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ドッグファイト

「魔弾の射手を展開して安全地帯に陣取ったしょこたんははっきり言ってよっぽどの例外でも持って来なきゃ撃破がきつい。何せ、一定以上の火力を持った魔法がこれでもかってくらいに展開され、それら全てが追尾弾頭となって追いかけてく上に逃げ切る事は不可能」

「障害物があろうと、あの魔弾を制御するのは熱源探知を素で持ってる火の魔導師こと水野。幾ら逃げようと執拗に魔弾が追いかけ、一気に焼き尽くす」

 伊能と生島は己の旅仲間の彼女が如何に強いのか、如何に頼れる仲間なのかを語る。

「しかも追い詰めればあの通り、数と面で制圧することを捨て、数を絞ることで余裕を生み出して高機動で逃げながら魔弾を撃ちまくれる」

「更にあいつには切り札とも言える隠し玉が三つもあるし、何よりあいつの本気は動き出してから始まるんだ。動いたあいつは正に戦闘機、そんじょそこらのやつに落とせるかよ!」

 生島と伊能の雄弁な語りに有栖とマリンは。

「なるほど、魔弾の射手を展開した水野は正に歩く戦艦、いや要塞あるいは母艦か。自分は安全地帯に身を置き、そこからバカスカ撃ちまくると」

「ある意味、一対一においては机上論の最強ですね。一度展開を許せば余程の例外を持ち込まなければまず破れない。攻略法があるとすれば展開に時間がかかることですか。それも出鱈目に撃ちまくることで抑え込むことで攻防一体を成し展開まで持ち込む……これはティンさんの読み違いですね。彼女はあくまで相手を物理の上で思考したことが最大の敗因かと」

 有栖とマリンは交互に目の前の状況を考察していく。

 ティンは空に陣取る狩人を見上げる。現在、目下の問題は空中に飛び出した水野本人だ。彼女は足下の炎をより強くふかしてよりたかい空に逃げると同時に炎の弾丸を一斉に撃ち放つ。

 現在の砲門は約数十、数百だか数万だかだった時に比べれば随分少ない。高機動と組み合わせ、更に各砲門より秒間数十発の連射さえなければ、恐らくティンとしては喜べる状況だろう。だが当人としては先程に比べて随分と少なく感じたのだ、だが問題としては。

「動きながら撃つなぁぁ!」

 逃げつつ追いつつ追尾弾頭の雨霰、今度 は水野本人の高機動力も加わって恐ろしい弾幕はティンを蹂躙する。

 今のティンは差し詰め地を這い回り追い詰められるだけの獲物というところだろう。空中にいる水野からすれば十分にゆっくりと料理できる距離だ。だがティンにしてみれば一刻も早くこの状況を打開せねばどうにもなdgらない。

 だが、それよりも彼女にとって最も重要なポイントがある。

「どうやって、叩き落とす!?」

 その一言に尽きた。兎にも角にもまずは上で勝ち誇るやつを地に引き摺り落としたい、そんな強い思いが今の彼女の中にある。空高くから、物量にものを言わせた魔弾による蹂躙、しかしティンはそんな横暴な手段に、戦法に、k大きく異議を唱えたい。納得がいかない、こんな方法で、この程度で、たかが空に逃げた程度で。剣が届かない、だからどうしたと言うのだ。

 ティンはそんな思いと共に踏み込むと同時に足元に魔力を送り込んだ。

「ふっざけんなあああああああああああああ!?」

 あまりの気合の入った絶叫、見ている者達は釣られそしてティンのその行動に何の意味があるかは人それぞれで感じることであろう。そしてその直後、彼女は真上目掛けて跳び上がった。

「え」

「まさか!」

 有栖と水野はすぐにティンの意図を理解する。そうだ、剣がどうあがいても届かないと言うのなら届かせればいい。届けに行けばいいのだ、直接懐に飛び込んで。

 そして行うティンの行動は早い。魔弾が追いつかない速度で空中を駆け、いや光の魔法で床を生み出し跳躍しながら跳び抜け、水野にこの刃を以って切り裂くだけだ。そんなことを思いながらティンは空中に展開した光の物質化の魔法で足場を形成し、真後ろから迫る魔弾の群れを無視して真っ直ぐに水野へと。

「んなもん!」

 が水野は当然認めることなくティンから逃げながら弾幕を展開する。前から無数の弾幕、背後からも数え切れないほどの追尾弾頭の魔弾、どちらにしてもティンは前進あるのみだ。

 足元から火を吹き出し、水野は追いかけるティンを見ながらとにかく炎の弾丸を撃ちまわりながら逃げていく。しかし闘技場のフィールドは半円系、半径20mとなっている。故にその軌道にも大きく制限がかかる。

