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朱雀が落ちる日

 食事を終え、ティン達は買い物を行っている。と言ってもラルシアの買い物でティンは一方的に荷物もちをしている。と言うか、もはや一種の塔とも呼べる量だ。ティンは持ち前のバランス調整を駆使し、僅かに見える荷物の隙間から何とか前を見ながら歩いている。

 そんなティンをスルーしてラルシアは購入した荷物をポイっとティンに押し付ける。

「ちょ、ちょっと、そんなに持てない……」

「貴方なら何とか出来るでしょう? 私が先程の交戦で貴方が人並み外れたバランス感覚を持っていることに気付いていない思って?」

「う、うう……」

「まあ、貴方なら本気を出せばほぼ確実に落とさずに持てる量であると思ってますわ」

「そんな信頼はいらないぃぃぃ……」

 ティンは塔の様な荷物を抱えて泣き言を叫んだ。

「あら、信頼と言うものは勝ち取るもの、最初から存在なぞしなくってよ?」

「あれ、さっきの台詞と矛盾して無い!?」

「ああ、貴方のバランス感覚なら出来るでしょう? 全力を出しなさい」

「荷物持ちに何の全力を出せと!?」

「バランス」

 ラルシアの言葉は冷たかった。ティンは荷物を落としそうになるが、本気でバランス感覚を整える。

「と言うか、そんなに人並外れてるかなあ、あたし」

「普通の人間がそんな塔を築いたりしたら間違いなく落とすでしょうね」

 と、ラルシアは今にも崩れそうで崩れない荷物の塔を見やる。

 確かに、歩くと持っている物が揺れて不安定になる。しかし、既に荷物の塔はティンの身長を超しているが、未だに倒れる気配が一切無い。

(落ちた物を全部拾うとか、孤児院の食器を一度に運ぼうとしてた技術がこんな形で……変な事に精を出すもんじゃないなぁ……)

「ティン、ちょっと」

 ラルシアはティンが涙目で考え事をしていると、また何かを買って来た様だ。見ればティンの荷物の半分を奪い取っている。

(あ、持ってくれ)

 思っている途中でラルシアはティンの片腕を取り、手提げ付きの袋に腕に通して元に戻す。腕も、荷物も。

「おおおおおーーいッ!」

「さて、次に買うのは……」

「聞く耳さえ持ってない!?」

 ラルシアはティンの言い分さえ聞かずに適当な店に入ってまた何かを買ってくる。

(何でお金持ちの買い物の手伝いなんてしてるんだろ、あたし)

