祭りに咲かせ綺麗な徒花
ちなみに今頃闘技場では鹿嶋VS水野の試合が始まっていることでしょう。
「いやさ、ぶっちゃけさ。あれは無いよね、いくら何でもさ戦闘機は無理だ」
ティンは闘技場で敗北すると速攻でその場を後にして、適当なベンチで食事をしていた。マリンはスパゲッティを、そしてラルシアはもっそもっそサンドイッチを口にしている。しかし
ティンの愚痴とも言える台詞に返す台詞はといえば。
「ああ、すいません。レポート書いてたので見ていませんでした」
「それ今もだよな!?」
ラルシアは今もなお携帯電話を取り出してはカチカチとメール、いやこの場合レポートを書いているのだろう。マリンはと言えば。
「結構いい勝負だったと思いますが。何方が勝ってもおかしくは無い、緊迫感に満ちた試合だったかと」
「終始不利だった気がするの、あたしだけ?」
マリンの言葉に突っ込むと、彼女は黙ってスパゲッティを頬張っていく。それを見てティンはまあいいとして一番突っ込みたい事に対し。
「で、何でここにいるんだよラルシア!」
「あ、今電話よろしい? もしもし私です」
「人に許可聞いといて待たんのか!」
とそこでティンはラルシアの行動に突っ込む事をやめ、自前でかったチキンステーキを頬張った。そんな一行は食事を終えると。
「んじゃあ行くか。で次どこ行く? っつかお前、何でついてきてんの?」
「ふん、私が何処の誰についていこうと私の勝手ですわ」
「あ、そ」
ティンはため息混じりに言って前を向いて歩き出す。さてと言って次の目的地に向けてあしを向ける。そんな彼女の目前、まるで出鼻を抉るように一人の女性が現れる。
彼女は偶然此処に現れただけらしく別段ティンにもラルシアにも気にかけず、退屈そうに欠伸をしながら歩いていた。そんな彼女に、後悔することになったがそれでも思わず声をかけてしまったのである。
「ルメア? あんた一体こんなとこで何してんの?」
「……は」
呼びかけたとしても、此処で彼女が気付かなければこれ以上は無かったのであろが、まさかの振り返っての返事がきてしまい更に状況を見て。
「ふんラルシアにえーとメアリーだか何だか、ああティン? 擬音みたい名前ですこと」
「……言うなよ、そう言うの」
いきなり飛んでくる名前弄りにティンは怒るよりも呆れの思いがよぎった。確かに女性名的になどと思った時もあったが他人にとやかく言われる筋合いは皆無というものだ。
しかしてルメアはティンのことを僅か数秒で眼中の外に置いてラルシアの方に向けている。対面し合った二人は出会い頭に。
「お久しぶりで」
「貴方まだこんな所に寄生してらしたの?」
「すわねルメア。ご機嫌麗」
「私を無視しないで下さい、本当に相変わらずですわね。それでよく客商売出来るものでしたわ、私逆に感心致します。後学のためにも教えて頂けません? そこまで厚顔無恥の自分勝手に唯我独尊で商売出来るのか、ああれは商売ではなくゲームでした? あらごめんなさいなら貴方に聞いても分かるどころか何も学べませんわね、あと失礼貴方が私を延々と喋らせるので喉が渇きましたとっと茶の一つでも用意して下さい、得意でしょうそうやって他人に媚びへつらって接待するの、あ接待ではなくただの脅しでしたか」
「もう帰れよ」
本当につらつらと並べる罵詈雑言と文句に次ぐ文句。ティンとしては本気で頭が下がり思わず帰れと言ってしまったが出口までエスコートして『二度と来るな』と別れの挨拶を送りたくなる次元である。
「誰が好き好んでここに来るものですか」
「大丈夫誰もあんたに来て欲しいと思ってない」
「残念、います。その人の誘いでしてよ」
「じゃあとっとそいつのとこ行けよめんどいなラルシアも役に立たないし」
ティンが鬱陶し気に返すとルメアから恐ろしいほどに殺意の籠った視線が返されてくる。何故にと思っていると今度はラルシアから鼻で笑う声が。
「出来るなら最初からしていませんわ。出来ないから、こうして一人で暇そうにしてるんじゃないですか……ねえ、自称“良い女”のルメア・ライフォールさん?」
「ラルシアァ……貴方、一週間ほど死体になりたいのですか?」
「死体? そんなのどうやって」
「一週間、服用された瞬間に全肉体の筋肉が麻痺する猛毒薬でしょう? この女の手にかかればこの街が毒霧に沈むのだって3時間もあれば、出来ないわけはないでしょう?」
