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輝く風を貫いて、黄昏をその目に焼き付ける

 今回の話はティンの持つ魔力を全力で回した場合、どうなるかと言うのを描いています。これでも一寸余裕があるんだからこいつの魔力は本気で頭おかしい。

「じゃあ直に」

『待った、その前に君の魔法力はどれくらいだい? 僕がやるのは急ピッチだからね、簡単に説明すると君の術式書の性能を無理やり魔力を過度に供給することで機能の拡張を行って体全身の光子化する、と言うものだ。だからまず魔力を測って、どれほど外部から魔力供給を追加出来るのか検討したい』

「なら、大丈夫!」

 水野の発言に思わずティンはその程度の問題かと一歩前に出る。何故なら、魔力が多量に必要と言うのならうってつけの人材が此処にいる。

「あたし、人から見ると頭おかしいってくらいの魔力を持っているんだ!」

「ほ、本当ですか!?」

『……なる、ほど』

 ユリィは驚き、水野はより真剣な表情を見せる。そしてティンは胸を張って。

「うん、だから大丈夫! あたし、えっと、自分でも制御し切れなくて、どれほどかは知らないけど……神剣・ラグナロックを自分の魔力だけで召喚して半日は余裕だった!」

『いや、それは別に凄いことじゃない。神剣召喚を行うのに多大な魔力を使うのは、異次元にある神剣に現世とのパスを形成して現世に召喚、そして呼んだ神剣と言う存在の定着する事に対してであって、維持する魔力自体は微々たる物だよ。だから召喚さえしてしまえば維持する事自体は凄く楽なんだよ』

 と、ティンはこてんと体制を崩す。

『でもそうか、ラグナロック……ありがとう、ならもっと単純な話があるよ。ティン君、君に今から過去において、ラグナロック召喚の際に行われた儀式とその呪文詠唱を教える』

「呪文、詠唱?」

 水野の言葉に、ティンは鸚鵡返しに聞き返した。



Echter(かの者ほど)als(本当に)er(誓い)schwür(を守った)keiner(者は)Eide(おらず);」



 浅美が宇宙を舞う、幾つもの魔力ビームが飛び交う中で浅美は時間を置き去って怪獣を切って落とし斬って落として回る。浅美は本能的にアーステラへ向う怪獣を徹底的に切り落し、更には宇宙には大気を剣先に集め。

「ウインドブラスト!」

 風の渦が暴風の拳となって怪獣の群れに穴を穿ち、浅美は二本の剣を一つに重ね合わせて拒絶と混沌の力を一つに重ね、その中心へと飛び込びながら重ねた剣をまず柄を離して剣先の術式を崩さ無いようにゆっくりと二つに分け。

「いっけえ、虚空旋回撃ッ!」

 術式を分けると両腕を広げ、構えた双剣の両端先から光線解き放ち、更に浅美はその場で回転して一気に怪獣達を薙ぎ払う。爆散していく怪獣たち、浅美は荒い息を一つ吐いて。

「どうやって、あれを叩く!?」

 眼下に座する、怪獣を吐き出し続ける花を睨みつける。剣が届きさえすればと奥歯を噛み締め、自分に向って殺到する魔力ビームを避けていく。



treuer(かの者ほど)als(真面目に)er(契約)hielt(を守った)keiner(者は) Verträge(なく);

 lautrer(かの者ほど) als(一途に)er(人を)liebte(愛した)kein(者は)andrer(いない):」



 飛竜を駆るフロースは月の空を正に動く竜巻が如く、月に巣くう怪獣達を薙ぎ払っていく。竜巻に巻かれた怪獣達は宇宙内で魔力を無くした訳ではない為か、風の暴力によって体中を細切れにされて月の大地に落ちていく。

 フロースは風を操り、怪獣たちが向っていく方向を見て。

「街の方は行かせない、ウィン!」

「精霊使いが荒い事で!」

 街へ、基地へと飛んでいく怪獣達を追ってフロースは戦場を貫き翔ける槍の様に疾風と化して怪獣達を蹴散らし、そして更に幾つもの竜巻を繰り出して怪獣達を薙ぎ払う。圧倒的な風の殲滅、しかしフロースの表情は芳しくない。

