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お祭りと言えば口喧嘩

 ティンはふと思い、ルメアに問いを投げてみた。単純に、疑問に思ったからだ。

「ねえ、あんたとラルシア。何でこんなに雰囲気が似ているの?」

 彼女としては本当に疑問だった故、問いかけた。そもそもからして、ティンとルメアの出会いは真っ当ではない。まず、彼女はラルシアに『友人はいるのか』と好奇心から尋ねた事から始まる。

 尋ねられたラルシアは何を思ったのかティンを連れてとある街を訪ね、その街の郊外に出て出くわしたのが彼女。しかも、当時の彼女は自分を追ってきた人間を警戒してたらしく、ラルシアが探していることを知って罠を張っていたのだ。

 勿論、それも彼女の早とちりだったのだがその際、ティンとルメアは初の顔合わせをしたがその直後に毒針を食らって気絶。目を覚ますと何故か体中から激痛が走り体がピクリとも動かないし声も出せないというおまけ付きだった。一応、その後痛みに耐え抜いて体が動けるようになるとまるで生まれ変わったかのように体が動けるようになったのだが。

 ちなみに当人曰く、劇薬なだけで治癒薬とのこと。ティンとして言えば、致死量の治癒薬なので毒と差はないが。

「雰囲気? はて、何のことでしょうか」

「いやさ、ラルシアと方向は違うけど何かあんたってラルシアっぽいんだよ。いや、どっちかと言うと。ラルシアが、あんたみたいなのか?」

「ふん、多少は分かるみたいですわね。尤も、私ラルシアの事嫌いですわ」

 吐き捨てルメア。普段の彼女達の言い合い……とは言ってもティン的にはこの二人が並んだ所なんてあまり見た事がないものの、それでも二人は仲がいいとみえた。が、今見えるルメアのラルシアへの嫌悪感は間違う事無く本物だ。本気で、ラルシアに憎悪を向けている表情だ。

「何でそんなに嫌うんだ? 確かに善人とは言えないかもだけど、悪い奴じゃないでしょ」

「ふん、あの女の人間性だけを語ればそうでしょうね。でも、あの女の行動は商売は、何もかもが私の精神を逆撫でしますわ」

「例えば?」

「貴方、恋にかけるお金ってご存知?」

 ふと、祭りの街並みに張られたポスターの前で止まるルメア。その内容をマリンが。

「カップル限定フェア。男女ペアで入店で特典ですか」

「あの女はね、言ったの。恋も商売だって」

 ポスターを一撫でして、握り拳を作る。まるで、信じようとした。いや、信頼しようと築いた何かを握りつぶすように。

「恋人を作る応援をするだけ、自分はただその為の囁かなきっかけを作るだけ。そう、それだけ。その結果自分の金銭が潤い、彼らの恋は実っていく」

「確かに、商売ですね。カップルを一本釣りする商売。確かノルメイアは結婚関連の商売にも手を出していたから、こう言う商売にも手を出すようになったそうですね」

「愛も金で買える、ちょっとカップルの背を押すだけで大儲け。反吐が出る」

 最後にポスターを殴りつけた。その眼には混沌とした感情が渦巻いて、正体は分からない。

「それが、あんたがラルシアを嫌う理由?」

「ええ。他にも沢山、あの女が気に入らない理由で語るなら山の様に。いくら吐いても飽き足らない、会っても口から出て来るのは金、金、金金金! 本当に」

 そこから先はない。多分、それでも二人は“親友”なのだろう。全力で憎み合える、絆を断ち切る事を厭わない、絆と外れた何かで結んだ友情。

「でもさ、ラルシアも意地が悪いな。友達が嫌いな話題を平気な顔で出すなんて」

「だって、そうでもしなきゃあの子が私に勝てるものなんて、他には何一つとしてありませんもの」

 思わず、ティンは当然としてマリンすら硬直した。ラルシアが唯一勝てるということに、何よりラルシアがそんな唯一勝てる手段に固執していることにマリンは何より驚いて。

「彼女が、そこまで貴方に劣等感を持っていると?」

「さあ? 少なくともあの子、中身は基本的に空っぽですから。一生懸命何かあるフリして頑張ってるだけですわ。昔から、ずっと」

「何でそこまで分かるんだ? あんたラルシアの何を知ってるって言うんだよ」

 口調が攻撃的だが、ティンとしてはルメアの言っている態度が妙なことに気がかりだった。ラルシアを嫌っている、まではいいとしても続いて出てきたのは哀れみにも近い許しの態度。