ラルシアの言葉にティンの表情が固まり、ルメアはまるで肯定するように微笑んだ。ティンの脳裏にはかつてルメアと初めて会った時の事がリフレインする。そう、初見からいきなり不意打ちに叩き込まれた毒針で沈められた時の事。
あの時も猛毒の花畑を作っていた、更にラルシアに連れられたあの武器市場であった時も毒を操り、更に怪我人の治療までしていた。彼女の人間性はよく分からないが毒を直ぐに撒き散らすような人ではない……と。
「いやーどーだろ、この人ならやりそう」
「ご要望とあればすぐにでもこの街を地獄に変えて見せましょうか? 何、魔法で作る薬は、魔法だからこそと言う物が非常に多くてですね」
「は。出来もしないことを。いや、決してやらない事をさも当然のように、何時でも出来ると吹聴して回るのは止めなさいな」
またもや挑発するラルシアに肯定するように睨み付け、歯を食いしばるルメア。しかしてティンは思わずラルシアに向けて。
「いやいや、こんな生きる爆弾みたいな人をやたら挑発するなよ。もしも本当に爆発したら」
「あり得ません。ねえ、自称“良い女”さん? 良い女が、惚れた男が楽しんでいる祭りをぶち壊しになんて出来る訳がないでしょう」
「黙れ」
即答するルメアの声は恐ろしく冷たいものだった。だがラルシアは何一つとして気にした様子もなく。
「本人は強がってますが、本当なら好きな男と腕を組んで恋人のように祭りを歩いて回りたいのでしょう?」
「黙れ」
「でもいない。自称“良い女”だから、自分以外の誰かを優先する男に、自分は良いからと行かせたのでしょう? 男には男の、女には女の世界があるからと物分かりの良い振りをして」
「黙れ」
「美しい愛情ですわねぇ。自分の欲望塗潰して相手の事を尊重する、私には出来そうもない自己犠牲ですわ」
刹那、ルメアの毒針の針先とラルシアのヴァニティ・ゼロの切っ先が互いに激突し合う。
「それって、だだ都合の“良い女”って奴じゃないの? そんな男にとってだけの都合の良いって言うのさ」
「恋も知らないガキは黙ってなさい」
「どう考えても利用されているだけですわね、尤も相手方にそれだけの知識があるのかなんて知りませんが」
「ちっ……所でラルシア、そろそろではなくて?」
「は? そろそろとか一体何の話ですか?」
と返すと同時に鳴り出すラルシアの携帯電話、更にラルシアが取り出すと同時にデュークが現れ。
「お嬢様」
「ヘリは」
「街の外に」
「excellent」
煌めく金髪をかき上げ、ラルシアはデュークを引き連れて街の外へ向かって歩き出す。
「それではティン、また明日」
「え、あ、うん明日……じゃマリンさん、行こうか」
「はい」
と言ってティンとマリンは一緒に動き出すのだが、その影が自分を含めて3人あることに気が付く。振り向けば、何故かルメアが後ろからくっ付いて居ることに気が付いて。
「何で居るの?」
「問題でも」
「いやだって、何で? うちらと一緒に行きたくないんじゃなかったの?」
「誰が言いました? 私が誰と何処に行こうと、私の勝手でしょう」
そう言うと手をプラプラ振り始めるルメア。一見すると退けと言っているように感じるかもだが前後の会話と対応を見るにさっさと前へ行けと言うことなのだろう。ティンは同行者のマリンと顔を見合わせるが。
「何をしていますの? 貴方、この祭りの実行委員側。つまり警備でしょう、例え名ばかり警備でもあらゆる場所を訪問するべきでは無くって?」
「いや、そうだけど。いや、でも何でそれ知って」
「それは、一応ライフォール家もこの祭りのスポンサーだからでは?」
「え、そうなの?」
「知りません。あなたに言った記憶は微塵もありませんが、私はライフォールから既に勘当された身ですわ」
とルメアは返し、今度は彼女が先に歩き出す。
「え、いや、あの、良いのマリンさん」
「良いも何も、私的には何でも良いのですが」
「ええぇ……」
「早く来なさい、私を待たせないで下さい」
マリンと話してると先行していったルメアから催促を受け、渋々と言った調子でティンはルメアとマリンの同行を受け入れることに。
「ふん、全く……そう言えば、そこに居るのはメイドですか。仕事は?」
「今日は休みです。有給です」
「そうですか、売女の分際で良いご身分です事」
「ば、売女ぁっ!? あんたね、幾らなんでも言って良いことと悪いことがあるよ!? ねえマリンさん」