 とかボーっと思っているとどかどか荷物を乗せたり腕に通す。軽くプルプル行くほどだ。

「ふむ、予想通り」

「な、に、が、だ……」

「さて、この辺ですわね。城に帰りますわよ」

「や……っとだ……」

 ティンは安堵しながら歩いていくと光に包まれ、一瞬にして目の前が変わる。さっき仕事に向かうの場所、城の中庭に来た。

 その瞬間、城のメイド達が「待ってたぜ旦那!」と言わんばかりにささーっと出て来る。

「はい、これ新しい布よ。この色が不足していたはずですわね?」

「ありがとうございます」

 ラルシアはティンの荷物の天辺から順に荷物を取ってメイド達に渡していく。向こうは喜んで受け取っていく。

「魔宝石を買って来ましたわ、魔導師隊用の装備品にでもなさい」

「ありがとうございます」

 メイドは宝石が詰まった箱を受け取るとすーっと消えていく。

「兵士寄宿舎浴場のシャンプーとリンスが切れているようでしたので、買って来ましたわ」

「まあ、これはどうも」

 メイドは袋を受け取るとツツーっと消える。

「掃除用の洗剤を買って来ましたわ。今日は大掃除で大量に消費したのでしょう?」

「丁度切れたんです、ありがとうございます!」

 メイドは袋を受け取るとトトトと走り去る。

「食材の追加ですわ。持って行きなさい」

「あ、これ少なくなってたんですよ。そろそろ買い足そうと思ってて、ありがとうございます」

 メイドは袋を受け取るとブシュンと消え去る。

 と、こんな感じにサイン会と言うかプレゼント配布みたいにラルシアは買ってきた物をメイドに次々に渡していく。ティンはあっと言う間に持っていた荷物が無くなった。

「つ、つかれたぁ……」

 どっかと、ティンはその場に座り込んだ。と、思い出した様に腰の剣を外してラルシアに向ける。

「これ、返す」

「報酬として差しあげますわよ。お好きに使いなさい」

 そう言ってラルシアは踵を返して事務室に戻る。

 ティンは突き出した剣を引っ込めて抱く。

「にしても凄いですね、ティンさん」

「ん?」

 声の主は近くにいたメイドさんだ。ティンはそっちの方に視線を向ける。

「ラルシアさん、結構実力主義なんですよ。役立たずには何かをする権利は無いって言う感じかな? 滅多に人に二つの用事をさせないんですよ」

「……荷物持ち、させられた」

「うん。傭兵なら絶対に荷物なんて持たせない、買った物は即時此処へ転送。絶対に、荷物なんて持たせない。ティンさんは荷物を持たせるに値する人だったんですよ」

「……ラルシア、ちゃんと人を見る目があるんだ」

 ティンは呟いた。思い返せば、他人へ労働をしいる事はある意味他人への信頼の証なのかもしれない。

 だとするなら。

(頼られたって、こと? ……素直じゃないなぁ。お金だけの繋がりって寂しくないのかね)

 捻くれてる。ティンは素直に思った。

 同時に思った、人を見る目は異様に確りしてると。商人と言う仕事柄ゆえだからだろうか? だけど。

(巻き込んじゃ……駄目だよね)

 ティンはそう思った。純粋に、彼女は良い人だから、自分の都合に合わせては駄目だ、と。

 翌日、朝食を取った後にティンはエーヴィア女王に旅立つ旨を話そうと。

「ティン殿。そういう話は謁見と言う扱いでお願いします。何分陛下は忙しい身の上ですので」

「別に良いじゃねーかそんくらい。出て行くなら行くで」

「へ・い・か・は政治で忙しい身の上ですので、きちんとした手続きを」

 と、ルジュさんはエーヴィア陛下の言葉を踏み潰す様に言い切った。ティンはこの城内の荒れ様を悟る。

 と言うことで謁見と言う形でティンはエーヴィア女王に国を出て行くことを言うことに。

 ――そして時間が止まった。硬直した。

(……こういう時、何て言うのかなぁ?)

 理由は一つ、お互いにこんな時どうすれば分らないのだ。孤児のティンはともかく、実はエーヴィア女王陛下も謁見されるの初めてだったりする。

 いつもフランクに会ってるからこういう時どうするのか全く分らないのだ。

「陛下、ティン殿は国外で出たいと申しており、出国の許可が欲しいと」

「あれそんなこ」

「では、こちらにサインをお願いします」

 ルジュはもうこのやり取りに飽きているのか、全力スルーを決め込んでいる。と言う事でエーヴィア陛下に書類を渡す。

「ん……これにサインすりゃいいのか?」

「さようで」

 エーヴィアは言われたとおり、許可書にサインをする。

「ではティン殿、こちらを国境門に見せれば国外へ出ることが出来ます」

「あ、そうなんだ。あれ、でも来た時は?」

「ああ、お前が来た辺りはまだ門が出来てないんだよ。人手不足で工事が亀並みに遅いしな。後、こいつを返す」

 と陛下は腰に下げていた剣をルジュを通じてティンに返す……が、ティンはその剣を見てふと疑問を感じる。何故なら。

「これ、あたしの剣じゃないよ?」

「何を言ってる。そいつは間違えようも無くお前が後生大事に握ってた剣だぞ?」

 ティンの剣は非常にシンプルなデザインだが、こちらは相当に凝ったデザインの剣となっている。

 翼と光をテーマにしたデザイン、とでも呼ぼうか。刀身に光と言う文字さえ見え、柄の先にチェーンとホルダーのアクセサリーが付いてる。こんな複雑なデザインだっただろうか? しかし、握った感覚から間違いなくこれはティンの剣だと、剣が告げる。

