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冒険、と言えばまず行く場所

 皆は冒険と言えばどこに行く?

 海底ダンジョン? 砂漠の中? ああ、地下の遺跡かな? 天空都市と言うのも良いかも知れない。

 古びた山奥の砦、深い深い森の中、誰も近づかない洞窟、巨大な湖の底に沈む神殿、火山の中、おお海を漂う無人の船と言うのも忘れてはいけない。

 RPGと言うゲームをするなら一度は行ってみたいダンジョン、皆はどんな所に行ってみたい?

 ティンは光に飲まれて奇妙な浮遊感に包まれると体中がぐるんぐるんと回転させられて気付けば闇の中に叩き付けられた。唸り声を上げつつ、立ち上がろうにも何かが自分に乗っていて動けない。

「い、ったぁい」

「こ、こは?」

「皆、無事?」

 と、ティンと複雑怪奇に絡み合った人間の中に埋もれてしまい身動きが取りようがなくなってしまい。

「と、取り合えず、誰か退いて~」

「ひぇっ!? あ、あの誰ですか、む、胸を揉みしと言うか掴んだの!?」

「む、むぅ~、動けない~と言うか、スイッチ何処~?」

「誰かがあたしの尻を、愛撫してる……!?」

 しかしてこんな状態ではどうしようもないのでティンは魔力を使って兎に角明かりを照らすことを考え。

「フラッシュ!」

 閃光を撒き散らす魔法を発動させて周囲を明るくする、と言うか光の爆発を発生させて部屋を照らすがいきなり現れた太陽のごとく明るさに。

「ひゃぁ!?」

「ま、眩しい!?」

「なに!? 一体これ何なの!?」

「ねえ、明るくしても前が見えないってどういうこと? というかこれ何」

 ティンは目の前を塞いでいる何かを鷲掴みして押し出すと。

「だ、誰私のお腹を掴んだの!?」

「お、おっぱい痛いです!?」

「ねえ前が見えない!?」

「あーもー誰か立ってよもう!」

 やがて、四人はゆっくりと分離して立ち上がって周囲を確認すると。

「ここってどこ?」

「もしかして、また異世界ですか?」

「次元転移の感覚は無かった、多分同一次元内の空間転移だと思う」

 フロース、ユリィ、浅美はそんな風で口々に意見を交わしていく。ティンはと言うと、少し前を見て。

「皆、これ電源が入らないけど自動ドアは開くみたいだよ」

「え、そうなの? でもそれじゃどうやって自動ドアが動いているんだろう。電源が無きゃ機械なんて動かないはずだし」

「動かなかったらうごかなかったで、大変だけどねそれ」

 浅美は溜息交じりに付け加える。確かに、この機械だらけの部屋でドアが開かなきゃどうしようもない。と言う事で一行は何処にあるのかもわからない施設の中を進むことに。薄暗い通路を進んでいき、ティンは彼方此方に光をばら撒いて行きながら前を歩く。

 この通路は本当に機械的な通路であり、光なんてどこにもなく窓さえもない。

「此処って一体何処なんでしょう?」

「分からない。でも同じ次元内なのは確かだから、多分地下か何かかな?」

 光をまいて歩くティンの後ろでフロースと浅美がそんな事を話し合っている。しかしユリィがそれよりももっと気にかけるべきポイントを口にする。

「それより、あの機械は本当に何だったのでしょうか? フロースさんは直前にかいきけん? とか言ってましたけど」

「大気圏だよ。私もよく見たこと無いんだけどあれ、まるで宇宙から落っこちて大気圏の摩擦熱で燃やされたような跡があったから宇宙から落ちてきたんだと思ってね」

「宇宙からって、あんな大きな機械が宇宙から落っこちるんですか?」

「多分、人工衛星かな? それが墜落したんだと思うよ」

「あれ、じゃあもしかして此処って異星?」

 ティンは話を纏めて最悪な答えにたどりつく。もしもそうなら下手を撃てば彼女達は此処から宇宙を駆けて元の星へと戻ることになるが。

「うーん、違うなぁ。星にしては此処、静かすぎるよ」

「うん、この辺りってやけに静かだよ。吃驚するくらい、私達が異次元に来たって言う方が信用出来るくらい静か」

 浅美とフロースが耳に意識を集中させて否定する。此処は別の惑星と呼ぶにはあまりにも静か過ぎると――まるで、空気も熱も何もない場所に送り込まれたように。一行は一体此処がどこなのか考えながらも歩き、いくつか見つけた部屋の中へと首を突っ込んでいく。