「数が、多過ぎる!」

 幾ら貫き、蹴散らし、薙ぎ払おうと怪獣の群れが晴れない。一体どれほどの怪獣を殺せば再び美しい宇宙を目に出来るのだろう? フロースは軽い絶望に捕らわれそうになっても後ろを見る。

 そこには月面基地がある、月の街がある、月の宇宙港がある、大勢の人々がいる。ならばとフロースは槍を掲げ。

「絶望してる暇なんかない……聖騎士の誓いと、騎士の誇りにかけて」

 背後にいる人々を、この月を、そして宇宙を。

「何一つ、怪獣達に汚させなどさせない!」

「当然! この風の無い宇宙に、風を吹かせましょうマスター!」

「行くよウィン、ホワイトウインド!」

 フロースは槍の矛先を怪獣の群れに向け、飛竜の咆哮と共に怪獣の群れへと突撃する。



und(だがか)doch(の者は),alle(あらゆ)Eide(る誓い),alle(と全て)Verträge(の契約そ),die(て全)treueste(全部の愛)Liebe(を裏)trog(切っ)keiner(てしま)er(った)

 Wißt(汝ら)inrそれが,wie(どういう)das(ことか)ward(分かるか)

 Das(あたしを)Feuer(燃やすこの),das(炎が)mich(指輪の)verbrennt(呪いと全ての),rein(不浄)'ge()vom(溶かし)Fluche(て祓い)den()Ring(める)! 」



 ユリィはティンと別れた後、水野のモニタと共に安全な場所を求めて白い倉庫内を駆けていた。しかし、そんな彼女の足を何かがかする。

「きゃっ!?」

「逃がすか!」

 急な痛みで前のめりに倒れた身体をやっとの思いで起こすと視線の先には銃を構えた黒服がいて。

「貴様らのおかげで大分予定が変更となった……その埋め合わせ、して貰わねばなぁ!」

「元はと言えば、貴方達が!」

「煩い、来い!」

 黒服が指を鳴らすと、次々と召喚されていく怪獣達。

「またそんなの呼んだって」

「ふん、さっきまでの欠陥商品と同列にしないで貰おうか。これは商品用に特別に調教した怪獣だ……やれ」

 無情な言葉に対してユリィは直足へ治癒魔法をかけ、身体を起こして走り出す。

「はははッ! 無駄だ無駄だ、怪獣達の足に敵うと思っているのか!?」

 黒服の笑い声を背に、ユリィは走る。何処に向ってるのかさえも分からないほど、ユリィは走るも背中に鋭く熱い衝撃が走る。自分が爪によって背を傷つけられた事に、身を捻ることで怪獣の爪についた血を見て理解した。

「わた、しは」

 背中の痛みで上手く立てない。治癒の魔法をかけようにも、見えない傷じゃ何処にかければいいのか分からない。

「貴方達になんか屈しない!」

「では、死ね」

 ユリィの叫びに返す黒服の言葉は冷たい。しかしユリィは振り下ろされる爪を毅然と睨みつけた。自分は決して、屈したのではないと。

 しかし、振り上げられた爪は何故か後ろへと下ろされる。ユリィは何故と呆気に取られていると、よく見てみれば怪物の頭から金属の鋭い棒が飛び出ているのが目に付いた。やがて目の前の怪獣が横に倒れ、その背後から細身剣を携えたピンク髪の女性が。

「御免ユリィちゃん、駆けつけるのが遅くなった!」

「え、エミィさん!?」

 大和帝国に置いて来てしまった筈のエミレーア、エミィがそこに居た。気付けば他の怪獣達もまるで動かない。何があったのかとの見渡して、続くように響く指を弾く音。連鎖するよう怪獣達は苦しみもがいて倒れこんだ。