「ふーん、じゃああれはやっぱり過剰魔力再練成現象か……実物を見るの初めてだが」

「へ、何?」

「何でもない。それよりも、旅支度で必要な物とかあるか? あるなら用意させるから言っとけよ」

「えっと、じゃあ……」

 とティンは荷物の中を覗いて、と気がついた。と言うか、此処まで読んだ読者も気付くだろう。そう、ティンは……そもそも荷物が無かった。



「んじゃ、これに一応全部の荷物を積んでおいたぞ」

 とエーヴィア女王様はティンにウェストポーチをルジュを通じて渡す。

「一カ月分の食料と水の魔道書に寝袋。食料は携帯食料だ。他にライト、地図とコンパスも一緒に入れてある。必要最低限の物だけを詰め込んだつもりだが、他に欲しい物があれば言ってみろ」

「……ねえ、何が必要なの?」

「お前本気で旅する気あるのか!?」

 エーヴィア女王はまさかの返答に吃驚。でもこれ真実、こいつはまごう事無き旅人初心者だ。

「取りあえず、これだけあれば平気?」

「平地を歩くならそんだけで十分だよ。お前は崖登ったり山登ったりするのか? すんなら道具やってもいいぞ」

「……するの?」

「よし、今から拳をくれてやる。貰ったらそのまま行って来いッ!」

 首をかしげるティンに身を捻ってティンに拳一発叩き込む。実にすばらしい。

「素晴らしいフォームです、女王陛下」

 とルジュさんは拍手を送って賞賛する。まあ殴られた本人はたまったものではなく、頭を抑えて蹲る。

「な、なんでこんな事するの~?」

「女王陛下、ティン殿がもう一発欲しいようですが」

「仕方ない、蹴りもやるか。感謝しろよー、滅多にやらんから、なッ!」

 エーヴィア女王陛下は華麗な動きでティンを蹴り上げる。蹴り上げられた輝光の聖騎士は打ち上げられ、三・四秒後に大理石の床に叩きつけられる。

 きちんと頭に直撃しない様に受け身は取っている様だ。

 ティンはこれ以上何も言わずに立ち去る。言うたびに殴られ蹴られては流石の彼女もたまったものではない。頭を下げて礼を言った所で出て行く。

 城門を開け、外に出るとそこは荒野だった。崖に阻まれ、枯渇した岩の大地しかない。

 ティンは改めて背後を見る。そこには悠然と立つ王城――いや、公爵屋敷か。ティンはふと思う、此処が公爵屋敷で、もっとこの辺りが賑わっていたと言うのは、何時の頃なのだろうか。

「……のわれていた、か」

 ティンは思わず感慨に耽った。そして歩き出す、荒野の果てに。

 それから数日が過ぎていた。ティンは地図を読んだが、自分がどの辺か分からないので直ぐに読むのを止めた。

 コンパスを見たが、地図が分らないので直にしまった……あれ地図とコンパス意味なくね?

 ティンは水を飲んでまた歩く。取りあえず地図とコンパスを取り出す。

(デルレオン王国……いや公国か。えっと……この辺で……館が……この辺り。で、何処に歩いて……)

 とそこで気付いた。この辺、城がもう見えねえと。

「本気で此処何処だー……」

 ティンは自分に呆れながら荷物をしまって水筒を口に突っ込み、喉を鳴らして水を飲み込む。

 水筒の内部に術式が仕込んであるようで中は常時水が満タンだった。水筒に説明書きが付いてることに今更気付いた。どうやらこれの掃除の仕方らしい。こまめにやらないと中がカビだらけになるそうだ。恐ろしい。