 一つはイスと机だらけな部屋だ。奥にあるカウンターの様な場所から察するにおそらく食堂だろう。

「食堂なんてあるんだ、此処」

「でも、食材がある雰囲気は無いよ? 腐った匂いもない」

 ティンの呟きに浅美が何もないという事実に太鼓判を押す。続いて彼女達がみつけて入った部屋は幾つもの機械が置かれた部屋だ。器具の形と壁中にはられた鏡から連想されるはただ一つ。

「スポーツジム?」

「でも、人の汗の感じはしない。誰も使ってないね」

 フロースのつぶやきに浅美がコメントを加えて次の部屋へ。そこで見えた存在は、幾つもの布と何もない本棚、そしてイスと机と横長で背の低い台。そのコンボによって導き出される答えは。

「休憩室、ですか?」

「でも本は無いし、布団の方も人が使った跡が無いし、ベッドがありませんよ?」

 ユリィの出した答えにフロースが中に入って調べる。そこから分かるのはただただ人がいない、という事実のみだった。更に四人は廊下を進み、次の部屋に入ると今度は部屋一面の花壇に花畑と植物類があった。床は透明で水の流れが分かり、花畑と床には透明なガラスで区分けされていて直に触れることは出来ない。

 部屋の中で生い茂る木々と咲き誇る花たち。そこには人の手が施されているにも拘らず、ただただ感じる無人の気配。

「此処って、植物園?」

「でもこの植物たち、機械で育ってるみたい。ほら、水が循環してるし」

 浅美の判断にフロースが補足する。彼女が指さしたその先をみると、確かに噴水があって、流れた水は床下の管を通って幾つかに分岐してやがてはもう一度噴水に戻る仕組みらしい。

 ティン達は部屋から出て歩き、何処までも無人であることを感じさせる施設の中を彷徨っていく。

「何でしょう、さっきから入った部屋全てに人の気配が無いのですが」

「うん、それもかなり年季が入ってる。まるでこの空間から時間が抜き取られたみたい」

「風化されてない……と言うより何か変だよ此処。何が変なのか、ちょっと上手く言えないけど、兎に角変」

 浅美は何度も変と言いつつ、腕を組みながら光をまいて先を行くティンの後についていく。やがてティンは光が照らす廊下を見つけ出して。

「皆! あそこ見て!」

「光!? と言う事は、外が見えるって事ですか!?」

 一行は走って窓の方へと駆け込む。ティンが生み出す魔法の光に慣れてしまったせいですぐにその光を視認できず、一瞬目を細めるがその先に見えるモノ。見えたもの。目に映るものを見て、誰もが絶句する。目を奪われ、時の流れを忘却した。



 あるのは、究極の闇だ。しかし、故にこそ最高の美がある。


 それは、ある意味においての究極の美があった。


 自然の生み出す、至高の美。


 どんな言葉でも言い表せない、最も自然的な美しさ。


 魔法など一切関わっていない無い、にも拘らず幻想的なイメージを持った美。


 それは――宇宙。


 闇の中に、いや闇を引き裂かんと光り輝く星々の彩る美しい天上が、そこにあった。



「き、綺麗」

「此処、宇宙なの?」

 誰もがその星宙に目を奪われると、ユリィは決定的に足りない物があると思い後ろに目を向けると。

「み、みなさん、後ろ!」

「うし、ろっ?」

 ユリィの言葉に引かれて振り向けばそこには更に輪をかけて美しい光景がある。

 それこそ、母なる輝きを放つ青き星。青い海に緑の大地が浮かぶ、巨大な惑星がそこに存在していた。背後に聳える美しくも青く輝く星に目を奪われ、彼女達は再び時の流れを何処かに置き去った。ゆっくりと規則正しく回転する目の前の青き星。ユリィもフロースも、浅美も、ティンさえも、言葉を無くして見続けた。