「こ、これって、心拍強制停止……ううん、心臓凍結! じゃあ」

「全く、世話の焼ける」

 黒い髪の一部を両サイドで結い上げた黒装束の魔導師、黒籐雪乃が冒険者な割りには綺麗な黒髪をかきあげ、やれやれと言った表情で怪獣の死体の中を歩いてくる。

「やれやれ、浅美は?」

「宇宙に行きました」

 実際にやれやれと問われた台詞にユリィは事実を端的に返し、エミィまでも呆れた様子で。

「ありゃま、それは随分とトンだ返しで」

「宇宙……ああ、あの空でキラキラしてるのが浅美ってことか」

 ユリィの言葉に雪乃は上を見上げ、口にして再びパチンと響く指弾き。同時に再召喚されて早々胸の部分を押さえて倒れていく怪獣達。それを見て怪獣を呼び出した黒服は。

「な、なぜだ!? 我が怪獣達が、何故こうもあっさりと」

「お前らの怪獣達なんて、既に解析済み。心臓も割り出してる、なら凍らせるなんて簡単だよ」

 雪乃は語るほどでもないと鼻を鳴らし、黒服を無視して何処かへと歩き出す。

「えっと、何処に?」

「一先ず、この基地の司令室。此処の現状を外に伝える」

「ユリィちゃん、今手当てするね」

 言って、エミィはユリィの背中の傷の応急処置を行う。そこで雪乃はふと思い出したように。

「そう言えば、あのティンとか言う奴は?」

「あ、はい。ティンさんならあそこに」

 そう言ってユリィは上を指差して。



Ihr(だか)in()der(貴方)Flut(達は)löset(この水)auf(で穢れ),und(を流し)lauter(溶かし)bewahrt(してよ)das(り尊)lichte(き黄金)Goldへと,

 das(至高)euch(の純金)zum(にか)Unheil(えて)geraubt(預けよう). 」



 ティンは光る床を踏み締めて月の地上に出て来る。空は未だに怪獣達に占拠されている、だがティンはそんな事など今は気に留めず、歌い上げる。

 宇宙へ向けて剣を掲げ、今彼女は悠々と。



Denn(かの)der(神々の)Götter(終末、)Ende(その)dämmert(黄昏は)nun(始ま)auf(った).

 So() - werf(あたしは)'ich(かの)den(荘厳)Brand()in() Walhalls(ヴァルハラ)prangende(を燃やし尽くす)Burg(者とならん).」



 光り輝くティンの肉体。しかし、突如その光が弾け飛んでその下から体中のに刻み込まれた人体術式の跡が、本来ティンの肉体に雁字搦めに刻み込まれていた視覚、触覚誤認の術式が一時的に無効化されたのだ。ティンの身体中に刻み込まれた術式は今も消えることはないし、消える事は決してありえない。

 ただ、神剣召喚の術式の上に更に魔力増幅術式と魔力自動生成術式と更にその上に重ねがけされていて、神剣召喚の際に露出しただけに過ぎない。

 数日振りに露にされた己の素肌を晒し、今ティンは高々に神々の最終戦争、その宣言を堂々と行う。


「来たれ神威の十字架、今此処にラグナロクの降臨を宣言する!」


 身体中に刻まれた術式が光り輝き、体中の模様が、術式が光り輝く。


「召、喚ッ! ラグナロック!」


 掲げた剣が砕け散り、中から顕現するは黄昏と輝――かない、鈍い光を持った神剣だった。同時にティンは剣を構え直して魔力を注ぎ直し。

「術式起動、光子同調(フォトン・シンクロ)ッ!」

 ティンの体が一気に光り出す。ラグナロックによって齎された、膨大な魔力に物を言わせ、魔法を起動する。

 本来ティンは魔法を発動させる為に、まず例えとして魔法発動の為に500ml入るペットボトルを満杯にする必要が在るとする。ティンは500mlしか入らないペットボトルに500ℓの水を穴だらけのバケツで汲んでそれをペットボトルにぶち込んで満杯にしている。当然そんな事をすれば幾らペットボトルを固定しようと小さな穴にろくに入らないし、何より穴だらけのバケツでは水が零れまくる為、何度も何度もそんな膨大で余計な水を使ってしまう。しかし、今回入れるのは2ℓは入るペットボトルを滝の中に突っ込んで満杯にして、おまけにすればするほど機能が上がる特製品だ。滝の勢いと量に物を言わせて兎に角大量の水をぶち込む。

 つまり、ティンは魔力を滝のように光子化の魔力を叩き込む。よって無理やり機能を広げて身体全身全てを光子で固める。

 そして、友が待つかの戦場。頭上に広がる星すら見えない宇宙を睨みつけて、ティンは高く跳躍し、月の安全圏を貫き遥か彼方の戦場へと踊り出す。まずはと言わんばかりに歓迎の魔力ビームがティンの身体へ降り注ぐがティンは足下に光の足場を生み出してビームの合間を縫うように跳び避けていく。