 と、考えながら歩いていた時だ。ティンの周囲におかしな空気を感じる。

「……久しぶり。会いたくなかった」

 言いながら荷物を全部ポシェットに詰め込む。そこには黒い仮面に黒いボロマントの男達がぞろぞろと。

「一人になるとは浅はかだな、神剣の契約者よ。命が惜しくないと見える」

「お前らの事はあたしの問題だ。他の人達を巻き込んで良い理由にはならないよ」

 ティンは言って腰の剣を引き抜く。光を刻んだ剣を。

「で、お前の名前は?」

「良いだろう、最後に教えてやろう。我が名は四天王が一人、朱雀。英知を司るもの。我が知略に溺れるが良い」

 朱雀が手を振り上げ、仮面の男達が一斉に動き出す。数は大雑把に言えば沢山。正確には二十五人、いや二十五体もの機械人形が一気に襲い掛かる。

 ティンはまず剣を軽く握り、あまり動く事無く敵の一人を切裂いた。いとも容易く。

 続いてもう一体も返す刃で一撃両断、また次も流れ作業の様に二つの鉄塊に変える。まるで優しく、静かに優雅に魅せる剣舞。ティンの剣は恐ろしく無慈悲に敵を切裂いていく。一太刀で。まるで敵に切取線でもあり、そこに刃を通してるかの様な正確さで。

 その剣舞により次々に敵が二つに両断されていく。いくらティンが斬ろうとも、幾ら時間が流れようとも変らずに剣戟が続く。まるでティンは疲れを知らぬ様に。

(問題は無い)

 朱雀は冷静に分析を行う。ティンの動きにも何時か限界が来ると言う事に。

 それを待っていれば良いのだ。何て簡単な仕事。

(兵力はほぼ無限大、幾らお前が体力を温存しようとも関係など無い)

 数時間にも及び、物量で推しながら朱雀はほくそ笑む。

 そうだ、関係など無い。そう――朱雀が幾ら物量作戦で押そうとも、ティンには関係ない。姿を見せただけで終わりなのだから。

 朱雀は一瞬判断が遅れた。直に護衛を呼ぶ事が出来た。

 ざくり。そんな音を立てて彼の仮面に傷が付く。何が起きたか。それは簡単だ、ティンが剣を投げた。それだけである。それを部下を盾にする事で防いだのだ。

 朱雀の仮面に白銀に輝く刀身が突き刺さる。護衛の部下達は音を立てて地に沈む。ティンは踊るように敵を切り捨てている。昇り始めた日が落ちようとしているほどに時間が流れていた。もう空腹で動けなくても当然な筈だが……と、朱雀は微かにティンが口に何かを放り込んでいるのが見える。グミの様な、何か。ついでに水筒の水を軽く飲む。エネルギー補給は完了、彼女はまだ戦える。

「くっ……投入戦力を増やせ! 二十五から五十だ! 一気に叩き込む!」

 朱雀の声に従い、仮面の男達が一気に押し寄せる。しかし、ティンにはどうでも良い事である。

 距離を見定める。どの位で切れるかを図る。分ったのなら後することは簡単だ。ティンは踊る様に、さっきと変らぬ様に、朱雀の下目掛けて駆けた。

「な、にぃ……ッ!?」

 剣を投げる。その剣は護衛の誰かの腕に突き刺さり、ティンはさっき投げた銀の騎士剣を手早く拾い上げると目の前の護衛を切裂くッ! ついでに投げた光の剣も回収。

 続いて朱雀の下へと刃を振るう。が、朱雀は逃走した。異様に速く。

 朱雀は作戦指揮を行う立場にある。知略と優れた移動速度を持つのだ。その速さ、ティンにはどうする事も出来なかったあの青龍と同じ速さ。今のティンにはどうやっても追いつけない速さだ。

 それでもティンは自分の速さに自信があるから、ダンシングステップで追いかけ――護衛に阻まれ、また囲まれる。

 ティンは踊る様に軽く剣を振るって次々に敵を切裂いて前に行く。

 が、朱雀には追い付かず、包囲網を抜けても朱雀の剣が届かない。

 ティンは呼吸法を用いて失った体力を戻し、敵の攻撃をかわして一撃で切り捨てる。また動く度に敵を一人一人切って進み、朱雀に迫るもまた逃げられる。

 その内日が落ち、ティンにも目に見えて疲労が出て来た。それでも動きに変りはなく、一切も変る事無く敵を切って歩いていく。

 何故にティンは此処まで動けるのか? 理由は一つ、此処まで鍛えに鍛え上げた技術の賜物だけだ。約十五年、それが彼女の修業期間だ。今の今まで休まずに剣を振るい続けて来た彼女だ。剣を振るう事は一種の日常と化している。そんな彼女が、物の抵抗も一切なく斬り裂く技術があるとするなら、長時間戦えるのも当然。ダンシングステップの行動力を極力抑え、体力の消費を削れば、ご覧の通りである。