 そしてティンは首が疲れた事を自覚して視線を落とすと頬を殴り飛ばされたような感覚を味わう。何故なら、此処がどこなのか、じっくりと目に星を焼き付けたからこそ分かる事実だった。



「み、皆」



 震える唇と声で、察した事実を周囲に伝える。



「こ、此処」



 ぶるぶる指まで震えて、ティンは地面を指さす。此処が何処なのか明確に伝えるために。



 ティンが指示した場所は特に珍しい訳でもない、唯の地面だ。しかしこの場所は見上げた先が宇宙で、つまり此処には大気と呼べるものが何一つとして存在しない。そして、青く輝く惑星がまじかに見られる場所で、とどめと言わんばかりに見える地面。



 そこは、灰色の地面だ。素の岩石をただただ固めたようなデコボコの地面、つまり、此処は。



 この、場所は。



「月だ」



 ティン達は、母星に浮かぶ月へと来ている事に、漸く気がついた。



「つ、月ぃ!?」

「てぃ、ティンさん! 言って良い嘘と悪い嘘があるよ!」

 フロースと浅美は即座に否定する。此処が月なら、そもそもこの場で彼女達が自然に会話できる方がおかしいというもの。

「さ、さっき、あの星を見て確認した……ほら見てよ、あの場所」

 ティンは言いながら震える声を押さえこみながらある場所を指さす。

「あれって、イヴァーライル王国だよね?」

「っ、ホントだ……あの形と海の場所、確かにイヴァ-ライル」

「じゃ、じゃああの大きな都市は、タマムコガネシティ!?」

「待って、じゃああの山々と街に囲まれてる都市ってセントラル・パラディン!? た、確かに、形といい、地理といい、間違いないけど」

 浅美は記憶にあるイヴァーライルの地理と、此処から見える場所を比べて直に確かにそこがイヴァーライルなのを確認するとユリィとフロースも便乗する。

 しかしティンはより決定的な事実を口に出した。

「 それに、この位置だと時間帯的に間違いなくそこがイヴァーライルだってことになるよ。この時間帯なら間違いなく月が見えるはずだし、今見えるイヴァーライルの場所からこの月がどう見えるかを計算したら大体こう見える筈だし」

「け、計算ってどうやったの?」

「昔、座学である程度習ったから、その応用でどうにか」

 ティンの超人じみた所業に誰もが呆然とするとティンは先行して歩き出した。

「一先ず、此処に長居し過ぎた。先へ進もう」

「う、うん」

 そんなティンに釣られて一行は歩きだすが、そこでユリィがある事に気がつく。と言うより、此処が月ならある意味において当然と言えば当然の心配だ。

「ま、待って下さい。此処が月なら、どうして私たちは呼吸が出来て、歩けるんですか!?」

「そう言えば……月って空気と言うか大気や重力が無い筈だし……あ、待って! 確か国際宇宙開発団とかが、月の研究施設を作ったって言うけど」

「それにしても変ですよ! 此処は月です、物資はありません。魔法で作ろうにも限界があるし、此処は完全に無人の筈なのに何で厨房や、休憩所、スポーツジムまでもあるんですか!? あれって、完全に人が此処で住み込みで働く事を前提にした部屋、娯楽施設ですよ!? 物資の乏しく、それも廃棄した研究施設にしては何で布団まで置いてけぼりなんですか!? 何よりも」