 光と光が交差する宇宙の戦場、東西南北上下左右の概念なぞ欠片も無いこの場所でティンはただただ光が最も交差する戦場を走るように突っ込んでいく。更に戦場の奥に入ると同時、続いてやって来るのは宇宙を翔ける怪獣達だ。それを見てティンはかつて目にした槍の魔法戦技を思い出しながら五つの光を準備して。

「いっけぇ! ブリューナク!」

 持ち前の魔力、再びラグナロックによって増加された魔力にものを言わせて神話において光の神が放った“貫くもの”と意味を持つ五つの閃光を解き放つ。閃光は世界を焼く光となって次々と怪獣を撃ち貫いて潰していく。それでも開かない道、ならば。

「シャイニングウェーブッ!」

 術式を起動させて剣の宿らせた光の魔力を斬撃の刃として飛ばして蹴散らしたがそれでも開かず。

「だったら、スターダスト・ブラスト!」

 ラグナロックを翳し、魔力に物を言わせた強引な魔法の発動で、単純な魔力膨張による上級魔法の発動を行う。結果として宇宙の中に星屑とも見える光が一点に集い、剣を振り下ろすと同時に輝きが巨大な爆発を起こして浅美への道を一気に切り開き。

「駄目押しだ、オーラ・エクスバースト!」

 ティンが叫び剣の切っ先を向けると同時、輝きが更に集い波動となって怪獣達を飲み込んで一気に消し飛ばす。よって完全に浅美への道が開き、ティンはそこへ向って光の足場を踏み締めて浅美の下へと一気に躍り出る。

 浅美の元へと辿り着くと殺到する魔力ビームを、それこそ宇宙に輝く星と星を結ぶように剣を振るいビームを発射口へとそのまま送り返した。

 お互いの視線が交差する。

 互いに神威を纏う剣士、方や永遠を翔け無限と加速する金色の神鳥、方や神々の黄昏を謳い神そのものに終焉を齎す黄昏の聖騎士。語らずとも既に通じ合っているのだ。此処に来て、この宇宙にて遂にティンは浅美と肩を並べて共に同じ戦場へと並び立つ。

 二人の間を裂くように飛び交う魔力ビームに翼を生やした様々な怪獣達が一気に襲い、浅美は四翼を羽ばたかせて怪獣達全て時を置き去って一気に切裂き、ティンは撃ち込まれたビーム全てを本体へと送り込んだ。

 怪獣達が切られて絶命した事によって宇宙適応力を消失してそのまま真空空間に飲み込まれて弾け飛び、ティンが集めて弾いたビームが本体の花へと直撃するも。

「再生能力……頑丈の癖に!」

「多分、怪獣を生み出す能力の応用だよ。これ、いよいよどうするの?」

 ティンは閃光と化して怪獣を引き裂いて回り更に魔力ビームを全て花へと撃ち込んでいくも全てが生み出される怪獣へとばかり被弾する。

「浅美、カオス・スパイラルで転移は!?」

「あれだけでかいと何処を切れば良いのか分かんないよ!」

「混沌力は!?」

「穴あけながら注ぐのに、時間が足りない! 幾らティンさんの援護でも無理がある!」

 浅美との情報交換で分かるのは僅か二人では無理にも程があると言う事だ。そこでティンは即座に答えを探り出す。幾つも答えが出て来るも全て時間が足り無いという事実の前に無意味と化して。

「浅美の時間停止って、原理は!?」

「超スピード! 時間が動くより早く動いているだけ!」

「くっそ、それって他人には!?」

「出来るかもだけど、今のティンさん飲んだら多分術式そのものが崩壊する!」

「チィッ、八方塞か!」

 ティンは舌打ながら怪獣達を斬って斬って斬り飛ばす。刹那の間に50もの数の怪獣達をそのまま輝きの彼方へと消し飛ばし、更にそのまま全てを斬り飛ばす閃光となって花に接敵してそのまま花弁の上に立つと。

「こいつ!?」

 花弁が変化して怪獣の首が出現し、ティンは離脱しつつ周囲の触手を切り裁いていく。ビームも当然本体へと叩き込むがまるで効果を発揮している様には見えない。故にティンは駄目元で剣を突き出し。