いきなり飛び出る問題発言にティンは早歩き気味に追いついてルメアの言い方に怒り出すが、当のマリンはそんなに怒ってはおらず。
「そんな事言われたの、生まれて初めてです……メイドとはそう見られる職業なんですね」
「いいのか、それで。と言うかあんた、メイドをそんな風に見てたのかよ」
「あら、私の知ってる殿方の半分以上は愛人と言えばメイドの事ですわ。何せ金で黙らせられるし、何より雇い主なら殺すも生かすも主人次第ですし。ある殿方は言いました、『気に入った娘が欲しいなら簡単だ、適当に金を用意してメイドにすれば良い』と」
「滅べよそいつ」
「そうですわね、さっさと死ねば良いと思いますわ。私が彼の医療スタッフになれば絶対ばれないように、安楽死させるのですが」
毒盛る気だこいつ、ルメアの言葉にティンとマリンは同時に同じ感想を胸に抱いた。そこでルメアは二人の意図を嗅ぎ取ったらしく。
「あら、毒なんて盛らなくても人間の寿命を縮める方法なんてごまんとありますわ。栄養士と薬剤師を敵に回すのは止めておきなさい」
「その栄養士はどこに」
「此処に」
きらりと光る栄養士と調理師の資格免許書を見せるルメアさん。この人は一体幾つなのでしょうとマリンはぼうっと考えながら当てもなく一行は流れていく。そんな感じに一行の前に教会が一つ見えてきて、ルメアがその前で足を止める。
「どうしたの」
「いえ、何でも」
「……結婚、ですか?」
眉間に一発狙い撃ち、そんな表現が似合うほどにルメアが急に動揺を見せ始めた。しかし、マリンは微塵も気にせず。
「確か、彼氏さんとの付き合いはかれこれ1年半近くだったかと。でもそれで結婚は少し気が早いような。確かまだ手も」
「何でそこまで知っているんですか!? あの女、あの女ですの!? くっそあのババァ、玩具ならラルシアが居るでしょうに何処まで手広く調べて」
ルメアは手早くマリンとの距離を詰めると毒針を首筋に置きながら胸ぐらをつかみあげる。あまりの早業と、のほほんとしているマリンのおかげでティンは対応もできず、と言うかする気も起きず黙って見守ることにしている。
「ディレーヌ様の道楽でした。本当に調べていたのはあなたの恋人の方であなたはついでです」
「はあああっ!? ついでで何てことまで調べているんですの!?」
「後、教会を見るんですか? イヴァ―ライルで挙式と言うのも」
「黙りなさい! 心臓が一発で止まる治癒薬叩き込みますわよ!?」
「それは嫌です」
「心臓止まる治癒薬って、いったい」
言われた通り黙り込むマリンに未だ肩をプルプルと震わせているルメアは何事もなかったように後ろに振り向くと教会に向かっていく。
「あ、やっぱり中覗くんだ」
「べ、別にこんな寂れた所で挙式なんて考えていま……でも、あの方ならこう言う所の方が好きだと仰るかも」
「それはいいのですが、此処で式を挙げるならまずは相場を見ませんと。まずは中に入って挙式をする時の予約なども確認した方がいいかと」
「え、ええ、そうって何ですか貴方は!? 私は別に今式を挙げるだなんて一言も言っていません! 貴方あれですか、恋する乙女の世話をする中年女性ですか?」
「はい、中年女性です」
顔を真っ赤に染めて叫ぶルメアにマリンはのらりくらりと返し、ティンはすっかり毒気抜かれて。
「んじゃ、入るよー」
何か悶着している一行をガン無視して一人先に扉の中へと入っていく。中は本当にこじんまりとした教会と言う雰囲気で、中には人が所狭しと詰まっていた。その奥、ある一団を相手にしている女司祭が居る。彼女を見てティンはふと見たことがあるなと。
そんな事を思いつつ見ているとその司祭がこちらに気付いてニコニコと歩み寄ってきて。
「あら、ティンさんこんにちは。教会へようこそ、お祈りですか?」
「あ、ああ水穂! 天束の方の水穂!」
「いえ、あの。そう言う覚え方は如何なものかと……一応、氷結さんも少し前までいたのですが」
と言うやり取りの中、マリンやルメアがやっと教会に入ってきて水穂が目を丸くして驚いた反応を見せ。
「る、ルメアさん!? 何で、ライフォールのお嬢様が、此処に!?」
「いえ、正直私はもうあの家とは……え、天束のお嬢様?」
「何、二人って知り合い?」
お互いに見合い、戦く二人を見合ってティンは呟いた。
それではまた次回。