 だがルメアから出てきたのは、何より信じ難いもので。

「知っていますわ、だってあの子から言ってきたのですから。“自分の技術を渡すから、見返りとして人の感情を教えてくれ”と」

「何、それ。ラルシアが、そんな取引を望んだって」

「ええ。昔は感情の起伏に乏しい所か全く感情の動きがありませんでしたからねぇ。空虚な自分を如何にかしたくて、明確に自分と言う物を持っている誰かの物真似をして生きている。それが、ラルシアと言う女の真実ですの」

 聞いて、聞かされてまず最初にティンが思ったのは。

「あんた、本気で性格悪くないか?」

「あら、寧ろこれは正当であるとすら思っていますわ? あの女、お返しだと言わんばかりに人の嫌がることをネチネチと。どっちが悪党やら」

 素直に、ルメアと言う人間が少しと言うよりかなり歪んでいると思えた。確かに、彼女達は所謂こういったノーガードの殴り合いを続けて築いた友情なのかも知れないが、それにしてもな部分がティンには感じられた。

 だからこそ、その在り方を見た感想を彼女に。ルメアに送り付ける。

「あんたとラルシアは、似ているだけだ。そっくりじゃない」

「ええ。あの子の物真似はただのリスペクト、私に似ても重なりはしませんわ」

「でもあなたとラルシアさんは対等なんでしょう?」

 マリンがつなげる。

「そもそもの繋がり方を聞くにそう思いますね。ルメアさんはラルシアさんに言葉遣いや感情の起伏を教えた、代わりに貴方はラルシアさんから技術を受け取ったんですよね。商人から受け取れる技術、話術や処世術とかですか? なるほど、ライフォールのお嬢様が冒険家をやれるのはそう言ったカラクリが元なんですね」

「ふん、私このおばさん嫌いですわ」

「おばさんは嫌われてなんぼ、とはよく聞きました」

 マリンの言葉にルメアは至極つまらなそうに舌を打つ。このやり取りを見て、いわゆるこれがルメア流の遊戯なのだとティンはやっと気付いた。つまり、ラルシアと同じ口先で相手を弄る遊戯。知って思うのは、ラルシアのそれよりもはるかに上回る悪辣さだ。

 ラルシアは強引で一方的。故に穴が多いし立場なども手伝って本当に強気で出れない部分もあるし、何より彼女のはただ言いたいだけなところもある。

「あんた、本気で性格悪すぎないか? 人の嫌がる話で盛り上がるなよ」

「あら、ラルシアの壁と話すような代物に比べれば大分マシかと。私のはちゃんと相手の反応を見ますわ? 対話とは、元来そう言うものではなくって?」

「まず殴り合いの話を止めろよ」

「ふふふっ、会話と言うのは互いに己と言う存在を刻み合うもの。相手が傷つくのを恐れて話題を選ぶなんてナンセンス、私は相手がより興味を抱きそして黙り込むくらいが丁度いいかと」

「こいつ、絶対相手の返事を期待してねぇ」

 ティンの突っ込みにルメアは楽しそうに含み笑うのみ。ラルシアの様に黙らせる為に話すのではなく、ただ話したいだけのルメアの方が目的の無い分余計に性質が悪いと気付く。つまり、相手を蹂躙する気のあるラルシアと、一方的に反撃前提で殴りこむルメアと言う事だ。ならば、彼女がラルシアの秘密やら何やらをペラペラしゃべるのはある意味道理。

「ラルシアが言っていませんでしたか? 言わせる方が悪いと……あれ彼女に教え込んでボコボコに叩きのめして当時7歳のラルシアを泣かせて部屋から追い出したのは今でもお笑い草ですわ。特に10年以上たった今でも根に持ってるらしくて、その話をすると暴力に訴え出るのです。嫌ですわぁ野蛮人は」

「ああ、出会った当初から攻撃的なのはお前が原因かこんちくしょう」

「7歳の時に言い負かされて泣きだすなんて、彼女に真っ当な人間性があったんですね」

 マリンはマリンで幾らなんでもラルシアに対して失礼にも程があるセリフを口にしていた。少しホンワカしているのは性格か或いは50年以上生きた故の歳の功か、ティンとしては一応友人として彼女の名誉の為に後者であって欲しいと祈る。

 さてはて、一行はそんな会話を行いつつも祭りの中を歩き行き成り男二人組と遭遇して。

「おう、ルメア! そっちは楽しんでるか?」

 などと声をかけられたのである。即答の返事は無い、ティンとしては見覚えの無い人だったしマリンは足を止めてはいるものの完全無視の構え、ルメアはビキンと急停止。まるでどこぞの誰かみたいにピンポイントで時間停止でもうけた様に凍りついて動かない。

 そんなやり取りをしているとティンはふとその二人組に、程度の差は激しいが見覚えがある気がした。片方はやたらでかい、190はありそうな体躯のザ・冒険家な格好だ。髪は短いがほぼ放置気味でボサボサ、が故に燃え上がるかのような赤い髪を組み合わせることによって正に炎みたいな頭となっている。