「ソル・ブラスタ・ブライト!」

 ラグナロック越しに魔力を起動させ、また魔力に物を言わせた光の魔力にからなる超爆発を叩き込む。花を中心にまるで太陽の閃光が生み出されたかのごとく光が爆発して怪獣を吹き飛ばすも花本体には無傷――いや。

「ある程度は効果がある……こいつ、体内魔力で再生を」

 そこでティンは見た。内部で生み出した怪獣の一部を触手が取り込んで更に自身の栄養分に変えている所を。つまりこいつらは。

「自分で生んだ奴を、自分の魔力動力源にしてんのかよ!? 気持ち悪いな!」

 その姿に、イヴァーライルで見た魔獣を思い出すがそれに比べれば自分で作った存在を使う分、まだこいつの方が可愛げがあると見える。尤も、どちらも最悪と言う答えは変わらないが。

 浅美はビームを避けながら怪獣を切り落とし、ティンの元へと再び合流する。

「ティンさん、このままじゃジリ貧だよ! 見て、向こう!」

「ん?」

 言われ、浅美が指差す方向へと見ると、そこには宇宙戦闘によって随分とはなれた月がある。そして、その月にも多くの怪獣達が取り付いていて。

「このままこの花を放置したら、アーステラ所か月まで終わっちゃうよ! 何か手は無いの!?」

「あるにはある……でも時間が無いんだ!」

「時間? 言ってみて!」

「……ラグナロックの魔力増幅で得た魔力を一点に集めて、あいつに叩き込む。それなら、どれほどの魔力抵抗があろうともラグナロックの前じゃ紙くず同然だ、でも」

「チャージするのに、どれくらい?」

「どう頑張っても現状じゃ10分、この辺りに光がいっぱいあれば1分も掛からないのに」

 ティンの悔しげな言葉に浅美はまるで名案とばかりに近寄って。

「光があればいいの?」

「うん、でもこいつらが邪魔で星が見えな」

「ティンさん! 30分後、光を呼んで来る!」

 浅美の唐突な発言にティンは驚くが浅美はそれさえ追い越して。

「だからティンは取り合えず自分にとって一番都合の良い位置にいて! 理由なら自分で考えて! イヴァーライルが今何時だか、ティンさん分かるでしょ!?」

「な、一寸待て!? そんなのどうやっ」

 飛び去る浅美へ手を伸ばし何の話か追求するより前、ティンはふと気がついた。今から30分後、イヴァーライルは何時か? 答えはすぐに。

「イヴァーライルは今5時3分……30分後って、5時33分? え。いや……まさかそれって!?」

 出た答え、それはその時間帯となればイヴァーライル王国に何が来るのか。ティンには直に理解できた。そう。

「その時間帯だと……イヴァーライルがあそこで、月があっち。それでその時間なら、太陽が見える!?」

 つまり、此処に一定の角度から太陽が見えると言うことだ。ティンはそれを月とアーステラを見比べて把握、ならば己は何をすべきかを十全に理解してこの宇宙の戦場を駆け抜ける。



 ユリィ達は基地の中を迷う事無く駆け抜ける。行き先々にはまるで目印となるであろう、様々な怪獣の死体が転がっていた。ユリィは何時からこの二人はこの基地にいたのだろう? と思いつつもちょっと呆れながら基地の中を駆け抜ける。

 廊下に転がっている死体は真っ二つに二種類だ。体中穴だらけの血塗れか、心臓押さえて無血かのどちらだ。彼女達の手腕からするに片方はレイピアで滅多刺し、もう片方は心臓強制凍結だろう。

 そんな廊下を進み、一行は行き止まりである扉の前に立つ。

「着いた、司令室」

「さっきも着いたんだけど、浅美ちゃんがもっと調べてからだって一度戻って、そしたら大物がユリィちゃん達の方にいたから浅美ちゃんが飛んで行って、私達は基地の調査をして回っていて、結局の所ユリィちゃんがピンチだったから丁度良いタイミングで雪乃ちゃんの隠密術式を解いて出てきたんだ」

 エミィは説明しながら雪乃が端末術式を操作し、扉を開けていた。と同時に弾く指の音。扉を開く音と同時に苦しみ呻き声の大合唱が響くと同時に中に居たであろう人々が苦悶の表情で胸を抑えて暴れ出して、直に抵抗も気絶と言う二文字には抗えずに潰れた。