 ユリィは一度切ると、最大の疑問点。歩いて、近くのドアに触れて自動で開くドアを指さして。

「どうして、明かりは点かないのに自動ドアの電源だけ生きてるんですか!? 私達にとっては都合がいい、なんてその方が不気味です!」

「確かに変だ……そもそも、此処はあの転送装置の出口だよね? 何で此処に設定されてたのか、何で大和帝国近辺の洞窟にあんなのが埋まってたのか」

 浅美はユリィの言葉に腕を組んで考え出すが、ティンは即座に切り捨てる。

「考えようにも、疑問ばかりでどうしようもない。答えを探すのは後にしてまずは帰路の確保が最優先だと思うけど」

「確かに、そうですね。幾ら考えても、答えは恐らく出ないでしょうし」

「兎に角進もう。もしかしたら出口に行けるかも」

「いったらダメだよ! もし、この基地の中でしか呼吸出来なかったら如何するの!」

「そ、そうだね。風の魔法で体内呼吸の循環や気圧に対処出来ても、無重力地帯にまではどうしようもないし」

 浅美の注意にフロースは頷くと一行は歩きだす。そして廊下を進むと、今までの中で一番大きなドアに辿り着き、中に入るとそこは機械だらけの部屋だった。そして、そこは最もそこが有人であったと言う証明が置かれていて。浅美はそれを掴み取ると。

「これ、説明書きだよ! 何何……此処に来た人はまず、そこの術式端末を操作して主電源を入れる、だって!」

「浅美、それ本当?」

「うん、なんだかごちゃごちゃ書いてあるけど暗くてよく見えないし、ティンさんの魔法だと明るすぎてよく見えないし、取り敢えず主電源を入れよう」

 と浅美は特に考えずにそう言った。今度はフロースが腕を組んで考え込み。

「うーん、術式端末か……ユリィちゃん、出来る?」

「はい。最近治療を行う際にそう言った術式にも触れる機会が増えて来ましたので、大丈夫ですよ」

 ユリィは自信満々に返すと術式端末を制御し、やがてメインコンピュータのモニタから『ようこそ』と言う表示と共に部屋に魔法ではない機械によって生み出された明かりが点される。