 もう片方は更に既視感が強い。冒険家と同じ赤い、と言うよりは朱色に短い髪、だがこちらはやたら整っていて一言で表現するなら何処かの騎士様みたいだ。背丈は冒険家と比べて随分低い、170を超えたくらいか。尤も163のティンからすれば十分大きな体だ。

 そんな二人を見比べてティンは更に考え込んで何処で会ったのかと考え込み始め、答えが颯爽と朱色から出て来る。

「マリンさん、今日仕事は休みですか?」

「はい、火之志さんは?」

「俺はまぁ、一応仕事です。見回りの最中で。あ、一応紹介します。こっちは俺の兄です」

「ああ、俺は鳳凰龍二。火之志の兄貴だ!」

 火之志の紹介により、龍二はあっさりと名乗りあげる。そこでティンは漸く彼らの事を思い出し。

「あ、ああー! そうだあんた、ルメアの後ろについてきたデカブツ! あと女王様の恋人さん! 居たんだ!」

 今になってやっと彼らと言う存在に気付いたティンは納得と言った様子を見せ、剣の束に手をかけて首筋に物騒なものを置こうとする誰かの動きを阻害する。見ると、見た事ないような冷え切った眼をこちらへと向けて来るルメアがそこに。

「で、ルメアは何してんだ? 良かったらさ、何人か俺のだちがこっちに来てんだけど、俺と一緒に来るか? 折角だしルメアの事を紹介したいんだ」

「折角ですが龍様、私は遠慮しますわ。男性には男性特有の付き合いがありますし、私には私の付き合いがありますし」

 笑顔で返すルメア、しかし見えぬように設置された手の先には細い毒針が出ており、ティンへ脅しの為に置こうとしたが剣の鞘で邪魔されている。まるで初めから知っていたとでも言うように。

「なるほど、これが自己犠牲を演じる“良い女”って奴ですか。確かにこれではただ都合の良い女ですね」

「黙れババァ」

「理解力の高い良い奥さんですよって奴? マリンさん、ああ言うのって実際どうなの?」

「黙れてめえら」

 マリンとティンの直ぐ側で展開されるヒソヒソ話にルメアが逐一突っ込む。尤も、目の前の兄弟にさえ聞こえてなければいいとばかりに、寧ろルメアにだけ聞こえる音量で言葉を交わしている。

「でもルメアはいっつもそう言うけどさ。確かに俺としても、女友達なんてルメアくらいしかいないしあいつ等の輪に入れて如何すれば良いのか分からないけど、このままルメアばっかのけものにするのは間違ってるって思うんだよ」

「龍、様」

「ああ、これは騙されてますね。純真な青年に汚れ切った乙女心を擽られてますね」

「成程、惚れた弱みって奴か」

「手前ら後で心臓止める」

 龍二の説得に思わず胸を打たれたルメアだが、直後の会話によりその余韻は完全に砕かれている。しかして口を挟むのは。

「兄貴、いい加減にしろ。ティンさんは今俺と同じ仕事中なんだ、あんたの我儘に全員付合わせるんじゃねえ」

「何だよ火之志、お前は嫌なのかよ」

「そもそも俺も仕事中だ。ったく、何で見回りの最中に馬鹿兄貴の面倒を見なきゃなんねえんだよ」

「火之志君、実のお兄さんを悪く言うものではありませんわ。それに龍様の意見にも一理ありますし」

 悪態づく火之志を微笑みを浮かべながら宥めるルメアを見て、ティン達は。

「あれって完全に自分の男にケチ付けるとか殺すぞって思ってるよね」

「ええ、或いは義理の弟のフォローして良い女アピールですね、あざとい方です」

 等と言う陰口叩き合っているとどかどかと足音がこちらに近づいてくる。そちらに目を向けるとこれまた見覚えのある男がいて。

「おい、手前ら馬鹿兄弟……俺一人に買い物行かせて手前らナンパか? 良い度胸だな、次のじゃんけんには一発拳でも入れてやろうかこの野郎」

「お、格摩! 戻ったのか!」

 茶髪で髪の短い、龍二に負けない体躯のスーツっぽい服を着た男。何処かで見た気がして、しかしてすぐに思い出した。

「格摩、格摩じゃんか! 久しぶり、え何あんたも居たの?」

「いや待ておいこら、何でティン手前が此処にいる!? おいこら龍二、お前こいつと知り合いだったのか!?」

「それは俺の台詞です格摩さん。ティンさんをご存じで、いや待った。一旦場所を変えましょう、剣斗さんも待ち草臥れているでしょうし」

 そこで火之志が溜息交じりに移動の提案をしたのであった。

 んじゃまた。

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