お祭りだよ騒いで回ろう
結野は手にした容器に入った丸い物を頬張っているとティンが。
「ゆ、結野、何やってるの?」
「祭りん中歩いてるだけなんだが……」
「肉、食う?」
「わりぃな餓鬼、あたしは肉を食えないんだ」
ティンの問いに結野は残念そうに返し、差し出された肉を悔しげに押し返す。
「肉が食えないって、病気か何か?」
「いや、体が受け付けなくてな。脂っこいのは駄目なんだ、母親の影響でな」
「母親の影響って、もしかして」
結野の告げる母親を起因として肉料理への拒絶反応。それはすなわち。
「おう。母親も同じ体質でな、ぶっちゃけ遺伝。一日一食に付き肉料理は一回のみなんだ。それ以上食うと、吐く。調理法次第じゃ一日それだけでもう食えなくなる」
「よく今まで生きてこれたね!? 肉が食えないってそれこの世の破滅じゃん!」
「お前はドンだけ肉一色な人生なんだよ……一応、体調さえ良けりゃよっぽど酷いもんじゃなきゃ食えるよ。これでも冒険家やってるからか、ある程度のもんなら胃が受け付けてくれるしな」
「なるほど、その低身長は生まれつきと言う事ですか」
と、マリンが締めた。そこで結野はマリンを見ると。
「はい、体の成長率に加えて脂っこいのはどうも苦手で。一応酒は飲めるので体調に気を使えば何とか焼き鳥5本はいけます」
「いや待て、何故マリンにはそんな敬語を使うんだ」
「あ? 年配の年上に敬意を払うのは当然だろ、餓鬼には早いか?」
呆れたように返す結野にティンは軽く驚きつつ焼き上がった串焼肉を林檎から受け取り。
「え、ちょ、まって、マリンが年配の年上だって何で分かるの!?」
「は? お前何言ってんだ?」
結野は意味が分からんとばかりに返し、ティンが分からんと訴える表情を見て何かに思い至ったような表情に変化する。ティンとしては隣に立つ女性、マリンの外見年齢をもう一度見る、魔力を持った人間はその精神年齢に連動して見た目の変化が非常に緩やかになり、人によれば完全に停止するらしい。
よって、マリンの実年齢54だが見た目は20代中盤くらいだ。そんな彼女の見た目を見て何故年配の年上だと分かったのか。そう思っていると林檎から。
「ティン、お前はもしかして魔力年齢が分からないのか?」
「魔力、年齢? 何それ」
「魔力は基本的に無意識に垂れ流しにせざるを得ない部分があり、その魔力のオーラを感じる事によって魔力の年代を把握できる。それはどれほど強力で濃厚な魔力であろうと無関係な部分で魔力が形成、生成されてからの年代を感じ取れる。それで相手の年齢の大凡を分かる事が出来るのを、魔力年齢と言うものだ」
「え、あたしそんなの感じた事が無いけど」
林檎の解説にティンはより分からないと返すが結野と林檎はお互いに顔を見合わせて頷き合うと。
「お前、魔力不感応障害者か」
「そうか、通りでそんな魔力を駄々漏らしなのか」
林檎が確信して頷き、結野は納得と言う感じに頷く。
「え、結野あたしってそんなにやばい?」
「やばい。すんげぇやばい、お前って気ぃ抜くと太陽みたいにピッカピッカしてる。通りで最初会った時やっべぇ空気でてんなーと思ったわけだわ」
「な、なるほど。ところで林檎、ちびじゃり呼ばわりはスルーなの?」
「突っ込みたいが、まあ彼女になら別に構わん。見た目に難がある物の、彼女は瑞穂や火憐に匹敵する大人だ。なら、私は十分若輩者だろう」
少し納得行かなそうに林檎はそう締める。扱いに文句はないが、呼び名に納得がいかないのだろう。そこで林檎の焼いていた肉が全て焼きあがったようで。
「ほら、焼肉串。これで合計15本だ」
「ども」
ティンは受け取ると札に書いてる分の金額を支払うと感涙に震えるように肉に食いつき歩き出す。
「おい餓鬼、飯くらいどっかに座って食え」