「ふぅ……これでどうにかなりそうですね」

「あ、そうだ。私ちょっと外を見てくるよ」

「だ、大丈夫浅美さん。宇宙服なしで」

「大丈夫だよ、フロースさんと違って、わたしは空間制御出来るから生身でも大体7日は宇宙で活動出来るよ。じゃ、行ってくるねー」

 と言って浅美は部屋から出て行った。残る一行は。

「じゃあこっちは外部と連絡を取るか。出来れば人の居る施設に行って月面基地の観光が出来るかもだし」

「あ、良いですねティンさん! 折角月に来たんですし、帰れる目処がついたならゆっくりしたいですしね」

 と、フロースはティンの提案に喜んで同意し、ユリィも同じように。

「人間って、いつ帰れるか分からない状態だと帰りたがるのに、すぐ帰れると分かったらそこに居たがる……ちょっと変な心理ですよね」

「心のどこかで何時もと違う事を望んでるから、だっけ? 確か心理学にそんなのがあった気がする」

「冒険家にとって、冒険は日常だから普段とは違う事がしたいってやつかな?」

「あ、それですね……あははっ」

 と、気軽に談話しているとモニタから音がする。見てみるとどうやら通信が来ているようで、ユリィはその通信に応答した。するとモニタに黒服黒サングラスの男が現れて。

『そちらに居るの誰だ?』

「あ、すいません! 私達、ちょっと地上に落ちた何かの装置を起動させてしまって、それで月の基地に飛ばされたんです! 出来ればアーステラに、地上に戻りたいのですが」

『ふむ、事故で廃棄された月面基地に飛ばされた冒険者達、と言う事か?』

「は、はい、そうです!」

 黒サングラスの口調は何処か厳しめな言葉で、ユリィは圧倒され萎縮するも彼女の質問に答えると柔らかい笑みを浮かべて。

『了解した、そちらに今すぐ迎えを寄越す。暫く待っていてくれ』

「あ、ありがとうございます!」

『どうも。それより幾つか質問したいktg……』

 通信中、男の声は砂嵐に飲み込まれていき画面もぶれ始める。

「ど、どうしましたか!?」

『は、ハッキング!? い、いttaい、dkから』

 ついに黒サングラスの画像は砂嵐に飲み込まれて消えてしまい、代わりに若い男が画面に映し出された。少しくすんだ色の金髪を首の後ろで結び、眼鏡をかけた男だ。

『君達、一体そこで何をしているんだ!?』

「え、えっと、貴方は?」

『僕は騎士警察隊特殊捜査課所属の魔導研究員をしている水野裕一と言うものだ。君達は何故そこに居る!? そこは完全に廃棄された月面基地だぞ!?』

 突如映し出された謎の男、急な事態と何やら焦っている様子にティンは。

「どう言う事? 説明して」

『そこはかつて禁忌の研究に手を出して政府から完全廃棄を言い渡され、内部の機械は解体撤収および破壊されている筈だ。今公式記録を確認したけど、やっぱり5年前に破壊処分されてると出ている……何故ある筈の無い施設に、人がいるんだ!?』

「何だか、きな臭くなってきましたね……私はユリィと言う冒険者です。依頼の為に大和帝国近辺の洞窟で調査していたら、転移装置を起動させてしまって此処に来てしまい」

『転移装置? ちょっと待って……あった、確かに幾つか廃棄され転移装置がアーステラに落ちているね。墜落予想地域は……ビンゴ、確かに大和帝国圏内だ。なるほど、理解した。君達は研究員でもない、唯の冒険家と言う事になる』

 水野と名乗る男は同時に幾つものパソコンを起動しているらしく右に左にと彼方此方を顔を動かして作業を行っているようだ。

「で、此処は政府的には存在しない、なのに何で5年もある事に気付いてないの?」

『不明だ、と言うより今調べている。多分、月に直接政府直属の視察団が行くことが少ないから、その手の連中によって息のかかった奴しか送られなかったんだろう……術式で通信妨害をしつつ起動させ、或いは表面上の大規模な術式を起動させなかったのか? 少なくとも月面基地で大規模なエネルギーが発生したのを僕が偶然見つけたから早速ハッキングさせて貰ったけど正解だったね』

「で、此処って何が原因で廃棄になったの?」

 ティンの問いに、水野はメガネのブリッジを押し上げる。どうやら彼の中で試行錯誤を繰り返しているようで。

『こと、此処に至れば仕方ないか。どうせ、無くなったことだし漏れても警察に深い傷も付かないか』

「警察に、大きな傷がつく話なの?」

 ティン的にはつい先日の出来ごとで警察への信用は底辺まじかとなっている。そこからさらに落ちる内容となると逆に興味がわいた。

『ああ。と言うより、政府機関としては公表出来るってものじゃない。多分、世界的にもやば過ぎる問題だ』

「政府機関? それって何?」

『端的に言えば、宇宙で取れる素材を使って生体兵器の開発及び研究だよ。目標としては宇宙でも生命維持の出来る宇宙怪獣の量産で……』

 と、そこまで言って水野は青い顔で押し黙り、フロースは。

「う、宇宙怪獣って……そんな、嘘でしょ!? そ、そんな事を月でしていたって言うの!? 政府機関が宇宙で化け物の開発をしていたって!?」

『さ、最初は、宇宙で生物を育成したらどう言う結果が出るか、という研究だった。それがやがて宇宙開発が進むと同時に宇宙空間で取れる物質を餌に混ぜて育成、と徐々に徐々にその目的がずれていって、最後には宇宙怪獣の開発になろうと言う事で研究機関の暴走が始まっていると判断した政府が研究の凍結および解体を宣言したんだ。宇宙で怪物を作ってるなんて知られたら、下手すれば世界中が大変なことになりかねない……それ、より』