「邪魔者は消えた、じゃ取り合えず周囲の状況を探るよ」

「え、えーと」

「ユリィちゃん、気にしちゃ負けだよ。雪乃ちゃんの凍結魔法、今日もバリッバリだよ!?」

 エミィはユリィの視界を塞ぐように立ち塞がるが、雪乃は淡々と術式の操作を行い。

「そこ遊ばない、後ユリィスは手伝って。取り合えずこの状況を全部正規の月面基地に報告……何これぇ!?」

「どうしたんですか雪乃……さん」

 ユリィは雪乃が見た物を見て同じく絶句する。何故か、と言えば目の前に存在するのは月面基地の外部映像だ。何が映っているのかといえば、はっきり言うと黒いもやが月を埋め尽くしている画だ。黒い霧だと思いたいが、ここは宇宙だし月にそんな物なんて存在しないのだ。

 そう、花怪獣から生み出され続ける怪獣達がこの月を飲み込んだ画だ。あまりの絶望的過ぎる画に最早絶句しかない。だがそれでも雪乃は希望を捨てずに端末術式を操作し続け、そして。

「浅美!」

 雪乃は遂に、浅美の姿を見つける。月から離れた所で戦い続ける浅美、そしてその側で戦うティンの姿だ。

「援軍って、あいつだけ!? 月の連中は何してんの!?」

「落ち着いてよ雪乃ちゃん。そりゃこんな事態、誰も想像していない……へ?」

 エミィは、雪乃を宥めている途中で何か奇妙なことに気がついた。二人が、何一つとして。

「花の怪物に、向っていかない?」

「え? 本当だ、寧ろ何かの方向を重点的に攻めてる……何が目的なんでしょう?」

 そう呟くと同時、雪乃は何かに気付くように。

「ねえ、今何時!?」

「何時って……今だと、ケータイケータイ」

 雪野の問いにエミィはケータイを取り出して展開して時間を見ると。

「うーん、大和帝国の時間設定になってる。もう17時だよ」

「こっちに来て、アーステラの光景は見たでしょう!? そこでどの国が見えたか覚えてる!? ううん御免、大和帝国にいたのは何時!?」

「え、11時……あ、もう5時間も此処にいるんだ……ん? 5時間? となるとどうなるの?」

「5時間も時が流れた……なら、もう直あの方角に太陽が見えてくる。でも、一体太陽で何をしようって」

 雪乃が言うと同時、それが遂に来る。



 もう直、浅美の宣言した時間となる。ティンは十二分に晴れて星星が見える宇宙を見て、今度は浅美のほうへと。

「ティンさんは気にせず所定の位置に行って! 邪魔者は何としてでもわたしが消し飛ばす!」

 向くと同時に浅美が叫び、ティンはそれを信じて周囲の怪獣を薙ぎ払って所定の位置へと向う。浅美は氷の飛礫を弾幕のように展開して無理やり空間を広げ、双剣を一つに合わせてそれを分離させ。

「斬り開けぇッ! 虚空ッ! 旋回撃ィィッ!」

 両腕を広げて双剣を突き出し、二門の砲撃魔法を展開して回転して兎に角怪獣を薙ぎ払う。横回転、縦回転、縦横無尽に旋回して数を、一心不乱に怪獣達を殲滅していく。

 そして遂に開いた空間、浅美の告げた時間の直前に。

「来る!」

 浅美が叫び、ティンも釣られてその方を見る。そこに現れるは紛れも無い、陽の光。朝日だ、朝が此処に呼び出され、太陽の光がこの宇宙を明るく照らし出す。月は既に見え辛くなって久しい。随分離れたが、戻ろうと思えば一瞬なのだから関係ない。

「来た、太陽だ!」

 ティンはその太陽を目にし、まずは剣を掲げた。

 浅美は晴れた空間が閉じぬようにとゴミ掃除を行い続けたが、何をしようとしているのかとそれを見つめる。そして、それを見ていたユリィ達は、遠くにいる筈のフロースまでその光景が目に付いた。

「綺麗……」

「凄い……光が、集まっていく」

 ユリィは思わず呟き、雪乃も続いた。ティンの掲げた剣に、宇宙に輝く星の光が太陽の光が、一点に集っていく。それはまるで流星群のようで、ティンの下へとあらゆる光が一つに解け合う。