 ティンは回避と同時に敵に剣を入れ込み、切裂く。それだけで胴体は両断され、鉄の塊が二つでる。ティンが動けば動くほど、その度に鉄の塊が生み落ちる。

 しかし、敵の数が減らないのなら意味が無く、斬っても斬っても状況は改善の見込みは無い。

(手詰まりか……? くそ、もっと速く動けたら……ッ!)

 ティンは息を整え、襲い来る攻撃の合間を掻い潜り、次々に敵を切裂いていく。

 この状況を変えるには誰かの手が必要だろう。そう、誰かの手が。

「悪いな」

 瞬間、閃光がティンの周囲を駆けた。同時に黒い男達を切り払っていく。

 ティンは前を見る。そこには肩口に切り揃えた短い髪、胸元まで伸びた揉み上げ、上下共に黒い服、黒いマント、そしてティンのと違い光の文字で作られた様な剣を握り締めた女。

「こいつは私が切り捨てる予定だ。貴様らはその後にしろ」

「……誰?」

 いや、ティンさん。みょうちきりんな仮面外しただけであの夜貴方と決闘を繰り広げたあの女剣士ですが。

 女は剣だけでは不利と見たのか、何処からか槍を取り出して応戦を開始する。

 ティンと違い、彼女は男に攻撃を二・三度当てなければ倒せないようだ。

「ま、待って!」

 ティンは彼女の攻撃に静止をかける。

「待たん!」

「あの仮面の奴、一人だけ豪勢な仮面つけてる奴! すばしっこいんだけど倒せる!?」

「知らん!」

「あんた何しに来たの!?」

 あまりの戦力外通知にティンも吃驚である。

「増援か……問題は無い。行け!」

 朱雀の言葉にティンの下に何かが突撃してくる。剣を盾にしながら防ぎ、一体なんなのかと思うと同時にあの仮面が目に飛び込んでくる。

「お、まえ!?」

「漸くだな、ターゲット!」

 ティンはその衝撃で吹き飛ばされて包囲網から抜け出せたものの。

「さあ、貴様の命日だ! 人間は死に際に神に祈ると言うな!?」

「うる、さい!」

「黄龍、貴様何をして居る!? そのようなことは作戦に含まれて居らぬぞ!」

 朱雀が黄龍の行動に怒鳴るが当人はどこ吹く風で。

「目標はこの娘ただ一人、他の人間を潰しては面倒、故にこうして引き離して始末すれば良い話!」

「……チッ!」

 朱雀は僅かな沈黙の後、舌を打ったような音を出して。

「総員、目撃者は始末せよ! 手の空いたものは黄龍の援護に迎え!」

「手出し無用! オレの戦いに干渉するな!」

 言って黄龍は腕からブレードを構えてティンに切りかかるがあっさりと受け止めて。

「速い、けど!」

 上に受け流し、更に隙だらけとなったその胴体へと剣を振るい。

「くっ、ブーストォォッ!」

 その体勢のまま強引に身体をティンの剣閃から逃れるが。

「ぐ、ぅ、うおおおお!? 身体、が!?」

「貴様、そんな無茶な身体の使い方を……一旦下がれ!」

「あら。非常に残念」

 斬閃が走る。無数の刃が舞い、敵を蹴散らすように周囲を切り刻む。

「策を練るのがお好きなようですが、国内で散々大暴れされて増援を視野に入れないとは非常にお粗末ですわねぇ」

「ラ、ラルシア!? 何で此処にいるの!?」

 ティンは崖の上で優雅に佇むご令嬢――ラルシア・ノルメイアその人がいた。

「此処はイヴァーライル国内。そこで何故此処に居ると問われたら、国内だから、としか返せなくなるではないですか」

「待ってよ、あんた確か戦えない筈じ」

 瞬間、ラルシアの周囲に居た雑兵が吹き飛ぶ。いや、薙ぎ払われたのだ。なにによって? 当然、ラルシア・ノルメイアの刃によって。

 その手にはサーベルが握られており、彼女は静かに剣を納める。

「くぅぅ! 身体中の部品が、不調を起こして居るだと!? どうやら調整不足のようだ、一時撤退する!」

 黄龍はそう言って転移術式で逃れると同時、彼女も障害と認識されたのか仮面の男たちが殺到する。が、直後に無数の刃が舞い、敵を切り刻み、薙ぎ払うッ!