 水野は言い難そうな、いや認めにくいと言うより頭で分かってはいても実際に口に出来ないと言わんばかりに。

『君達、その施設は生きてる……いや、生きてたんだよね?』

「え、ええ。この通、り」

 ユリィも、此処までの軌跡を思い出し、此処の施設が半分も生きてた事を思い出して先ほどの話と組み合わせて、ある結果に至る。

『なら、まさか今も……そこで』

「ねえ、ところで浅美は何処に行ったの? フロース、声は聞こえる?」

 ティンはそう言えばとドアの近くに剣の柄へと手を置いてフロースに浅美の存在を問いかけるもフロースは。

「う、ううん、聞こえない。いや待って、何か聞こえる……こっちに近づいてきて……これは」



『宇宙怪獣の研究開発が行われてるかも知れない!』

「大型生物の、足音?」



 同時、部屋の扉が大きく引き裂かれて見た事もない化け物が部屋に入って来る。幾つもの目がぐりぐりと周囲を見渡し、二枚はあろう長い舌が獲物を求めて縦横無尽に揺れて。

 ティンがすぐさま銀の騎士剣を引き抜くと居合の要領で二つの死体と言うか肉塊へと切り変えた。

『やはりか!』

「フロース、浅美へ電話! 一先ず安全なところ……」

 ティンは廊下に出て安全確認を行うが、廊下の奥から次々現れる怪獣たちを見て。

「ってそれ何処だよ!?」

「外には」

『外には術式が掛っていて、ある程度なら外出が可能だ! よっぽど高く飛ばなければ宇宙に出る事は無い!』

 水野は言うと同時に通信モニタがパソコンのモニタから飛び出す。

『通信術式をそこに飛ばして移動出来るようにしたよ! これで君達のサポートを行う!』

「は、はい! 一先ず何処へ行けば」

『ごめん、それは分からないんだ。多分、外は君達の口を封じるための討伐部隊が向かっている筈』

「っそ、マジに腐ってんなおい!」

 ティンは踏み込んで一体、二体と怪獣たちを二つの肉塊に切り落としていく。

「外は挟み撃ち……中は怪獣の巣、これ詰ん出ませんか?」

「いや、広い場所で武器を持った人間と狭い所で怪物逹、どっちがマシって話だ」

 いよいよ青い顔になってきたユリィにティンは苦い笑みを浮かべて返す。ならばとフロースは。

「少人数なら後者だね。向こうは一度に攻撃できる数が決まっているなら廊下に陣取れば」

「その方がいいか……じゃあ一先ず来た道戻りつつ安全確保! 浅美は……あー、ほっといても平気?」

「正直、浅美ちゃんを一人にすると危ないけど浅美ちゃんを直ぐに如何こう出来る人なんて普通いないしな……取り敢えず浅美ちゃんは置いて奥に行きましょう!」

 フロースは槍を構えてティンの後に続いた。



 浅美は月面を一人散歩していた。外に出てまず思ったことは、宇宙に輝く星々が綺麗だとということ。この満天の星々を見つめて、浅美は跳躍して風の魔力を背中に集めて翼に変化させて更に軽く飛翔する。

 飛翔し、術式による加護の限界点まで近付く。手を伸ばせば、本当の宇宙がある場所まで。この月に張られた術式は、所謂体内呼吸やら体内気圧を解決する為のもので、あくまでこの月に大気圏や重力が生まれているわけじゃない。よって、この月に空気も無ければ風が生み出される訳でもない。

 だから、この空間では浅美の魔法も著しく制限、と言うか魔力の消費が跳ね上がる。魔法は本来、在り得ない現象や物質を生み出すのだが風や水は大気中にある物を動かす為、氷や炎に比べて実は消費する魔力が少ないのだ。この事実は複数の属性を持つ者にしか分からない事実故に、浅美で無いと知らない話だ。

 空気の無い宇宙では、風は魔法で生み出すしかない。それはこの大気の無い宇宙空間に空気を生み出して風を作っているのだ。なので通常、大気圏内で魔法を使うよりも余計に魔力を消費する。