「そうですよティンさん。結野さんの言葉は悪いですが、彼女の言葉は非常に正しいです」
「う、そ、そうだね……よし、他に何か買おう」
結野とマリン、二人の年上コンビに突っ込まれてティンは歩きながら更に何か買えないかと周囲を見渡して祭りの中を歩いていく。人混みの中を掻き分けてそして結野が。
「へぇ、フリマなんてやってんだ」
「あ、本当です」
ある場所に立ち止まり、マリンも続き、ティンはたった一人で近くで見つけた焼きそば屋で焼きそばを買っていた。
「あ、肉マシマシで。で如何したの結野」
「フリマだよフリマ。元冒険家の稼ぎ時だよ、見よ見よ」
「稼ぎ時って?」
「昔の冒険家の使っていた古い衣類や道具などを売っています。用途さえ間違えなければ掘り出し物が見つかります」
マリンが親切丁寧に解説していくと早速物色している結野に。
「結野、服なんているの?」
「タコ、このロリ服つくんの金かかんだよ! こう言う古いの改造すれば十分良い線行くから、こう言う古着の安売りは一種の生命線なの!」
「彼女はどうやら本当に熟練の冒険家みたいですね。凄いです」
結野があれこれと服を選んでいるのを見てマリンは感心するように頷いていた。
「マリン、あれで熟練かどうかって分かるの?」
「はい。冒険家に重要なのは如何に節約するかです、彼女みたいに安くモノゴトを済ませるかと言うのを完全に理解している方はとても少ないのです」
「……ちなみに、マリンからすると結野って如何見える?」
「そうですね。体は小さいですが感じられる魔力年齢からすると凡そ20代前半でしょう、見た目と組み合わせて21歳と見ました……合っているでしょうか?」
ティンの質問にマリンはそう返す。合っているかと言う点についてはぶっちゃけどんぴしゃだ、違う事無く当てている。
「うん、確かまだ21の筈。凄いね、そこまでわかるんだ」
「おいそこ、お前らこっち来い」
「いや結野、あたし達はいらないんだけど」
服選びに勤しむ結野を遠めに見ていたマリンとティンの下に結野がやって来るとマリンの手を引いていった。ティンの返しに結野は。
「お前じゃねえ、そこのメイド服着込んでる人」
「私ですか? 私は」
「いやいや、仕事でもないのにメイド服着てるって事は服が無いんでしょ、今着てるそれ以外。でなきゃ、普通なら今も館で働いている筈のメイドさんが主人の下から離れて祭りを楽しむとか普通に無いしな。」
結野はそう言うとマリンの手を引いて適当な服を彼女の体にあて――ようとして、身長が足りないので苛立つように地面を蹴って足場を生み出し、しかしマリンは当てられた服を受け取ると結野は少し不機嫌そうな表情をした。
マリンは微塵も気にせず、幾つか服を当てるとある意味当然の意見を口にする。
「鏡は何処?」
「今作る」
指をパチンと鳴らすと地面から飛び出る美しい鉄の板、見事な鉄の板は対面するマリンの姿を映し出し。
「えっと、試着」
「ほら」
また響く指弾き、地中より飛び出る鋼鉄の箱。地味にスライド式のドアとなっており、結野は下げてる鞄に手を突っ込むと懐中電灯を手に取り鉄箱に投げ込む。懐中電灯は鉄箱に当たるとそのまま壁の中に飲み込まれ、やがて天井から光が付いた状態で出現する。
マリンは次々に出される鋼鉄のお着替えセットに目を白くさせつつも早速即席試着室へと入り、直前で結野は鉄で出来たハンガーを手渡す。
「いたせり付くせりですね」
「ねえ、普通にケーお君じゃ駄目なの?」
「ケーお君はああ見えて鏡も無いし、ロッカーもないから不便。あれって用は時間無い人用のお着替えスペースだし」
結野はそう言うとマリンが試着室の扉を閉めた。そして結野はまた服装選びに戻っていく。ティンはつまらそうに肉を一本頬張った。
「だから立ったまま食うなっつってるだろうが、服が汚れたら如何する気だ手前」