 しかし水野は背を向けたまま下に地上すれすれを飛んでティンから逃げ回る。

「ファイア」

 その最中、幾つもの魔法陣を展開しミサイルの発射準備をセットし。

「ミサァイルッ!」

 水野の叫びと共に一気にミサイルの大軍を発射する。ティンは光と同調しつつ、風を切り抜けながら前後より飛び交うミサイルを見て、更に速度を上げて突き抜ける。

 光の足場を踏み込み、自分に殺到し集中するミサイルを上に跳び逃げ、更に逃げる水野を回り込むように宙を駆け、縦横無尽に己を追い掛け回すミサイル群を見て舌を打ち、逃げる水野に目を向ける。

 その瞬間、さらに追加されるミサイル。ティンはそのミサイル群へと迷わず突っ込む。

「直撃しなけりゃ!」

 当たりさえしなければいいと様々な軌道を描き、しかして全てが自分に向かって来るミサイルだ、群れの中を被弾無しで突き進む方が困難。更には当たらずに通り過ぎていくミサイルが軌道を曲げてティンの後を追い掛け回す。ティンは5倍速で動く中、光足場に込める魔力を多くして壁として設置し、その壁にぶつかって幾つかミサイルが誤爆。

 しかし魔弾の名は伊達ではない、直ぐにティンが置いた足場を避けて回り込んでくる。目の前を過ぎては回り込んで戻って来る幾つものミサイル、ミサイルの通った後を描く白い線が幾つも自分を縛り上げようと絡んでくる。

 真っ直ぐに飛んで来るミサイルを避け、そこを塞ぐように別のミサイル、避けたらジグザグに飛んで来るミサイルがピンポイントで突っ込み、剣で切り落して先に行く。爆発する頃にはティンは遥か彼方に移動している為爆発にはさほど意味がないが、しかし火の魔法に触れた時点ですでに意味があるのだ。

 それでもティンはまずはと異常な熱を持ち始める剣を置いて先に水野の下へと駆け抜けていく。当然その後ろには相も変わらぬミサイル群、そして前方からは牽制の為にばら撒かれる弾幕だ。

 ティンはミサイルと弾幕の中へ飛び込み、上に避け下に避け右に避け左に避け上に下に、逃げる水野を追いかけて魔法陣越しにミサイルを踏みつけてでも駆け抜ける。

 身を捻り上に高く跳びあがり真下へと垂直に落ち体勢を戻して地を真っ直ぐ駆け抜け横にとんで上に飛び上がって、そこにティンは剣に魔力を注ぎ込むと空中まで自分を追いかけ回すミサイルに、空中で方向転換の為に踏み込むと同時に。

「いっけぇ!」

 解き放ち、逃げ回る水野へと追い縋る。背後に起こる爆発を超えてミサイルの弾道をくぐり抜けて飛び逃げる水野へと迫っていく。水野の放つ弾幕をティンは恐れず切り込んだ。

 もはや一種の迷路が如く空間を埋める弾幕、灼熱のレーザー、そして追い立てる無数のミサイルたち。だがティンは何一つ恐れることなく弾幕の中を魔法で生み出した壁を張り巡らせて尚も前へとかけて行く。

 吹き出る炎、爆ぜる爆炎、それらを凌いで水野との距離を詰め。

「万象を灰燼と化す」

 水野は狭いフィールドの中を逃げつつも詠唱を口にしていく。

「炎神の腕よ薙ぎ払え!」

 早口気味に唱えた呪文に書き上げた魔法陣を構える銃の中へ弾丸として詰め込み。

「セット!」

 ミサイルに追いかけられやっとの思いで弾幕をくぐり抜て来たティンに向け。

「ターゲットインサイト、ファイアッ!」

 更に加速しつつ、真後ろから迫る標的めがけて。

「エェェェェクスプロォォォォォォドッ!」

 ティンが剣を構えた瞬間、水野は火属性中級上段魔法であるエクスプロードを放つ。放たれた魔法は弾幕に混じりティンがその魔法陣を通り過ぎたと同時に大爆発が巻き起こった。

「なっ、がっ!?」

 いきなりの事過ぎて咄嗟に加速して爆発の衝撃と中心から逃げることしか出来なかった。が、それでも中央から出来うる限り退避してその炎と衝撃波から辛くも逃げ出して更に水野へと。

 距離を詰めようとした瞬間、幾つものミサイルが鼻先を掠めて幾つか爆発を起こす。水野が放ったものか或いは回り込んで来たものか、分からないが、起きた爆発に飲まれて行動を止めれば更なる爆発に身を焼かれる。それをわかっているが故に炎を纏いながらでもティンは光の足場を踏み跳び逃げる水野へ。

 激しい二人の空中を地上を所構わず繰り広げられる鬼ごっこのような試合を見て誰かが呟いた。まさかと、人間同士でこんなことが起きるものなのかと。

「これは、まさか。ドッグファイト!?」

「本当だ、魔導師と剣士の二人によるドッグファイトだ!」

 ドッグファイト、多くの意味が戦闘機による空中戦のことである。語源は単純に『敵機の背後に回り込んで撃ち落としあう様が犬が尻尾を追いかけ合うようだ』と言う所からである。空中を舞台に展開される鬼ごっこのような戦闘、確かにドッグファイトとも言える。