「何、これ」

 フロースはその光景をただ槍を振るう手を止めずに見た。黄金の光が、次々にティンの元へと集まっていくのだ。その光は今わの際に見る光のようで。何より尊くも美しく儚い光であると同時に思った。

 次々と集まっていく光は当然、フロースの守る街からも導かれていくように飛んでいく。それはまるで世界中から、宇宙のあらゆる所から少しずつ光が分け与えられていくようで。

「この、光は」

 それを見たエミィは不意に呟いた。これは、そう。

「……かつて、一人の王が居た。その王は、人でありながらも妖精達と友好を持ち、その架け橋となった。妖精と人との間に立った王――やがて人々はそれを、妖精王と呼んだ」

 語られる御伽噺。この世界に生きる者が誰もが幼き日に聞かされる英雄譚。人と妖精の間に立つ王の物語。

「妖精達は、王のあり方を歓迎し、死地に赴く王に剣を託す。この世の天に輝けし、星の光を一点に落とした、聖なる。星なる剣。剣を超えし、規格外の剣。かの湖の妖精達が、命をかけた恩返し。その名は――」

 フロースは思い返す。かつて母より聞かされた、かの英雄譚。大いなる器と優しさを持つ王の物語。妖精と人の間に立った王の話。湖に住まう妖精達がその魂と命をかけて作り上げた聖なる剣。

「天の星ぼし、それを一つに集めた剣はやがて聖剣となりて人々に伝わる。故に付けられた名は規格外、剣を超えた剣。誰もが憧れ、並び立とうと数多の兵達が贋作と知りつつも目指し、握り締めた。某は――」


 エミィとフロースは、その輝きを目に焼き付けて、光輝く風の中で同時に口にする。やがてティンの神剣に集まる光は、その輝きを解き放つように膨張して刃となり巨大な極光の聖剣を形成する。

 天に輝く星星を一つに重ね合わせた、剣と言う存在を超えし、規格の外に存在する剣。故にその銘にはエクストラを意味さすEX(エクス)が刻み込まれた。



「星集う超越の偽聖剣」


 その、名を。



「エエェェェェェェックス! カリバアアアアアアアアアアぁぁッァァァァァァッァァァァアッァァァァァァァァァッッ!!」



 かの女王が最も得意とする技、威力燃費文句なしのランクS級、光属性魔法最上級最上段に位置する最強魔法戦技。エクスカリバーが此処に顕現し、そのまま振り下ろす。

 形を成す長大な聖剣は宇宙を黒く塗り潰す怪獣を殲滅して突き進み、やがて怪獣達を生み出す花への道を作り出す。ティンはそのまま極光の聖剣を構え直して一気に開けた戦場を駆け抜ける。

 宇宙に振り翳される巨大な聖剣は宇宙の闇を切裂き、見事極光の聖剣の名に恥じぬ輝きを持って真っ直ぐに、刹那も追い越して振り下ろす。

 敵の本体、花怪獣の前に躍り出たティンは剣を振り抜いた形のまま静止する。そして極光の聖剣は再び宇宙に漂う光と霧散した。

 通用しなかったのか? 見たものは誰もが思う。しかし、宇宙に縦一文字の閃光が迸ると同時、巨大な花怪獣が見事は二つに割れて乖離すると光の濁流が宇宙を飲み込んだ。

 怪獣達を丸ごと両断し、極光の爆輝を持って一気に宇宙の彼方へと飲み込んだのだ。光は周囲の宇宙怪獣を殲滅し、その中心部である花怪獣も飲み込んでいく。

「や、やったぁっ!」

「やりましたね、雪乃さん!」

 司令室で見ていたユリィとエミィはその光景に、勝利を確信するが。

「いや、まだだ!」

 雪野が叫ぶ。その視線の先には、まだ消えてない花怪獣の一部。だがその中を蠢く目のようなものが一つ。

「あ、あれは!?」

「核だ! あれを潰さない限り魔力の供給がされて再生される!」

 解説する雪野の言葉に応じるように、両断されて消し飛ぶ花怪獣はやがて光が収まると触手を伸ばして完全に消えきっていないもう半分に触手を伸ばす。そして残る触手は、怪獣達は極光の聖剣を振るったティンの元へと。

