません」

 それもそうかとティンは近くに置いてある椅子を引っ張り出して座り込むとそのまま取った袋を見る。が中身を見て。

「おいこら、ほぼグチャグチャになってるぞ」

「ハッ、貰いものにケチをつけるとは」

「お前も大変だな、こんなもん渡してくる連中もニコニコして付きあわにゃいけないんだろ?」

 ティンにいきなりそんな事を言われるとは思っていなかったのかラルシアは面食らい、一瞬言葉に詰まるも髪をかき上げながら調子を戻すと。

「ハッ、どうせ貰うのだけはただなのですから気になどしていませんわ。顔も覚えていませんし」

「流石ですね、先生」

 ラルシアはふんと返すと部屋の探索を始める。つられてティンもぐっちゃりとなった串焼きを取り出し口にすると部屋の様子を観察する。誰も来たことが無い筈なのにやたらと整列されている本棚に、客が来たら対応出来るようにティーカップセットやらポット、奥には水道まで完備されていた。

 此処に暫く閉じこもる事まで可能な作りになっている。しかし聞きたい、外の渡り廊下に壁はあったが天井が無い。まさかあんな通りの悪い場所を通らせる気なのだろうか。言うべきことは一つ。

「デザイン優先し過ぎて機能性切っていませんかこれ」

「確かに。ちょっ上見て来るか」

 丁度互いに食べ終わった為に三人は上の部屋に上がる。そこは完全に寝室となっていた。まず化粧台にキングサイズのベッド、しかも枕が二つ。更に箪笥も二人分。完全に二人で住むことを前提とした部屋だ。しかしラルシアは眉をしかめて。

「術式? この部屋、変な魔力の流れを感じます」

「え嘘」

「ええい、魔導の知識ド素人が二人とかきつ過ぎるわ。専門家居ないのか専門家」

 ティンとエーヴィアが暢気な返事に舌打ち気味に零すラルシアのボヤキに対して誰が思ったかまさかの返事がある。返事、と言うよりうめき声だった。何かと思っていると布団がぺろりとめくれ。

「……ぁい、魔導のプロでぇーす」

「おい。貴様。何でここに居る」

 エーヴィアは、急に起き上がった存在を睨む。それは白い服に茶色い髪を長く伸ばした女性。ティンは其れを見て目を見開いて。

「リフィナ? 何故ここに」

 光輝の星姫が、そこに寝ていた。

 んじゃまた。

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