「す、凄い! まさかこんな即席の闘技場で、それも魔導師と剣士によるドッグファイトがお目にかかれるとは!」

「あの剣士、どんな絡繰で加速してんだ!? でもすげえ!」

 そんな活気を関係無いと二人の追いかけっこは終わらない。逃げる、逃げる、逃げ回る水野とティン。水野は円の動きを基調として常にティンとの間に直線上に接近しない様にと飛び回っている。ティンはティンで水野が剣線の中に入る様にと調整して飛び回っているのだ。しかし入れたとしても追いかけてくる魔弾とミサイルがティンの軌道調整を乱してくる。もしも不意に水野に切りかかれば背後の魔弾によってティンは燃え尽きることだろう。

 それでもティンは幾つもの光の壁と言う置き土産を用意しつつ、それも次々に魔弾で砕かれていく。どうやら光の壁を幾つも作って水野を閉じ込めると言う作戦も実行出来そうにない。

 ティンはそれでもと水野を追いかける。追いかけ続ける。回り込んでくるミサイルの群れを首を引っ込め身を反らし跳び退けて光の壁を生み蹴り付けて跳躍、更に水野へと向かっていく。水野も黙って接近など許さない、迎えるように魔弾の弾幕を繰り広げる。

 魔弾の射線軸を起用に避けて回り込み、円の動きで水野を追い込んでいく。その速度は既に音速へと手を届きかねない程に、しかしそれ以上に苛烈な速度で水野は逃げ回っていく。更に逃げながらも追いかけるティン、それを見て水野は。

「追われてるって、いい気分だよね」

 音速に至ってる、至りかねない程の速度の中で水野は唐突に喋り出す。当然のように物凄い轟音が二人の耳を塞いでいる為声なんて届いていないが、何か喋っているのは分かる。

「自分が上だって、分かるもの」

 即ち、それこそ支配者の気分だ。自分が道を作っている、後の者達が行く道を己の手で作っていると言う支配欲から来る満足感。自分は彼らに追わせているのだと。

「でも、たまには」

 言った直後、水野は速度を少し落してティンとの位置調整を行う。これによってティンは水野に刃を届かせ易くなるが如何せん釣りの匂いが強い、思わず躊躇しているとティンの目の前から水野が消えうせる。

「え!?」

「自分が追う立場になってみるのもね!」

 声のする方へ、下へ向けると水野がティンを直線上に置き、一気に弾幕を展開する。ティンとしても願ったりかなったり、逃げる事無く水野へ距離を迫るが突如目の前に爆炎が置かれ、ばら撒かれたミサイルが360度全方位を囲むようにティンに殺到し。

 そこでティンはマントを外し、魔力を送り込んで目の前の爆炎を強引に突破した、瞬間。


「至近距離、取った!」


 真下から攻める水野の顔面にカウンターの一刺し、そう思っていた矢先に水野は既にティンの真横を陣取っている。彼女は真下へ落ちる為に頭を下にしている、幾らティンの体が柔らかろうと、此処から光の壁を運用しての姿勢制御は困難。

 更に、駄目押しが如く展開される炎の魔法陣達と銃身に砲身。

「魔力を絞るだけ絞る!」

 それらが一気に火を噴いた。当然、目前にいるティンは成す術もなくそのまま巻き起こる爆炎の灼熱地獄に飲み込まれ。

「遠慮すんな、全弾貰ってけぇぇぇッ!!」

 魔法の銃撃で全弾とはどのくらいなのか、そんな事がどうでも良くなるほどの気持ちのいい一斉放火、更には次々とミサイルがティンの体に直撃して遠く遠く、フィールドの壁にまで叩き付け、水野はそこまで足元のジェットを吹かせては目前に迫り。

「ドラム、ファイアァァァァッァァァァァァァッッッ!!」

 至近距離ファイアミサイル、フレイムショット、ブレイズレーザーによる一斉射撃。灼熱と爆炎、空気も世界も全てを焼き焦がす業火の集中砲火が剣士一人の体に叩きつけられた。銜えていた煙草なんて既に水野の炎の中に飲まれて灰すら残さず焼失している。

 あまりにもやり過ぎな攻撃を終えた後、地上に降りた水野は焼け野原となった闘技場のフィールドで背伸びしつつ一言。

「あー、咽そうなくらい焼け付く焦げた香……凄くいい」

「それただの放火魔」

 やり遂げた、そう言わんばかりに深呼吸する彼女に、観客の一部が突っ込んだ。

 え、ティンが可哀想? 何時も首ちょんぱで勝ってるんだしいいじゃん紺ぐらい。でもミサイル1000発ほど直撃したけど絶対5発くらいで気絶ですよね……。

 んじゃまた次回。

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