「そうですよティンさん、お行儀が悪いことしてはいけません」
と着替えが終わって出て来たマリンが結野に続いてティンを叱る。流石にティンは自重してフリマ広場から外に出て、ベンチに座って焼きそばを啜りながら待っているとやがてマリンと結野が待っていた。
「悪いな、待たせた」
「はい、メイド服以外の服に袖を通すなんて本当に久しぶりですよ」
と、何処か嬉しそうにマリンは実年齢にも肉体年齢にもあってないフリフリのフリルがたくさん付いた服を着ている。手には幾つか袋を持っている辺り色々買ったらしい。
「本当、何かメイドキャップつけて無いとマリンさんじゃない感じがするね」
「そうなん? ま、あたしゃこの人よくしらんし如何でもいいけど」
結野の返しにティンは立ち上がり、手持ちの食料を食いつくしたので出たゴミを全部ゴミ箱に捨てると一言。
「でもマリンさん、それはちょっと」
「はい、何がでしょうか?」
「いや、その。流石服装若すぎません?」
「ふーむ……別に気にしません」
そう言うと本当に如何でも良いと言わんばかりにぴょんぴょんとスキップで歩き出すマリン。見て結野は。
「あの人、感じる魔力の波動が50から60歳なんだけど……どういう事なの?」
「さあ……あたしにもさっぱりで」
何処か呆れるように二人はマリンの後を付いて歩くことに。
「マリンさん、人通り多いから先行くと逸れますよ」
「は、そうですね。ティンさんは放浪癖があるので確り見ていないと大変ですね」
「あのですね」
ティンは微妙そうな表情で真面目な表情で振り返る年上の女性を見た。こうして見れば20代どころか10代でも通りそうな程にはしゃいでいる。これが自分に倍以上生きているというのだから本当に驚きである。
「おっ、結野じゃん。何してんのー」
「失せろ馬鹿」
「ちっ、結野か」
「この世から消えろ変態」
そこに二人の女性が現れ、両方共に結野は辛らつな対応を見せた。両方とも見覚え自体はあるが。
片方は金髪、と言うか山吹色の髪をセミロングにした中々の美人だ。服装は丈夫そうな防具類からして普通の冒険家らしい。もう片方はボブカットの藤色の髪をした女性だ。服装は単純にロングコートにガントレットを腕につけている、ならば彼女も冒険家か。更に結野の対応と会話的に。
「あんたら、火憐知ってる?」
「かれん? 誰だっけ」
「知らん」
「あれ、結野のしりあいっつか同級生だよね。元」
ティンは結野に振り向きながら問いかけると結野は溜息混じりに。
「こっちの顔の出来が良いのは林田で馬鹿。そっちのは沖野、変態。火憐つーのはあれ、氷結さんと一緒にいたの覚えてる?」
「そっちの馬鹿は知らないけど、覚えてるよ。知ってていった、瑞穂たんの親友と言うか悪友でしょ?」
「……あ、あー! 覚えてる、覚えてる! 勿論!」
「忘れてたなこいつ」
「十中八九ド忘れしてたなこいつ」
二人とも呆れた様子で林田と言う女性を睨んでいた。
「……はぁ」
ティンの視界の隅、そこに歩いていてきた女性が行き成り溜息を吐くと立去っていくのが見えた。のでそちらに目を向けると見覚えのある女性の後姿見えた。のでティンは記憶を掘り返して思い返し、直に思いついた。
「おーい、あんた有栖でしょー!?」
「え、有栖たん!? あ本当あーりーすーたー」
「ふっ」
声をかけた女性、有栖は直に振り返るとダッシュで飛び込んで来た沖野の腹目掛けてけりを叩き込んだ――後に地面に叩き落して頭部に地面に皹が入る勢いで踏みつけた。
頭が砕けてないことと、体躯的にそんな力を持っていなそう事から恐らく物理ではなくて魔法の力だろう。そして沖野は満足気に見上げて。
「わっ、我々の、業界では……ご褒美っ」
「もう良いから一生でいい、黙ってくれ」
有栖の冷徹な一言と共に、沖野の口は地面にめり込まされた。
んじゃ、また。