「不味い、今のティンはエクスカリバーを使った反動で動けない! あんな馬鹿燃費悪魔法を撃った後じゃ、あいつに避ける体力も反撃する魔力も無い!」

「そ、そんな!? S級ランクの魔法戦技、エクスカリバーでも駄目なの!?」

 当然、それは同じ戦場にいる浅美にも目に留まる。即座に時を置き去るように飛翔して戦友の下へと翔け――。


「それを待っていたぁッ!」


 るよりも早く、まるで最初から全てを知っていたと言わんばかりにティンが叫んで全てを薙ぎ払う。その様を見て、ティンをよく知らぬフロースが、ユリィが、雪乃が、エミィが驚愕に震えてその姿を見る。

「何で、あいつ」

「あれだけの魔法を使っておいて」

「魔力に、衰えが無いんですか!?」

 そう、流れ出る魔力にまるで限界が見えない。そも、ラグナロックを呼ぶだけ人の限界に辿り着くほど膨大な魔力を持った人間を3人は廃人にするほど多大な魔力を使って呼び出すラグナロックを何処から、いやどうやって出した? そもそも、ティンが宇宙に上がってから使った魔法にかけた魔力を総合すれば、それだけで人の限界に迫るほど魔力を酷使している。

 にも拘らずにけろっとした。そして、未だに黄昏の光を放つティンに誰もがその存在に気付く。そうだ、そもそもティンが持っている剣とは、一体なんだ?

「なんなのあいつ、何であんな黄昏の光を――た、黄昏!?」

「待って雪乃ちゃん! ティンちゃんって子が持ってる剣って、黄昏色の十字架!?」

 雪乃はそれを見て更に目を丸くして驚き、続くエミィもその存在に驚愕して雪乃の肩を掴む。

「何なのあれ」

 遠くで戦闘しながら見ていたフロースも一息つくようにそれを見て震えた。

「何で、まだあんなにも強く、黄昏色に――黄昏!? 黄昏の、十字剣!?」

 その事実を口にして認める。そうだ、聞いたことがある。エミィも、雪乃も、フロースも聞いたことがある。

 そしてティンは、ずっとこの未来に辿り着きたかった。そう、この核が決して逃げられぬこの未来に、己が剣が中核を切裂く位置に来るこの未来に。読んで答えて、遂に辿り着いた未来。

 エクスカリバーすら、そのための土台にすぎなかったのだ。

「鳴り響け、ギャラルホルンの笛の音よ!」

 ずっと脳裏に輝き続ける、かの技。神威にいたりし、十字架を握る者のみに許された奥義。それを使う為に、かの怪獣へと見舞う為だけに、この道を歩み、そして切り開いた。

「今此処に見せる、我が真髄! 去らばヴァルハラ、輝きに満ちる城よッ!」

 歌劇を歌い、遂に繰り出される、ティンの最終奥義。それこそが。



「かの荘厳なる城を焼き尽くす――これぞ神義ッ! 神々の黄昏(ラグナロク)ッッ!」



 十字の閃光が花を貫く。やがて黄昏の輝きへと変わった斬線は閃光を持って光の彼方へと宇宙を食いつぶす怪獣達を消し去っていく。

 月と太陽の狭間で、神話に歌われし神々の黄昏が遂に訪れた。まるでそれは、御伽噺のようで。神話の一ページを見るようで。

 ども、何だか姫と騎士編で語るべき設定が此処に出てますが、ただ筆者が膨大な量の設定資料書をまとめ切れてないと言うドジを踏んでいただけですよ。

 ティンがこの話で使った魔法を他の人が再現しようとすると限界まで魔法力を鍛えた魔導師5人は必要とする極悪燃費です。ラグナロック呼ぶのに3人、上級魔法3連発にエクスカリバーとぶっちゃけ一人の魔力限界通り越してもう一人半ほどぶっ飛んでいます。これと同じ事を威力マシマシでって言われたらエーヴィア陛下以外には荒唐無稽過ぎて笑われますよ。

 ちなみに今回のラグナロックはちょろっと書いてますし次回できっちり説明しますが、これで全力じゃありません。全力の3/4くらいの出力で、全力状態だと剣が常にピッカピッカです。

 んじゃまた。

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