 ラルシアの手には鞘に納められていた筈のサーベルがもう握られていた。つまり、彼女が使ったのは。

「居合、抜き!?」

「あら、察しの悪い貴方でも気付くのですわねえ。ええ、これは居合抜きと言われる剣技ですわね」

 ラルシアは言う事など無いと言わんばかりに剣を鞘に納める。

「ってあんた戦えるのかよ! しかもそんなに強いんなら護衛要らないじゃん!」

「馬鹿を仰いな! 仮にも社長の地位にある人間が商談でホイホイ剣が抜けますか! それくらい考えなさい、この単細胞!」

「誰が単細胞だ!」

「やかましい! 大体ノルメイアの腹黒お嬢様がなぜここに居る!」

「あら、人の話を聞いていなかったのですか? 光栄優子お嬢様?」

「お嬢様は止めろ、虫唾が走る!」

「あら、まがう事無き貴方は社長令嬢の優子さまであらせられるではありませんか。お嬢様をお嬢様と読んで何の問題がございましょう?」

 ラルシアは非常に機嫌が良さそうだ。やたらと饒舌に喋る喋る。

 が、途中で仮面の男たちが割って入る。殆どがティンに集中してるが、二人の働きは全く持ってティンに剣を振らせない。

「無粋な輩です事。少しは人に話をさせようって気はないのでしょうかね?」

「戦闘中に話す方が悪い。無駄話をするくらいなら体を動かせ」

 優子は言いながら槍を振り回し、周囲の敵を薙ぎ払って行く。ティンとは大きく違って非常に荒い動きだが、その分範囲が広く一度に攻撃出来る敵が段違いだ。

 ティンは動こうとするものの、ティンの行動範囲を優子が殆どカバーしている為、動き様がなかった。

 だから。

「ラルシア!」

「お嬢様と呼べ!」

「やたら仮面が豪勢な奴がいると思うんだけど!」

「ああ、あの仮面がやけに厨二臭い奴? あれが?」

「奴が指揮官なんだ! あたしの足じゃどうにも出来ない!」

 直後、朱雀は動きラルシアが放ったであろう斬撃が宙を刻み込む。当然、傍にいた護衛の身を切り払うだけに済んだが。

「ふむ、すばしっこい」

「なるほど、さっきの質問はそういう意味か」

 優子は呟くと眼が白く輝きはじめる。そしてふっと消え去り。

「ならば答えよう、恐らく追い付かないと」

 直後、朱雀の肉体が優子のシャイングローリーによって貫かれていた。

「ヌグゥッ!?」

「だが、剣士は追い付かないなら追い付かないなりで工夫が幾らでも出来る。こんな風にな」

 それは工夫と呼ばない気がする、とか言ってはいけません。

 ティンは何をしたのか、と問う前にやるべき事に気づく。何を? ほら、思い出そうぜ。撃破した四天王が今までどうなったかを。

 素早くティンは貫かれた朱雀の下に移動し、優子を退かして朱雀を切り裂いてその残骸を蹴り飛ばす。

「申し訳ありません、我が主」

「いいよ別に。ゴミに期待なんかしていない」

 直後、宙に浮いた残骸は轟音を響かせて爆発を引き起こす。凄まじい衝撃波の前に優子とティンは腕で顔をガードした。

「……誰かの声が聞こえた気がしたが」

「あたしも。気のせい?」

「いや、気のせいじゃない。確かに僕が言った」

 声のする方、朱雀が爆散した跡。そこには確かに誰かがいた。

 ついに出て来た親玉。物語が終わるのか否か。いや終わらないけど。

 じゃあ次回またねー。

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