 浅美は通常時よりも余計に魔力を消費するこの空間で飛翔の魔法を使って飛ぶが、その目に映すのは輝く星の宙。

「ひろーい」

 浅美は宇宙を目の前に呟いた。

「この宇宙を――自由に、飛べたら」

 どんなに良いだろう。浅美は目の前に広がる世界を見てそんな事を思う。

(何も邪魔することの無い空……何処までも続く空……何処までも、何処までも、永遠に。何よりも早く、誰よりも遠くへ)

 溢れていく、満たされない願い。浅美の中で渦巻くそれは、やがて身体から溢れ出して、外の世界へと。

「何もかも、置き去りにして」

 何も無い宇宙を。

 何処までも。

 永遠を、無限に。

 そこまで考えつつ浅美は宇宙に手を伸ばす。恐る恐る本当の真空空間へと手を伸ばして。

「っつぅ!」

 思わず浅美は手を引っ込めた。真空空間に手を伸ばすと言うことはこの術式による加護も消え失せる。生身のまま宇宙に身を投げると言うことは即ち自殺行為だ。

「つぅ……宇宙って、指先でも潰れそうになるんだな」

 浅美は呟き、まだ痛む指先を見つめる。特に何かある訳で無い様で、浅美は手を伸ばすのを止めてまた宇宙をボーっと眺め続ける。

「そう言えば、あの星の光って過去の光なんだっけ。瑞穂さんはそう言ってたけど」

 昔、星空を氷結瑞穂と一緒に眺めた時の事を思い出す。彼女は、何もかも知っていると言わんばかりに解説をしてくれた。

 星座のこと。

 星を見て分かること。

 そして、星の光がどういうものかと言うこと。

「星が死んだ時の光が光年って言う遠い距離から此処まで光が届いているんだっけ……つまり、過去に光った距離がゆっくり此処まで来てるって、遠いなぁ……もしかして星の光まで飛ぶと、星の崩壊に立ち会えるのかな?」

 浅美はぼんやりと呟いていると、彼女の身体を何かが掠めていく。それは幾つかの銃弾で、浅美は身を捻りながらゆっくりと降りて誰が攻撃してきたのかを視認する。見るとこちらへと何者かがバギーに乗って向っている。

 奥に目を向けると更に武装した人間がやはり軍用の車を使って移動して来ている。

「全く、人がゆっくりしているって言うのに無粋だなぁ」

 浅美は溜息混じり銃弾を四発撃ち込んだ。銃弾は車のタイヤと乗っている人間に直撃する。タイヤは防弾仕様となっている為か銃弾が弾かれてしまうが、乗っている人間には風の魔法で無理やり跳弾させて直撃させた。

 バギーに乗っている人間が倒れたのを確認すると浅美は背負った剣――アル・ヴィクションを引き抜き、開いている右手に魔力を送り込んで異空間と干渉させて別空間に置いてある長剣――カオス・スパイラルを引き抜いた。浅美は更に懐から羽を取り出すとそれを自分の翼に貼り付けると二枚翼だった浅美の翼は機械の翼と生身の翼な四枚翼となって飛翔する。

 浅美は二本の剣を一つに重ね合わせて狙い撃つべき標的に突き向けると魔力を練りこみ、剣から引っ張り出せる混沌の力を混ぜ込み。

「必殺! 虚空光天撃ッ!」

 剣から展開された術式、その先端に溜まった魔力をビームとして射出する。混沌と拒絶の力が渦を巻いて一直線に飛び、直撃して爆発して薙ぎ払った。

「ん? あの基地の中でもなんか変な音がする……しょうがない!」

 浅美は離した剣をもう一度一つに組み合わせるとそのまま拒絶の魔力と混沌の力を溜め込み一つに重ね合わせて。

「ふっとべ、虚空光天撃ッ!」

 もう一度砲撃魔法、虚空光天撃を撃ち込んでもう一度ふっ飛ばして浅美は元居た研究施設へと飛翔する。

 んじゃまた。

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